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誇り高き者たち 後編

思ったより早く書き上がりました。

万感の思いを込めて、提督は命令を発した。


「主砲“天地轟砕無敵砲”発射――」

「発射っ!!」


がきんっとトリガーが引かれた。



真空状態の重力加速路帯(チャンバー)に9億2400万メガワットという途方もない電力が投入され、3000トンの巨弾を超加速させる。

 船の反重力機関二基が最大稼働して12000G超の重力を発生、重力落差を利用して弾頭の亜光速機関が始動。船体中心部を貫く長大な重力加速路帯(チャンバー)によってさらに加速しながら0.04秒で駆け抜け、艦首の巨大砲口より射出。0.002秒後には光速の50パーセントにも達した。


爆炎ですらない雷神の閃光のごとき白色プラズマ炎を纏って怨敵ユネカの双胴船へ――


刹那、轟爆音と大激震が艦橋を襲った。

艦橋員が席から吹っ飛ばされ、計器の強化アクリル窓が衝撃で粉々に砕ける。

操作卓の上でモニタが次々と火を噴く。

過電流で中央モニタに線が走り、映像が欠損していく。

大音量の緊急警報が鳴り響き、特級危険警告(レッド・アラート)が表示される。

船体状態モニタの区画が次々と赤くなり(重大損傷)、真っ赤に染め上げられる。


「どうしたっ! なにが起こった!」

 席からふっとばされて床にたたきつけられた艦長が頭を振りながら立ち上がり、怒鳴る。

よろめきながら操作卓に戻ったオペレータが息を呑む。

「ほ、報告っ! 第三艦橋大破っ!!」

「機関部、大フライホイール崩壊! 主機超核融合炉が緊急停止シーケンスにはいりました!」

機関部オペレータが続ける。

「第一補機PJ機関プラズマジェットタービンの出力が上がりませんっ! 主電源が落ちます!」

「副電源に切り替えろっ! 急げ!」

「だ、だめですっ! 補機出力がまるで足りませんっ! ああっ!!!」

「どうしたっ!!」

「第一補機が爆発!!」

 ろくに整備されていないまま最高出力稼働を余儀なくされた発電機関が不可に耐えきれず爆発、さらに爆発で生じた過電流が電源経路を破損した。次々と小爆発を起こして電纜経路が切断されていく。非常断線回路(ブレーカ)も勝手に落ちるからと勝手に直結にされている箇所が多数で意味をなさなかった。

そうして電源の主系統と副系統の経路が次々と破壊されて電源が消失していく。

さらに爆発で数百年の間に持ち込まれていた大量の可燃物が燃えはじめて、さらに有毒ガスが発生。

有毒ガス隔壁非常閉鎖シーケンスを始めるが、通路に物が置かれたり、電源が落ちたために閉鎖が出来ず被害が拡大していく。

次々と入る被害報告。

もはや無事な箇所を探す方が難しくなった状態で、最悪の被害報告が入った。


「か、艦長っ!!」

「どうしたっ!」

「りゅ、竜骨(キール)が――折れています、艦底が、崩壊をはじめましたっ!」

「な、なんだとっ!!」


――彼らは知らない。

この船の建造時のことだが、担当官が造船会社に命令して勝手に材質を変更していたのだ。

竜骨とは船のなかでもっとも重要な部品のため、強度安全率をかなり高くとるのが普通だが、担当官はそんなに強度は必要ないだろうと勝手に材質を変更して発注し、差額を建造会社と山分けしていたのだ

建造会社のほうは自分たちが乗る船でもないし、どうでもよかったのである。

安全基準ぎりぎりの安価な材料を使用し、差額を懐に入れていたのだ。

それでも実はきわめてギリギリながらも安全基準はクリアしていた。

しかし、それはまともな発注者や会社なら決してしないレベルだったのだ。


危険な星系外を数百年という長期間航行する船である。

可能な限り頑丈に建造するのが当然なのだが、担当官や建造会社の考えは違っていたらしい。

安全基準を超えていればそれでいい、自分たちが乗船する船でもないのだからと考えていたのだ。

設計図は共通だが、様々な事情から国ごとに建造されたため

彼らより後に出立した船団は、国連が中心となって建造されるようになっていた。

数百年もの間、星間航行して地球圏まで戻れたのはある意味で奇跡だったのだ。

なお、ユネカの星系周辺部巡航パトロール隊が彼らの船団を強引に拿捕した理由は、構造スキャンで崩壊寸前の危険な船が多かったため、人命を優先したのが真相である。


そうして建造から数百年を経て、さらに百年以上海中に潜んだ。

そして空へと上がったのである。

船に蓄積されたダメージは深刻だった。

そして、とどめを刺したのは、主砲発射の衝撃――ではなかった。



「富貴なる我ら(以下略)」号から構造材や装甲などがばらばらと剥離、落下していく。

船は高度数千メートルに位置しており、さらに巨大なためにそれらは相対的に小さく見えるが、実際には一つ一つが家一軒はある巨大な破片だ。地上に落下すれば深刻な破壊を引き起こすだろう。

しかしそれらが地上に達することは無かった。


大量の破片は、高度数百メートル付近でうっすらと発光する壁に受け止められていた。

燦然と光り輝くユネカの紋章が浮かぶ半透過壁――『 注意! 物理障壁内慣性制御実行中』と各国語で表示された物理障壁。

「富貴なる(以下略)」号を覆う様に半球状の物理障壁が展開されていたのである。

これは重力制御クレーンの展開準備であり、障壁透過設定が一定エネルギーレベル以下の可視光と空気類と設定されていた。

巨砲発射による衝撃波は砲口より鋭三角錐状に生じるため、本来は船体にはほとんど影響がないのだが、この物理障壁によって全反射され、中心点にあった「富貴(以下略)」号に集中してしまったのである。


 艦状態モニタの下層部が全て赤くなり、ついに中央電子頭脳から退去勧告が出される。

『当艦の危険レベルがS級になりました。総員退去を勧告します』

「この船が沈むだと……ばかな、数百年の間、星の海を渡った偉大な船が――」

甚大な被害報告と中央電子頭脳からの勧告に、呆然としながら、はっと気が付いた艦長が中央モニタを見上げる。


「やつは、やつは沈んだかっ!!!」


仰ぎ見たモニタに映っていたのは――やつらの船までのちょうど中間点で空中に停止する巨弾だった。




巨弾の直上に『慣性制御実行中 危険! 危険! 慣性制御システムを搭載していないものを近づけないでください!』とレーザー光源で書かれた注意表示(CAUTION)ウィンドウ。

そして巨弾の各部から光のラインがいくつも伸び、状況ウィンドウの表示がめまぐるしくスクロールしている。


マイクロブラックホール効果機関-強制停止

反重力反動推進機関-慣性制御による空間座標固定

デブリ対策用シールドバリア-解除

内臓小型核融合炉-設計に不備あり。危険排除のため核融合反応を強制停止。放射性物質の無効化作業を開始

総重量3152.4649トン - 重力制御クレーンによる回収準備

技術レベルC-(恒星間移民が可能。ただし超光速移動技術は保有せず)

……


再びユネカ双胴艦からの勧告がアナウンスされた。


『ただいま受けた物理的衝撃は準惑星破壊可能の攻撃と判定されました。本艦への攻撃と認定、本船はこれより攻撃的自衛行動に入ります。攻撃的自衛行動開始のまえに、攻撃者に対して投降の意思を確認します』


空に大きく光る文字で五ヶ国語で文章が表示され、それが読み上げられる。


『最終勧告です。この勧告が終わり次第120秒以内に代表責任者による投降受諾の意思を表明し、攻撃兵装および動力炉の停止を行って着地してください。投降の意思表明はあらゆる周波帯の電磁波通信・白旗・音声に対応しています。ではこれより120秒です。カウントダウン開始』

もうひとつ枠が浮かび、120と云う数字が表示され、一秒ごとに減っていく。

誰もが、その数字が終わった時に、なにかが起こることを悟らざるをえなかった。

だが、それでも降伏をしようとする者はいなかった。

怨敵ユネカの前に膝を屈するなど、彼らの誇りが許さなかったのである。


天空に掲げられたカウントがゼロになったとき、表示が切り替わる。


『投降の意思表示が確認できませんでした。現時刻をもって攻撃的自衛行動を開始します』

 宣告が告げられると、双胴艦の中央下部でなにかが動き出す。

吊り下げられていた大型コンテナのロックが外れ、ゆっくりと降下をはじめた。


その上には、小さいなにかが居た。

 大型コンテナが双胴船より完全に分離したところで、突如それが白く光り輝きながらゆっくりと広がる。

“アマノウキフネ”よりも大きく広がった白銀に輝く翼。

その間から太陽光がさしこみ、まるで天へと上る階梯のように見える。

さらに光輝く羽毛が舞い広がりながら地上へと降りていく。

広がる白銀の翼の中心は、コンテナの上に乗る小柄な人影。


慈母のようなほほえみアルカイック・スマイルを浮かべて、白く光り輝く翼をもった肌色の天使が腕を組んで仁王立ちしていた。


白銀に輝く長いポニーテールとうさみみを強風にさらし、周囲を何十何百もの大きな羽毛を舞わせて。



☆★☆★☆★



~同時刻 ユネカ本部第三指令所


中央スクリーンにフェテリシアの中継映像が映った瞬間、司令所では歓喜が爆発した。

「よっしゃ、天使ちゃん演出大成功やっ!!」

「“羽衣”システム、天塔騎士コード=オクタと完全同調中、シミュレーションとの差0.000001%以下! さすが、オレ!」


いえーいっ! 両腕をあげて白衣の男たちがぱちーんと手をあわせる。


「きゃー、おへそまるだし! かわいい!」

「ぷにぷにおしりも丸見えっ! かわいい!」

「ぽっこりおなかっ! かわいい!!」

「こんなキわどい恰好なのに、かわいいなんて……これは罪、罪よぉぉおおっ!! かわいい!」

「くっ、これが若さか――。ちくしょう、やっぱり若い女の方がいいのね、キーーーーー!! くやしい、でもかわいい!」

 ついでにオペレータのお姉さん方もはしゃぐ。


 フェテリシアのまわりにある羽は、浮遊式万能支持椀型慣性制御システム 通称“天使の羽衣(エンジェル・ウィング)”。

天塔騎士のもつ莫大な計算能力で慣性制御を行いながら、巨大構造物の移動から超精密作業まで行える自在椀だ。

量子コンピュータにより自動的に追従するという優れもの。

見た目が天使の翼であるのは、基礎システムの情報がそういう構造になっているためで、変えるとなるとゼロから設計するのと変わらないので諦められた。



――ここまでは、まぁ、しかし、とりあえず問題はない。(ないのか?


「フェスちゃんのほとんど全裸、かあいいよ、かあいい、はぁはぁ!」

「フェスちゃんのお、おへそーーーーー!! ぶひぃいいいっ!」


「カメラ、カメラっ! こう、前から接近してまわりこみながらパンで最後に顔のずーむあっぷっ!! そうそう、くるっとターンしてポーズみたいにっ!」

「こう、左斜め上から鎖骨を覗き込むように写してっ!! そうそう、まだ第二次性徴前の男の子みたいな感じが最っ高っ!!」

 ハナヂをぽたぽたこぼしながら浮遊式光学迷彩ムービーカメラで写真と動画をとりまくる女性陣。

ボーイッシュな娘最高!同好会所属の彼女たちの合言葉は常にひとつ。――同性だからセクハラじゃないもんっ!


よし、だれかこいつらとめれ。


ちょっと特殊な趣味の彼ら彼女らが大歓喜している理由はフェテリシアのしている格好だった。

――フェテリシアは、ほとんど真っ裸だった。

肌色率なんと驚異の98%(ただしハーフブーツを除く)

胸の先端と脚の付け根のキわどいところギリギリを隠すように羽根状のユニットがふわふわと浮いている。


これぞユネカの伝説にして最近復活された最新の超技術――『|完璧なる隠蔽零号改《無慈悲なホワイト修正くん・バージョン3965》』である。




『――』

「あーまー、そのなんだ……」


指揮所で仁王立ちする今日の指揮官をやらされているアイン大佐は眼をそむけながら

「イきろ――」

『――』

 通信は繋がっているのに無言。とにかく無言で、ひたすらプレッシャーがひしひしと。


(な、なんだってこんなときにわたしが指揮を執らねばならんのだっ!!)


 一番長い付き合いなので、弟子の不機嫌度がもはやMAX値を跳び越えて、怒髪が天にも達しようとしているのを感じ取って、アインの精神力をがりがりと削る。。

弟子の大半の機能を止められているので、戦闘能力は通常の数千分の一以下のはずなのに


――か、勝てる気がしない。こんなのはじめてー


そんなことを思っていたりするあたり、まだ余裕があるようだが。

そして、静かに燃え盛る業炎に、油を注ぐどころか火薬をぶちまけるバカども。

「フェスちゃん、ぜったいだいじょうぶっ! 最新の揺れ制動アルゴリズムにより全方位からの視線をシャットアウトっ!」

「完全浮遊式だから、敏感なお肌にもとってもやさしい!」

「しっかり見せないのに、何も着けていない気分! ほんとに身につけてないからな、HAHAHA!」

「みせてはならないなら、はかねばいいのだ!」

「パーフェクトだ。パーフェクトな論理展開だ!」

「お褒めに預かり恐悦至極!」

「これで児童ポルノ規定も大丈夫(クリア)、アニメ化も安心だねっ! かかって来いよ、アグネゥス! ボコボコにしてやんよっ!!」


アグネゥスとは児童ポルノ殲滅を掲げた伝説的な女傑で、児童保護団体の聖人/象徴である。

約二千年前の実在女性だとされているが、現在では複数の保護団体指導者の功績をまとめた非実在人物だと云うのが定説である。


「不自然な発光にサヨナラ! オレらは未来に生きている!」

「ねぇ、あれってほんとに絶対に隠されるの?」

「ふっふっふふ。“|AMATERASU《本部超大型量子コンピュータ》”、“|TSUKUYOMI《艦隊司令部大型量子コンピュータ》”の合同シミュレーションにより六垓回の状況シミュレーションでも視線を完全シャットアウトに成功した傑作アルゴリズムだ、どんなシチュエーションにでも対応するぜっ! 俺はやったぜ、やりきったぜ、ねえちゃんっ!」

女性オペレータの問いにYES!と指を立てて解説をする技術部員。


このあと数時間後に訪れる凄惨な惨劇を知らぬまま技術部員たちがひゃっほーと踊り狂う。


――こういう連中が、最先端技術を引っ張っているのである。盛大に頭脳の無駄使いしながら。


「「有罪(ギルティ)!!」」


一部の女性オペレータが指で首に線を引く。

その瞬間、いえーいとはしゃいでいる技術部員たちの背後にすっくと立ち上がる黒づくめの保安部員たち。がしっと首根っこを掴む。

「連れて行けっ!!」

床を転げまわる男たちを引きずって連行する黒服の保安部。

「な、なにをするっ! この偉大な発明の説明はこれからだというのにっ!」

「ああ、ああ、フェスちゃんの活躍がぁあああっ!」

「まんまるおしりぃーーーーー!」

ぴしゃんっ!

 気密ドアが閉まると声は聞こえなくなった。それでも騒がしいのはあまり変わらないが。


『――』

「うむ。天使と云うコンセプトにおいて、肌の露出が増えるのは古来の絵画を見ても判る様にだな――」

『――』

「つまり、その」

『――』

「だ、だからな――?」

『――』

「……」

『――おい、な、なにか云え……』

 おバカな喧騒を極めてる指揮所で、ひとり泣きたい気分のアイン大佐だった。



☆★☆★☆★



舞い降りる“天使”をおもわず凝視していた艦橋員たちが、敵船からの勧告で我に返る。


「提督っ! どうしますかっ!! 提督――?」


振りかえって艦長の眼に入ったのは、無人の艦長席だった。

あわてて周囲を見渡すが、あの伝説の名提督の姿がどこにもない。


「艦長っ! どうしますかっ!」


 若き艦長は提督のことを考える余裕もなく、命令を下す。


「制空隊を発進させろっ! こうなれば、せめてあのふざけた娘だけでも道づれしてやるっ!!」


「富貴(以下略)」号の上部発進口のハッチが開き、無人機動攻撃機が次々と射出される。

数百機の無尾翼機が銀髪の少女を四方八方から取り囲むと、一斉に多目的ミサイルを発射する。

大量の噴煙の尾を引きながら彼女へと向かって音速の十倍以上で激突する。――彼女の周りの羽毛に。

つぎつぎと砕け散る、ミサイルと羽毛。

羽毛がすいーとミサイルの軌道上に流れて激突、ぐしゃりとミサイル本体がひしゃげて大爆発を起こす。

数千発を超える爆発がありながら、銀髪の少女には全く届かない。

無人機AIがミサイルの効果がないと判断、選30mmガトリングレーザーガンに切り替える。

十数機で編隊を組み、車懸りで銀髪の少女の上下左右から十字砲火を浴びせる。

しかし、羽毛が舞う空間を数百条のレーザー光線はひとつとして突破できない。

羽毛に直撃するレーザー。その瞬間、羽毛は粒子状に分解してレーザーのエネルギーを奪いながら拡散していく。それが何百回とつづくと、しまいには羽毛のない空間でも明後日の方向にねじ曲がり、あるいはUターンして無人機に直撃する。

それは“羽毛”群によるエネルギー粒子撹乱幕領域だ。


数百条のレーザーはふわふわと舞い散る羽毛群によってことごとく阻まれ、中央の少女まで届くのは皆無だった。


美しい銀髪を風にあおられるまま腕を組み仁王立ちする少女――フェテリシアの背中の翼が六枚、分離する。

それはぐにょりと変形して、三角形の美しい前進翼型戦闘機“万能機動砲塔(フィン)”が出現する。

 甲高い排気音を後に残し、大空を跳ねるようにジグザグ機動をしながら、レーザーガトリング砲で「富貴(以下略)」号の無人機を撃墜していく。

それはあまりにも一方的だった。

数百機もの無人機動兵器群が見る間に減っていくというのに、万能機動砲塔(フィン)は一機も欠けない、そもそも攻撃が命中しない。

見る間に数を減らしていく機動兵器。

「富貴(以下略)」号から次々と発進しているのだが、補充が追いつかない。


「コンテナだ、あのコンテナを狙えっ!!」


命令がとぶ。

少女が仁王立ちしているコンテナ。それを破壊すれば、墜落するに違いないと判断したのだ。

一部の編隊が牽制の十字砲火を浴びせながらコンテナにむかって残ミサイルを発射。

援護射撃で「富貴(以下略)」号の40mm対空レーザー砲も火を噴く。

さらに残り少ない徹甲大型ミサイルまで投入し、コンテナの側面に直撃する。


――コンテナが割れた(・・・)

姿勢制御スラスターを吹かしながら、二つに分離してゆっくりと離れていく。

ゆっくりに見えるが、それは巨大物体であるためで、実際にはかなりの速度だ。

分離したコンテナがみせつけるようにゆっくりと回転しながら変形して、一つの形になっていく。


それはあまりに巨大だった。

それはまさに鉄塊、小山のような鉄塊だった。

それが二つ繋がり、真中より伸びるは不釣り合いなまでに細い柄。

山のごとき巨大な鉄鎚だった。


天使のような銀髪の少女は、目の前にある柄をつかんで、気合一発。


「どぉりゃららああああああいっ!!」


水蒸気の尾(ヴェイパートレイル)を引きながら持ち上げられる超巨大鉄鎚スーパー・ジャイアント・ハンマー

壁のような鎚を無人機が避けきれずに激突して爆発、墜落していく。

自分の数万倍の大きさの鉄塊を持ちあげながら、天使の少女――フェテリシアは口上を述べる。


「天使といえば神の使い、そして神と云えば鉄鎚っ!! これぞ“鉄鎚くんバージョン3965”!」


きらきらと光る粒子が虹色の尾を引いて拡散する。(演出)


「いまのボクはとーーーーーーってもごきげんななめなのっ! というわけで、すぐにラクになれるとか思うなよぉおおっ!!!」


完全にやつあたりである。



☆★☆★☆★



 老人が非常灯に照らされる狭い通路をまろびころびながらひた走る。


「わしは死なんぞ! こんなところで死んではならんのじゃっ!!」


制帽はどこかに跳び、略章の並んだ華麗な提督服は薄汚れている。

その通路は、上位ID所持者のみが入れる非常脱出路のひとつだ。

船下層部(・・・・)にある秘密格納庫につながる通路で、提督と呼ばれている彼しか知らず、また入れない。

 「轟天破砕砲」の巨弾が空中に止められたのを見た瞬間、彼はこの脱出路に飛び込んだ。

この船の最強兵器が赤子の手を捻るがごとくあしらわれたのだ。ならば反撃でこの船は沈む。だが、それは彼の敗北ではない。

「くそっ! こんなことになるのならば、アレを降ろしてくるのではなかった!! アレの中ならば絶対に安全だというのにっ!! 愚かな若造めがっ!! なにが機関に不安があるから降したいだ! こんな事があるだろうから降ろすのには反対だったのだっ!!」

呪詛をはきながら急ぐ。

エネルギー衝撃波が装甲板を叩く震動が通路全体を揺らす。

脚をもたつかせ、よろめきながらも必死に走る。


「わしさえおれば、わが祖国は滅びぬ。何度でも蘇えるのじゃっ!」


 壁に手をつき、息を切らしながら老人は独り言を止めない。


なんとしてでも生き延びる――わしさえ無事ならなんとでもなる。乗組員など所詮コマ、代わりはいくらでもいる。このわしさえ無事ならば、偉大なる祖国、伝説の超帝国は滅びぬ。


専用脱出艇が収められた秘密の格納庫に向かって彼はよたよたと走る。


突如爆音と衝撃が老人に襲い掛かる。


「ぐぎゃぁあっ! ぐぉおお……」


ふきとばされて、壁にしたたかに打ち付けられる。

小さな破片が大提督服を切り裂く。

さらなる爆発が起き、通路の天井が崩れた。


「おおおおおおっ!! ぎゃぁあああああっ!!」

逃げようとした老人の脚が挟まって動けなくなる。


「うぐっ! ぬ、抜けんっ!!」


必死に肢を引っ張り、引き抜こうとするが、びくともしない。

彼はなぜこの自分が、こんな目に遭わなければいけないのか、理解できなかった。


「おおお……。この、わしを誰だと思っておるかっ!! 偉大なる超帝国の大元帥であるぞっ!! 数千兆光年を船団を率いて、母なる我が地球へと帰還した偉大なる伝説の超提督であるぞっ!!」


喚き散らすが、状況は変わらない。

金属が軋む音がし、そちらに怯えた目を向ける。天井材が崩壊しかかっていた。空いた隙間から大量の構造材が奥に見える。爆発で通路上部に壁材、配管や構造材が落ちてきているのだ。


「わしは、このわしは偉大なる伝説の提督、かのグレート・ハーン人民超帝国を統べ――」


天井が完全に崩落し、彼を闇の中へ呑みこんだ。


それが、反乱を起こして地球へと引き返してきた元船団旗艦艦長の最期だった。



☆★☆★☆★



「全砲門斉射! 攻撃兵装自由! あれを落とせ、撃ちまくれ!」

 艦長の号令一下、上部に残っている全兵器が稼働する。

 残り少ないミサイルも惜しげもなく発射、まだ電力が残っているレーザー兵装、対物破砕用41cm荷電粒子砲も砲火を噴く。

惑星改造船でもあるこの船の装備はそのまま兵装にも転用できる。

かの大帰還時にあらゆる外敵から身を守るために改造されたそれらの強力な兵装群が、フェテリシアに向かって情け容赦なく浴びせる。


しかしそのことごとくが“天使の羽”に阻まれて、至近弾にすらならない。

悠然と何事もないかのように肩に担いだ巨大というのもおこがましい鉄鎚を構える。

背中の羽根が広がり、淡く発光しはじめて光り輝く粒子を噴きだす。

同時に「富なんとか」号を囲むように球状の淡い物理障壁が現れ、表面を警告文がくるくると流れる。


『注意! 指定空間内慣性制御実行中!』


「慣性制御出力上昇、軌道設定……」

銀髪少女の網膜に投影されているステータスが大量にスクロールする。

補機 ジオドライブシステム出力20%へ

主機 次元転換相転移炉(パラドックスドライブ)アイドリング中 使用凍結中

空間制御 実行中

重力・慣性制御 実行中……


いずこからか発されている泣き女幽霊(バンシー)の泣き声のような甲高い高周波音が高まりはじめる。

まるで力を蓄えるがごとく、徐々に高まっていく。

鉄鎚に表示されている質量値が激しく上昇していき、一千百二十万トンでようやく止まり、ブザー音と共にOKの文字が大きく表示された。


「ぬおおおおおおおりゃああああああああああっ!!!!」


少女が咆えて、構えた鉄鎚をぶん回す(フルスイング)。柄が大きくしなる。

慣性制御・空間座標固定で大空の一角を足場として、そのばかげた剛腕をもって巨塊の鉄槌を揮う。

鉄鎚の先端が空力加熱して真っ赤に燃え上がり、端からは水蒸気の雲の尾(ヴェイパートレイル)が棚引く。




「迎撃しろっ! ぶち壊せっ!!」


迫りくる山脈のごとき鉄鎚へむけて「富(以下略)」号や無人機の荷電粒子砲、対空レーザー、ミサイル攻撃が面白いようにあたるが、何の効果もない絶望的な状況。

必死になにか方法はないかと考えている乗組員たち。

あと十数秒で激突するという予測が出た中、戦闘班班長が不意に席を立って艦橋を出て行こうとする。

「おい、戦闘班長っ! 戦闘中だぞ、どこへ行く! 持ち場を――」

「うるせぇっ! もうこの船は終わりだ! 俺はこんなところで死んでいい男じゃねぇんだよっ!!」

「なんだとっ!! 職務を放棄する気――」

「い、いやだっ!! 死にたくないっ! こんなところで天才な僕は死んじゃいけないんだーーーー!!」

 索敵班班長がわめきながら艦橋の出入り口を開こうとする。

「そ、そうだっ! この俺様がこんなところで死んでいいわけがない! 邪魔だ、どけぇっ! このゴミクズどもっ!」

機関部長が手近な艦橋員を殴って出入口に取りつき、ロックを解除しようとする。

「お前達っ!!」

「うるせぇ、この無能艦長がっ! てめぇの責任だ、最期まで残って死んで同胞達に詫びろっ!」

「なんだと、貴様っ!!」


言い争いしている間にも、ドアを開けて艦橋員たちが職務放棄して次々と逃げ出していった。

機関部、砲塔や対空レーザー兵装の管理者なども次々と逃げ出して、火力が見る間に減少していく。


結局彼らの攻撃をまったく受けつけぬまま、巨大鉄鎚は地表から掬い上げるような軌道で「富(以下略)」号の下層部に叩きつけられ――


ぱ☆かーんっ!


存外軽い音をたてて、巨船を“第二の月”《アルテミス要塞》軌道まで打ち上げた。

 周囲空間ごと実行されていた慣性制御により、衝撃もほとんどなく、物理障壁により周囲の大気ごとであったために周囲の景色を見ていなければ第一宇宙速度を突破していることなど誰も気がつけない。


ユネカ紋章の裏側を、衝撃波(ソニックブーム)が駈け抜ける

さらに巨大な鉄鎚を振切った風圧で大気圧が極端に減少し、帝都上空に巨大な積乱雲が生じた。

いくつもの稲光が煌めく。

それらを背景に、まるで神話の戦乙女の様に、巨大鉄鎚を構えながら悠然と宙に浮かび、肩で息をしている銀髪の少女。


帝都市民たちは、恐慌するのさえも忘れて神のごときその少女を見上げていた。

次にあの巨大鉄鎚が振り下ろされるのは自分たちだ――そう考えて恐慌になろうとした瞬間


『違法船は接収しました。違法でないものはお返ししますので、お問い合わせください。お問い合わせ先は地球国際連合本部直属特務機関ユネカ事務局までお願いいたします。では、これで失礼いたします』


巨大双胴船より通達がなされる中、鉄鎚がぱたぱたぱたんと折りたたまれて、もとのコンテナに戻り、その上に少女が降り立つ。

そして、翼をを大きく広げ、ゆっくりと上昇していく。

それに付き従うかのように巨大な双胴船も天へと上昇していく。


帝国民はそれを見上げる。

いつのまにか光で書かれたユネカの紋章が消えており、ぽつぽつと雨滴が落ち始める。すぐに本格的に降りだして、雷鳴が轟く。


皇帝城正門上の舞台上で濡れそぼった正装の男――皇太子パーボキュリム・ド・グランリアが呆然としていた。雨がざあざあと降り注ぎ、彼をずぶぬれにしていく。


「ば、か…な。史上最強の力が……相手にもなっておらぬ……だと……? そんなばかな――っ!!!!!」


皇太子が発狂したように叫んだが、誰一人として彼に注意を払わない。














「――真剣に道化でしたわね、お兄様(ゴミクズ)

ただ一人だけ、冷たい視線で彼を見下ろして小声でつぶやく娘を除いて。



重力機関や用語などについてのツッコミはなしの方向で。

ノリで使っているので厳密に考えていませんから!

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