イジメからの憎悪編3
私はやっと就職出来たレンタルビデオ店をあっさりと辞めた。
久しぶりに鏡に映った自分を見てみる。
我ながら醜い。
増え続けた体重は八十キロを越えていた。
『お父さん、お母さん、ごめんなさい』
私は親元を離れ整形することにしたのである。
今までしたことのないダイエットにもチャレンジした。
激痛に耐えながら脂肪吸引を行い、二重にし、顎を削った。
半年後、お金と努力の甲斐もあり、体重は約三十キロの減量に成功した。
顔も誰もが振り返るほどの美人になった。
「これが本当に私?」
自分でも信じられなかった。
嬉しいけど、親に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
貯金も底を付き、生活の為とキャバクラで働くことしにした。
源氏名は『御前崎 ユウ』。
仕事仲間はダサいって言うけど、私は未完成っぽい感じの名が気に入っていた。
二ヶ月程で指名も取れるようになり、高級マンションに住めるほどの収入を得られるようになった。
そんな時、偶然会社の飲み会の二次会でアイツがやってきた。
「ごめ~ん、あの人私に行かせてぇ」
「またユウの悪い病気ですか? いいわ、どうぞ」
私は同僚に断りを入れ、アイツの隣に座った。
「いらっしゃいませ。ユウです」
「ユウちゃんか、可愛いいね~」
「お上手ですね。水割りでいいかしら」
「あぁ、頼む」
氷がグラスにぶつかる心地よい音。
それは二人の偶然の再会を歓迎しているかのように思えた。
ふと、春樹の左薬指を見ると指輪がしてあるのが鈴は気になった。
「結婚なさってるんですね?」
「うん。子供も二人いる」
春樹は慣れた手付きでグラスを口に含む。
仕事と割り切り、自然な接客を目指した。
事務的な言葉を重ね、瞬く間に時間は過ぎていった。
「また会えるかしら」
「勿論、また来ます」
「違うの……お店以外で会いたいの」
そう言うと鈴は、アドレスの書いてある名刺を、春樹にスッと差し出した。
「本当に? 君みたいな可愛い子が?」
春樹は有頂天になり、気分よく会社の同僚達と帰っていった。
『餌は蒔いたが、果たして春樹は釣れるのか』
鈴の不安とは裏腹に結果はすぐに訪れた。
〈今日、仕事が終わったらまた会えないか? 待ってるから〉
春樹からのメール。何とも気の早い男だ。
鈴は仕事終わりの時間と、『はい』の一言を連ねメールを返した。
閉店後、鈴が店を出ると春樹は煙草を吹かしながら、寒空の中待っていた。
「ごめんなさい、遅くなって……」
「大丈夫だよ、何処に行こうか」
日が変わり、夜中に行くべき所なんてただ一つ。
白々しい春樹の問いに、鈴は悪戯を返した。
「指輪を外したら、決めてあげる」
鈴がそう言うと、何の迷いもなく春樹は指輪を外した。
所詮、夫婦なんぞ安い契約に過ぎないと鈴は思った。
二人は、ピンクやブルーに染められたネオン街に、吸い込まれるように消えた。
鈴はダイエットした身体を春樹に委ね、春樹もまた獲物を狙うかのように貪った。
「ユウ……俺もう」
「だ、駄目……」
鈴は足で完全に春樹の腰をロックし、春樹は鈴の中で果てた。
「ユウ……何故……」
春樹は青ざめ、動揺を隠せない。
「春樹……」
「な、何故君は俺の下の名を知ってるんだ。君は一体誰なんだ?」
「うふふ。私を忘れたとは言わせないわよ」
鈴は整形する前の写真を春樹に突きだした。
「で、デービス? お前、デービスなのか?」
「そのアダ名止めてくれる? 私はずっと、アンタが好きだった。でも、アンタのせいでイジメられ、無視され、私の人生はめちゃくちゃにされた。さぁ、今度はアンタが不幸になる番よ」
「すまない、悪かった。俺が悪かった」
「イヤよ。アンタにも地獄を見せてあげるわ。その前にいいことを教えてあげるわ。私の源氏名の秘密。おまえざき ゆう、それに春樹の名をもじると一つの言葉が浮き出るわ」
「ど、どういうことだ!」
「おまえざき ゆう はるき。おまえさき きるは ゆう。 おまえをきるゆう。つまり、Kill You。殺しはしないけど、アンタの人生は終わりよ。奥さんに浮気がバレて、会社に噂を流したらどうなると思う?」
「くっ、舐めた真似を。殺してやる」
「無駄よ、ここのオーナーは知り合いで、隠しカメラで全て録画させてもらってるわ。ああ、いい気味」
「く、くそ……」
春樹は全てを受け入れ、自分のした行動に肩を落とした。
その後、春樹は離婚し、会社も辞めたそうだ。
幼い頃の何気ない一言が少女を傷付け、長い時を越え復讐が執行された。
イジメた側は、すぐに忘れてしまうが、イジメられた側の傷は一生消えないのだ。
愛していたが故に、鈴の中のもう一人の鈴が春樹を追い込んだのだろう。
その真相は鈴、本人にしかわからない……。
イジメからの憎悪編はこれで、おしまいです。
次はどんな憎悪が待ってるのでしょうか?




