表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅国の少女騎士 ~ボク、とってもざんこくなんですけど?~  作者: 森河尚武
第四章 黒髪少女の休息と帝国の憂鬱
21/49

黒猫と少女と狂想曲と

さて、今回も読者を置いてきぼり

ますますSF風味。




草の香りがするバターがとろけてのっている焼きたてのブレッド。

それにブルーベリーのとろりとした果汁が流れるようなフレッシュジャムをちょっとのせて、ぱくりとひとくち。さくっといい音をしてちぎれる。ふわっとひろがるブルーベリーの甘酸っぱい味と草の香り。

 そこで、少し甘めのミルクティをこくり。

「んー、いい味~♪」

 河岸沿いにあるちょっとおしゃれなリストランテ。オープン・カフェのように外にテーブルを並べてあり、若者のカップルから散歩途中の老人まで、思い思いに過ごしている。

 焼きたてブレッドのいい香りにひかれて入った店だったが、当たりのようだった。

「それにしても……ご飯はこっちのほうがおいしいかも」

 ユネカがあるミズホでは、食材は工場生産品が大半だ。そのため安全で質も均一な上に年中あらゆるものが手に入るが、とびぬけておいしいわけではない。

農業も多少は行われているが、ほとんど趣味や一部の好事家向けで一般市民の口に入ることはまずない。

 周辺国との貿易も行われているが、どの国も食糧生産能力の余剰は少なく、むしろミズホが輸出している量のほうが多い。

ミズホでは食糧生産能力においては問題ないが、人口が少ない関係であらゆる分野で人手が不足しているのだ。

技術指導と称して周辺国に大規模農園開発などをしていたりするが、それも周辺国。

さすがに生鮮食料品工場については『技術レベルに対して進みすぎている』と判定されて技術供与はされていない。研究に関しては特に禁止されているわけではないが、まだまだ数十年単位の時間がかかるだろう。

 そういうわけで周辺国から少量の農産物を輸入して、代わりに均質な工場生産品を輸出するというちょっとおかしな関係がある。


ミズホでは、料理人もまた少ない。

かつての旧人類社会では技術が進歩したためか、料理は趣味であり、家庭で行う者は少なかった。

つまり外食であろうと家庭であろうと料理機やメイドロボが作った食事を摂るのが一般的だった。

外食先は雰囲気や社交を楽しむための場所であり、食事の質はほとんど変わらなかった。

人間の料理人に至っては、ごく一部の好事家向けで希少な職種扱いだった。

また料理技術というデータに残せない人間の感覚に拠る技能は、ほとんど伝えられることなく廃れてしまっていた。

そのため当時の雰囲気を色濃く残すミズホでは腕の良い料理人は非常に珍しい。

 従って料理機のものやレトルトなどを食べるのがごく一般的である。

下手な素人料理で食材を無駄にしたり、時間を取られるよりは専門の機械に任せた方がよいという考え方もあるためだ。


 ところでフェテリシアはミズホに入国当初から最初から騎士団預かりであった。

そのため、市井の料理事情などまったく知らない。

さらにいえばミズホ騎士団の士官や技術部などにまともな食生活をしている者が皆無だった。

普通に徹夜とか、ですマーチ♪が当たり前の職場である。士官にいたっては睡眠習慣がない者すらいる。

そして軍は効率を求める組織なので、食事はカロリーと保管場所効率優先な傾向がある。

そのためブロックミールが主流だ。このブロックミール味はいいのだが、見た目は全く同じなのでそれなりに不満は出ているが、改善の傾向は見られない。

 ちなみに味はいろいろあって、好評なのは〝イチジク〟味と〝専用出汁醤油たまごかけごはん〟味である。

酒のつまみによく食べられているのは〝アーモンド入り六種類のチーズ風味〟味。ゴーダ、チェダー、カマンベール、ブルー、エメンタール、ゴルゴンゾーラの六種類のチーズとアーモンドの味がする。

ちなみにこの六種類チーズの現物を見たことがある現生人類はいない。


 フェテリシアは育ち盛りなので、必須栄養素などは追加でいれられているが、逆に言えば気にされていたのはそれだけであった。

そして、付いた上司も悪かった。


「ん、効率がいいではないか。まずいわけでもないし。見た目? 腹が膨れればいいではないか」

 某ししょーの言葉。ちなみにサバイバル訓練で狩ってきた獲物を千切って生で食べたりするワイルドなお方である。彼女は三食がブロックミールという猛者であった。

こういうのは例外……というわけでもない。わりと研究者にや管理職に多かったりする。

極少数精鋭を地で行くユネカは、そのぶん管理職の負担が大きいので、不眠不休なこともしばしば。中には分割思考でそれぞれメイドロボを動かして処理したりしているのもいるが、それでも追い付かない。

 現場にはなるべく自由に楽にさせてやろうという心遣いが管理職の必死の業務処理地獄になっているのだ。

ゆえに食生活に気を遣うよりはとにかく時間優先となって数百年。上層部ではそれが常態になっていた。

いっぽうで下っ端は気楽なものである。責任が生じる管理や書類仕事はほとんどなく、一回は死ぬ訓練を除けば、フリーダムに過ごしている者が多い。

 その中でも食生活にこだわる者がいる。天塔騎士ではウェンリィ・コード・ヘキサがその筆頭だ。

 アジア系中華民族に近い容貌の彼女は、その遠い祖先のDNA――飛ぶものなら飛行機以外、脚のあるものなら机以外なんでも食べるという伝説――を受け継いだのか、とにかく食にこだわる。

天塔騎士の食生活が劇的に豊かになるのは彼女が帰国している時なのだが、その評価は微妙だ。

彼女の料理はすばらしく美味いし、見た目もいいのだが、食材はゲテモノという可能性が高いのだ。

 彼女は放浪癖があるので、本部にいることは珍しい。

東の原生林で大蛇を締め上げ、南の海でシャチと血みどろの噛みあいをし、北の海でトドと激しいキックの応酬をし、西の山地で巨大羊と死闘を繰り広げたりする珍奇食材ハンターな彼女は特級厨師(自称)なので、料理もお手の物である。

なにをやってんだ、天塔騎士が。


それはさておき、フェテリシアは料理が出来ないので食べる専門である。

そしていちおう元貴族なので何気に舌が肥えていたのだが、いろいろあって五年間で慣らされてしまった。

が。

しかし、いまその強固な鍵がかけられた門が再び開かれようとしている。


「おひとついかがですか」

 いろんなパンがたくさん盛られた籠を持って、席をまわっているウェイトレスが奨めてくる。この店は、メインディッシュを頼むと多種多様なパンが食べ放題との触れ込みだった。

味がいいせいか、お昼前だというのに満席になっている。

「下さい。いろいろあって迷うなぁ……おすすめはなんですか?」

「今日はこのミニ・ソルティ・ブレッドが出来がよくてお勧めですね。アルプスの岩塩を使っておりまして、ソースだけでなくジャムにもよく合います」

「じゃぁ、それをひとつ。あとこれはなんですか?」

「これは、刻んだルッコラをオリーブ油で炒めてものと一緒に焼いたペストリーです。ちょっと酸味がありますが、香りがよくて魚料理の口直しにいいですよ」

「じゃ、それも一つください」

「はい、どうぞ」

 トングでパン皿の上に乗せる。ウェイトレスが一礼して他のテーブルへ回る。


フェテリシアは、ペストリーを手に取ってまず感じたのはオリーブと胡椒の香りに交じったさわやかな香り。

「いただきまーす」

ぱくりとひとくち。

さくっとした外皮、オリーブオイルが染みこんでしっとりした内の層から小麦とバターのいい香りがひろがる。もうひとかみすると、こんどはちょっとした歯ごたえといっしょにぴりっとした辛み、オリーブオイルとゴマのような風味が下の上にひろがっていく。

「これも、おいしいー」

 にこにこしながら、もうひとくち。今度は金色のオニオンスープにちょっとつけて。

 しっとりとしたデニッシュ生地に、よく煮込まれたオニオンの香りがたされてまたちょっと違った味になる。かみしめると口内にルッコラの風味が溶け合っていい香りのオニオンスープがいっしょに舌の上にひろがる。

ちょっとしあわせな気分になる。

 ペストリーを食べ終わると、ちょうどメインディッシュが来た。

「お待たせしました。メインディッシュの〝川魚の香草燻し、特製レモンソースかけ〟です。こちらのソースは当店シェフ自慢の特製ソースでございます。パンと一緒にお召し上がりください」

 ハーブの燻煙で蒸された白身の魚に薄クリーム色のレモンソースをかけた一品。

皿の上に散らされたハーブの緑とミニトマトの薄切りの赤がとても映えて、目にもきれいでおいしそう。

様々なハーブの香りがふんわりとやさしく広がってくる。

(んー、いい香り~。きっとおいしいにちがいない)

 フェテリシアが嬉々としてナイフとフォークを手に取る。純白の身にナイフをいれようとしたところで。

「ん?」

 ふと視線を感じてそちらに顔をやると、目と目があった。

向かいの席の足元で、つやつやと毛並みのよい黒猫。

きれいな姿勢で座り、まっすぐにフェテリシアを見ている。

ふよふよとしっぽがゆれている。


「……」

「……」

 猫は鳴き声も上げない。ふよんふよふよとしっぽが揺れている。

 フェテリシアはちょっとうずうずする。


(ああ、撫でたい撫でたい撫でたい。つやつやですべすべそうな毛並みがうーん、撫でたい。きっとよくブラッシングされてる毛並みはきっとすべすべ。誰かに大事にされてる猫ちゃんか。いいなー、かわいいなー、なでたいなー、きっと手触りいいんだろうなー)


 フェテリシアはなにげに猫好きだ。元実家でも飼っていた。

まだ小さかった黒の子猫。

とある貴族の家の茶会で、ちょうど生まれたての子猫を見せてもらって一目で気に入ってしまった。

母様にねだってねだって、もらったのだ。。

あまりわがままを云わなかった彼女がめずらしく駄々をこねたものだから、母様がびっくりしていた。

そのあともメイドたちにいろいろ聞きながら直接世話をしていて、とても懐いてくれていた。

名前は、二番目の月〝銀の月(アルテミス)〟からとったアルテ。首の後ろに、まんまるの白い毛並みがあったから。

ちょっと忙しくてかまっている時間がなくなってからはに妹に取られてしまったけど、それは仕方がないと思っていた。

妹に懐いていたし、かわいがっていたし、まさか殺されはしていないだろう。

調べる気はない。五年も前のことで――いまさら意味がないからだ。

ちょっとその子を思い出してしまっていて、無意識に名前を口にしていた。

「元気にやってたらいいなぁ、アルテ」

「なーお」

「!?」

 びっくりした。黒猫がとつぜん鳴いたのだ。

 黒猫はじっとフェテリシアを見つめている。

金色のぱっちりとした瞳。赤い首輪に金色の小さな鈴。

見覚えはないけど、その意匠は自分の昔からの好み。あの子にもたしか――

「アルテ?」

「なーお」

 呼びかけると、黒猫が応えた。偶然ではない。

 この黒猫、自分の名前と……もしかしてボクを認識している、の!?

驚き以上にものすごくいやーな悪寒がした。服の下で、冷や汗が滝のようにだらだらとながれる。

分割思考の一つが提案する。分割思考群体が満場一致で警告。

ニゲロニゲロニ・ゲ・ロ~♪


――遅かった。


「どうしたの、アルテ?」

――彼女がどこかで聞き覚えのあるようなちょっと幼い少女の声が聞こえた。



★★★★



 巨大な機械がいくつも並ぶ巨大な部屋は騒音に満ちていた。

「A-3号エネルギーバイパスの点検はいりまーす。電源は絶対に入れないでください」

 若い整備員が怒鳴り、数人がそれぞれ点検ハッチから各種計測を始める。

他にも数人のグループがいくつもの巨大機器をそれぞれ点検に入っている。


中でもひときわ巨大な機械の集合体は、重力制御機関である。建造されてからすでに七百年以上、数百年ぶりに定常稼働させたため、機関の念入りな整備と点検が必要と判断されたのだ。

 発見を恐れて、定常稼働すらもさせなかった機関だが、数百年間ものあいだの定期点検記録は残されている。

 稼働させなかったのだから消耗などはないだろうが、経年劣化などの疲労は蓄積しているだろうと、本格的な点検に入ったのだ。

百年単位での稼働を前提とした船だが、それは宇宙空間を想定しており、海中での稼働についてはデータがない。だが、奴らの〝眼〟を恐れて500年以上を過ごしたのだ。

今回浮上したのは、百年以上も監視衛星の目撃情報や超センサーに反応がなく、すでに奴らの監視網はなくなったと判断されたからだ。

なによりも決定的だったのは一週間前に観測された光学兵器と位相コンバータの稼働パターンだ。現在の地上の技術力では建造できない〝あり得ない産物(オーパーツ)〟であるそれが稼働したにもかかわらず、奴らが動いた痕跡がまったく発見されなかった。

 奴らの任務は、地上の人間に必要以上の技術を持たせぬように監視し、場合によっては制裁・弾圧することであり、あれを見逃すことなどあり得ない。

しかし、一週間が経過した今でも、奴らの監視機構が動いた痕跡すら見つけられない。

 なにやら天塔騎士が少し動いたようだが、たかが歩兵一匹が動いたくらい、なんのことはない。施設の一部が破壊され、近衛騎士十数人が怪我した程度の被害。

この艦隊の帰還当時、ほとんど一方的に見つかり、為す術もなく海へ墜とされたほどの索敵・防衛力からすれば、その程度の戦力など我らの艦隊に何ら被害を及ぼすこともないだろうと戦力評価されていた。

 総合して奴らの監視機構はすでに無力化し、地上を監視していない可能性が高いと判断された。

艦隊が地球に帰還して八百年以上が経過した。人類の最盛期の技術力を保持していた我らですら技術力の低下に苦しんでいるのだ、奴らはそれ以上に衰退したに違いない。

我らは賭けに勝ったのだ。

〝栄枯盛衰。必ずや我らの時代が再びやってくる。それまで我らは忍従し、雌伏するのだ。今はまだその時期ではない――〟

当時の艦隊指導部の判断は正しかったのだ。

そう結論づけられ、艦隊乗組員達の気分は高揚した。

 そうして、昨日の浮上。

デモンストレーションを兼ねていたとはいえ、これほどの艦が浮上し、空中を浮かんで見せたのだ。

発見・攻撃をされる可能性を考慮して、最も重防御・重攻撃力である超要塞艦〝栄光の我が祖国〟が浮上し、帝国の皇太子どもの度肝を抜いた。

――それでも、奴らから攻撃がされることはなかった。

 つまり奴らにはもはやそれだけの力はないのだ。

 艦隊中が狂喜乱舞した。

ついに、ついににっくき千年の怨敵〝ユネカ〟の魔の手が我らに届かなくなったのだ。

 みていろ、我らが恨みを持ってお前らを叩きつぶす。

雌伏すること八百年超。

 耐えに耐え、忍びがたきを忍び、恨み続けた千年紀を我らは超えたのだ。

雌伏の時は過ぎ、ついに我らの時代が再度やってくる――。


 数多くの冷凍睡眠者達も順番に覚醒準備に入っていた。

――そう。この艦は宇宙植民船でもあった。冷凍睡眠と世代交代植民船の混合型植民船がその正体だ。船のメンテナンスをおこなう者や、なんらかの理由で冷凍睡眠より覚醒した者たちが暮らせるように設計されていた。

 当時の技術でも再度の冷凍睡眠はできなかった。そのため、一度覚醒した者は、艦内で暮らしていた。

もとより世代交代植民船でもあったため、暮らすのに不都合はなく、彼らは子孫を残して天命を全うしていった。

人工の灯りがあり暮らしにも不都合がないとはいえ、暗い海の底で、はるか未来への希望だけを胸に、ひたすら永い時を過ごしていく。

小人数を陸に上げ、様々な暗躍をした。あまり大規模に動いて、奴らに見つかることを恐れた。奴らは血に飢えた狼。真に偉大な我が民族を妬み、抹殺を計った連中が遺した民族浄化機関。

奴らに見つからず、しかし

子の世代のため。孫の世代のため。いつか現れる後の世代のため。自分たちでは日の目を見ることはなかろうとも、我らが民族の血を受け継ぐ遙か未来の子孫のため。

この地球に我ら真に偉大なる民族にふさわしき国に住まう、その大望を果たすその時まで、ひたすら過ごしたのだ。

そしていま、その悲願が叶おうとしている。

喜ばない者など居ない。

みな狂喜しながら、自らに課せられた仕事をこなしていく。

大丈夫、我らは宇宙一優秀な頭脳をもった史上最高の民族だ。大丈夫、全てうまくいくのだ、なんとかなるさ……。


ついに見えた希望に、喜びに満ちあふれて胸を昂ぶらせながら、精力的に動き回る整備班で喧噪に包まれている機関室。

その周囲にあるキャットウォーク上で老執政官(ブラフマン)が老機関長が話し合っている。

機関長が眼下の巨大装置〝エネルギー位相コンバータ〟を見下ろしながら問題点をあげる。

「エネルギー位相コンバータの調子が一週間ほど前より調子がよくありません。現状では入力したエネルギーに対して15%ほどの出力しかなく、残りは熱や音に変調されてコンバータの炉芯を消耗させているような傾向が見られます」

「修理の目途はついていないのか」

「はい、いいえ……このコンバータは建艦当初からのもので、その構造を知る者はおりませんし、設計図も残されておらず……」

「むぅ……ならば代替え品への変更を考えるべきか」

「建造技術は既に失われ、いまの我々の技術では同じ機能のものを造ることも難しく」

「なぜだ? データは残っているだろう?」

「このような巨大なものを造る設備がないのです。もともと艦内には搭載されていなかったのか、六重系統になっているために四基が故障しても影響がないので考慮していなかったのか……」

「健三設備はもともと搭載されておらぬ。六重系統であるし、無用・無駄だと当時は判断したのだ。それよりも武装を優先したのだ。わが偉大なる民族の艦は、どこよりも強くなければならぬからな」

「はい、執政官殿が申しますように、それについてはなにも問題ありません。現状のコンバータについては定常レベルまでの運転が限界と判断します」

「他の艦から移設するのはどうか」

「それも考えましたが、すでに他の艦も共食い整備状態にあり、出力も往年の1/5以下になっております。どこも余裕がありません」

「むぅ……」

 腕を組む老執政官。

 戦闘兵装管理官もまた報告をする。

「同様に兵装にも消耗がみられます。エネルギー導管の疲労蓄積は調査中ですが、おそらく規格値の20%程度しか持たないという予測が出ております。消耗品であるミサイル、砲弾などについても消費期限をはるかに過ぎておりまして、おそらく性能は完全には発揮できません。製造についても、艦内の製造設備の稼働停止(故障)から、二百年以上経過しており再稼働は厳しいかと。今のところは帝国技術院に技術供与して原始的な兵器の開発を行っております」

 ここで言葉を切り、背筋を伸ばしてた。場合によれば牢屋に放り込まれるかもしれないが、云わねばならぬと覚悟を決めたのだ。

 遥か古来より冷凍睡眠で時代を超えてきた執政官に、戦闘士官の末裔ははっきりと現状を告げた。


「正直もうしまして、戦力としては往年の1/10以下ではないかと。このままでは来るべきユネカとの全面戦争において支障があります」


老執政官はふっと笑った。記憶にある士官たちの面影を残す若者たちを安心させる必要があると感じたのだ。


「ふ、心配するな。いかにユネカと云えども状況は同じなのだ。むしろオリジナルの図面などを保管してきた我らのほうが有利ですらある。調べたが、やつらの大型艦はここ500年以上目撃情報がない。既に動かない可能性が高い」

「しかし奴らには朧影人形と天塔騎士がおります。あれは往年のものと遜色のない性能をもっているようで……」

 戦闘士官が懸念材料をあげるが、老執政官の余裕は変わらない。

「ふん、天塔騎士など、笑止。たかが数人の超人など戦力としては意味がないわ。まして、この超要塞艦を落とすことなどたかが兵士には不可能よ。朧影人形とてそうだ。既に我らの技術で帝国共の魔装騎士の強化が始まっている。いくら朧影人形とて何体のもの魔装騎士を相手にさせ、我らの万能戦闘武神を投入すれば簡単に破壊できるわ」

「そうでしょうか。伝承では、大陸ひとつを滅ぼせる、と」

「は、ばかな。そんなのは誇大妄想に決まっておる。考えてもみよ。大陸ひとつ沈めるのにどれだけのエネルギーが必要だと思う? 仮にそのエネルギーを用意できる動力炉があるとして、あのサイズにおさめるだと? 不可能だよ、そんなことは」

 断言する。そんなものは夢物語、妄想の類で、ただの情報操作なのだと。

「だいたい滅びた大陸というのは、いったいどこなのだ? この艦の超電子頭脳に残る地図データでも、四大大陸(・・・・)ではないか」

「それは……たしかに」

 戦闘士官は納得する。たしかにその言葉は説得力があった。


「天塔騎士の実力など大半はただの誇大宣伝よ。だいたいまともに戦争に参加した記録すら見当たらないではないか。張子の虎、ただの式典騎士団を恐れる必要があるかね?」

「それもそうですな」

ああ、自分たちはやつらの誇大宣伝に踊らされたのだ。さすがは、はるか古代に偉大なる先人達を率いて星の海を渡ったといわれる生きた伝説の大提督だっ!

そんな偉大な人物に率いられる我らはなんと幸運なのだろう。腹の底から勇気が湧いてくる。

勇気百倍だっ!! われらの偉大なる民族の誇りだっ!!

「そもそも奴らの勘違いを正さねばならぬ。奴らは我らを抹殺しようとした連中から権限を委譲されたと自称しているだけなのだ。遥か古代から生きている〝ユネカの巫女〟? あんなのはただ同じ名前を受け継いでいるだけではないか。超科学都市ミズホ? ただ古代人類から受け継いだだけではないか。あそこは我らが民族の領土であったのに盗人猛々しい。天塔騎士? あんなふざけた格好をする売女集団なぞ、ただのお飾り、いや接待騎士団だろうよ。捉えて、夜の相手をさせてやるわ」

「我々にも一晩おつきあいいただきたいですな」

はははっと蔑みの笑い声をあげる執政官に追従して笑い出す士官たち。

嗤えば、不安もまたかき消された。

彼らは思った。

大丈夫だ、この賢者たちについていけば我々は明るい地上で貴き者になれる。

 祖先から数えて二千年以上の苦難苦渋の道は、我らの代で終わる。

わが身は富貴を極め、子らもまたそうなるのだ、と。

ユネカを滅ぼし、我らがこの地球に君臨したらなにをしようか。

まずは、女だ。

艦隊では、数少ない女もみな顔見知りだし、そもそも出生管理により自由に女とヤることもできない。たまに地上から浚ってくる女はちょっと殴ったりしたらすぐ死んでしまうし、食料生産にも限界があるからあまり長く飼えなかった。地上なら、数もいるし、食料もたくさんあるだろうから、その辺は気にしないでいいだろう。地上の野蛮人どもなぞ、いくら殺したって勝手に増えるだろうしな。

酒と食い物も地上ではいろいろなものがある。稀にある上陸で購入されてくる食糧は、たしかに美味だ。

それらをたらふく食って、その次はなにをしようか。

先人たちがかなえられなかった、素晴らしい(欲望)が、広がっていく――。


「真に優秀で正統な地球の権利者である我が民族がようやく表舞台にたつ。かつての技術を多少遺している軌道エレベータ外郭都市ミズホとて正当な主として、やつらから奪還せねばならぬ。そもそも人類最高峰の技術を持ち、それを活用できる我らこそが真に正当なユネカとでもいうべき者なのだからなっ!」


  ★★★★



『試験15秒前…10……5……』


カウントダウンがゼロを告げた時に、発射実験設備から大量の黒煙が立ち上る。

地上に設置された垂直発射機構(VLS)の排煙設備から膨大な量の黒煙が勢いよく噴出する。

数瞬遅れて、発射孔から長さ30メートルを超す誘導式弾道飛昇体の本体が橙色の炎を噴きだしながら飛び出して上昇していく。

 ――それが数十メートルほど上空に上昇した瞬間、突如くるくると回転をはじめてついに失速、空中で大爆発を起こした。

大空一帯に猛毒の液体燃料がばらまかれ、地に火焔が降り注ぐ。


「な、なぜだ」

 数キロ離れた分厚い装甲が施された作業指揮所。

その耐爆窓から双眼鏡で、その様を見ていた実験総責任者の老技術者が呆然としながらつぶやいた。


ありえない。間違いなく設計図通りに制作した。

あらゆる工程を見直して寸分たがわぬものを制作し、燃焼体もまた成分情報通りのものを間違いなく制作した。燃焼行程の実験では問題はなく、誘導や飛行制御機能についても単体試験では問題なかった。

それでなぜ失敗する。まったく同じものを制作したというのにっ!!


は、そ、そうかっ!!!


「こ、これは、陰謀だ。ユネカの陰謀に違いないっ!!」


 ざわめく技術者たち。帝国の魔導技術者たちもまた顔を見合わせているなか、思わず怒鳴った。


「やつらがどこかで破壊工作をしたに違いないっ! 我々が失敗をするわけがないのだっ!!」


 だんっと机をたたく。ぎりぎりと目が血走り、口角泡を吹いて周りに当たり散らす。


「おい、諜報対策の見直しと強化をしろ。きゃつらがどこかに紛れ込んでいる可能性が高い」

 帝国の護衛騎士のリーダーに命令をする。敬礼をした彼は、退室して執務室へ向かった。

「手がすいた者は試作第七号機の点検をしろっ!!。やつらがした破壊工作の痕跡を絶対に見逃すなっ!」

 技術者たちが現場に指示を出し、自分らもまた退室して現場に行く。


老技術者はどっかりと椅子に腰をかけ、腕を組みしばらく唸っていた。

それから近くにいた組織の技術者にを招いて小声で指示を出す。

「図面をオリジナルと照合しろ。どこかに齟齬があるかもしれん」

うなづいた技術者が部屋を出ていく。


何重ものセキュリティに守られた厳重な保管庫をがさがさと漁る。

 薄汚れた紙の束をかきまわし、図番を確認していく。

「あった、これだ。この束か」

 見つけた目的の設計図を広げる。そして手元の薄型端末を操作して、空中に図面を投影させた。

「いったいどこが違うんだ? まったく、複写する程度のこともできんとは無能な奴らめ」

――投影された図面にはユネカの紋章と〝考えよ〟の文言が点滅していた。





副題 【こいつら、ダメだ】または【プロジェクト×(バツ) ~挑戦者たち~】

す~ばる~な歌を背景にお読みください。


 これで本当にストックがきれましたので、次の更新はしばらく先です。


誤字脱字や修正は随時していきます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ