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真の魔法


登録777突破!

フィーバーーー!



……ってやりたかったんですけど。

日に日に登録数が少なくなっていく罠w




「ははははははっ!!」

 猛り狂う火焔地獄の前、アフィーナの狂ったような哄笑が響く。


 皇帝騎士、魔法師たちは慄然としていた。。

 アフィーナがもたらした大破壊の光景に、怯えにも似た畏怖を抱いているのだ。

 巨大な火柱が天を焦がし、その周囲を爆炎が踊り狂っている。芝生は云うに及ばず、石畳や魔導被膜が施された内壁まで融解、沸騰しながらマグマのようにゆっくりと流れている。

 たかが魔法騎士ひとりが作り出せる光景ではなかった。


「なんてものを……造ってしまったのか……」


 レオン・ド・ゴルド宮廷魔法師長は畏怖と同時に慄いていた。

 一人の魔法騎士が、長時間の詠唱もなしに魔装騎士を遥かに超える火力をもたらしたのだ。

超戦術級儀式魔法にも匹敵する威力だが、もし味方に向けられればと考えてしまう。

 たった一人で戦局を打開しうる超戦術兵器が誕生したのだ。誇らしくもあるが、同時に危惧を覚えざるを得ない。


 これは、なんらかの封印鍵をつけるか、もしくは皇家専属とすべきか……。


 すでに事後のことを考え始めていることを責められない。 

 この大魔法で無事な者などいるはずがない。

 帝国人たちは意識・無意識に関わらず、みなそう思っていたからだ。


「あははははっ、何が、天塔騎士だ、なにが世界最強、恐怖と破壊の騎士団だっ!! 帝国騎士こそが真の世界最――っ!!」


――炎が裂けた。


 アフィーナが哄笑したまま凍りついた。

 ド・ゴルド宮廷魔法師長や皇帝騎士たちもまた。


 裂けた炎は渦を巻いて収束していき、巨大な火焔柱から焔の翼のように二つに分かれていく。

炎色が赤、橙、そして青白く変わっていく。


一対の翼のように変化した焔、その中央。

小柄な、ヒトガタの影が一つ。

片手からのびる長いなにか/魔法剣だとアフィーナは無意識に思った。

絶叫した。

「なぜだっ!!!!!」


理解できない。

なぜ、あそこにヒトがいる?

なぜ、あの絶対灼熱地獄に立っている?

なぜ、燃えた様子すらない?

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ!!!!!


「生きているはずがないっ! 絶対火焔地獄だ、骨すら残さずに燃え尽きるはずだ、斬られてばらばらになったはずだ、お前はっ!!!!!」

「――斬られませんでしたし、燃えなかっただけですが」


 少女が魔法剣をゆっくりと横にもっていくと、まるで従うように青白い火焔が天高く立ち上る。


「――魔法斬圏は、確かになんでもよく斬れますが、同時に手ごたえをなくしてしまいます」

そりゃ鋼鉄だって布のように斬るんですから当然ですよねと、少女は独りつぶやく。

「だから、自分の認識を超えた超高速機動時では、斬ったのか回避されたかわからない」

「ばかなっ!! わたしは斬ったぞ、たしかにっ!!」

 その光景を覚えている。四肢を斬られ、表情を変える間もなく胴を薙がれて肉塊に変貌する少女を。

 その光景をアフィーナはたしかに覚えている。

「……その時に血は飛びましたか? 肉が焼ける音は? 匂いはありましたか?」

 魔法斬圏はいくつか種類があるが、アフィーナが発動させたのは炎系統だった。

 超高温の力場で力任せに叩き斬るそれは、極めれば魔装騎士の装甲とて斬れる。

 その一方で、灼かれるためにある程度の匂いや飛散物が発生する。

「匂いだと……?」  

 そしてアフィーナはにおいも血もなにも飛び散らなかったことを思い出した。

「さらにいえば、もう一つ。あれだけの加速です、きっと『魔法反応全方位視覚』を使ってましたよね? あれの欠陥をご存知ですか?」

「欠陥だとっ!? 我が大魔法帝国の魔法だぞ、そんなものが――」

「ありますよ。あれは魔法による外部感覚から構築された仮想的な視覚、世界みたいなもの。認識できないことは、その人の経験や記憶から補完するし、願望を構築することだってあるんです。構築演算しているのは、その人の脳ですから」

「ま、さか――っ!?」

「斬ったわけじゃなくて、願望を実際の視覚として構築したんですよ」

 少女は変わらないおっとりとした笑顔のままに、事実を告げる。

 それはアフィーナにとって最大の屈辱だった。要するに妄想だったと云っているのだから。


「ふ、ふざけるなぁあああああっ!!」

 アフィーナが咆え、4人へと別れる。

 今度は魔法視覚を使わない。ただ神経加速を実行。

凄まじい負荷がかかり、顔中に血管が浮き出る。剣を振りかざし、少女を惨殺しようと疾った。


「死、ねぇえ――っ!?」

 停まるアフィーナ。構えた魔法剣を取り落としそうになる。

 魔法騎士は云うに及ばず、皇帝騎士さえも凍り付いていた。


――青白い焔を背景に12人の少女が居た。


 腕を組んだ少女、その両脇に鏡写しの八相の構えの少女。

そして下段、正眼、上段、片手突きの構えの鏡写しの少女たちが並んでいる。

いずれもが、おっとりとした笑みを浮かべたままアフィーナを静かに見ている。

その黒い瞳はまるで深淵のように深く、なにも映していない。


「分身が出来るのは、一握りの帝国騎士だけだと思ってましたか?」

 腕を組んだ少女の一人がつぶやくように云った。


「あ、ああ……」

 アフィーナの剣がカタカタと揺れる。いや、揺れているのはアフィーナ自身だ。

 無意識が、鍛え上げられた剣技がそれに気づいていて、身体が怯えているのだ。――コレには自分の剣は絶対に届かぬと。


「耐えてくださいね?」

12人の少女が魔法剣を個々に揮った。

12の衝撃破砕波が、アフィーナの周囲に向かう。

「ぉおおおおおおおっ!!!!」

迫り来る圧倒的な脅威、死の予兆を感じて、アフィーナが吠え、全力で防御する。

豪速で衝撃破砕波を放ち、精霊鎧の出力を最大にする。

 少女の放った衝撃波はアフィーナのそれを呑みこみ、そのまま地面をめくりあげ、精霊鎧を容易く貫いて粉々に砕き、揮った人造聖剣を弾いて跳ね上げさせた。

 アフィーナは姿勢を崩されながらも後ろに跳躍、装甲ブーツの底で地面を削りながら衝撃をかろうじて受け流した。最後は膝をついてしまったが、すぐさま立ち上がり剣を構える。


「ははははっ、防いだ、防いだぞっ!! 12分身の攻撃で、その程度かっ!!」

「別に攻撃を当てる気はありませんでしたけど?」

 死を免れて歓喜の声をあげるアフィーナに、一人に戻った少女が素っ気なく言う。

 愕然とするアフィーナ。生命の危機さえも覚えた攻撃が、少女にはただの牽制だったというのだ。

衝撃を受けているアフィーナのことなど露とも気にせずに、少女は続ける。


「さて、古くからの伝統ですので、チャンスを与えましょう」

「な、なんだというのだ!?」

 怯え始めている身体を叱咤して、アフィーナは問いかける。

「全身全霊、最高の一撃を。本当の本気で後先考えず、全力全開の一撃を出してください。――じゃないと、死にますよ?」

少女は両手を広げ、笑みを浮かべたままアフィーナにそんなことを云った。


「アフィーナっ!」

 敬愛する父の声に彼女は反射的に動いた。大きく後方に跳躍すると同時、少女の周囲を膨大な量の光槍が突き立ち、檻を形成する。

 ド・ゴルド魔法師長が超高速言語の多重詠唱を実行している。アフィーナの攻防の間に詠唱を行っていたのだ。

掲げた腕の上空に、極大の四重円魔法陣が構築されていた。魔法文字が赤黒く脈動しながら発光し、円陣にそってゆっくりと互い違いに回転している。

「よくやった、アフィーナ。後は任せよ!! ――天塔騎士よ、真の魔法というものを見せてやるぞ」

 掲げた両手から紫電が舞い、上空の魔法陣から高周波音が唸りはじめる。

魔装騎士を上回る大魔法構築。

魔法演算を行っているド・ゴルドもまた苦痛にゆがみ、顔中に血管を浮かばせながら叫ぶ。


「これが真の魔法、極大魔法だ!! 〝永劫の雷劫牢獄〟エターナル・ガングニール・ブラスト!!!!」

 最後の鍵言葉と共に宮廷魔法師長渾身の極大魔法が発動する。

 光槍の檻に捕らわれた少女に上空から大量の雷撃が降り注ぎ、さらに光の壁が少女を取り囲むように顕れ、包み込むように収縮する。超凝縮された光子が膨大な熱を発生、数千度にも達した熱は地面を融解し、周囲大気を巻き込んでいく。


それは、極大魔法の名に恥じないだけの威力を持っていた。帝国騎士団たちですら目を奪われていた。


「何をしているっ!! 早く魔法砲撃を叩き込めっ!!」

 宮廷魔法師長が叫び、騎士や魔法師たちが我に返って次々に砲撃魔法を撃ちこむ。とにかく大量の砲撃を容赦なく。

 多重高速詠唱がいくつも唱えられ、雷撃・光撃・焔撃・氷撃と多数の属性の魔法砲撃が少女の周囲に叩き込まれる。

 まだ残っていた地面が融解し、余波だけで直撃していない内壁が倒壊していく。魔装騎士一個小隊三騎による全力魔法攻撃を超える高密度の火力。

 これだけの全力魔法攻撃を受けて存在できるものなどないというのに、しかし彼らの顔には余裕などない。引きつった顔つきで必死に魔法を発動させ続ける。

 

それは恐怖だった。

少女との対峙では常に予想が覆されてきた。

数も質も揃え、遙かに上回るだけの火力も制圧力もある戦力を整え、間違いなく勝てるだけの布陣であったはずなのに歯牙にもかけられずに遊ばれていた。

その記憶がある。そして、今の少女は攻撃をし、仲間を叩きつぶしていた。

もはや一瞬たりとも気を抜かない。

全力で叩きつぶす。

総力魔法攻撃戦をする彼らへ、頼もしい増援が空より降り立つ。

内壁を跳躍で越えてきた巨人。

轟音とともに少女の四隅にそれが降り立つ。

――魔装騎士。白色に皇帝の色である黄金のラインが入った騎体。近衛騎士団直属騎だ。

「全力で焼き尽くせっ!! 責任はわしが取るっ!!」

 宮廷魔法師長が下命する。

 白い魔装騎士達の両肩装甲がスライドし、4つずつ計16の魔法陣円盤が露出する。

せり出して回転を始めると、さらに四つの小さな魔法円陣が空中に光で書き出されていく。

一騎につき16個、四騎合計で64もの魔法陣が空中に構成され、一斉に砲撃を開始した。

強襲制圧駆逐型魔装騎士、対人掃討に優れた高火力型魔装騎士の全力掃射砲撃。

小さな街ならば一瞬で消滅するほどの濃密な火力が集中される。


――それだけの魔法攻撃を一身に受けながら、少女はこともななげに立っていた。

 光槍、火炎弾、雷撃、氷弾……全ての魔法攻撃を青白い焔の翼がゆらゆらと動いて受け止め、吸収していく。強力な魔法を受け止める度に翼が大きくなっていき、羽根の数や大きさが増していく。

全員に加えて、魔装騎士の全力掃射すらもその防御を突破できない。

――あまりにも絶望的な戦闘だった。


「ぜ、全魔装騎士に全力出撃命令っ!! いそげぇええええっ!」

 ド・ゴルド宮廷魔法師長がもはやなりふり構わずに命令を下す。そして騎士たちもその命令に従う。通信魔法で命令を怒鳴り、城中に緊急出動サイレンが鳴り響く。


 その音を背景に、少女が歩き始める。

 ぺたり……ぺたりと石畳を歩く素足の音がなぜかよく響く。


「〝全てのものを貫く火槍よ〟!!!」

 アフィーナが全力全開で最強の魔法を放つ。数千度の炎を凝縮した超高速の焔の槍。

魔装騎士の装甲ですら貫く威力と、魔法騎士ですら反応しきれない速度で少女を襲う。

 少女の剣がゆらりと動いた。

 ただそれだけで、焔の槍は四つに切り裂かれて焔の翼に吸収された。


「な、なんなのだ、いったいなんなのだ、それはっ!! おまえは、おまえは魔法が使えないはずだっ!!」

「ええ、わたしは、あなたたちのいう『魔法』は使えないですよ」

アフィーナの絶叫に少女は律儀に答えた。

「では、なんなのだ! 魔法じゃないというなら、それはなんだっ!! 《極炎槍》!」

両腕を掲げ、人造聖剣の拡張魔法演算領域まで使って構成した極大の火焔槍を射出する。

超音速にも匹敵する速度で迫る凝縮された火焔槍を見もせずに青白い焔翼が絡め取り、粉々に砕き吸収していく。

「名前で言うのならば『時空間事象制御機関』、由来を簡単にいってしまえば、かつて『神々』が使った『真の魔法』、あなたたちの使う『魔法』の原型です」

「ばかなっ! 我らの魔法に原型など――!」

「〝かつて、神々は陸を踏破し、海に潜り、空を自由に飛び回り、星々の海さえも渡っていた。何もないところから食べ物を、道具を造り、果ては人間さえも造り出した〟――古い古いおとぎ話です。むかし、読んでくれましたよね?」

 少女は変わらぬ笑顔のまま、アフィーナに同意を求める。

「そ、それが、なんだというのだ!」

「これ、神々というの以外は、ぜんぶ事実なんですよ? かつて、人類の黄金期にはそういうことが出来たのです」

魔装騎士の光砲撃魔法を、火焔の翼が一振りで引き裂き、吸収していく。ありとあらゆる属性の魔法弾が翼に弾かれ、切り裂かれ、吸収されていく。

「あなたたちが『魔法』といっているものは、その頃の技術が劣化したものなんです。それを隠すためにご先祖様方は『魔法』と言い習わすようにしたようですが、それだけに体系化もされず、研究もろくにしないで退化していったみたいです」

 少女が歩みを止めた。

四方から猛烈な掃射が続き、火焔の翼もまたせわしく動き回って防御する。それをどこか、めんどくさそうな雰囲気を醸しながら、四方の魔装騎士に視線を流し、こっくりとうなずいた。


「ふぅ、人が話しているというのに無粋ですね。もうNM(魔力変換)も充分溜まりましたし、魔法を受けるのも飽きました。――そうだ、ちょっとした剣技を見せましょう。」

いいことを思いついたかのように少女が云った。

 そうして片手にもっていた量産魔法剣を斜めに構えた。

その間も絶え間なくありとあらゆる魔法攻撃が加えられているが、ことごとく火焔の翼に阻まれて届かない。


ゆっくりと身体を捻り、構えた剣を身体の右後方へと引き絞る。


 少女が身体を捻っていくと、いかなる現象か、周囲の空間がみしみしと悲鳴をあげはじめ、大気が少女の周囲に尾を引いて渦巻き、鳴動しはじめる。

 踏みしめた足の下の石畳に亀裂が入り、蜘蛛の巣のように一気に広がる。割れた石の破片が浮き上がり、ゆっくりと宙を舞い始める。

「ちゃんと直撃は裂けてくださいね。――剣聖技〝極大暴風螺旋墜とし〟」


 技の名前をつぶやくように囁き、限界まで引き絞った剣を揮う。

 渦巻いた大気に剣先から放たれた強大な破砕衝撃波を乗せて、目標に襲いかかる。――四騎の魔装騎士に。

それをまともにくらった魔装騎士が、まるで紙で出来た人形のように手足をちぎられて轟音をあげて地面を転がっていく。装甲が砕け飛び散り、人工筋肉が引きちぎられてびちびちと地面を叩き、潤滑油がまるで血のように飛散する。

それでいて、胸部の操縦室はほとんど無傷だった。攻撃を受けた痕すらない。

手足のちぎれた巨人たちが地面を転がり壁や建屋に激突してようやく止まる。


 雨あられと撃ち込まれていた魔法攻撃が、止んでいた。剣聖技の余波だけで、騎士達が軒並み吹っ飛んでいた。死者が居ないのはさすがだが、大半の騎士は重傷だ。

防御魔法を構築していたレオン・ド・ゴルドや皇帝騎士、そもそも効果範囲に入っていなかったアフィーナが静寂に包まれた戦場に立っていた。サイレンが変わらず響いているが、戦闘の音は途絶えた。


魔装騎士や騎士達を文字通り鎧袖一触した少女は、残心の構えからゆっくりと剣を引き戻す。

剣技を放つ間も変わらなかった少女の笑顔。

それが逆に恐怖を誘う。

もはや戦慄などではない。純粋な恐怖が広がる。

皇帝騎士が一歩後ずさる。退いてはならない皇帝騎士が。


「……もう、終わりなのですか?」

 少女が、かわいく小首を傾げる。しかし誰も答えない。もはや絶望的な戦いなのだとようやく理解した。。


「あ、悪……魔……っ!!!」

 だれかがそんなことをつぶやいた。






夏コミにちょっと参加します。

それに関連して、ちょっとしたお知らせがあります。

詳しくは8月1日の活動報告をお読みください。

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