表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅国の少女騎士 ~ボク、とってもざんこくなんですけど?~  作者: 森河尚武
第一章 少女は戻りたくないけど戻ってきた。
7/49

謁見

Arcadia様で感想を頂いたので、続き書いてみました。

首都までの道中の話は省略。もちろんいろいろあったけど、些末なことなので。

2013/5/09 一部修正

2014/4/27 誤字脱字修正

 豪壮な扉が重々しく音をたてて開いていく。

(すごい手の込んだ装飾……)

 すっかり変わってしまった感性に彼女は自身に内心苦笑していた。たった五年間で変わりきってしまった自分に。

 シンプルなデザインに慣れた彼女からすれば、この城はいたるところが過剰装飾に思える。

 もっとも、そうやって職人の技術向上や経済の循環が行われるのだから、悪いことだけではないと彼女は学んでいた。

 そうして広間にまた目を向ける。

(そういえば初めて入るんだよね、この広間……)

 フェテリシアは、ふとそんなことを思った。

 かつては貴族の範疇に入っていたが、まだ幼かったために正式なお披露目はされていなかった。

 だから彼女のことを知っている者も数が限られており、もう覚えている者もいないことだろう。


 あの日からすべてが変わってしまったから。

 家族からだけではない、家臣や召使いからの蔑みの眼。

 自分たちより下が出来たと喜ぶ暗い情念が宿り、手荒に扱われるなんてものじゃなかった。

 追放されるまでの三日間は、フェテリシアもあまり思い出すこともない。

(ああ、やめやめ。暗くなってもしょうがないでしょう。今は任務(・・)だ)

 その一言で、彼女は切り換る。人間から人間でないものに。

 濃緋色の絨毯をゆっくりと歩み始めた。


 ☆★☆★☆★


 グランリア大魔法帝国首都グラン・ド・グランリア。

 その中央にそびえ立つ5000年を|超える歴史があると云われる《・・・・・・・・・・・・》皇帝城ルーブル中央広間。

 大国の大使との謁見などに使われるその広間において、皇帝による謁見が行われようとしていた。

 帝国888家ともいわれる貴族が代理人を含むとはいえ全て勢ぞろいした式典。

 それをわずか一日で準備させたことは、皇帝の権力の強さを象徴している。 

 

 広間もまた贅を尽くした装飾が施されている。

 巨大なステンドグラスが窓を飾り、天井には建国の歴史を描いたと言われる装飾画が描かれ、列柱には隅々まで彫刻と黄金の装飾が施されている。

 そして三段128個にもおよぶ無煙蝋燭が点けられている巨大なシャンデリアが三つも天上にあり、荘厳な光を参列者に落としている。

 参列した貴族もまたその装飾に劣らぬ装いだった。若い者が多いが、その仕立てもまた贅を凝らしており、みすぼらしい者など一人もいない。

 がやがやと周囲の貴族と雑談をしながらその時を待つ。

 式典官の声とともに大扉がゆっくりと開いていく。

 入場者がその姿を広間に表したとき、息をのむ音が静かに広がる。


 ☆★☆★☆★


 入場したフェテリシアは天塔騎士団第一種礼装女性用C装備を身に着けていた。

 それは薄く虹色の光沢を帯びる白を基調とし、白銀の装飾を施されたジャケット・スカート、フリルがふんだんに施された肩記章装飾が施され、濃いターコイズブルーの裾が割れているマントコートを羽織っている。

 艶やかな黒髪は長いポニーテールに結び、兎の耳を模した意匠の帽子を着けている。

 要所にフェテリシアの個人色である緋色と天塔騎士団の紋章『天高くそびえ立つ塔と本の描かれた盾』が入っていた。

 彼女の専用装備である緋色鞘の小太刀(サムライ・ソード)を左手に持ち、ゆっくりと濃緋色の絨毯を歩いて行く。

 荘厳な装飾を施された中央謁見場に決して見劣りしない華麗な礼装だった。

 広間に参列している華麗な貴族たちの服装よりも、もっと上質に見えるほどの仕立てだった。

《さて、吉とでるか凶とでるか》

《フェテリシア……凶と出るようなことばかりしてますよね》

《囮なんだから、目立たないとといけないじゃない?》

 機密回線越しでもあきれるような感じのするウィルに、フェテリシアはあくまでも軽く答える。その間も彼女は気付かれない範囲で、周囲を確認する。

《お、いるいる。というか、貴族も魔導杖持ちがけっこう居るね》

 騎士団はすぐに判別出来る。

 彼らも礼装だったが、巧妙に隠されてはいるが要所が装甲されているのがうかがえる。またいずれも鞘や柄に装飾こそされているが、実戦用魔法剣を帯剣している。

 魔法士団のほうが少しだけ厄介だった。

 宮廷魔法師は礼装が定まっているため、すぐに判別できる。だが、魔法士団は貴族として参加する場合もあり、全員の位置は把握し切れていない。

 もっともフェテリシアはほとんど気にしていない。ここには敵しかいないのだから。

《どうしますか? 防御は予定通りにしますか?》

《うーん……魔法発動阻害デ――やっぱり予定通り対魔法力場にする》

《撃たせるのですか。フェテリシアは優しすぎます》

《そーかな? 全力で挑んでいるのに、ぜんぜん効かないってほうがざんこくじゃない?》

《……場合によります》

《少なくとも、ボクが先手をとらせる理由はそれだって知っているでしょ?》

 ウィルは沈黙した。フェテリシアも表情一つ変えずにゆっくりと一歩一歩を進む。


 歩む先には皇帝と臣下がそろう一段高くなった段間があり、よく見知っていた顔がいくつか視えた。

しかし、フェテリシアにはなんの感慨も浮かばなかった。

 そのことに彼女はむしろ自分にあきれた。


(やっぱりボクは人間ヤめちゃったんだな……わかっていたつもりなんだけど)


 黒髪の少女は無表情なまま歩み、そして両側に金髪と銀髪の近衛騎士が立つ場所で、立ち止まる。


 皇帝が座する玉座よりおよそ三十メートル。

 玉座に座る絢爛豪奢な衣装をまとう皇帝ド・グランリア。

 左横に同様に絢爛な衣装を着た皇妃がいる。

 左手に荘厳な衣装の宮廷魔術師長、右手に精悍な衣装の騎士団長が傲然と立っている。


(あ、()父さまもいるね。まだ引退してなかったんだ)


 一段下がった場所に皇太子、そして昨日まで一緒だった皇姫カーラと専属近衛騎士が付き添っている。


 内心を表に表すこともなくゆっくりとかがみ、その場に小太刀を置いて一歩下がる。

 そして、優雅な動作で|片足をひき、スカートの裾を摘みながらひざを軽くおとした格式礼カーテシーをする。

「お初にお目にかかります。永世中立機関ユネカ直属天塔騎士団第八位 フェテリシア・コード・オクタにございます」

 透き通るような声で滔々とあげた自己紹介。

 それに対して、皇帝が鷹揚にうなずこうとした時。


「偽りを申すなっ!!」


 怒声が聞こえた。

《このタイミングかぁ……》

《予測確率33%と高確率でしたが、とても正気とは思えませんね》

 ウィルは辛辣だ。未来予測演算チャートの中で確率は高いと示されていたが、本当にくるとは思っていなかった未来。

 それが選択された以上、フェテリシアも覚悟を決めた。


「偽りとはどういうことだ?」

 フェテリシアが何も言わずにいると、皇帝が声の方向に正確に向く(・・・・・)

「恐れながら申し上げます。その者は天塔騎士を名乗りながら、わたくしに手も足も出なく、また魔法も使えませぬ!」

 皇姫カーラの側を外れて進み出てきた女性魔法騎士――アフィーナが弾劾する。

「なんと。それはまことか?」

「このわたくしめがこの身をもってしかと確認いたしました」


 皇帝の前に跪き、頭を垂れながらアフィーナ・ド・ゴルドが奏上する。

 皇帝の声は白々しい。そして広間もまた静まり帰っている。参列している貴族達も驚きの色を見せていない。それだけでも事前に根回しされていたことがわかる。

 フェテリシアは無表情で黙って進行を待つ。

 大まじめな茶番劇は続く。

「その者は、天塔騎士を名乗る偽物にございますっ!」

 ばっと手で指し示して、弾劾する。

 皇帝が片手を上げると、近衛騎士団が皇帝をかばうようにフェテリシアの前に立ちはだかり、広間にいる1/3近くの人間が魔導杖を構え、剣を向ける。

「……」

 ことここにいたってもフェテリシアはなにも云わない。

 しかし、機密回線で指示を出す。

《予定通り、キャリアのロックは要塞モード。小太刀〝天塔紅蓮24式〟は魔法触媒機関所持者に対して疑似重力枷200倍にセット。以後の通信・会話は別命まで全てS2機密回線》

《了解です。お気をつけてください、フェテリシア》

《ありがとう》

その間も皇帝とアフィーナの茶番は進んでいた。

「なんと! 剣も魔法も使えぬ者が天塔騎士と偽るなどと、神をも恐れぬとはこのことではないか!」

「おそれながら今すぐ、捕縛し、詳細を取り調べる必要があるかと」

 近衛騎士団長が皇帝の前に立ち重々しく云う。

「取り調べの後に、すぐにユネカ国に知らせる必要があります」

 宮廷魔法師長が白々しく云う。その目は、彼女の装備に興味津々である。


 白々しい茶番の会話を終えて、ようやく皇帝はフェテリシアに視線を戻した。

「さて、そこで天塔騎士を騙った愚か者よ。おとなしく捕縛されるがいい。おお、なにか危険なモノを持っていないか、調べねばなるまいな」

「……」

「その場で、全てのものを外して一歩下がるがよい」

「……それは全裸になれということですか?」

「全てのものと申したぞ」

 皇帝はそれに従うとは考えていない。

 フェテリシアは少女とは云え、女である。衆目の集まるこの場で全裸になることに躊躇を示すだろうと帝国の上層部は考えていた。少しでも反抗的な態度をとれば、その場で処分する理由になる。

 皇帝は目線で近衛騎士団長と宮廷魔導師長に合図する。二人ともかすかにうなずいた。

「……」

 フェテリシアは無言のままゆっくりと左手を伸ばし、パチンッとマントコートの金具を外した。

 上着のボタンを外し、腕を抜いて後ろにおとす。スカートのホックを外して、すとんと足下におとす。靴を脱ぎ、スリップ、ブラジャーと続き、そしてストッキングとパンティーを足から引き抜いて絨毯の上に落とした。

広間に集まった人々は静まりかえっていた。

 弾劾したアフィーナも、騎士団長も宮廷魔術師長も、皇帝も、だれも一言も言わない。


「……これでよろしいですか」

 全ての装備を外し、全裸になったフェテリシアが静かに問いかけた。

 その顔は変わらずに無表情だ。


「な、なぜ全裸になる……?」

「おかしなことを。おっしゃったとおりにしたのですが」

 フェテリシアはかわいらしく小首を無表情に傾げてみせる。

 たまらずにアフィーナが吠えた。

「は、恥ずかしくないのか、貴様っ!」

「恥ずかしい? なぜそのようなことを聞くのですか、アフィーナ様?」

「な、なに?」

「ボクは天塔騎士です。公務において個人の感情などさしはさむ余地などありはしない。『われらは〝星の守護者〟の全権代理人、アルマナクの破片にして、全ての知を集め守るモノ』 ゆえに天塔騎士とは人間であることを辞めた者だ」

 感情がひとかけらも感じられない。全裸の少女が話しているだけなのに、なにか得体の知れないモノがそこにいる。

 参列者達は凄まじい違和感に襲われていた。

 無力な小娘。そのはずなのに、まるで自分たちの方が無力なような……。

 フェテリシアは何もしない。ただそこに静かに立っているだけだ。


「その者に枷を着けよっ! 牢につなぐのだっ! 」

 威圧に負けそうになったド・ゴルド宮廷魔術師長が叫ぶ。


 チガウ、コレは人間じゃない、魔法が使えないとかそんなことは些細なこと。攻撃すれば、ここにいる者など消し飛ばされる――っ!

 恐怖が思考を飛躍させて、正解を導き出していた。

 だが、その正解を認めるわけにはいかない、魔法帝国で最高の魔導師という誇りに賭けて、断じて認めるわけにはいかない。

 その思考に支配されたド・ゴルドは己が恐怖していることが判らない。


 ド・ゴルドの命令に従って、銀髪の近衛騎士が用意していた枷を手に近づく。

「ふん、抵抗するなよ。抵抗したら即斬るからな、下餞民が」

 威圧にも気が付かない銀髪の騎士が親切にも忠告を与え、手枷を後ろ手に装着し、ひざ裏を蹴った。

 フェテリシアはそのままうつ伏せに倒れこみ、かすかに苦悶の声をあげる。

「さっさとひざまづけよ、ノロマが」

 鎖の付いた足枷を彼女のほっそりした両足首につけ、そして首輪をつける。

フェテリシアは抵抗しない。しかし、その瞳は感情をうつしていない。

まるで、どうでもいいことのように素直に従う。

 銀髪の騎士は最後に髪の毛を掴んで上を向かせる。

「――肉づきは悪いが、顔はけっこういいな。これなら飼ってやってもいいかもな」

 近衛騎士は下卑た笑みを端正な顔に浮かべる。周囲の貴族の一部からも下卑た気配がながれる。

「さっさと立て。皇帝陛下の御前だぞ、カスがっ」

「ぐっ……」

 首の鎖を引っ張られ無理矢理立たせられた。さすがの少女も痛みに顔をしかめる。 

 枷が着け終わるのを焦れて見ていた宮廷魔術師長が高速言語で枷の魔法術式を発動させる。

《発動せよ、拘束の枷。この者の全ての魔力と力を封じ、無力な人とせよ》

 魔法力と全ての身体強化術を無効化し、さらに筋力を低下させる拘束術式。

《身体制御術式に干渉――通常防壁にて無効化。特に異常なし》

 フェテリシアの脳内に術式無効化の報告が響く。

 劣化した技術である魔法など本来の術式(・・・・・)に干渉できるはずもない。

 魔法術式が発動したとみた人々が我知らずに止めていた息を吐き出す。


「バーカナン一等魔法騎士、その者を第三牢塔に連れて行け」

「はっ!」

 騎士団長が下命すると、フェテリシアの近くにいた金髪の近衛騎士が歩み出て、首輪の鎖を銀髪の騎士から受け取った。銀髪の騎士がかすかに舌打ちする。


(ふーん、一等魔法騎士になったんだ)

 フェテリシアは見覚えのある美男子な金髪騎士をみて、そんな感想を抱く。

 だが、その騎士はフェテリシアのことに気がついた様子もない。彼女はちょっとだけ寂しかった。

 男は皇帝達に一礼し、大扉へ向かう。

「おい、はやくしろ、カスが」

「……っ」

 まるでゴミでも見るような目で見下ろされながら、ぐいっと鎖を引っ張られてフェテリシアは少し息が詰まる。

 彼女は痛いのが好きなわけでもないので、素直について行く。

 反抗する気は無かった。今のところは(・・・・・・)

 ここまでは予測通りで、また計画の一部でもあったからだ。



 ☆★☆★☆★☆★



 少女が出て行き、解散が告げられた広間。通路の中央にフェテリシアが置いた小太刀に真っ先に近づいた者がいた。

 皇太子だ。

 実に美しい佩刀であったので、自分が使おうと思ったのだ。

 柄をもち、持ち上げようとする。

「な、なんだっ!?」

 しかし、ぴくりとも持ち上がらない。

「どうされましたか?」

 フェテリシアの装備を回収していた宮廷魔法師の一人が訊ねる。

「いや、あれが置いていった剣なのだが、持ち上がらぬ」

 皇太子が困惑したように云っても、魔法師は真面目に受け取らず、ちょっとした冗談だと思った。

「はは、ご冗談を」

「いや、やってみよ。本当だ」

「そんなバカな……なっ!?」

 宮廷魔法師が同じように持ち上げようとしてぴくりとも動かない。腕が震えるほど力を込めているというのに動く気配すらない。

「な、なんだ? 魔法術式か?」

他の宮廷魔法師たちが集まってきて、調査を始める。

 その結果は、魔法術式の痕跡がないと云うことがわかっただけだった。

なのに持ち上がらない。重量軽減魔法を実行しても変わらない。

「ど、どういうことだ?」

「これ自体が何百kgもあるとでもいうのか?」

「バカな、アレは左手で持っていたぞ、ありえぬ!」

 喧々諤々の議論が躱されるが、答えが出ない。

 帝国でも有数の魔法研究者達が冷や汗をかいていく。


 我々はもしかしてとんでもないモノを相手にしているのではないか?

 その寒々とした考えが脳裏に浮かび上がっているが、だれもそれを口に出すことはなかった。


――同じころ、城外の広大な停車場に止められていたフェテリシアの大型キャリアの周囲でも、騎士や魔法師たちが困惑する事態が発生していた。

10メートルを超す大型キャリアは今や要塞と化していた。

 全ての窓は装甲板がせり上がって締め切られ、大型チューブレスタイヤもまたスライドした装甲版で覆い隠されている。

そして光の帯がキャリアの周りを一周しており、その帯の中を「警告」という光の文字がゆっくりと動いている。

出入口と思しき場所には空中に光で描かれた帝国共用文字で書かれた文章が浮かんでいる。


『本キャリアは国際連合政府憲章および全世界フェアウィルド条約に基づき現地法の適用を受けない不可侵領域となっております。不許可の者が理由なく接触することを禁止します。もし害意の意思を持って接触した場合、段階に沿った制裁が課されます。ご注意ください』


「いったいなんだ、この魔法陣は……魔力がまるで感知できない。隠ぺいされているのか?」

 魔法師がレーザー空中投影表示にしきりに首をかしげる。

 真っ先に駆け付けた騎士隊の隊長は、その警告文をみて鼻で笑う。

「ふん、接触するなとは片腹痛い。なぁに、あのドアを斬ってしまえば中に入れるだろう。おいっ、そこの! いい練習だ、ちょっとそこを斬ってみろ」

「はいっ! いきますっ!」

 若い騎士が剣を抜きはなって気合一閃。装甲版がじゃりじゃりとイヤな音を立てて火花が散る。

 隊長騎士が驚いた。

「なに? 傷一つつかないだと?」

「ああーっ! 僕の魔法剣がボロボロにっ!」

 斬った騎士が愛剣の刃を見て悲鳴を上げた。たった一閃で刃がもうボロボロになっていた。

 キャリアの装甲に施されている分子結合膜は並みの合金では歯が立たないのだ。

『警告:本キャリアへの攻撃行為を認めました。この行為は意図的なものか、偶発的なものかお答えください。またはキャリアから十メートル以上お離れ下さい。もし回答がない場合は十秒後に制裁第一段階を実行します』

 不意にキャリアから中性的な声が流れ、空中にもうひとつ警告文が表示される。その中でカウントダウンが開始される。

「な、なんだ? 誰か中にいるのか?」

 騎士たちはざわざわと騒ぐだけで何もしなかった。

カウントダウンが0になった時、再び音声と空中に描かれた文字で警告がなされる

『回答がなく、また離れる様子が見られないため、第一段階制裁を行います』

「ぎゃぁあああっ!」

 キャリア上部につけられた円盤型の部品から電撃が奔って、斬った若い騎士を直撃する。

「なにっ!」

 あわてて散る騎士たち。魔法師たちも防御呪文を唱えた。

「た、隊長、身体が、しびれ、ます……」

 若い棋士はからだが痺れて動きが鈍い。まるで弱い雷弾を食らったかのようだ。

 再び音声と警告文が空中に表示される。

『警告します。許可のない者の不用意な接触を禁じます。攻撃の意思を検知した場合、反撃いたします。これはフェアウィルド条約にて反撃の権利が認められています。警告に従わない場合、段階に沿った制裁を実行します』


「今のは、魔法か!?」

「いえ、魔法陣はおろか魔力も検知できません、わかりませんっ!」

「くそ、なんなのだ、これはっ!」

 魔法は、人間以外には使えない。増幅させることは可能でも、例えばゴーレムなどの人間が介在していないものには魔法を使うことが出来ない。

 帝国法において『帝国民とは魔法が使えるものである』と解釈されているのはこれが理由である。 

 だが、ここに器物であるはずなのに魔法らしきものが使える物があった。この場合はどう解釈すればよいのか、咄嗟にこたえられる者はいなかった。

「くそ、報告を上げて指示を仰ぐしかないか……」

 隊長がぼやく。突入して金目のものをいくつかいただこうと思ってすぐに来たのに、なにも得られないどころか余計な報告書を作成して叱責まで受けかねない。

ついてないと思った。


『警告します。許可のない者の不用意な接触を禁じます。攻撃の意思を検知した場合、反撃いたします。これはフェアウィルド条約にて権利が認められています。警告に従わない場合、段階に沿った制裁を実行します』

 光の文字がゆっくりと大型キャリアの周囲を回転している姿を、騎士も魔法師も見ることしかできなかった。 


続きはArcadiaで最新話を投稿してからです。


 次回から「超☆魔法のマジシャン レッド・バニーさんとゆかいな帝国魔法騎士たち」が始まるよ☆

 ※ホント……たぶん


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ