漫画家志望編5
偶然通り掛かった映画館。
以前、笹野と行った映画館だ。
――ここから、私の恋は始まったんだ――
そんなこと思いながら、新作のタイトルを眺めていると、何やら聞き覚えのある声。
笹野と茜だ。
私は身を隠すように、物陰に隠れた。
「いや~面白かったね」
「でも、前の方が面白かったと思うよ」
「そうか? それもそうだな」
私は二人の会話に、聞き耳を立てた。
様子がおかしい。
まるで恋人同士だ。
それに『前の方が』ということは、以前も一緒に行ったことがあると推測出来る。
これは多分、『二股』というやつだろう。
私は確信した。
気付けば二人の前に立っていた。
「笹野、どういうこと?」
「おぉ、すみれ。何が?」
笹野は悪びれる様子もなく、平然と言い返した。
「これって、二股でしょ?」
「二股も何も、俺が付き合ってんのは茜だけど」
「な、何で……」
あまりの言葉に、私は力が抜けるように膝間付いた。
「そもそも、俺……お前に付き合ってなんて、言ってないし」
やられた。完全に私の敗北だ。
確かに正式に、付き合ってとは言われていない。
笹野はそこを上手く利用し、私を『都合のいい女』に下手あげたのである。
「茜、行こうぜ」
「ごめんね~。すみれ」
茜も茜だ。
私は二人に強い怒りを覚えた。
だが、私は二人に反撃する術がない。
雑踏の中、ぐちゃぐちゃに泣き崩れた私は、浮かれていた自分を責めた。
そして、私が出来る唯一の恨みの晴らし方を思い付いた。
『全てを、漫画に描いてやる』
そう、この逆境を逆手に取り、これをネタに漫画にすることにしたのだ。
学校名、実名とある程度は伏せたものの、見る人が見ればわかるであろう。
それを万人に知ってもらう為に、ネットへ流出させた。
噂は瞬く間に広がり、笹野と茜はちょっとした有名人になった。
「すみれ、お前ふざけんなよ」
案の定、笹野は噛み付いてきた。
だが、誰も笹野に味方する者はなかった。
やがて、笹野はこの街から去って行った。
一方、茜はというと、自主退学した後『引きこもり』になったと聞く。
既に漫画は削除していが、二人は現実から逃避を図ったのだ。
そして、私は今日もペン走らせる。
恨みを晴らす為に。
これにて、漫画家志望編は終了です。
次回もお楽しみに。




