幼馴染み編4
加奈が会社を辞めた後、私は安藤に言い寄った。
加奈と別れた今、安藤にはあまり興味がなかったが、お腹の子のことを思うと無視できない問題だった。
「付き合って下さい」
私がそう言うと、安藤はニッコリと微笑み、『お腹の子も含めて大切にする』と、プロポーズとも取れる言葉を述べた。
私は安藤に気はなかったが、その言葉に惹かれ、復讐のことは忘れ自分の幸せを考えるようになっていた。
◇◇◇◇◇◇
私は妊娠六ヶ月になり、だいぶお腹が目立つようになっていた。
『時期が来たら、入籍しよう』
そんな安藤の言葉を信じ、産休を取り私は実家へ引っ込んだ。
両親は挨拶にも来ない安藤に不信感を抱いていたが、私は『彼は仕事が忙しいから』と、いつもその話題が出るたび庇っていた。
ある晴れた日、天気が良く気分がいいので住み慣れた田舎を離れ、ベビー用品を買いに都会へ出掛けた。
ロンパースやよだれ掛け、靴下にニットの帽子。どれも赤ちゃん用は小さくて、見るだけで胸がキュンとなる。
私は一人の女から、母になる喜びを感じていた。
あれもこれもと買っているうちに、私の両手は塞がってしまった。
これだけの荷物は妊婦にとって辛い。
帰りは高くてもタクシーで帰ろうと思った矢先、信じられない光景が目に飛び込んで来た。
白昼堂々と安藤と加奈が腕を組み、歩いている姿……。
〈今日は地方に出張と言ってたはず、なのにどうして?〉
私は携帯を取りだし安藤に掛けた。
「もしもし~?」
「ごめん、今取引先なんだ。後でかけ直す」
電話は一方的に切られた。
納得がいかない私は、今度は加奈に電話をした。
「もしもし~? 加奈? 久しぶり~」
「久しぶり~。どうしたの? まどか、突然電話なんかしてきて」
「知りたい?」
「え~何、何?」
「後ろを……見てごらん!」
私は荷物を放り投げ、背後から二人の肩を掴んだ。
「キャー、まどか。どうしてここに」
「どうして、じゃないわよ。あんたこそ、何で彼といるのよ」
「まどか、待ってくれ。一旦、落ち着こう。他の人も見てる」
彼の言う通り、いつの間にか人だかりになっていた。
私達は近くの喫茶店で話し合うことにした。
「さぁ、説明してよ」
私は腕を組み、二人をキッと睨んだ。
しかし、状況がわかっていない加奈は言った。
「何でまどかが怒ってんのよ。私はただ別れた彼と会ってただけじゃん」
「加奈……あなた何も聞かされてないのね。いいわ、教えてあげる」
「まどか……話が違うじゃないか……俺は……」
「あなたは黙ってて。私妊娠してるの。この人の子よ。加奈、あなたが婚約中に私はこの人の子を身ごもったの。だから私はこの人に言ったわ。……加奈と別れなさい……と」
安藤は全てを覚悟したかのように頭を垂れた。
「まどか……本当なの? ねぇ、嘘だよね? 嘘だと言ってよ……」
「全部本当よ」
「どうして、そんな酷いことを。私達、親友でしょ?」
「親友? ふざけんじゃないわよ。小さい頃から私は加奈が憎かった。いつも、私を踏み台にして、馬鹿にして、許せなかった。だから、私は思った。あなたの幸せを奪ってやろうと……」
「そんな……そんな……」
加奈は泣き崩れ、店から出ていった。
〈ガシャーン〉
その直後、店の外で、車と何かがぶつかる衝撃音が響いた。
私と安藤はイヤな予感がして、集まる野次馬を掻き分け、その中心に目をやった。
「加奈……」
ほぼ即死状態だった。
救急車はサイレンを鳴らすことなく、加奈を運んでいった。
何とも後味の悪い結果に終わった。
今回のことで、目が覚めた私は、安藤との婚約も解消し、今は田舎でひっそりとシングルマザーとして生きている。
『憎しみは何も生まない』それがわかった時はもう遅かった。
せめて、この子だけは『真っ直ぐに育って欲しい』そう願った。
幼馴染み編はこれでおしまいです。
次はどんな恨み、憎悪が待っているのでしょうか。




