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外伝 フェテリシア訓練生 毎日がんばっています そのに

8/19追記 主人公の過去話の外伝その2です。

  初めての方は、プロローグ 『残酷な世界』までお進みください。

  


外伝その2です。

いちおうユニークアクセス3万越記念と云うことで。

今後もよろしくお願いします。


なお、評判の悪いSF風味仕様ですが、でも変えません。


 強い風が吹く。

それは、遮るもののない艦上部を駆けて、金髪の女と黒髪の少女の間を吹き抜けた。

腕を組み、傲然と立つ女性の長い金髪が、強い風にばさばさと吹き荒らされる。

ちょこんと立っている小柄な少女の短いポニーテールもまた、ばさばさと吹き荒らされる。


 目を閉じていた女性が不意に9×8っ(くわっ)と目を開き

「健全なる精神は健全なる肉体に宿るっ! ――かもしれない」

 ばばーんっ!!と、どこからか効果音が鳴った。

 まじめに聞く体勢だった少女は思わずコケそうになる。

「ししょー、真面目にやってほしいのですけど」

「なにを云うかね、フェトリシアくん。わたしはいつでも真面目であるぞ」

「名前、間違っています、フェテリシアです」

「なにっ!! フェチアーレスくんだったかね?」

「〝フ〟と〝ア〟しかあっていません! あとなんかヘンタイっぽいですっ!!」

「細かいこたぁいいんだよっ!! 要は、私のおもちゃ(弟子)であることが重要なのだ」

「本音と建て前が逆じゃないんですかっ!!」

「うむ、気にするでない。事実は変わらん」

「ひ、開き直ってる……」

あきれる少女にかまわず、ダークグリーンの制服姿の金髪女性は説明に入る。

「さて、キミはつまるところきゅいーんがががびーピーガー(効果音)されてピー(検閲)になった。駄菓子も菓子のうち!」

ぐっと拳を握って親指を突き立てる。

「まだ未成熟な(未熟な制御能力の)身体を完熟(慣熟)させねばならないっ!!」

「ししょー、表現がなんかヒワイです」

 はいっと勢いよく手をあげてフェテリシアが抗議する。しかし、そんなことを気にする師匠ではない。

「おお、よく知っとるな、そんな難しい言葉を! しかしおおむねこれであっているから構わんのだっ!」

 たゆんっと制服で抑えきれない揺れを発生させて胸をはる。

どどーんっとどこからか波濤の効果音。

ちなみにここは海上より2万メートル上空に浮かぶ艦の上部発進デッキの上である。

ほぼ成層圏高度であるが、彼女たちは高高度装備はおろか酸素マスクひとつしておらず、通常型制服を着ている。


「では、まずは後ろを振り向きたまえ」

 金髪美女の声に従って、いろいろとあきらめている少女――フェテリシアは後ろを向く。

 雲一つない青空、甲板の途切れている眼下には、島一つないオーシャンブルーの美しい海が広がる。

 彼女はこの風景をみていつも思うことがある。

(なんかい見てもおかしいなぁ――こんな鉄の塊がなんで空を飛ぶの?)

 彼女には科学技術の知識は叩き込まれているが、違和感が半端ない。知識はあっても実感できているわけではないからだ。

彼女が立っている足元――成層圏で滞空している大型艦艇は正式名称を強攻偵察型機動揚星艦アマノウキフネ、全長10kmにも及ぶ美しい流線型の双胴型万能航行艦だ。

普段は第2の月――UNアルテミス要塞のドックか、地球の衛星軌道上に浮かんでいる。地表近くまで下りてきているのは、主に定期点検とフェテリシアの訓練のためだ。

「今日の教習内容だが、飛んでもらう」

「は? 飛ぶんですか」

「そうだ、飛ぶのだ。では、逝ってきたまえ」

 金髪の女性は、げしっと蹴った。フェテリシアのちっちゃなおしりを容赦なく。

「はへ? きゃーーーーーーーっ!!!!」

 間抜けな声と共に、ぽーんと艦上からアイ・キャーン・フラーイ。


 ふわりとした浮遊感を感じて、フェテリシアは総毛立つ。身体は重力法則に従って自由落下。悲鳴がドップラー効果を起こして間延びする。

「きゃーーーーーー!」

 悲鳴をあげながら落ちていくフェテリシアの横を、師匠は腕を組んだまま、頭から自由落下している。

「ほらー、根性いれんと死ぬぞー。いくら天塔騎士だからってこの高度からなんの防備もしなけりゃコナゴナだぞー」

「人間は飛ぶようにできてませんーーーーーーーっ!!!」

「ははははっ! |なに云ってやがる、おまえまだ人間のつもりなのか?《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」

「わたし、にんげんやめたつもりなんてないですぅううううううー!!」

「ひーはー、あんまり笑わせんなよ、フェラリアラくん。はやく飛ばないと、ほんとうにコナゴナだぞ? コナゴナー」

「飛べるわけなんてないでしょーーーーーーーっ!!」

「あー、コナゴナになっても痛みは感じねぇだろうけどな。はやく〝思考推進〟しろっての。教えただろうが」

「そんなの習ってないですーーーーーーーっ!!」

「……ありゃ、そーだっけ?」

 まっさかさまに堕ちながら師匠は首を傾げている。緊張感も何もない。

仕方ないなぁ、説明してやろうという気配をだだもれしながらフェテリシアに思考推進の説明を手短にする。

「――つまり、思考推進ってのは、要は思考イメージに合わせて周囲空間を改変して移動するってことだ、わかったか?」

「こ、こんな状況じゃわーかーりーまーせーんー!!」

「……けっこう余裕だな。そろそろわたしでも怖いんだが」

すでに高度1000メートルを切っていた。あと十秒かからずに海面激突する状況だ。

「まぁ、つまりだ、強力にイメージすればするほど、その通りに事象改変をするってことだ。――想定しろ。イメージするのは飛べる自分、事象を自由自在に操れるという確固とした幻像」

確信し、確定すれば、それが現実となる。

「い、いめーじ、おそらをとべるじぶん……」フェテリシアは恐怖を押し殺して、ぶつぶつとつぶやく。

「イメージしたか? さぁ、叫べ!『チェンジ・Bモード』とっ!!!!」

 ぐっと力強く拳を握って師匠は少女の背を押して地獄へとまっさかさまへと放り込む。

「『チェンジ・Bモード』!」

 よくわかっていないまま少女が全力で叫ぶと、網膜内の表示がきゅるんと反転した。


 びーこん、びーこん。サイレンが脳内に鳴り、脳内音声ガイドとテキスト表示。


――コマンドが確認されました。装備変更を開始します。

――身体制御の制御権確保


「えっ!?」

 その表示が出たとたんに、身体が勝手にくるんとまるまって、頭から落ちていたのを正常な姿勢に直った

 少女は動こうとしていないのに。

「――きゃあああああああっ!」

 風圧でタイトスカートがめくりあがり、ストッキングにつつまれたじゅんぱくのぱんつwithとらちゃんアップリケが露わになる。

今までとは別の悲鳴をあげるが、身体の制御権を奪われているのでなにもできない。


――NMマテリアル結合解除

形態変更開始


フェテリシアの背後に突如、異空間風な背景が空中レーザー投影される。(演出支援:アマノウキフネ)

どこからか、軽快でポップでキュートな音楽がかかり、それに合わせるようにフェテリシアの身体が勝手に動く。

 少しうつむいて、ゆっくりと両手を広げ、脚は揃えるてまっすぐに。


そして制服全体がうすく発光して、ばらりと繊維状にほどける。――下着もろとも。


「ふぎゃーーーーーーーっ!! なんでぇえええっ!!」

 恥ずかしくて絶叫。周囲に人は一人しかいないとはいえ、フェテリシアちゃんも12才の女の子。外ですっぽんぽんになる趣味はない。


「ああ、大丈夫だ、ちゃんと光学迷彩はかかっているからなー」

フェテリシアの横で落ち続ける師匠からのんびりと声がかけられる。

無駄にハイテクなため、周囲にはきちんと|ジャミングがかかって見えない安心使用《こわいおばちゃん対策》なのだ。

もっとも今回は動作チェックも入っているので、各データリンクと共に光学的にも師匠には丸見えだが、女性なのでたぶん問題はない。


「そういう問題じゃないですーーーー!!!」

 はんぶん泣きながら抗議の声をあげるが、無情にも装備変更は淡々と続く。


――形態変更

  再結合開始


 ほどけた繊維がフェテリシアのずんどうな(凹凸のない)身体にからまり、再結合。

 黒のローファーが装甲ブーツに、スカートとシャツは超ハイレグのホルターネックのボディスーツとロンググローブに、制服の上着は裾の伸びたウェストコートに。

 コートの裾は二つにわかれていて、ちいさなおしりと飾りのうさぎしっぽが見えている。

 そしてあたまにカチューシャが現れて、うさみみがぐにょーんと伸びる。

 最後はフェテリシアのパーソナルカラーである緋色へとボディースーツの色が変わり。


――強制ポージング実行


 腕をのばしたままくるんとまわって、すぃっと足をのばし、コートのすそをつまんでカーテシー。

 なぜか背後がぺかーと発光し、ぴったりに音楽が終わる。


 形態変更は言うに及ばず、音楽から演出までUNECA技術局渾身の作品だった。

 ちなみに決めセリフがないのは、技術者同士でなぐりあいのケンカになって決まらなかったためであった。


――全操作完了 身体制御権開放

 おつかれさまでした。


「なになに、いったいなんなんですか、これぇっ!!」

 身体制御権を返されたバニーガールな格好の少女がわたわたと慌てている。

一方で師匠は冷静だった。

「ああ、慌てるのはいいが――飛ばないと、ぶつかるぞ?」

「ふぇ?」


どばーーーーーーーんっ!!


 凄まじい轟音を立てて少女が海中にめり込んだ。ちなみに高度二万メートルから落下した場合、海面は戦艦の装甲よりも固いと云われる。

「ああ、だから云ったのに」

巻き起こった巨大な水柱を見上げながら、自分だけ海面上二メートルの位置で空中停止したししょーがつぶやいた。

ひとかけらも心配していないところがわりとヒドイ。

 

もっとも少女のステータスは全てモニタリングしている。NMフィールドが起動していることを確認しているので、少なくとも死んでいないことはわかっているためだ。というか、この程度では天塔騎士は死ねないのだ。

 師匠は空中に静止しながら、同時にいまの経過を分析処理している。

(モード変更が計算値から6%のずれ。TSUKUYOMIの予測よりも悪いのは……たぶん羞恥からかな? 心理分析グラフもそんな感じだし、わたしもそうだったし……はぁ~、いかなる状況でも平常心を保つという名目があるとはいえ、あの格好は恥ずづいものがあるからなあ……)

 脳内と網膜投影操作でデータを簡単に分析しながら、これまたお約束をつぶやく。

「おお、フェテリシアよ、海面にぶつかって死んでしまうとはなさけない……」

「がふぇ、ふげぇ……い゛、い゛ぎでま゛ず

……」

「お、復活はえーじゃん、まだふっかつのじゅもんは唱えていないぞ、《うえうえしたしたひだりみぎひだりみぎびーえー》っと」

「ふっかつのじゅもんってよ゛くわ゛かりませんが、とりあえずい゛きてました」

少女が海水を体中からしたたらせながら、ふらふらと空中を浮かび上がって彼女の元に来る。

(ほう、もうコツをつかんだか……。伝統行事の一回目でコツをつかむというのは過去に例がないんじゃないか?)

 自分はたしか四回目ぐらいだったなと、少し感心しながらも、それは態度には出さない。

「なんとか浮かぶことには成功したようだな、では次だ」

「は、い゛――!?」

 師匠がぐわしっと少女の襟首をつかみ、ぽいっと放り投げた。

同時に師匠の思考推進制御によって、ぽーんと跳ばされる。

「きゃぁあああああ――!」

悲鳴にドップラー効果をおこさせて、少女は空を駈けのぼらされる。

「今度はちゃんと落下制御しろよー、あ゛?」

師匠の拡大された視界に、上空のアマノウキフネの艦底にべちこーんと激突する少女がいた。

 ずるりと落下しはじめた彼女の首が、なんかいい感じ(やばそうな角度)に曲がっている。

「あ、おーい、大丈夫かっ!?」

 さすがにちょっと焦る彼女の額に巨大な汗がたらりと垂れた。


夏コミで配布したものに加筆したものです。

テンポは配布版のほうが好きなのですが、ちょっと説明不足な点があったので。

フェテリシアには、でたらめなまでの性能を持たせられていますが、今後にこれだけの性能+シルエットドールの戦闘能力を必要とする場面があるのでこうなっています。

あと、フェテリシアのコンセプトは「なにしてもこわれないヒロイン(物理)」というのがあるんで、こんな感じにヒドイめに会う機会が多いはず。


次回更新は、アフィーナ編最終になるはずです。

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