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滅国の少女騎士 ~ボク、とってもざんこくなんですけど?~  作者: 森河尚武
第四章 黒髪少女の休息と帝国の憂鬱
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最強の《ワイルドカード》

久々にランキング入りしていました。

登録頂いた方、評価して頂いた方々ありがとうございました。


――それは、とてもきれいだった。


 母の放つ大量の熱光線を、それは軽やかにかわしていく。

 腕をあげると脇の下を熱光線が通り、ステップを刻みながら歩いていくと、後を追うように光弾がリズムよく着弾。

 時には空中を駆けるように身体をくるんとまわすと、背中と胸の寸前を熱光線が通り過ぎていく。

 それは、舞台舞踏(バレエ)のように。

まるで攻撃魔法が、最初からそこを通ることがわかっているかのように。

 かろやかに、しなやかに、結った長い黒髪をゆらして、ふわりくるりとかわしていく。

 

母が信じられない量の魔法を放っているというのに。そのどれもが一撃必殺なのに。

あれは、恐怖など微塵も感じていないかのようにひらりひらりとかわしていく。

おもしろいように当たらない魔法

まるで初めて攻撃魔法を放った時の様に、外れている(・・・・・)


――違和感(・・・・・)


そうじゃない。違う。

あれは外れているんじゃない。かわしているのでもない。

外れさせられている。

いったいどうやっているのか、中らない場所を撃たせているのだ。


ああ、母は敗けるのだろう。だって、気付いてもいない。


その思考は、すとんとノーフェリの腑に落ち――恐怖した。


いま、わたしは何を考えた?

母が敗ける? 帝国最強魔導師の名を持つ母が敗けるというなら――誰があれに勝てるというの?

指先まで冷たくなる/血の気が引く。

世界が揺れる。いや揺れているのは、わたしだ。

敗けたら、死ぬ。

あれ(・・)に、殺されるのかはわからない。だけど――他家は決して許さないだろう。

いや嬉々として、追い落とすことだろう。

魔法が使えぬとして放逐した者に敗けたなどということになれば。

よくて、処刑。最悪、貴族の慰み者だ。魔法器官を壊されて、世にもおぞましいことをされることだろう。

帝国筆頭魔法師の家系であるゴルド家。

家名は残されるかもしれないが、母や私の存在は完全に抹消される、なかったことにされる。

それが、貴族という生き物であるから。

貴族の汚点は無かったことにされる――。


だというのに、母が押されている。

烈迫の気合とともに、槍撃一閃。ノーフェリには霞んで見えるような一撃。

それをゆったりと、むしろ遅いくらいでくるりと回って槍の懐に入り込んでいた。

範囲攻撃をしたくても、魔法演算領域(リソース)がまったく足りていないのだろう。


では援護を?

いや、わたしでは、あれ(・・)だけを狙い撃てない。

母ごと撃つべきか? それはまずい。まだそこまで追い込まれてはいない。

翻弄はされているが、母はまだ奥の手を出していない。なら奥の手を出せるだけの時間を稼げばいい。

それはとても困難だ。

魔法を放とうとすると、あれはまるで見えているかのように牽制する。

視線で、鞘を向けて、足元の礫を蹴飛ばして、邪魔をする。

焦りながら、じりじりとタイミングを図る。

ここで選択を間違えれば、敗ける。

まちがいなく敗けると、直感が告げている。


――そう、母は間違えたのだ。

最初の一撃を広範囲魔法にすべきだったのだ。怒りに任せた、槍技ではなく。

たとえ殲滅できなくとも、ケガくらいは負わせれたはずなのに――

あれには、届かない。

今も翻弄されている。

一撃必殺だって、当たらなければ意味がない。

あれの、優雅にさえ見える、その流れるような体捌きは、母の豪快無双の一撃を悠然と躱している。

いや、あれを見れば、母の技は――ただの力任せだ。身体強化による剛力と速さをもっただけの。

あれ(・・)は違う。

身体を完璧に動かして、母の動きに合わせて対処しているのだ。

しなやかで、かろやかで、優雅に、美しくさえある。


そう、目を奪われてしまうくらいに。






あれは、敵だというのに……。




★☆★☆



 熱光線魔法が弧を描いて交差し、空中に消える。

駆け抜けた軌跡上には誰もいない。

 十メートル以上離れた場所にフェテリシアが揺らめきながら出現する。ほとんど瞬間移動なみの速度。

 エールゼベトもまた跳び退り、魔法を放った少女――ノーフェリの横に着地する。


「ノーフェリ、助かった」

「いえ、ご無事で良かったです」

 険しい顔つきのまま、母と娘は会話をする。

「ノーフェリ、力を貸しなさい。あれ(・・)は、ここで叩き潰す。全力でいくからサポートしなさい」

「はい、母様」

 厳しい目つきのままのノーフェリにエールゼベトは破顔して諭す。

「なに、心配するな。この母が本気になり、お前のサポートがあるなら勝てぬ戦いはない。借り物の力を振り回す愚物など、すぐに粉砕して魔導遺物を回収してくれよう」

「はい、母様」

 エールゼベトは安心させるように、ノーフェリの頭を不器用に優しくなでる。


それは、数年前までよく見かけていた光景だった。いつも厳しく姉妹を躾けるが、ときどき恐る恐るといった風にふれてくる母。父もそんなところがあった。


でも、いまは自分も、姉もそこにはいない――。


 その思いを傍観したまま、フェテリシアは肩をすくめた。


「……魔導遺物は持っていないではないと、さっきから云っているのですが」

「黙れ、この卑怯なゴミがっ!! さっさと叩き潰して、その魔導遺物を回収してくれるわっ!!」

「……帰りたいなぁ」

 声高く宣言するエールゼベトに、フェテリシアはもうため息しか出ない。とても疲労を感じていた。


 真面目な少女だった    ではなく、フェテリシアの元となった人格の地が強くなってきていたのだ。


おかげで、テンションが下がってきている。 このまま逃げたいところだが、あいにくと天塔騎士の能力を封印してしまったせいで、セバスチャンの治癒結界が解除できない。

 時間経過を待つか、二人を倒して改めて封印を一度外すかなどを決めなければならない。

フェテリシアはあっさりと先送りを決めた。

「うん、とりあえず倒してから考えればいいか」


「ふ、そんな余裕も、ここまでだ――《起きよ、ウリエル》」

 エールゼベトが愛用の魔導槍を一閃して下段に構える。穂先ががこんと分割して開き、内部の機構が露出する。

 深紅の小さな珠を中心に複雑怪奇な機械部品や歯車が組み込まれた(キャリッジ)

いくつもの歯車が高速回転を初めて、甲高い高周波音をあげて篭全体をゆっくりと回転を始める。

エールゼベトは壮絶に笑う。

「教えてやろう、借り物でなどではない、真の力をっ!! 《我は詠う/我は唄う/我は歌う/我は謡う、深遠なる――》」

 詠うよう四重複合詠唱を開始。エールゼベトの周囲に魔法陣が描かれ、その余波たる魔力風が渦巻き始める。


「……完成まで待つ義理はないよね――」

 フェテリシアは少しだけ考えるそぶりをしてから、ひとつうなずく。

跳び出そうと重心を移動させた瞬間

「《雹雷よ》!!!」

――先手を打ったのは、ノーフェリだった。

 フェテリシアの前後左右に二重の魔法陣が現れ、大量の雹弾と雷光が襲い掛かる。

 超圧縮複合呪文による二属性攻撃。

これだけでも、ノーフェリは一流の魔法技量をもっていると証明していた。


 対するフェテリシアは初めて剣を握り、鞘ごと揮った。

着弾する寸前の雹弾の嵐が連鎖爆発。連鎖する爆発に雷光も巻き込まれる。

 ――雹弾をいくつか斬り弾いて連鎖誘爆させたのだ。雷光は爆発に巻き込まれて誤爆。

爆発と水蒸気で視界が埋め尽くされる。

うかつに動けない状況。

突如、爆雹の雲を斬り裂いて、エールゼベトが出現する。

その手の魔導槍の穂先には、深紅の火焔が燃え盛る。


「イ=スーンシー流裏技『轟焔爆槍』!!」


 一直線に石畳を斬り裂きながら、フェテリシアめがけて突進。

いまさらその程度にやられるフェテリシアではない。くるんと軽く避け、剣を揮おうとして止めた。

 エールゼベトはそのまま振り向きもせずに駆け抜け、石畳に弧を刻みながら、今度は側面から突進して来る。


「?」


 フェテリシアはあっさりと避けながら、すこし困惑した。無意味に見える行動の意味が読めなかったのだ。


「《太源は小源を呼いて/螺旋の相克を持って/八大精霊が力を》」


 エールゼベトは再び弧を描きながらかまわず駆け抜けた。フェテリシアは、エールゼベトがなにか複合呪文を唱えていることには気が付いていたが、内容が判らない。

 だが、エールゼベトの軌跡に囲まれた範囲に濃密な魔力が集中している。

何かを仕掛けている、なら邪魔をした方がいいのか――。

 しかしフェテリシアの直感はなにも語りかけない。そのことに困惑して対応が遅延した。

ノーフェリからもまた牽制に徹した大量の魔法弾。それらをくるくると回避する。

その狙いと目的は的確にして明確。

とにかくエールゼベトの行動を邪魔させないことに徹していて、すこしもてあます。

(体裁きをよく見ていたからなぁ、ある程度読まれたか……)

フェテリシアは魔法弾の雨を躱し続けながら考える。強引に抜けてもいいが、この雨を躱し続けながらエールゼベトを相手にするのはさすがに難しい。近接戦闘に入れば、止むかもしれないが、逆に諸共潰しにかかるかもしれない。

わからない。また、エールゼベトの切り札を見てみたいとも思っていた。

かつて、とても誇りに思っていた母親の、最高最大の奥の手を見てみたいと、彼女は思ってしまっていた。


 駆けるエールゼベトの詠唱が朗々と続く。

「《天よ、咆えよ/地よ、震えよ/海よ、裂けよ! 我が望むは我が意を体現せし世界/我が希むは我が意を唯一とする世界/我が臨むは我が心象たる――」


そして完成するエールゼベトの大魔法。

濃密な魔力風が吹き荒れて視界を塞ぐ中、エールゼベトが槍を揮って最期の詠唱を叫ぶ。

「《我が令を持って顕現せよ、“聖域”よ》」


彼女の口から起動呪文が発された瞬間、大火焔が奔った。

槍で描いた軌跡、相克する螺旋たる陰陽紋が焔を吹き上げて駆け――世界が一変する。









……どこからか荘厳な鐘の音が響く。


……鐘の音が響く空は夜の帳に包まれ、いくつもの“天使の梯子(エンジェル・ラダー)”が掛けられて地表を照らす。

 闇夜にして晴天という幻想的な空。

 地平線を見渡す限りの肥沃な大地に、どこまでも広がる黄金色の穂。

 きらきらと白銀に輝く清浄な小川が流れ、木々より金の蜜が流れる。

 それは、楽園、古来に神より約束された豊穣の地。そして、現実世界にありえない風景。


――ここは約束の地。喜びと永遠の命をもって安らかに生きる約束の地

――ここは楽園。主が全てを導き満ち溢れた平和と平穏に歓喜せよ

――主を讃えよ、万物創生せし主を讃えよ


 神を讃える歌と背景音楽が荘厳に満たされていく。


「……」

 フェテリシアは警戒も忘れて、空を仰ぎ見ている。

 ノーフェリが震えながらつぶやく。

「これが、母上の最秘奥――!」


「そうだ。これが、この私の最秘奥にして絶対勝利の鍵」


 エールゼベトが腕を組み、高らかに宣言した。その背後には、華麗にして荘厳な尖塔をもつ白亜の巨城がそびえ立つ。


「辿り着いた者のみが使える魔法の頂点、現実を侵食する究極の幻想、魔法が行き着く果ての極地――“聖域(サンクチュアリ)”。ここは、私が創造した世界!!」

「魔力によって創られた世界……」

「その通りだ。ゴミには決して届かぬ絶対の壁、果てしない地平を越えた先にある極地にして頂点!」

 エールゼベトの足元から黒い肥沃な大地が急速に広がる。黄金の穂が大地へと変わり、そして――


「……っ!」

 突如、フェテリシアの足元を埋め、さらに大量の鉄鎖が絡みつく。少しばかり呆けていたフェテリシアは対応が遅れた。


「この世界はすべて私の思いのままになる。――こんなこともできるぞ」

指を鳴らす。

空裂音が鋭く鳴り響き

 フェテリシアの頬に一筋の切れ目。

 背後に細い剣身が突き刺さり、揺れている。

切れ目から赤い血が染みだして、頬を流れる。


「――わかっているな? いまのは外してやったのだ」

 エールゼベトが嗤いながら宣告する。


細剣の刀身を形成し、射出したのだ。

なんの触媒も設備もなく物質を瞬時に錬成し、射出するというありえない魔法。

物質錬成は時間がかかる


エールゼベトが、槍を掲げた。

 大量の魔法陣が空中に展開され、物質を錬成していく。

それは、剣、槍、弓矢……あらゆる武器が穂先を並べてフェテリシアの方を向く。

「ちょっとした余興だ。これらは私が見たものや集めた武具を再現したものだ。皇家に伝わる伝説級のものもある」

無数といってもよい数の武具が空を埋めていく。

アーサーがもっていたエクスカリバーや、アフィーナの持っていた人造聖剣ロンギヌスらしき姿もみえる。

形成されていく武具たちを熱のない瞳で眺めながら、フェテリシアはつぶやくように確認する

「――“劇場法則世界”と同じ?」

 エールゼベトは、なぜか動揺した。ほんのわずかだが。

「――その名をどこで知った?」

「? 使い手を知っているからですけど」

 なにを驚いているのかわからないフェテリシアは素直に答える。

天塔騎士の一人にそれを得意としている者がいる。小規模だが、しょっちゅう使っているのを知っている。――悪用しかしていないが。

 たまに引きずり込まれて、(主に食べられちゃう的な意味で)襲われそうになっていることまで思い出して、フェテリシアはどんよりする。


 解除されるまでの数時間を逃げ回るのは、天塔騎士の身体能力をもってしても難しい。

だって、相手も天塔騎士だもの。しかし、最後の一線はいまのところ守っている――まだ。

いや、別にいまさら守るもひったくれもないけど同性は勘弁してほしい。

異性は殴るけど。殴るけど。

ここ大事だから。とても大事だから二回云う。きっとゴールデンボールはよくとぶことだろう――


閑話休題(話を元に戻そう)



「は、ただの虚言か。驚かせおって……。使い手が帝国以外にいるはずもなし。古文献でも読んだか」

「いや、ほんとに知っているんですけど……まぁ、いいや」

 双方共にどうでもいいことなので話題を流す。

しかし、最期の一人は違っていた。

「な、んてこと……」

 ノーフェリは、フェテリシアの言葉に嘘もハッタリもないと気づいて一人震えていた。

これだけの大魔法の中で緊張することも無いフェテリシアに怖れを抱いた。

――母が敗ける

もはや、彼女の中では確信に変わっていた。



「まぁ、そんなことはどうでもいい。さぁ、少しくらいは抗って、せいぜい私を楽しませてみろ」

 娘の確信など判るはずもなく、エールゼベトは傲然と宣言する。

右手を挙げると、それに従うかのように武具の大群が切っ先を揃えていく。


ノーフェリは悪寒をこらえながら叫ぶ。

全力で叩かないと、それには勝てない――だが、どう言えば伝わる?

 既に勝利を確信し、余裕を見せつけている母にどう云えば――

「母様っ! 魔導遺物があるのですから、全力で――」

「魔導遺物は後で回収する。まぁ、残骸が残ればの話だがな」

エールゼベトはまるで取り合わない。

それは埋めることの不可能な戦力差があると確信しているが故に。


――この大魔法が発動したときに、勝利者は確定した。


「では、さよならだ。私の生涯における唯一の汚点め。消えよ――」

 宙を埋め尽くした槍が、刀が、矢が、戟が、大鎌が、古今東西のあらゆる武具が一斉に投射される。

 大気を切り裂き、赤熱化しながら迫りくる死の予告を――フェテリシアは熱のない眼で見据えていた。





それは絶体絶命の窮地。

母は哄笑し、娘は茫然と見据える。


迫り来る伝説の武具の蹂躙が始まり、戦場に炸裂する極大魔法群が煌めいて死神の鎌を幻視させる。

変わり果てた大地に雷光煌めく嵐が吹き荒れる中、光り輝く電気騎士が始動する


次回『巨人達の宴』


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