誇り高き者たち 前編
間章です。
視点がころころ切り替わります。
2014/5/11 初稿投稿
2014/5/12 改稿
――その日、帝国本土に大軍勢が侵攻した。
四カ国合同グランリア帝国総侵攻作戦『ティンバーロを鳴らせ』
東のティーナ諸民族共和国。
西のブリタニカ帝国。
南のアフレカ海諸国群島連合。
北のノルニル共同体。
数十年の時をかけて準備された帝国殲滅計画が最終段階に入ったのだ。
帝国とはどうあっても相容れない――各国が下した結論。
言葉はほぼ共通のため、話すことは出来るのに外交も交渉もできない。
意思の疎通が出来ない。
言葉は判るのに、それは決して彼らには届かない。
こちらを見下し、人だとは思っていない――ならば、我らも彼らをそのように扱おう。
各国が総力を結集した陸上戦闘部隊500万、後方部隊1000万、主要艦艇数1200隻、総兵力1800万という有史最大の大軍勢が計画に沿って動き出す様は、まるで陸津波を思わせる。
少数の帝国辺境警邏部隊は捕捉されしだい殲滅され、後方に情報を送ることすらできなかった。
警邏隊地域本部が妙だと気づいた時には、すでに眼前に敵軍が居り、攻撃が始まっていた。
南から来ていたアフレカ海諸民族連合は完全に情報を統制して、帝国軍に気が付かれぬままに沿岸部を制圧していく。北と西側にあたるブリタニカ帝国およびノルニル共同体の侵攻は、大量の艦艇による陸上砲撃に始まり、沿岸部を徹底的に壊滅させてから悠々と大軍を上陸させた。
沿岸を爆破掘削し、その中に上部が平たい巨艦を入れて投錨と固定を行い、簡易的な基地とした。
他にもいくつもの艦が沿岸部に乗り上げて艦体を固定している。それらは陸上砲台として帝国の方向を睨む。
基地艦の周辺部を工作部隊が整地して滑走路を建設すると、ノルニル共同体の本土から続々と複葉機が飛来する。
攻撃能力はないが、偵察や弾着観測には欠かせないものとして飛行機は認知されており、ノルニル共同体軍では空中偵察軍として一軍を担っていた。
ノルニル共同体政府軍偵察機S-62は布張りの複葉機で、大型水素電池と700馬力という大出力直流電気式動力機関をもつ高性能機だ。多少の悪天候をものともしない安定性と、時速250km/hという高速度、そして作戦行動半径600kmという現代世界水準をはるかに超えた軍用機だ。
ユネカが公開している技術資料を参考にして開発に成功した、あらゆる水分より水素を抽出して蓄える高性能水素電池を搭載したノルニル共同体の最新鋭高速偵察機だ。
本土から飛来して着陸したS-62が、整備棟近くまで移動して主動力を落とす。
整備兵が群がり、各種点検を始める。操縦士は整備兵や交代操縦士と話し合いながら、機体の状態を伝えていく。
整備兵の一人が機体下部の外装の一部を開ける。
重心部に設置されている電池箱を取外して、新しい電池箱を挿入していく。
電池小箱の電圧を確認して、操縦席の清掃・点検をしている整備士と外見点検をしていた交代操縦士に伝え、電圧計が正常に稼働していることを確認。
そうして点検を終えた操縦士と偵察士がさっそうと乗り込み飛び立っていく。
彼らは周辺地形を偵察して地図作成を行いつつ、敵軍の警戒をしているのだ。そうやって早期警戒網が敷かれ、刃を研ぎ澄ましながら帝国軍を待ち受けている。
★☆★☆★☆
制圧された沿岸部の都市では、完全武装の兵士たちが一軒一軒を確認し、住民たちを問答無用に追い出していく。
『魔法を使おうとしたならば、問答無用でその周辺を攻撃する。これに例外はない』
合同軍が街宣車や制圧した放送網を駆使して、帝国民に布告する。
無言で淡々と外に追い出していく兵士たちに市民の一人が食って掛かる。
「く、この、調子に乗るな、蛮族が! 《炎よ、来たり――》っ!!!!! ぎゃあああああっ!!」
攻撃魔法を使おうとした壮年の男が、周囲の人間ごと射殺される。
『警告する。魔法を使おうとしたならば、問答無用で周辺を攻撃する。これに例外はない』
拡声器越しに抑揚が抑えられた警告が響く。
「あなたっ! あなたぁっ! 主人が一体何をしたっていうのよぉ、この人殺しっ!!」
『警告する。魔法を使おうとしたならば、問答無用で周辺を攻撃する。これに例外はない』
倒れた男性の妻らしき中年婦人が金切り声でわめくと、まったく同じ抑揚で再び通告される。
発砲した兵士たちも構えを解かない。他の兵士たちも全周囲を警戒している。
彼らは一様に無表情で、しかし眼光は射殺せそうなほど鋭い。
布告の声はなにかを押し殺すように抑揚が抑えられており、そして銃を構えている兵士たちも一様に表情がないことに、ようやく帝国市民たちも気がつき、違和感を感じ始める。
再び警告が響く。
『指示に従って退去せよ。こちらの指示に従わない場合は攻撃する』
市民たちは薄気味悪く感じて、のろのろと指示に従い始めた。
沿岸部の帝国住民は首都のほうに追い立てられた。
共同軍は反抗する者には容赦しなかったが、逃げていく分には邪魔はしなかった。
魔法を使うそぶりを見せた瞬間に老若男女関係なく射殺されたが、そうでなければ凄まじい目つきで睨み付けるだけで手を出そうとはしなかった。その目つきは、凄まじい憎悪のそれだと判るまでそれほど時間は必要としなかった。あまり近づこうとはせず、さらには一言も話かけもしない。声を出すのはなにか指示するときだけ。それも単語だけ。
それでいて、射殺することは一瞬の躊躇もなく、むしろ笑っている。それが殺せることへの喜びだと気が付いた時から、市民たちはうかつにうごけなくなった。下手なことをすれば、女子供関係なく周囲を巻き込んで殺されるのだから。
住み慣れた家を追い出される住民たちは、兵士たちを憎悪した。だが気づく。
彼ら兵士たちはそれ以上の憎悪の眼をしていることに。兵士が一言ぼそりと漏らした言葉――「両親のカタキどもを前にして、殺せないなんて……。はやくなにか問題起こしてくれよ、そうすりゃ即射殺するのに」
落ち延びていく帝国住民たちは、なぜそこまで憎まれるのか、わからないまま落ち延びていった。
――正確な情報がほとんど入ってこない帝国軍は、指揮統制がとれずに全ての前線で後れを取り、戦線を押し込まれていく。
個人の武勇では特筆できる者も居たが、戦況には全く寄与しなかった。
ごく一部の地域本部が首都への連絡に成功し、軍本部がようやく事態を呑みこみ始めた頃には、実に帝国本土の1/4が制圧されていた。
状況を把握した帝国軍総参謀本部は青くなった。
ここ数カ月で第一軍の壊滅、無敵艦隊の敗北と全軍の2割近くを失っており、軍の再編成を進めていたところに大侵攻が始まった。
強大な戦力と云えども、編成の済んでいない軍などまともには活用できない。
ゆえにすぐに動かせる戦力を投入することを提言した。
すなわち、魔装騎士の集中投入である。
とある事情から、魔装騎士の部品供給に問題が生じていたため、なるべく少ない会戦によって敵軍を壊滅させる必要があり、ならば戦力の集中による強力な打撃戦を行うことにより事態の打開を図ったのだ。
そうして急遽編成された第零特務魔装騎士師団72騎が帝国首都を出発し、東方より来る蛮族の軍勢を蹴散らす――はずだった。
その戦場において、東方の蛮族――ティーナ民族共和国軍の投入した新兵器「自走砲撃車」により、魔装騎士団はろくに戦果を挙げることもないままに壊滅、敵の侵攻を食い止めることは出来なかった。
開戦後二週間で、帝国は本土の1/3を失う。
帝国市民は追い立てられて首都へと向かい、難民の波となって首都周辺に集まり始める。
手をこまねいている帝国に不満を募らせた避難民たちが待遇改善のデモをはじめ、治安警察に制圧されていく。最初の内は、正面から向き合い要求を聞き届けていたが、すぐに際限のない要求が出始め、さらに暴徒となって略奪を始めるなどの治安悪化を受けて、治安警察もまた強権的に取り締まるようににならざるをえなかったのだ。それがまた弾圧だと避難民たちから非難が出始めて暴徒化するという悪循環に陥り、さらなる治安の悪化が進む。
そうして首都住民と避難民との間の溝は深くなっていき、なんら有効な対策をうてない帝国政府への不満が高まり始めた頃に、ついに皇帝府よりとある布告がなされた。
☆★☆★☆★
グランリア大魔法帝国首都 ――ルーブル皇帝城 正門前広場――
「偉大なる帝国の民たちよ、待たせてしまったことを申し訳なく思う」
自信に満ち溢れた若き皇太子の声が大広場の隅々まで響き渡る。
皇帝城正門上にある大テラスに立つ、壮麗にして豪華絢爛な皇太子正衣を纏う金髪の美男子――グランリア大魔法帝国 正統皇太子パーボキュリム・ド・グランリアが大広場に集まった帝国民数万人を前に演説をしていた。
帝都の空には、幻影魔法によるいくつもの映像中継が展開され、帝都近郊に住む者たちにも映像と声が行き渡る。
「だが、時は来た。愚劣にして蒙昧なる蛮族どもを、わが帝国より駆逐しよう」
力強く断言する皇太子に、民衆はざわめき始める。帝国軍が敗退を続けていることは情報の統制があるとはいえ、暗黙の了解であった。
できるのか、本当に……?
それが集まった帝国民たちの偽らざる本音であった。
「我が帝国軍が前線を下げ、後退していることは皆も知っていよう。そして、不安に思う者たちが大勢いることもわかっている」
集まった市民たちがどよめく。あまりに率直な物言いであった。
「我が民をに不安を抱かせたことは、帝国の落ち度である。皇太子たる我が認め、そして詫びよう」
ざわめきがさらに大きくなる。間違いを認める皇族など皆無であり、その一方で自信に満ち溢れた若き皇太子の姿はとても頼もしく映った。
「だが、苦難の時であるいまこそ帝国の力を結集し、そして愚かなる蛮族どもを屈服させるのだ!! そのための力を我は用意した。見よ、偉大なる帝国の古き力にして、もっとも新しき力をっ!!」
皇太子が両腕を広げて大きく空を仰ぐ。
つられて見上げた市民たちからどよめきが起こる。
青空を背景に、皇帝城の背後からゆっくりとせり上がってくる巨大ななにか。
それは巨大な、あまりに巨大な船だった。
巨大な葉巻のような形をしたそれは、光学迷彩を焦らすように解除していき、全貌を表していく。
帝都の空を覆い尽くすような巨大な船が帝都上空に姿を現した。
――第七世代恒星間航行世代間移民船「富貴な運命を約束された高貴なる我ら」号
かつて人類の栄光の時代に大宇宙をめざし、そして二百年の時を経て母たる地球へと舞い戻ってきた“失われた超科学技術の船”――!。
☆★☆★☆★
中央モニタに映し出されている帝国市民の反応をみながら、艦長は薄く笑った。
「ふ、愛玩物どもが阿呆のように口を開けているな」
「仕方ありません。この偉大な船を見て、畏怖するなというのが無理ですよ」
「五百年ぶりの浮上です。もう覚えている者など居らぬでしょう。まったく幸せな連中ですな、この偉大な船を目にすることが出来るなんて」
昏い海中で細々と血をつないできた若手士官たちが、中央モニターに映る眼下の群集を観て興奮したように口々に云う。
光ある地上にこの船が再び飛び立つとき、約束された富貴と栄光の人生がもたらされる。
求め続ければ、いつかきっと夢は叶うのだ――
度重なる苦難が続いた旅路で、不幸にも事故で上級指導者たちを失った船団を統率し、この母なる地球へ帰還した偉大なる指導者“提督”が残した言葉。
それを信じて、何世代も血をつないできた船員たちは、ついに自分たちの代で、その日を迎えたことを狂喜していた。
眼下に広がる前時代的な都市は、数千年前にこの地にあったとされる都市をライブラリの資料を下にして計画・建設させた。
これは祖先達、偉大なる我ら民族がまだ小さな一国であった頃に憧れていた先進国の街並みだった。遠い先祖の悲願を子孫である我らが達成したということは誇らしく、祖霊も満足してくれよう。
また眼下にいる遺伝子調整された見目麗しきヒトモドキたち――自分たちと10%以上遺伝子配列が異なる遺伝子調整されたモノは人類ではないとされている――は、この帝国を名実共に取り戻したときに労働や愛玩用として使えるように設計して自然繁殖させたのだ。
あれらは強い者には服従する性質を備えており、当然のことながら創造主である選ばれた自分たちに逆らえない。
ろくに科学技術も知らず、極小機械制御技術のごくごく一端を“魔法”などと称して悦んでいる無知蒙昧なあれらは、この選ばれた偉大な民である我らが真の礼を教え導いてやらねばならない――。
約500年前、外宇宙より密かに引き返してきたとある民族の移民船団は、太陽系辺縁を巡回していた国連直属特務機関ユネカの艦にやんわりと引き留められながらも、強引に振切ってこの地へと降り立った。
海中に移民船を潜ませ、当時ちいさな集団がばらばらに暮らしていた現地民を集めて遺伝子調整をした特殊な人間を造り、子を増やさせて帝国を建設させた。
船団のライブラリから資料を取り出して、過去のこの地の文明を再現させた。
いつの日か、自分たちがこの地に上がるときに優雅で文明的な生活が出来るように。
そういつの日か、だ。
憎き怨敵ユネカ。
国連人類文明年鑑局を名乗り、この星系に帰ってきた偉大な我らが先祖の船団を攻撃してきた野蛮な戦闘集団。
旗艦である「富貴な運命を約束された高貴なる我ら」号の盾となって何隻もの移民船が犠牲になり、満身創痍でこの地へと降りることとなった千万年憎むべき怨敵ども。
その力に対抗できないと判断した当時の上層部は、海の底にこの巨船を隠し、密やかに時を待つこととした。偉大なる指導部は冷凍睡眠に入り、最低限の維持をする整備員たちが何世代にもわたって艦を修理していった。
子が産める女性が少ないため、彼女らは乗組員の共有財産とされて個人の自由にできなくなった。
数少ない娯楽である性欲の発散は密かに捕まえてきた地上人のメスだった。
遺伝子の違う劣等種だが、姿かたちは見目麗しく、その使い心地も人と変わらないため、欲望の発散に役立たせた。
たまにメスに溺れて役に立たない者が出てきたが、そういったものは処刑された。
また待遇改善を求めてストライキを起こした機関部員や電気保全部、医療部などもことごとく処刑された。
機関部のような、知性のいらない劣悪な者でも務まるような部門は整備機械で代替えが出来、電装なども同じだ。
医療など船のメインコンピュータと微小機械制御技術で問題はない。
資料はすべてライブラリにあるからそれで構わないのだ。
優秀で精鋭であるべき栄誉と栄光ある乗組員に地位や待遇に不満を云うような惰弱な者はいらないからだ。
そうやって真に優秀な者だけが選別され、秩序は保たれる。
ときおり目覚める指導部の指示に従って地上の文明に干渉し、伏竜のごとき雌伏の時を過ごしていった。
稀に遙か上空を通り過ぎていく忌々しきユネカの艦艇がいつしか見ることが無くなり、さらに百年の時が流れた。
やつらは当時ほどの力は無くしたのだろうと推測されていた。
航宙艦はここ百年姿を現さず、ユネカを名乗るのはたかが一人の騎士。
伴っている巨人人形はたしかに高い技術力だが、、それとてせいぜい魔装騎士数騎分の力しかないと外見から推測されていた。
所詮、空も飛べぬ陸上兵器など、80%以上の修理を終えたこの艦の敵ではない。
現在手持ちの稼働できる機動兵器でも充分だろうと戦力評価されていた。つまり、相手にもならない。
そう、我々はついにあの忌々しきユネカの不当な監視から解き放たれたのだ――!
乗組員たちは歓喜し、そして総力を挙げて船を浮上させ、現在に至る――
「偉大なる我らが先祖の威光を感じられないほど連中は愚かではないでしょう」
艦長は、艦橋要員たちの軽口をとがめるでもなく、優雅に脚を組み、指示を出す。
「この偉大な艦が再び空に上がっためでたき祝の門出だ、派手に演出しようではないか。艦水平方向の対空レーザー砲連続照射12秒を用意、下の愚物の合図がありしだい実行せよ」
「了解、艦水平基準面の全周対空レーザー砲を連続照射12秒準備、合図と同時に実行」
対空班班長が命令を伝達する。
船の表面装甲の一部がスライド、小型砲門128基の凝集光レンズが露出する。
そうして下の道化者の合図を待つ……。
☆★☆★☆★
「見よっ!!! これが、これが帝国の秘された真の力――!」
皇太子が腕を大きくひろげると、まるでそれを合図としたかのように、上空にある船の全周にわたって、雷光が集い始める。
雷のような空電音が響き、轟音と共に凄まじい閃光が全天を覆う。
船が全周対空レーザー砲を斉射したのだ。
それらは地平線の彼方まで飛び去って行った。その凄まじいまでのエネルギー量を、帝国市民たちは感じ取っていた。
あれは魔法砲撃以上の威力を持つと。
「我々は、この真にして新たなる力を持って進軍する。蛮族どもを地の果てまで駆逐し、その財貨のすべてを持ち帰り分配することを約束しよう! 」
皇太子が声を張り上げると、どよめきすら失った広場の隅から小さな声があがった。
「帝国に栄光を」
まわりの市民が同じように声をあげた
「帝国に栄光を」
声はさざ波のようにに広がっていき、帝国民が唱和していく。
「帝国に栄光を!」
全市民が声を張り上げ、大きく手を振り上げる。
「帝国に栄光を!!!」
『その兵器の運用はフェアウィルド条約によって禁止されています』
突如、帝都に響き渡る中性的な声。
同時に空に光輝く巨大な紋章が表れる。
北天からみた五大陸とオリーブの葉の冠、そして“UNECA”と書かれた古代文字――国際連合直属特務機関“地球人類文明年鑑編纂局”
『フェアウィルド条約締結国は、条項により過去の文明の遺産・遺物を利用した大規模騒乱を禁止しております。これは国家・個人に関わらず、違反として処罰の対象になります』
その組織は、遠いはるか昔より地球文明の記録とその保護を担ってきた。
人々が地球より去り、芽生えた新たな文明を見守り記録する事を任務として活動を続ける世界最古の組織。
だが、それゆえに――
「フェアウィルド条約だと? そんなもの、聞いたこともないわっ! この帝国を処罰するなどと思いあがるな、ユネカどもがっ!!」
以外と条約の内容が失伝されていたりすることもある。
『それは、フェアウィルド条約より脱退する意思があるということでしょうか』
「姿すら現さぬ臆病者どもに、なにが出来るのか! ああ、そうだ。帝国はそのような条約を推進したことなどないっ!!」
皇太子が天に浮かぶ紋章を睨み上げながら、手を振って宣言する。
『それは通称グランリア大魔法帝国の意志決定であるとしてよろしいのでしょうか。現在登録されている代表者“シャルル・ド・グランリア7世”による宣言ではないため、確認を求めます』
「この私が、帝国だっ! 父上は、この私に全権を委譲されたのだ!」
『では、代表者を“パーボキュリム・ド・グランリア”であると変更して、手続きをいたします。なお、異議申し立てについては最期の宣言を行うまで受け付けます』
皇太子が配下の宮廷魔法士に視線をやるが、彼は首をわずかに振る。
この声の主であるユネカの者の居場所を捜索しているが、まだ発見できず、と通信念話で報告する。
『最後の確認です。代表者権限を持って、フェアウィルド条約を脱退する、このことに相違はありませんか?』
「くどいわっ!! 我らが帝国を甞めるなよ――」
『では、現時刻を持って旧国名---人民民主第四共和国、現在の通称グランリア大魔法帝国はフェアウィルド条約より脱退を承認いたしました。
引き続き、遺物・遺産の回収または破壊を行います』
「ふ、破壊だと。我らの新たなる力を前にして、そう言えるのは大したものだが、思い上がっておるな、片腹痛い……」
皇太子がくつくつと嘲笑う。
彼は恒星間航行船という巨大な力に酔いしれている。この世全てを支配したのだと信じられるほどの強大な力だ。実際に、この地球上にある国家の戦力では外板にキズをつけることも難しいだろう。
それほどの技術格差があるのだ。力に酔いしれるのも無理はなかった。
だが、力は、より大きな力によって潰される――
突如、広場が、いや帝都が暗くなる。
「な――」
皇太子が空を見上げたまま驚愕して固まった。
ユネカの紋章が浮かぶ空に、波紋のように揺らぎが広がり、なにかが出現していた。
美しい白色の巨大な双胴船。
上空に浮かぶ帝国の新たな力たる船よりもはるかに巨大な船だった。
国際連合本部直属特務機関ユネカ所属 恒星間航行用超光速拠点防衛戦闘船アマノウキフネ
電磁波完全迷彩を解除して現れた優美な白色の船体に墨痕鮮やにUNの文字とターコイズブルーで描かれたユネカの紋章。
全長10キロメートルにも及ぶ巨大な双胴船は、重力制御機関により空間流体まで制御しているため、無音で空に浮かぶ。
☆★☆★☆★
『国際連合本部直属特務機関ユネカ第二艦隊所属“アマノウキフネ” 現時刻を持って通称グランリア大魔法帝国所属の遺物船の武装解除行動を開始します』
抑揚のない中性的な声が宣告する。
その声に反応するかのように、帝国の巨船の全砲門が開いた。
荷電粒子砲が次々と斉射、さらに対空レーザーが連射される。
船の上部のVLSハッチが次々と開き、大型誘導ミサイルが連続発射される。
エネルギー衝撃波が空間をゆがめて波紋を描き、爆炎が次の爆炎によって吹き飛ばされる。
尽く効果がなかった。
アマノウキフネより少し離れた場所に出現した光の壁によって、全ての攻撃が防がれた。
『こちらは国際連合特務機関ユネカです。攻撃者に告げます。全ての攻撃は無意味です。当方の指示にしたがい、全ての攻撃兵装の安全装置を作動して、動力を停止してください』
勧告が帝都中に響き渡る。
それを無視して、帝国の巨船はさらに猛烈な攻撃を加える。
無数のレーザーが乱舞し、空を覆い尽くさんばかりに大量のミサイルの噴煙が立ち、超電磁レールガンが咆吼し、荷電粒子砲の煌めきが大気を焦がす。
轟音と爆炎が間断なく続き――
『攻撃者に告げます。全ての攻撃は無意味です。当方の指示にしたがい、全ての攻撃兵装の安全装置を作動して、動力を停止してください』
アマノウキフネは小揺るぎもせずに、悠然と空にあった。
☆★☆★☆★
「愚かな。そんな巨大な船など良い的、飛んで火に入るなんとやらだっ!! 撃て!」
「富貴(以下略)」号艦長が号令を下すと、装甲が開き、全砲門が開いた
16インチ荷電粒子砲24門が一斉に発射される。柱のように赤い荷電粒子束が一瞬でかの船まで届き、510mmレールガンの巨弾が時速1万2千kmで発射され、青い対空レーザーまで投入して撃ちまくる。
「先祖の怨敵すなわち我らが怨敵ユネカの船だっ! 容赦無用、粉々にしろっ!! 撃って、撃って、撃ちまくれ!」
艦橋の遮蔽窓が光量調節し、中央の大モニタが照準線だらけになる。個々の兵装がとにかく照準を合わせて撃ちまくる。
「艦長っ! ミサイル発射許可をっ!!」
「いいぞ、20発まで許可する、撃ちこめっ!!」
「了解っ! 全基一斉発射っ!!」
攻撃指令と同時にVLSハッチが開き、火焔を吹き上げながら次々と高速誘導ミサイルが射出される。
大量の火焔と煙の尾を引きながら、命令されたターゲットを捕捉し、全速で向かい爆発する。
爆炎が空を覆い尽くしたところで、攻撃を一時停止させる。
「どうだ、どれくらい破壊しか?」
「お待ちください、いま解析――なぁっ!!!」
「どうした?」
「目標、健在です、攻撃の効果、認められませんっ!!」
「ばかなっ! 我が艦の攻撃を受けてなんともないだとっ!!」
爆煙が晴れていく隙間から、怨敵たる憎きユネカの船が露わになっていく。
――まったくの無傷だった。
周囲を光で描かれたユネカの紋章と、各国語で書かれた諸注意の文言がゆっくりと流れている。
『こちらは国際連合特務機関ユネカです。攻撃者に告げます。全ての攻撃は無意味です。当方の指示にしたがい、全ての攻撃兵装の安全装置を作動して、動力を停止してください』
なにごともなかったかのようにアマノウキフネは勧告を続ける。
通常通り対デブリ障壁及び大気圏制御を実行していたアマノウキフネは「高貴なる運命を約束された我ら」号の攻撃を攻撃と認識していなかったのだ。
「ば、ばかな、そんなばかなっ! ありえん、ありえん、ありえ――っ!!!!」
「うろたえるな」
狂乱する艦長や艦橋要員たちを、初老の男の声が静かに一喝する。
「提督っ!」
伝説の偉大な提督が、天井から座席ごと降りて、艦長席におさまる。
「艦長、すまんが艦の指揮権をもらえるかね?」
「は、はい、喜んでっ!! 提督が艦橋にいらした、これより指揮を開始する!」
若き艦長がびしっと敬礼を決めて宣言する。提督は静かに手をあげて指揮権を受け取る。
伝説の提督が指揮を執る、その一事で艦橋の乗組員の狂乱は収まった。
そして、提督は神託のように命令を下す。
「“主砲”発射準備」
「て、提督っ!? 主砲ですか、しかし、あれは……!!」
「復唱はどうした?」
躊躇する艦長に対して、提督は悠然と構えている。
その圧倒的なカリスマに触れて、下界への影響を憂慮していた艦長は腹を決めた。
――破壊されても、また建設させればいいのだ。幸い労働力には事欠かないのだから。
「了解しました。主砲発射準備に入ります! ――これより、主砲発射体制に移行!」
「了解、“主砲”に動力伝達!」
戦闘班が慌ただしく指示を出し始める。
――機関部では大型核融合炉の制御炉心がゆっくりとスライドし、その出力を上昇させる。
「第一、第二主機ともに稼働率上昇開始! 最大出力!!」
「第一、第二フライホイール回転正常」
老兵のフライホイールが最後の奉公とばかりにゆるやかに微振動しながら回転し、唸りを上げ始める。
「メインコンデンサーに回路接続、エネルギー充填開始!」
轟音を挙げて巨大スイッチが接続されて充電を開始、メーターの数値がみるみるとあがっていく。
――艦体中心軸線上に設けられた砲室では、巨大な銀塊がレールに乗って送られてくる。それは特殊な合金でつくられた超々硬質弾体。
「弾種かくにーん! 種別は徹甲重力破砕弾! 装填前点検開始!」
「回路接続よろし。自己点検プログラム開始します」
エネルギー障壁システム、反重力機関、亜光速対応複合センサ、慣性誘導システムなどが四重の中央処理回路によって診断されていく。船の主機に直結されて、膨大な電力がコンデンサーに蓄えられていく。
この莫大な電力を使用して内蔵された反重力機関の位相を瞬時に逆転、不規則重力場を形成してあらゆるものを引きちぎるのだ。マイクロブラックホール弾頭の一種である。
その威力は、一兆ヒロナガトンに達する。
この単位は超古代に開発された熱水素核砲弾の一種で、一個で半径二十キロメートルの都市を焼き尽くせたと云われている世界初の超兵器だ。以後、超兵器の威力を示す単位となっている。
つまり、この砲弾の威力はヒロナガトン砲弾の一兆個分。地球も粉々になる威力だ。
点検を終え、搬送レールによってゆっくりと運ばれる。その重量3000トンの巨体が重力加速チャンバーへ装填され、分厚い砲栓扉が轟音を立てて閉じられる――。
「重力加速チャンバーをアイドリングより、出力最大へ!」
機関部の主機とフライホイールが微振動と共に唸りをあげはじめ、膨大な電力が重力加速チャンバーへ送り込まれる。それはこの巨船を光速の40%まで加速させるほどの莫大なエネルギー量だ。
――エネルギー節減のため非常灯に切り替わった艦橋に各部署から報告が上がり、戦闘班の指示が下される。
主砲システムの表示がグリーンになっていくのを見ながら、提督は満足そうにうなづく。
そして帽子のつばから漆黒の憎悪に塗れた視線を、モニタに映る白鳥のように美しい船に向けてうそぶく。
「……教えてやろう。貴様らの敗因は、我らを侮ったことだ。敵を前に余裕など見せるなど愚の骨頂、すぐにでも仕留めるべきだったのだ」
「照準を開始します、操船と連動、船体動きます」
砲口のある艦首を向けて、巨船がアップトリムをかける。
「重力加速チャンバー内、圧力上昇中、現在7000Gを突破」
「主砲コンデンサー充填率95%、シアー解放、準備よろし!」
「照準開始、目標 敵 双胴戦艦! 照準自動追尾モード!」
提督が目をつぶりひとりごちる。
「我が永遠無窮の祖国が造り、優秀な我ら民族が五〇〇年間改良を続けた最強の主砲に……貫けぬものなどない――」
組んだ手で隠した口元が歪み、怨敵どもをあざ笑う。
艦首が左右に分割されてゆっくりとスライドしていき、巨大な砲口が露わになる。
12m口径反重力加速式巨大レールガン。
対小惑星軌道変更用に開発されたそれは光速の50%まで重力子徹甲弾を加速し、直径100kmの小惑星ですらぶち抜くことが出来る超兵器だ。
この巨砲と重力砲弾の組み合わせは、太陽ですらも破壊できる。
「艦首変形完了、主砲発射体勢!」
照準カーソルがモニタに映る白色の双胴船へと合わされ、断続的なブザー音とともにLOCK ONの文字が瞬く。
「測敵完了、誤差修正完了! 主砲発射体勢に入りました、いつでも撃てます!」
艦長が提督へ向き直り、敬礼をして報告する。
「提督、主砲発射準備完了いたしました」
うむ、と提督はうなずき、一度目元を伏せる。まるで祈るように静かに。
計器の音と、再生されている敵の勧告の声だけが艦橋に響く。
ついに、憎き怨敵どもの艦を沈める事が出来る。
これが我々の反撃の狼煙だ、受け取るがいい――
万感の思いを込めて、提督は命令を発した。
「主砲“天地轟砕無敵砲”発射――」
「発射っ!!」
がきんっとトリガーが引かれ、巨大な衝撃が巨艦を揺るがした。
恒星間航行船の最強最悪の超々兵器がアマノウキフネを襲う!!
どうなる、アマノウキフネ!!!
まぁ、結果はw




