漫画家志望編2
そう、かつて私の漫画を散々コケにした挙げ句、紙吹雪レベルまで破いた笹野だ。
笹野は、何事もなかったかのように、私に近付いてくる。
「すみれちゃ~ん、今度映画でも観に行こうよ」
それもヘドが出るほどキモい口調でだ。
茜は、たまには付き合ってやったらと、言うけれど私は過去の憎悪が邪魔して、笹野を異性として見ることが出来なかった。
むしろ、好きになるどころか、嫌いになっていくのが自分でもわかった。
「すみれちゃん、奢るからさぁ。お願い!」
「でも私……」
私も異性に興味なかった訳ではない。
私だって、皆と同じようにデートだってしたいし、キスだってしたい。
でも、この男だけは別だ。
どんなにお金を積まれても、嫌なものは嫌なのだ。
「ごめんなさい……」
もう何度目だろう。
笹野は項垂れながら、自分の席へと戻って行った。
そんな私を見かねて茜がやってくる。
「すみれ、アンタ笹野に最近酷くない?」
「だって、あの時やられたことが、私は許せないの」
「笹野だって反省してるよ、きっと」
茜はそう言うけれど、男子の反省なんてたかが知れている、私はそう思っていた。
「じゃあさ、すみれは笹野のこと、何とも思ってないんだよね?」
正直ドキッとした。
茜の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
その問いかけには、二つの意味が取れる。
私が、笹野を好きかどうか確かめる問いかけ。
もう一つは、信じたくはないが、茜自体が笹野を好きだということだ。
私は思わず息を飲み込み、茜に確かめるように言った。
「別に好きじゃないけど……何で?」
「私……笹野のこと好きだから」
答えは、後者だった。
戸惑いはあったけど、私は茜を応援することにした。
◇◇◇◇◇◇
三日後……。
いつものように休み時間に、齷齪漫画を描いていると、茜が照れくさそうに私に言ってきた。
その態度を見る限り『笹野』のことだろうなと、鈍感な私でも容易に予想がついた。
「な~に、茜。どうせ、笹野のことでしょ?」
「何でわかるの? すみれって凄くない?」
ズバリ的中だった。
「で、用件は何?」
私は面倒くさそうに、言った。
「実は……笹野に好きな子がいるか聞いて欲しいの」
「別にいいよ……」
「本当に? やっぱすみれは頼りになるわ~」
「おだてても無駄よ」
私は何の抵抗もなく、茜の頼みを聞き入れた。
だが、これが後に危険な引き金になろうとは、誰も知るよしがなかった。




