表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅国の少女騎士 ~ボク、とってもざんこくなんですけど?~  作者: 森河尚武
第二章 魔法の超☆手品師 マジカル☆バニー
9/49

超☆魔法の手品師マジカル☆バニー惨上!

感想をいただいたので、書いてみました。

ちょっといろいろ気に入らないところがあるんで、ちょくちょく手直しするつもりです。


2014/4/27 誤字脱字修正


 その部屋には窓がなかった。

 偉大なるグランリア大魔法帝国皇帝城の中心部、豪華絢爛にして華美な装飾が施された会議室。

中央に華麗な装飾が隅々まで施された巨大な卓があり、皇帝一家および各省の大臣・補佐官が勢ぞろいしていた。

 天上から吊り下がるクリスタル・ガラス製の豪壮なシャンデリアは、魔晶石式照明灯で揺らぎのない柔らかい光が繊細で華麗な装飾を幽玄に浮かび上がらせている。


 御前会議のための格式の高い会議室であった。


 細やかな装飾が施された壁は、その実、魔導被膜と盗聴防止技術の粋が施されている。

 床には職人が百年をかけて作り上げた金糸銀糸で帝国の紋章が織り込まれた暗紅色の絨毯が敷かれている。

 皇帝一族専用の御扉と臣下用の扉にもまた華麗な装飾が施されたている。

見た目は黒檀の一枚板を削りだした贅沢極まりない扉だが、その内側には魔装騎士アーストラッド・ナイトにも使われている魔導被膜装甲板であり、壁の中にも同様の物が埋め込まれている。

 

 皇帝とその家族、そして各省の大臣とその補佐である筆頭長官が勢ぞろいしている。

 全員が座れる巨大な卓の上には、優美な礼装一式が並べられている。それは、フェテリシアが着ていたものだった。


「では、報告を聞こう」


 皇帝が重々しく告げる。

 そうすると見事な白髭の老人が進み出て、深々と一礼する。


「僭越ながら、帝国技術院上級研究員筆頭を務めまするテーノロギ・パークリーがご報告いたします」

 老人が天塔騎士団第一種礼装の上着を手に取る。


「この衣装についてですが、驚くべきことに布地に織目がございません。繊維の隙間もありません」

「なんだと? ではいったいどうやって織られているのだ?」


 大臣の一人が、いきなり質問をする。

本来ならば不敬にもあたる行為だが、誰も咎めない。

 帝国の上級会議では皇帝一族に対する過度の不敬、そして根拠なき侮辱を除けば、自由な発言が許されている。すくなくともここでの言葉を理由に処罰されたことはないとされている。


「……いまのところ判明しておりません。材質は、解析魔法でも判明せず、手触りなどからおそらく絹に似たもの(スーパーナイロンとか)ではないかと。またこれだけの薄さでありながら、非常に丈夫でしなやかです。ただ重さがやや重たいようです」

「なんと……解析魔法でも解析できないとは」

「報告を続けます。この独特の発色については、推測ですが、何色もの透き通るくらい薄い布を何層にも重ねて、それらの色があわさって白く見えているのではないかと」

「魔導被膜が施されているのではないのか? あれも発色があるであろう?」

「はい、その通りです。ところが、いまのところこれらからは魔力が検知されていません。魔力隠ぺいが施されているならば、分解をしてみないと判らない可能性が高いかと」

「ふむ。実に不思議な素材だな。それを差し引いても、その装飾は実に美しいな……」

「はい。服地の発色についてはご説明いたした通りですが、この装飾の刺繍についても、恐ろしく緻密に施されており、これだけでも制作に数年が必要かと推測されています」

「とてもいいものよね。それはやはり、わたくしのものとしましょう。仕立て直せば、きっといままでにない最高のものになるでしょう?」


 皇帝の横に座っていた皇妃がおしとやかに云う。その目は服地に向けられていてきらきらと輝いていた。


「おそれながら御妃様。できますれば一部だけでも魔導技術院に残していただければと。我々のほうでも研究開発に生かしたいと思いますので」

「いやよ。それはわたくしのものです。これだけきれいなんですもの」


 皇妃は笑顔を崩さずに研究員の控えめな提案を拒絶した。

 そして、会議に参加していた末姫カーラもまたおっとりと尋ねる。


「ねぇ、いつになったらあの車は開くのかしら? わたし、はやくあの"アイン"ちゃんを手元に置きたいんですけど」


 カーラは道中で出会ったゴーレムを思い出して、うっとりする。操者がいないのに滑らかに動く小型のゴーレム、しかも命令をよく聞いてくれるあれをカーラはすぐにでも手元に置きたかった。

 云われたこともできないような使えないメイドより、よほど良い。

 大型キャリアの解析を担当している者が深々と頭を下げる。


「もうしわけございませぬ。あの大型トレーラーについても、いまだ中に入ることがかなわず……無理に入ろうとすると貴重な物品が破損する可能性もあるため、強行手段もとれず苦慮しております」

「そうなの? 役に立たないわねぇ……」

「だめよ、カーラ。本当のことを云っては。彼らなりにいっしょうけんめいやっているのですから」

「はい、もうしわけありません」


 末姫は深々と頭を下げて皇妃に謝罪する。

 研究員たちは顔を伏せて受けた侮辱に耐えていた。


「では、その剣についてはどうなのだ? 私もはやく手元にそれを置きたいのだが」


 皇太子が卓に置かれた美しい緋色の小太刀(サムライ・ソード)について、諮問する。


「は、それにつきましてはわたくしのほうからご説明いたします。すでにいくつかわかったことがあります」


 汗を拭きながら別の上級研究員が報告する。


「まずは、あの異常な重量ですが、人間が持とうとすることによって発生することが判りました。無機物による接触ならば動かすことが出来ます」

 そういって卓の上の頑丈な台に置かれた小太刀を指し示す。


「次に、この美しい表面の装飾ですが、非常に微細な加工を何層にも、最低でも20層以上施してあり、その上に正体不明の材質がコーティングされております。この加工が、どうも魔力転換炉アーストラット・エンジンのような働きをしているのではないかと推測しております。またこの剣にはおそらく何らかの個人認証が施されているらしく、それ以外の者には引き抜くのはおろか持つこともできないようでして……」

「つまり、その個人認証が私を認めないということか」

「……そのとおりでございます。解除手段を模索中ですゆえ、お待ちいただければと。時間をいただければかならずや解明してみせますが、一朝一夕にて解明できるようなものではございませぬゆえ」


 研究員たちが深々と頭を下げる。


「――実に不快な話だな。この大魔法帝国の皇太子たる私を認めぬとは。それは貴種たるわが一族、ひいては帝国を侮辱したに等しいではないか!」

「まぁ、まて。思考を飛躍させすぎるではない、皇太子よ」

「陛下っ! わが帝国が侮辱されているのです、侮辱には報復が必要ですっ!」

「その者にしか扱えぬようにされた物に対して、お前が使えぬからといって侮辱されたというのは短絡にすぎるぞ。わが大魔法帝国は盤石にして史上最強最高の唯一帝国である。多少の侮蔑など、受け流しておけばよい。所詮は貧者の遠吠えよ」


 そこまで険しい表情であった皇帝が声色を緩める。


「やがてわが帝国を治めることになるそなたは、多少のことで感情的になってはいかんのだ。その感情を制御せよ。怒りを胸に秘め、必要な時に解放せよ。それが如何なるときにおいてもできるようになったならば、余も安心して引退できるというものだ」

「はっ! わかりました、陛下。そのように努めます、ご指導をありがとうございました」


 皇太子が軽く頭を下げ、皇帝が鷹揚にうなずいた。


「おお、すまぬな、中断をさせてしまった。さて、今後はどのように進めるか、方針を議論するがよい」


 皇帝がつづけよと命令すると、各大臣が各々の補佐に確認をとりながら意見を議論していく。

 だが、現状を打破できそうな妙案は出ない。そうなると必然的に〝知るモノに聞けばよい〟方向に意見が移行していく。


「報告を見る限りすぐに解決策が見えるとは思えぬな」

「そうなると詳細を知るものから仔細を聞くことになる。だが、素直にしゃべるとも思えない」

「拷問して吐かせるか。しかし、それも業腹だのう。下等な蛮族に教えてもらうというのは」

「教えてもらうのではない、やつらに過ぎたるものなのだ、正当な場所に返してもらうだけだ。すべての〝知〟はわれら〝人間〟のものであって、下等下賤な〝やつら〟が持ってよいいものではない」

「しかし、あれはなかなか強情そうだったぞ? 死ぬまでなにも云わぬかもしれぬ」

「すこし〝情け〟をくれてやれば感極まって情報をさしだすのではないかね? しょせんは蛮族のメスだ、高貴なる我らの情けを受ければ感じ入るやもしれぬ」

 各大臣の意見が集約し、徐々に情報を聞き出す手段についての議論へと変わってきている。

 それらを聞いていたカーラが、父たる皇帝に向かってかわいらしく発言した。

「お父様。わたし、いいこと思いつきました」

「何だ?」

あれ(・・)を動物と交尾させてみたらいいんじゃないかしら? たとえばぶたさんとか。そうしたらきっと感極まっていろいろ教えてくれそうな気がするの」


 会議参加者の大半は、末姫が何を云っているのかよく判らなかった。

 なぜ動物の交尾などという話が出るのか……。

 しかし、皇帝には通じたようだ。


「ふむ……尋問のかわりを動物にやらせるのか。なかなか面白いかもしれぬな。あのモノもきっといい声で啼くだろうよ」


 皇帝が微笑する。末姫も無邪気な笑顔を浮かべて、肯定する。


「ええ、きっといい声で啼くと思うんですよ。ぶうぶうって。それから子供もできるかもしれないですよね」

「ああ、そうかもしれんな」


 皇帝の手が末姫の頭をやさしく撫でる。カーラはくすぐったそうにする。

そしてふと思い出したように皇帝は確認する


「まぁ、おおむねその方向で良かろう。仔細な指示は宰相に任せるとして、まずは潰さぬように留意せよ。潰すのは、終わってからにせよ」


 皇帝が裁可を降すと、大臣たちが頭を下げる。

 そして、皇帝がふと思い出したように言葉を紡いだ。


「おお、そうだ。〝朧影人形〟(シルエット・ドール)だが、あのキャリアに積載されているのは間違いがないのだな?」

「過去の記録によりますと、あの大きさのキャリアに積載されていたことは間違いないようです。またあの厳重な防護手段からしても中に重要物が搭載されていることは確実だと思われます」


 大型キャリアの分析を担当している上級研究員の回答を聞いて、皇帝は鷹揚にうなずいた。


「――噂にいわく、空を飛び、地を何者よりも速く駆け、一騎で国を滅ぼすとまで言われておる朧影人形。それがめでたくも我が帝国に返ってきたのだ(・・・・・・・)。使えるようにせよ」


 世界最高の物はすべて帝国をその起源とし、所有権は帝国にある――それが帝国では普通の考え方。それを誰もおかしいと思わない。


「噂でしかないが、現状の魔装騎士と同等以上であることだろう。これらの装備を考えてもな」

脇の机に並べられた天塔騎士の装備を見やりながら口にする。

「よいか。朧影人形(シルエット・ドール)使えるようにせよ(・・・・・・・・)

「は、必ずや成し遂げてみせましょう」


 技術廠の研究者たちが最敬礼をする。各大臣もまた頭を下げる。


「ほかになにかないか――ないようだな。では、この会議を閉会とする」


 皇帝の一言で大臣たちが一斉に起立し、両手を胸の前で合わせて、全員が唱和する。


「「我らが偉大なる祖国グランリア大魔法帝国は万物の起源にして永遠不滅、史上最強の帝国なりっ! 永遠不滅の帝国に栄光あれっ!」」


☆★☆★☆★


 深夜――その声は帝国公共放送の外部放送設備から首都全域に流れた。


『えー、帝国首都民の方々にはお騒がせいたします。こちらは帝国非公共監視団体(自称)所属の魔法の超☆手品師(すーぱーまじしゃん)マジカル・バニーでございます』


 帝国公共放送の本社では、社屋を揺るがすほどの大騒動になった。

首都全域に張り巡らされた公共放送設備をどうやって操作されているのかもわからず、止めることもできなかったからだ


『今夜は、帝国財務大臣を務めております、ここインディビータ家にきております』


 場所が特定されて、今度はその貴族屋敷一帯が大騒動になった。

 警備員や騎士が内外を大捜索をはじめる。全館内の灯りがともされ、強力な魔導サーチライトが外壁を照らし出す。


『やー、しかしなかなか豪華なお屋敷ですねー。外側はわりと地味なのに中身は、とくに奥の棟なんかすごいですねー、金ピカの廊下が見えます。あれって金箔? それとも金の板を貼っているのでしょうか?』


 平坦な少女の声は屋敷の中を解説していく。

 大量の金とラピスラズリと琥珀がふんだんに使用された居間。

 金糸銀糸をふんだんに織り込んだ絹の豪華なタペストリー。

 壁に飾られているのは、かつて東方から伝わったと云われる博物館級の貝蒔絵が施された漆塗りの箱。

 大理石に金の象嵌を施した暖炉は魔晶石式で、動かすと一日で10kg近い貴重な魔晶石を消費するという考えられないような浪費仕様だった。

 聞くだけで、相当の金がかかっている内装だと誰もがわかるほどだった。

 放送が続く中、内外の捜索は続くが、見つからない。そもそも本当に居るのかと疑問におもう者もいた。


『インディビータ家は代々財務大臣を務めることで有名です。財務省のトップを務める大臣ですので、高級取りなのは間違いないのですが、はたしてこれほどのものが揃えられるほどの俸給を得ているのでしょうかねー? あ、ちなみに大臣は領地をもっておりません。これは帝国の高官はその地位にいる間は、領地を帝国に返還する規定があるからですねー。地位から降りればまた与えられますが、インディビータ家はここ十代は財務大臣を務めております、お察しください』

「侵入者を早く見つけよっ! あの口を黙らせろっ!!」


 当主からの火のような催促に騎士たちも必死に探す。


「どこだっ、賊はどこにいるっ!」


 警備騎士たちが血眼になって庭園を探しまわる。


『さてさて。実はここにですね、このお屋敷でたまたま拾った(・・・・・・・)帳簿が一冊ありましてー』

「みつけたぞ、あそこだっ!」


 魔導サーチライトで屋根の一部が照らしだされる。 

 そこには手持ち式拡声器(ハンドマイク)を持った緋髪(・・・・)の少女がいた。

兎人を模した格好の少女だった。

緋色のハイレグレオタードに黒い上着。

薄茶色の透けるように薄いストッキングに赤いハイヒール。

透けるように薄いスカートのような布を腰あたりに巻いているが、ほとんどまるみえのおしり。

そこには白いうさぎさんのしっぽまでついている。


頭の上で短いポニーテールがぴょこんとはねている。


『あ、みつかっちゃった、てへっ! 』


 兎装少女はあくまでも平坦な声のまま、こつんと頭をたたくかわいらしい仕草をする。

ちなみに無表情なので、恐ろしいくらい棒な演技にしか見えない。


「魔法照明弾上げろっ」

《灯りよ、天空の灯と成れ》


 警備騎士小隊長の命令で次々に魔法照明弾が放たれ、周囲が日中のような明るさになる。


『みつかっちゃったけど、それはおいておきまして。ちょっと帳簿の中を見てみましょうー』

《雷光よ、かの敵を滅ぼす光となれ》《雷光よ、かの敵を滅ぼす光となれ》《雷光よ、かの敵を滅ぼす光となれ》

 三人の魔法士から紫電を纏った直射雷光砲撃が三射される。

 兎装少女はそれらをひょいひょいと避けて、よどみなく帳簿の中を読み上げていく。


『あらあらまぁまぁ……帝国歴5123年度に帝国総予算金額(非公開)が書いてあるんですけどー。

なんとですね、そのうち使途不明の特別会計予算34億帝国ゴールドがあるんですね』

「あれを止めろっ! 早くっ! 警備騎士は何をしているっ! はやく殺せっ!」


 豪華絢爛な夜着を着ているでっぷり太った男が家臣に喚き散らしている。

 私設警備騎士団が放つ砲撃魔法や誘導魔法弾をひょいひょい避けながら、解説の声はよどみない。

 身体強化魔法を発動した魔法騎士たちが屋根の上に飛び乗り、同時に三人が斬りかかる。


『そして、偶然にもこちらにインティビータ家の帳簿があります。わざわざ表書きに裏帳簿と書かれているのがとってもおしゃれ☆。そしてここに5123年度に帝国銀行からの振込総額が34億ゴールドなんですって。同じ金額ですねー、なんとすごい偶然っ!』


 赤い兎装少女はそれらをふにゅんと避けて、三角屋根の頂点をトコトコ歩きながら、かわらず帳簿の解説を続ける。


『振込み元はっと。おやおや、これはなんと帝国財務省からわざわざ222回にも分けて振り込まれています。実に細やかですねー。でも、これって業務上横領っていうんじゃないかしら?』


 身体強化した騎士の放つ疾風のような突きをひょいっと頭をそらして避ける。

別の騎士二人による前後からの袈裟切りをうさみみを押さえながら屈んで避ける。ぴょんっと短いポニーテールが跳ねる。

 横から跳んできた騎士の蹴りを小さくうさぎ跳びして、その蹴り足を踏み台に騎士の豪速の横薙ぎをくるんと縦に回って避ける。


『なかなか豪快です、豪快です。ここまで豪快に横領してるとは別の意味で尊敬しちゃいますね~、実に勇者です、勇者です』


左右から交差するように剣が揮われ、さらに風さえも斬り裂く刺突。騎士六人がかりの連携攻撃が一瞬たりとも切れずに行われている。

兎装の少女は視線すら合わせず、片手で帳簿をめくりながらハンドマイクでしゃべり続けている。

その間も休みなく攻撃されているというのに、ひょいひょい避け続けている。

だが、騎士たちも歴戦の勇士だ、まったくの無策ではない。

 連携攻撃を続けつつも、少しずつ目的の地点に移動させていく。

 そして最後の連携攻撃"車かがり"。帝国騎士団が最も得意とする必勝の連携。

 それは三人一組となり、二組で前後からまずは四方向から攻撃、前後左右への回避の余地を無くして上に逃れる獲物を後方の騎士二人が魔法で仕留めるという必殺の陣だ。

 騎士四人は同時のタイミングで、少女の回避余地をなくした。

 目標の少女は無造作に上へと跳んだ。あいかわらずしゃべりながら。


――かかった!。


 騎士二人がすでに直射魔法砲撃を準備、照準、そして発動。

 瞬間的に形成された魔法砲撃は黄金色の等位相凝縮光となって射線上のものを焼き尽くす。

 空中にいる少女に、避ける術はない――どころか、かすりもしなかった。


「なんとぉっ!」


 魔法砲撃を放った魔法騎士が驚愕する。


『そんな魔法攻撃なんて、魔力集積でバレバレでーす。それやるんなら魔力の完全隠蔽しましょーねー』


 照準されて発射される直前に、少女はきゅるんっと包囲を抜けた。空中で大きく足を振りかぶり、重心崩しによる空中側転をしたのだ。

 そのまま、たんっと両足をそろえて着地、ぴょんっとうさぎ跳びで少し距離を取る。


「なめるなぁっ!!!」

 屋敷の下方から猛烈な魔法弾の嵐がくる。警備隊の残りほぼ全員が一斉に魔法を唱え、大量の弾幕を形成する。

『おっと、うひゃぁ! これ、は、なかなかっ!』


 誘導、直射が入り混じったものはさすがに大変なのか、少女はしゃべりをとぎらせながら回避する。

しかし――。


「タ、タップダンスを踊ってやがるっ!!!」


 射撃を続ける魔法士絶望的な顔色でうめく。

 そう、兎装少女は鼻でリズムを取りながらタッタカ♪タッタカ♪とヒールを鳴らしていた。

 猛烈な魔法砲撃掃射が続くというのに、ひょいひらり、タッタン♪と軽快なリズムを刻みながら屋根の端まで歩いていく。

まるで夜の散歩をしているがごとく。


『さぁ、ラストです、ラストです。この帳簿さん達はどこに持っていくべきでしょうか? もちろん法の名の下の正義な執行機関ですね。たまにワイロとかとっちゃう限りなくクロに近いグレーなところですが、ここまで公開しました情報を握りつぶす度胸はあるのでしょうか。そこのところはどうなんでしょうか、法務大臣さま♪ ――おおっと、ついに最終手段に出るようです、インティファーダ家。ここまでしますか~♪』


 少女の周囲に範囲指定魔法陣が瞬間的に浮かび上がり、高周波音を発した直後、大爆発を起こす。


 範囲攻撃魔法《爆炎業陣》


 指定範囲を焼き尽くすこの魔法から逃れるには、魔法陣が展開を始めた瞬間に効果範囲外まで跳んで逃れなければならない。

その効果範囲は流し込まれた魔力に比例し、複数人での展開も可能である。


「殺ったかっ!?」


 四人を投入し、直径30メートルという大魔法陣をつくらせた警備隊長が叫ぶ。

 帝都法で許される限りの大火力を投入したのだ。これ以上の火力は、戦争時や近衛騎士団などの特例部隊にしか許されていない。


 爆炎が消え、煙が徐々に薄れていく。

そして、その奥にある影が徐々に濃くなっていくと同時に隊長の顔色が悪くなっていく。


『けほ、ちょっとすごい煙……。あら? やだ~、うさみみ焦げちゃった……恥ずかしい~』


 そこに居たのは無傷の兎装少女。

 いや、赤いうさみみの端っこが少しだけ色が変わっている。その軽く焦げた部分を指でさわりながら、もじもじしている。

 もはやバカにされているなどというレベルではなかった。

 警備隊は完全に殺す気でかかっているというのに、少女のほうは、ただ攻撃を避けるだけなのだ。相手にもされていない。


 彼女は回避も可能だったのだが、全力で回避すると彼らが見失う可能性があったため、あえて攻撃を受けたのだ。真空斬りを放って、全周に真空地帯を発生させて防御を行ったのだ。

 だが、いつもと違う格好のためか効果範囲がわずかにずれていて、うさみみが焦げてしまっていた。


 不意に少女が顔を門の方向に向けて手をバイザーの上にかざして実況を始める。


『おおっと、とうとう正義の帝国魔法騎士団が到着したようです。それでは、こちらの帳簿はまとめてお渡ししましょう』


 帳簿をこれみよがしに透明な袋にいれて、その袋をぽーんと帝国騎士団のほうに投げる。

 騎士団は防御呪文を発動しつつ、一斉に退いた。爆発物を警戒したのだ。

 しかし何も起きなかった透明袋を、ひとりの騎士が取り上げたことを確認して、少女は言葉を繋げた。


「正義の使徒(笑)である帝国騎士団に帳簿はお渡しして、今後の動向を見守ることにしましょう。以上、非公共監視団体(自称)所属の魔法の超☆手品師(すーぱーまじしゃん)マジカル・バニーがお送りいたしました。では、また明日、この時間で。さよなら、さよなら、さよなら」

「賊めっ! 逃がすかっ!」


 魔法騎士が一斉に飛び出して、屋根まで跳びあがり追跡に入る。

誘導魔法弾が乱舞し、直射砲撃魔法が十数条、闇夜を切り裂く。


「そんなんじゃ捕まらないよ~♪ あははは、『アーバヨ、トッツァン』!」

それらを少女は速度すら落とさずにひょひょひょいと避けながら手まで振り返す。

舐められた魔法騎士たちが身体強化魔法を発動し、追跡に入る、だが精鋭騎士たちだというのに、しゃべりながらぴょんぴょんと跳んでいく兎装少女にまったく追いつけない。




「財務大臣殿。ご同行願えますかな?」

 帝国騎士団 第二師団長が慇懃な態度で、呆けている財務大臣に同行を願う。

財務大臣は真っ赤になって怒り出す。

「ぶ、無礼なっ!あ、あんな賊の云うことを信じるというのかっ!?」

「いいえ、潔白を証明していただくためにもご同行を。もちろん私共も、賊の云うことなど信じてはおりませぬゆえ、厳正なる調査を我が名にかけてお約束いたします」


真っ青を通り越してまっしろになった財務大臣が居た。


――この大混乱の中で、周囲の屋敷から数十名の〝人間〟がひっそりと消えていることなど、後々になっても誰も気にも留めなかった。



 遊んでいます、フェテリシア嬢。

 まだ攻撃はおろか、防御すらほとんどしていません。

 次回は、VS近衛騎士編の予定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ