表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅国の少女騎士 ~ボク、とってもざんこくなんですけど?~  作者: 森河尚武
第二章 魔法の超☆手品師 マジカル☆バニー
8/49

牢獄と静かなる宣告

Arcadia様で感想を頂いたので、続きを書いてみました。

なんかお気に入り登録件数が50近くになっててちょっとびっくり。

まぁ、これ以上増えないでしょうけどね(苦笑


2013/5/09 一部修正

2014/4/27 誤字脱字修正


大皇帝城ルーブル城外 第三刑罰塔――通称〝白亜の塔〟。

そこは重要投獄人の収監塔である。

外見は直径12メートル、高さ30mの円筒型で、内部に12層のフロアがある。

 外壁は厚さ30cmにも及ぶ超強化コンクリート、さらに最新の魔導被膜技術が施されており、魔装騎兵アーストラット・ドールが大剣で斬っても傷一つつくことがない。

 1階から3階までは警備兵の詰め所になっており、常時10人以上が詰めている。

その上は高さ約10メートルの吹き抜け構造である。壁際に可動式の階段が設置されており、上層階からの移動を制限している。

 またここは常時6人の砲撃魔法士が詰めており、上層階を常時監視している。万が一収監者が脱走を試みた場合は射殺する任にあるのだ。

その上の5階から7階は、また牢屋番と警備兵の詰め所になっている。

 牢はそれより上層の階になっており、最上階を除き、基本的に一層を四つに仕切っている。

 その内の最小の牢は、三方がコンクリート剥き出しの壁で、外壁側の高い位置に小さな鉄格子窓がひとつあるだけの殺風景な構造だ。

内装は壁に作り付けのベッドが一つ、そして用を足すための汲み置き式のトイレが一つ。それだけしかない。

 入り口側は鉄格子だけで、一切の視線を遮られない構造になっていた。

 この牢全体に最新鋭の魔導技術が導入されており、絶対封印魔法技術によって内部の人間は魔法が使えない構造になっている。

 実際に、最精鋭をうたわれる近衛騎士でさえも、《灯り》の魔法すら発動できなかった。体内で発動済みの魔法か、専用に調整された魔法具のみが効果を発揮するようになっている。

 帝国魔導技術院の最新鋭技術実証施設でもあるこの塔は絶対脱走不可能と云われていた。


 長い(・・)ポニーテールの少女は、鎖につながれたままその一室に放り込まれた。

 金髪の近衛騎士は一言どころか、視線すら向けないままだった。

 ここに放り込むときも、視線すら向けずに無言で指さしただけ。

 素直に中に入ろうとしたときに不意に声がかけられた。

「おい」

 フェテリシアが振り向いたとき、視界に入ったのは騎士の蹴り脚だった。

 |腹部にまともに食らった《・・・・・・・・・・・》。奥の壁に背中からぶつかって轟音がする。

ずり落ちるところを、さらに騎士が追撃する。一足で踏み込んできて、籠手に覆われた拳がフェテリシアの無防備な腹に無慈悲にぶちこまれる。

「がは、あがっ!! はぁはぁ……」

 さすがのフェテリシアも何の装備もない状態ではきつかった。床の上にうずくまる。

「ふん……なにが天塔騎士だ。やっぱり騙りか。万が一ホンモノだとしても大したことないな」

 うずくまるフェテリシアをどかっと蹴り上げて仰向けにさせる。そのまま顔を踏みつけた。

「ほら、なにか云ってみろ、天塔騎士サマなんだろう、お前?」

「……」

 せき込むだけで彼女はなにも言わない。騎士は舌打ちすると髪を掴んで顔を上げさせる。

「ふん、けっこう良い顔だな。ああ、〝情け〟をくれてやってもいいか。メイドやメスもわるくないが、たまには新鮮なのもおつってもんだろ」

 フェテリシアはなにも言わない。ただゆっくりとふかく呼吸をするだけ。瞳も彼を見てもいない。

「なんだ、その目。立場わかっているのか、このゴミがっ!」 

 掴んでいた頭を張り倒して、横倒しにする。ごっ!と固い音が響く。

 そして装甲ブーツで顔を踏みにじる。しかし、フェテリシアはすこし顔をゆがめるだけで何も言わない。

 面白くない金髪の騎士は、腹に蹴りを入れる。

「ぐっ……ぐぶっ……」

 苦悶の息は漏らすが、それでもフェテリシアはなにも言わない。

「……ちっ、つまらん、無反応かよ。こんなんじゃ勃つものもの勃たねぇや」

 金髪の騎士は散々に蹴ったり踏み躙ったが、されるがままのフェテリシアに飽きてしまった。

 最後に思いっきり腹を蹴り上げる。

「がはっ、ごほっ!」

「はは、ゴミも人間様みたいにせき込むのな!」

 激しくせき込むフェテリシアをせせら笑いながら出ていく。

 そして鉄格子が閉められると、牢番に「鍵を締めておけ」とだけ指示をして階段を下りていった。


「ぐ、……かはっ……」

 散々に痛めつけられたフェテリシアはそのまま丸くなってうずくまっていた。

 ときどきせき込む。

 しばらくして、小さくひとりごちる。

「ふぅ……反撃をこらえるのがこんなにキツイとは。痛いのは我慢すればいいけど……」

ゆっくりと顔を上げると、薄汚れてはいるが、擦り傷などはほとんど消えていた。

 柔らかそうな肌についていた擦り傷や蹴られた痕は、すこし赤みを残しただけでほとんど回復していた。

「再生能力もすこし抑えたほうがいいかな? 不自然だろうし……」

 じゃらりと鎖を鳴らしながら、ベッドに腰掛けた。

 首輪の鎖は壁に作られた鍵付きフックに掛けられている。長さは、部屋の中なら一応動き回れる程度だ。

改めて部屋の中を見回す。

「……毛布くらいくれないかな? というか手枷ぐらい外しなさいよ……」

 コンクリ剥き出しの壁に、窓ガラスも嵌められていない窓、そして鉄格子。空調など考えられてもいない構造で冬寒く、夏も暑いことだろう。

 ベッドも鉄バネで、さすがにきれいなマットレスが一つ置かれているだけで、シーツもかけられていない。

 さすがのフェテリシアも服なしでは居心地が悪い。

「さて、夜まで待たないといけないけど、その前にもう一つくらいイベントありそうだし……ちょっと休んどこう」

 ベッドの上で、ひざに顔を伏せる。


(どうせすぐ起きるだろうけど……)

 そう思いながら、フェテリシアはいくつか指示を出してすぐに睡眠に入った。


 ☆★☆★☆★


 ……階段を上ってくる靴音が響く。今度は金属とゴムで裏打ちされた装甲ブーツではなく、革靴のような音だ。

そして現れたのは下卑た顔つきの牢屋番だった。鍵をちゃらちゃら鳴らしながら牢の前に立った。

 でっぷりと太った中年の男は、鉄格子越しに少女に云う。

「それ、宮廷魔術師長自らかけた魔法封じの枷だってな」

(ほーら、きた。ホント、悪い方向に期待どおりなんだから)

 フェテリシアはなにも云わないが、心の中でそう思った。

「てことは、お前さん、まったく魔法が使えないんだろう?」

「……」

「帝国民は全員が魔法が使える。魔法が使えないって事は、ようは〝能なし(ノマー)〟、そして、外から来たっていうんなら〝蛮族〟だよな」

 にやにやと脂ぎった頬にイヤらしい笑みを浮かべながら、フェテリシアの肢体を視線で嘗め回す。ときどきに唇で舌なめずりする。

 顔を上げたフェテリシアは何も言わない。ただ無表情に男を見ている。

「くくく、けっこういい感じじゃないか。かなりチチがちいせいが、ケツはしまっているし、具合は良さそうだな」

 そういってがちゃりと鍵を外して室内に入ってフェテリシアの前に立つ。。

「おっと、声を上げてもムダだからな。他の奴らもヤってんだ、自分の担当のヤツは自由にしていいことになってる」

「……規定に反していないんですか?」

 そこでようやくフェテリシアが声を上げる。声には怯えも強がりもなく、ただ平坦だった。

「へへ、人じゃねぇモノに関する規定なんてねぇよ。なかなか気が強そうじゃねぇか。そういうのがひぃひぃ啼くのがいいんだよな、くくく…」

 舌なめずりして、ヤニで汚れた汚い歯が見える。

 牢屋番は無力な獲物をいたぶるのが趣味だった。

とくにここしばらくは担当に女が入ってこなくて、欲求不満が溜まっていた。そこに見目麗しい少女が入ってきたのだ。しかもご丁寧に魔法封じの枷までかけられて。手を出さない理由はなかった。

男の手が伸びてフェテリシアの胸を鷲づかみにする。

「……っ」

 彼女は痛みに顔をわずかにしかめる。

「チチはほとんどねぇが、感度はいいみたいだな。股もまだ色もかわってねぇし処女か?  まぁ、久しぶりの上物だな。くくく、まってろ、オレのイチモツですぐひぃひぃ云わせてやるからな」

 そういってかちゃかちゃとベルトを外して、ズボンとパンツを下ろす。

「……ぷっ」

 フェテリシアが小さく笑う。

「何がおかしい、このメスっ!」

「だって、かわいいんだもの」


 彼女の視線は、男の下半身を見ている。


「あ、あんだとっ!」


 男はびっくりした。つい今まで期待に昂ぶっていたムスコがくたりと垂れ下がっている。

必死にたたせようとするがまるで無反応だ。


「ああ、ボクの許可がないと絶対タたないからね? ボクがそう魔法をかけたよ、さすがにヤられるのは我慢できないから」


 くすくす笑いながらフェテリシアはそう宣告する。


「な、なんだとぉっ! なにバカなこといってんだ、てめぇっ! 魔法は封じられてんだろうがっ!」


 ぶぉんと腕を振り回して、少女の顔を殴ろうとした。かすりもしない。

逆に足を引っかけられて、背中を鉄格子にしたたかに打ちつけられた。


「ああ、どんなにがんばったてムダだから。ついでに魔法も使えないヨ?」


 彼女は、ぷーくすくす、といい感じに無表情にわらう。


「なにぃっ!? っ!」


 牢屋番は慌てて外に出て、呪文を唱える。

もっとも最下級の、初歩の初歩である基本魔法、照明の魔法――10才以上の帝国民なら誰でも使える。


《灯りよ》――なにも起きない。


「う、うそだっ!」


《灯りよ》《灯りよ》《灯りよ》《灯りよ》《灯りよ》《灯りよ》《灯りよ》


何度も何度も唱える。何も起きない。


「て、てめぇっ!!! 元に戻しやがれっ!」


 牢屋番がフェテリシアに殴りかかる。しかし、彼女がちょっと動かした鎖に絡まれて、床に叩きつけられた。

「がっ!!」


 したたかに背中を打って咳き込む男の顔が、なにか柔らかいもので挟み込まれた。

 上半身を抑え込まれて、まるで身動きがとれなくなる。

フェテリシアが馬乗りになり、足と太ももで男を抑え込んだのだ。

 そしてフェテリシアは牢屋番の顔を無表情にのぞきこんで小さく一言。


「ねぇ、ボクは一言でも魔法が使えないって云った覚え、ないんだけど?」

「な、んだとぉ――ひっ!!!」


 男の眼前に小さな青白い円形の炎――凝縮された超高温の火球

 それを呪文もなしに(・・・・・・)少女は創った(・・・・・・)


「ちょっとお願い聞いてほしいんだけど? ――あ、そうそう、もし魔法が使えなくなったら、どういう目にあうか充分にわかってるよね?」


 かわいらしく小首を傾げて無表情に聞いてくる少女に、牢屋番は全力で肯定するしかなかった。


 ☆★☆★☆★


「どういうことだ……?」


 帝国魔導技術院からの報告にド・ゴルド宮廷魔術師長は冷たい声音で問いかける。


「ですから、報告書にあるように現時点ではなにも判明していません」


 若い報告者は震え上がりながらも懸命に報告する。


「そうか。なぜか持ち上がらない剣、どうやって製作しているのかすら判らない織り目のない服地、素材の判別すら出来ない鎧の装甲、近づくことすら出来ないキャリア……。あれから4時間もたって帝国最高の頭脳が結集するこの院ではなにも判らぬとそう云うのだな?」

「い、いえ。研究を進めてみないことには……」

「ほう、時間があれば判ると?」

「は、はい。必ずや……」

「解析魔法が効かないものにどうやってアプローチするのだ?」

「そ、それは、解体して様々な計測機器でデータを――」

「代わりがないのだっ! そうやって何も判りませんでしたなどといったらどうする気だ貴様っ!」

「ひぃいい! 全力で調査いたしますっ!」


 資料すらも取りこぼして、若い研究者が執務室を飛び出ていく。


「馬鹿者がっ! どうしてこうも愚か者しかいないのだ……どいつもこいつもワシの足を引っ張り折って、バカどもがっ………!」


 重厚なマホガニー製デスクに手をつきため息をつく。


「お疲れみたいですねー、()お父さま」

「何者だっ!」


 すぐさま反応して声の方向を向き、魔法陣を展開、雷弾を放つ体勢に入る。

 同時に身体強化を行い、神経伝達速度を5倍まで加速する。

 加速された思考力が、先ほど部下が走り出て行ったドアの脇に小柄な人影を認める。

 部下ではない。そう認識した瞬間に雷弾を放つ。被害など考えない。

 もともとその周辺には防御魔導術がかけられている。中級魔法くらいまでなら問題ない。

 魔法の中でも最速に近い雷弾を侵入者はごくわずかに動いて避けた。

 三連弾が壁に命中し、轟音とともに軽い焦げ目をつくる。


「いい反応ですね。さすが帝国最高の魔導師です」


 声色には揶揄の色がある。そして魔法の灯りの下に姿を現す。


 姿を現したのは、鮮やかな赤髪を短い(・・)ポニーテールにした少女。

 目元にはバイザー型のミラーシェードをつけている。

 背中の出ているホルターネックタイプの真っ赤なハイレグレオタードを身に着けている。上半身は白シャツを模していて、ネクタイを結んでいる。

腰部とおしりを覆い隠すように薄いレースのフリルを付けている。

 黒い革製のロンググローブに、太股の途中まである黒の革製ロングのミドルヒールブーツを履いている。

 もっとも特徴的なのは、赤い兎の耳を模した飾りを付けたカチューシャだ。

 いわゆるマジシャン・バニーガール衣装である。

 腕を組んで本棚に背を預けたリラックスした姿勢で、ゴルドを見ている。


「なんだ、貴様は。奇天烈な衣装を着おってっ!」

「この衣装は、いちおうお仕事着なので放っておいてくださいな。わたくしも恥ずかしいんですけど……」


 しょぼんとした風につま先で絨毯をくりくりとほじる。

 隙だらけだが、ド・ゴルドは攻撃が出来ない。魔法が命中するイメージがどうしても湧かないのだ。

 さらに奇妙なことに気が付いてもいた。

 警備がやってくる気配がない。魔法を使い、轟音を立てたにもかかわらずだ。

 もっとも役立たずな警備よりも自分の実力を自信があるがゆえに問題としていなかったが。


「何者だ、ここの防備をどうやって破った!?」

「防備? ――ああ、あのずさんな探知魔法術式のことですか? 歩いてきたけど別に引っかからなかったですが」

「なんだとっ!」

「あ、そうそう警備は呼ばない方がいいですよ、元父さま?」

「薄汚いネズミごときにに父と呼ばれる筋合いなど無いわ!」

「ええー、ひどいです-。血のつながった娘にそんな罵詈雑言を。わたくし泣いてしまいますわー」


 酷く平坦な声で告げられる言葉に、宮廷魔術師長はなにかが引っかかる。


「ま、仕方ないか。五年もたっているしね(・・・・・・・・・・)

「五年だと……? まさか!? ばかな、アレは死んだっ! 生きているはずがないっ!」


 加速した思考で一瞬考え込んで、ようやく五年前に〝黒き死の森〟へと捨てさせたモノを思い出す。


「なるほど、やっぱりあなたの命令だったわけですね。ま、それはいいや」


 フェテリシアは真実を確認して、それで満足する。

正直、どうでも良かったのだ。

 もう彼らとは関係がないから。任務に利用することにもなんの良心の呵責もない。


「なんだと、貴様――」

「今日はちょっとご挨拶にお伺いしたんですよ~、偉大なる大魔法帝国の宮廷魔導師長サマ」


 云うと同時に、わずかに威圧する。といっても、すこしだけ気配を溢しただけだ。


「――っ!!」


 それだけで、レオン・ド・ゴルドは動けなくなる。

実戦経験の少ない彼には凄まじい重圧。思わずひざをつきそうになる。


「ちょっとばかし強くなっちゃったので、ちょっとこの帝都で色々と愉快なことをしてみようかと思うのですよ」

「ぐっ……復讐だとでも云うのかっ!!!」


ド・ゴルドが咆える。しかし、少女はかわいらしく小首を傾げて不思議そうに云う


「? いーえー? あなたたちに別段の興味ないですから。だって、弱すぎてあくびが出ちゃうんだもの。そんなのをなにかしたって面白く無いじゃないですか、元お父さま?」

「弱い、弱いだとっ!? 帝国で最強最高の魔導師であるこのレオン・ド・ゴルドを、弱いだと!」

「え、だって、手も足も出ないじゃないですか。わたくし、まだちょっと威圧しているだけですよ? それだけで恐怖で縛られるなんて、正直云って予想以上に弱いですわ。うん、殺す価値もないですよ?」

「な、なんだと!?」

「ほら、こんなに近づいているのに身動き一つ出来ていない、うふふふ……」


 いつのまにか少女の手はレオンの顎を撫でまわしていた。ひんやりとしたグローブの質感に気がついて、レオンは戦慄した。

(身体強化を発動して神経加速を行っているワシに気づかせずにだと――!)


 いつ移動したのが判らなかった。だが男が感じたのは驚愕以上に怒りだった。


(この帝国で皇帝の次に偉大な宮廷魔法師長であるワシに、ゴミが勝手に触れるなど――絶対に許さぬっ!!!!)

 どこまでも物事が理解できない男だった。


「というわけで、しばらく帝都を騒がせますんで、よろしくおねがいしますね、レオン・ド・ゴルド宮廷魔法師長サマ」


 少女はくすくす笑いながら離れると、今度は姿が少しずつ闇に溶け込んでいく。


《雷光よ!》

 その隙を逃さずにレオンは魔法を放った。呪文(コマンドワード)一つで、24もの雷光が発生して少女を襲う。

 壁を貫通し、廊下まで通る。崩れる壁によって土煙が舞いあがり、視界を塞ぐ。

「残念、その程度じゃわたしには届かないですよ~。殺す気でかかってきてくださいな、帝国最強の魔法師サマ♪」

 嘲るように云った赤いバニーガール少女の姿が完全に消える。


 その頃になってようやく警備兵がやってきた。

「何事でありますかっ!」

「侵入者だ! 警備はなにをやっていたっ!!」

「し、至急手配いたしますっ! 侵入者の特徴を教えてくださいっ!」

 警報を起動させながら、当直者がレオンにたずねる。

サイレンが鳴り響き、サーチライトや警備当番の魔導士達が慌ただしく駆け回る中で、少女の奇天烈な姿の詳しい説明をするはめになった。



 サイレンが鳴り響き、全ての魔法灯がついて暗闇が駆逐された建物をばたばたと警備員や研究員が走り回る。

 そんな彼らを眺め下しながら(・・・・・・・)フェテリシアはのんびり歩いていた。

《しかし、ここの警備はずさんですね。警告魔法陣の設定も天井近くは設定されていないなんて》

《そんなものじゃないかな? 壁や天井を移動するなんて想定するほうがおかしいよ?》

 天井近くの壁を歩きながら(・・・・・・・)機密回線で、のんびりと話す。

 疑似重力制御で身体を支えながら壁を歩くフェテリシアの真下を、ばたばたと走り回る警備や研究員たち。

光学迷彩で姿を隠しているため彼らにはフェテリシアの姿は見えてない。

それでも探索の手段はいくつかあるのだが、そもそもその発想がない。


《これで、ボクに目が集中する。しばらくは騎士団も魔法師団も忙しく走り回るでしょう》

《はい、その隙をついて拉致民の調査をします。ただ……二つの目的を同時に進めつつ、さらにいくつかの目的を含ませるなんて、作戦計画としては危険な杜撰さですが》

《……しょうがないよ。ししょーと大巫女さまが面白がって立てた作戦計画だもの。装備だけは潤沢だけどね》

《そうですね。〝アマノウキフネ〟まで使用許可が下りているというのは尋常ではありません》

《そもそも持ってきた朧影騎士(シルエット・ドール)が〝殲滅の人形〟だしね。ホント、一国どころか大陸を炎に包めるんですけど》

《でも、全力で使わないのでしょう? それだけ信用されているということです》

《……まぁね。やっぱり力がありすぎるといろいろ不便だよ。ちょびっとでよかったんだけどなー、復讐したら、あとは死ねるぐらいの》

《貪欲に力を求めすぎましたね。マイ・マスターはまぎれもなく武術の天才でしたから》


 フェテリシアは帝国に居た頃から、剣の天才だった。

 並の騎士では歯が立たず、10才年上の姉アフィーナとほぼ互角に戦えるほどの剣の才能は、両親も自慢の娘と期待していた。

 あの日まで、アフィーナと共に姉妹の女性騎士となることが期待されていたのだ。

 それを全て壊してしまったのが、魔法器官検査だった。


《ま、ボクはとりあえず面白く引っ掻き回せばいいわけだし。ウィルはちょっと大変だけど、よろしくね》

《お任せください、マイ・マスター。十全に行ってみせましょう》



うん、まぁ最初からシリアス一辺倒とは云ってなかったYOね?

本格戦闘は次回から。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ