マジカル☆バニーと愉快な近衛騎士さんたち<2>
某所で感想をいただいたので続(以下略
2013/05/25 誤字脱字修正
帝国南方――メディタラニアン海沿岸 アルヘシラース市近郊
定期巡回休息所
「ふぅー」
夜間定期監視の帝国軍兵士がタバコの煙を吐き出す。
「暇だな……蛮族どもでもこねぇかなぁ~」
「だなぁ~。前に来たのは……半年ほど前か」
「俺、あいつらの船7隻沈めたぜ。すげえだろ」
「勝った、オレ8隻~」
「ち、負けたか。……あいつらってただ前進してくるだけだよな。バカの一つ覚えってやつ」
「だな。あいつら家畜と一緒だからな、考える頭もねーんだろ。勝手に繁殖して数が増えるしなー」
げらげらと下品に笑う。
「だなー。メスは人間様と同じだからいろいろ遊べるが、オスはいらねぇよな。テキトウに間引いてやんねぇと数が増える一方だしな。ああ、しっかし、こっちだと新しいメス捕まえるのもできねぇからな。あーはやく東方のほうに行きてぇな」
「ぼやくなぼやくな。あと一年我慢すりゃ、次は西方だからな。知ってるか、あっちの島のメスはすっげー胸がデカイんだぜ?」
「おほ、そりゃまたいろいろ遊べそうだな。……あー、巡回めんどくせぇな。はやく帰ってなぶりてぇ」
「おまえも好きだな。連れてきたのと毎日ヤってんじゃねぇか?」
ヒュルヒュルヒュル――
「いいじゃねぇか。こんな辺境じゃ他にすることねぇんだよ。――ん? 何の音だ?」
次第に大きくなる奇妙な風切り音。
次の瞬間、彼らは木っ端微塵になった。
【アフレカ海諸国群島連合イベリア半島方面軍総司令部】
「報告。第一艦隊第二分隊戦艦4隻は呼称第13号から第16号帝国軍監視所の完全破壊に成功。引き続きへアルヘシラースへの砲撃を開始」
「アルヘシラースへの上陸前制圧攻撃続行中。浸透偵察部隊からの報告では軍事施設の80%は破壊。引き続き市街地へのロケット弾攻撃が開始されています」
「全上陸部隊の移動は予定通りの座標海域に待機中」
「第一次補給船団はセウタ港より順次出港中」
次々と報告がなされ、卓上の戦況図に書き込まれていく。それは板に張られた精密な1/10000縮尺地図だ。海底地形、暗礁、沿岸地形のすべてが書き込まれいている。
それらは周到に準備されてきたものだ。
名も残っていない先人達が命を賭して測量し続けた沿岸部の精密海域地図だ。
自分たちが報われずとも、次の世代のために。次の次の世代のために。生まれるであろう子孫のために。
全てはこの大戦争――グランリア帝国殲滅作戦のために。
アフレカ海諸国群島連合全軍の六割を投入するという乾坤一擲の大作戦が、静かに着々と進行していく。
何十年にも渡って先人達の流してきた血で舗装された道を彼らは征く。
総司令官は腕を組み、無言で地図を眺めている。
「閣下。ジブラルタル作戦は全て予定通りです。懸念されていた戦艦の新型30cm砲についても問題は発生しておりません」
「そうか。帝国軍の反応はどうだ?」
「はい。沿岸都市マールベリャは静かなようです。飛行偵察隊からの念話報告によれば、定例行動以外の動きは未だないとのこと。また精密念話妨害についても、順調です。範囲10km以内の帝国軍念話回線の遮断に成功しています」
「その根拠は何か?」
「はい。浸透偵察部隊防諜班によれば、都市郊外12キロメートル地点での帝国軍の念話周波数帯域での魔力波動が確認できないとのことです。今までの観測からすると帝国軍の定時連絡まであと2時間、防諜部隊で偽装連絡準備を進めております」
「そうか。ならばそれはいい。新型の減音結界壁はどうか」
「同班からの報告では、遠雷程度に聞こえるとのことです。野外試験よりも良い結果ではないかと」
「いくつもの初の実戦投入兵器が懸念だったが、今のところ大きな問題はなしか。他に懸念材料は何かあるか」
「帝国軍の反応の鈍さが気になります。彼らも無能ではありません。伝令兵や魔法騎士などの強行突破、あるいは火災などの光を見て強行偵察部隊を出撃させる可能性が高いでしょう」
「主要街道に張り付いている浸透部隊が上手くやると思いたいな」
総司令官がそう締めて無言になる。
報告は次々と届き、状況が更新され、戦況図が刻一刻と書き換えられていく。
「状況報告。上陸前砲撃は予定時刻より15分の遅れ。上陸部隊現地指揮官より、現場状況に合わせて上陸順序を変更し、歩兵部隊が先行」
地図に置かれた人形駒が現状に合わせて移動させられる。
地図上に鉛筆書きのメモを置く。そこには艦名と装甲車両の数が記載されている。
「装甲車両輸送艦の1隻が浅瀬で船底を摺ったために浸水、全速力でこの沿岸地へ乗り上げました。引き潮に合わせて装甲車を下すとのことです。これにより装甲車両部隊の5%が明朝まで使えません」
「弾薬などを先に揚陸して軽くしでも動けないか?」
「現状では装甲車の喫水線をオーバーしているため、危険とのことです。幸い帝国軍の防衛陣地からも外れているため攻撃の心配はありません」
「仕方あるまい。何か手を打ったのか?」
「最小限の人員を残し、揚陸ポイントの構築をしています。翌朝の引き潮時に揚陸させる予定です」
「わかった。ほかはなにかあるか」
「このC-7区画で、民間人の子どもらしき人物と遭遇、魔法による攻撃を受けたため射殺したとの報告があります」
「事前布告の手続き通りに行った結果だな?」
「はい。手続き通りに事前警告を行ったところ、攻撃を受け負傷者が出たようです。」
「各指揮官にもう一度徹底させろ。事前に通行した通り、魔法を使って敵対してくる場合は子どもでも一切容赦するな。10歳以上は全員が魔法を使えるんだ、攻撃をしてきたら射殺しろ。これは総司令部よりの絶対命令だ」
総司令が改めて命令を下すと、昏い目をした副官がさらに檄をとばす。
「忘れるな、帝国のやつらのしてきたことを。戦場で父や息子が死んだのは我々も同じだ。だが、やつらは我々の家族を、母や妻や娘を浚って奴隷にし、殺してきたんだ。敵対するなら容赦する必要なぞなにもない。たとえそれが子どもであってもだ」
「了解。そのように通達します」
伝令兵もぎりっと歯を噛み締め、敬礼をして退室する。長い帝国との戦争状態にあり、親族に被害がない者など皆無に近い。
全軍が永きに渡る憎悪に身を焦がしながらも、それでも理性的に物事を進めようとする。
国民の代表、戦争の全権代理人として、誇りと規律ある軍人の姿がそこにあった。
☆★☆
フェテリシアがぺこぺこ謝り続けているその横、少し離れた屋根の上に騎士がふわっと飛びのってきた。
「まったく、バカどもが。こんなやつに醜態をさらしやがって、恥さらし共め」
彼がバカにしたように吐き捨てた。
「――仲間が怪我しているかもしれないというのに、薄情ですね」
謝るのをやめて、そちらを向いたフェテリシアは見知った顔をそこに認めた。
細い金の髪、白皙の肌、蒼い瞳をもつ整った容姿の美男子。
細身ながら鍛え上げられた身体に美しい意匠の白銀の魔法鎧をまとい、腰に華麗な意匠の剣を下げている。
フェテリシアは記憶からその名前を思い出す。
元幼なじみの青年――アーサー・バーカナン。
(……こんな性格だったかなぁ?)
少女は内心で首をひねった。もう少し好青年だったと記憶していたのだ。
彼女は知らない。
フェテリシアという剣の天才が帝国に居た頃、彼はなにかと比較されていた。
彼もまぎれもなくひとかどの天才であったのだが、それもフェテリシアという恒星の前では真昼の星にも似た扱いを受け、鬱屈する毎日だった。
それでも年下の少女にそれを見せない程度の自制心は持っていたために、彼女はそのことを知らない。
そしてフェテリシアが居なくなり、歯止めがなくなった。
彼を超えるほどの天才はそうはいなかったから掣肘出来る者もほとんどおらず、タガが外れたようになってしまったのだ。
「仲間だぁ? はっ、あいつらなんかと一緒にすんなよ。オレは世界最強の騎士だからな」
「……世界最強ですか。……剣聖とかいるような気もしますけど」
騎士団長のほうがまだ強いように見えたのだが、彼は自分が最強だと自信を持っている。ちなみにフェテリシアからすれば、どんぐりの背比べのレベルでしかないのでどうでもいいというのが本音である。
「あんなのはただの虚仮威し野郎さ。蛮族を100匹以上斬ってるオレのほうが強い」
「はぁ……」
フェテリシアはあきれた。剣聖はただの称号だが、会えば判るのだ。
実力のある騎士ならば、出会った瞬間にそれには勝てないと。
理屈ではない。敵にしてはならないと感じるのだ。
剣聖だから最強なのではない。最強であるがゆえに剣聖なのだ。
彼女は定期的に各国に表敬訪問しているため、帝国にも毎年訪問している。アーサーも会ったことはあるはずなのだが、この自信はいったいどこからきているのか。
「あんな偽物ヤローに会ったら、斬って証明してやるさ。オレこそが真の世界最強だってなっ!」
「うわあ……」
ぽりぽりと頭の後ろを掻きながら小首を傾げる。フェテリシアはかわいそうな子を見るような気分になった。
彼女の生暖かい視線はバイザーに隠されていて、他人にはわかりずらいが。
《斬っちゃっていいんじゃないでしょうか?》
《……あー、いちおう無用な殺生は控えるように云われてるしなぁ……というか第一位が聞いたら、首が転がっちゃうよぉ……》
ウィルが機密回線で進言してくる。フェテリシアは正直に言って困ってしまった。心情的にはもう放っておきたいのだが、このまま放っておくとろくでもないどころか確実に死ぬ。
無根拠の自信過剰な人間は《彼女》が一番嫌うタイプだからだ。
さすがに見知った人間が殺されるのは寝覚めが悪い。
どうしようかと無表情の裏で思考していると。
「ま、そういうわけだから、世界最強に斬られることを光栄に思えよ!」
「――うわっ!?」
一瞬で間を詰めたアーサーが剣を抜き打ちざまに片手逆袈裟切り。フェテリシは半身をずらして斬線からわずかに外れる。
そこで剣筋が変化した。剣身がそのまま角度を変え、横薙ぎ。彼女は前に踏み込み、くるりと回って彼の背後に立った。
「ほ、これを避けるか、ならこれはどうだっ!?」
魔法剣の魔法文字が青白く輝いて起動する。振り向きざまに十文字に切り払うと、斬線から青白い魔法刃が放たれる。
(避けるか――!?)
フェテリシアは一瞬迷った。
このまま行くと、隣の邸宅に被害が及びそうだったからだ。
しょうがないので、ステッキを振り回して魔法刃を打ち砕く。そのため、流れるように動いていた挙動が一瞬だけ止められた。
「――〝イースンシー流奥義《真・連風斬》〟」
アーサーは技名を静かに叫んで術式発動、ほぼ同時に八つの斬撃。
(まぁまぁかな?)
だが、フェテリシアにすれば充分に認識の範囲、なんのこともなく八剣撃を見切る。
しかしそこで終わりではない。
彼は構えを戻すことなく、肉体強化を全開にした瞬息の刺突攻撃。
これはさすがに大きく上半身を捻って避けて、彼の背後にすり抜けて距離を取る。
「あ、ちょっと怖かった……」
フェテリシアはおもわずつぶやた。剣筋を捉えていても怖いものは怖い。
「ちっ、避けるなよ! 生意気なっ!」
ひゅんと剣を振り払って、アーサーが怒鳴る。
「え~、避けなかったらイタイじゃないですか」
《だから、斬りましょうよ、こんなの》
いつもは温和なウィルが急先鋒になって、攻撃をする気がないフェテリシアは困る。
《……しゃーないなぁ、いちおう元幼なじみだし……ちょっと現実を教えてあげるか……はぁ……申請〝教導モード使用許可〟》
《〝教導モード〟使用許可、認証されました。――斬っちゃえばいいのに》
《まぁ、いちおう任務に差し障りあるから我慢してよ》
《――イエス、マイマスター》
明らかにすねた声色でウィルが沈黙する。
「はっ! ふんっ! くらえっ!」
機密回線会話の間にも金髪騎士の攻撃は止まることを知らず、怒濤の攻撃が続いている。
豪速の袈裟斬り、その返しからの逆袈裟斬り、さらに変化して首打ち薙ぎ……。
しかし、少女にはかすりもしない。ぴょんぴょん揺れる短いポニーテールはおろか、ふらふらしているうさみみにも。
そのすべての剣筋を見切っているのだ。
《〝教導モード〟設定完了》
《ん、了解》
軽く息をつくと、赤毛の兎装少女は一足で大きく後退して距離を取った。
アーサーは何かを感じたのか、追撃をしない。剣を正眼に構えて、油断なく彼女を睨んでいる。
フェテリシアはくいっと手首を返して、アーサー・バーカナン一等魔法騎士を挑発する。
「では、ちょっと教育してあげよう」
「――死ね、クソネズミがっ!!」
あっさり激高したアーサーが刺突の構えで超加速。それは秒速100メートルを超えた。
「うさぎさんなんだけどな、もう~。さて、まずは自分がどれくらい弱いか知ってもらうね~。はい、証明~」
その声と同時、ぱっきゃんっと音がする。
アーサーの端正な顔が歪み、身体をくの字に折り、剣を取り落とし、脚はひざかっくんの状態。
ほぼ同時にフェテリシアが拳打四発と蹴撃二発を打ち込んだのだ。強固な防御力を誇る魔法鎧は拳などで貫通することは出来ない。
しかし、〝徹し〟や〝寸剄〟と呼ばれる技術では、装甲された内側に衝撃を発生させることが出来るのだ。
それに加えて、彼女は接合部の隙間をぬって打撃を叩き込んでいる。
彼女の打撃を防ぐならば、魔法鎧よりも対衝撃性の魔導皮膜を施された戦闘服のほうがまだ有効だ。
アーサーが膝をつき、激しく痙攣しながら咳き込む。
フェテリシアは、くるりと背を向けて元の位置に歩いて戻る。
「な゛、な゛に゛をしたっ!!!!!」
濁った怒鳴り声。口の中が切れてぐちゃぐちゃになっていたのだ
「え? なにしたかわかんないの? ほんとに?」
「ギザマ゛-!!!!」
かわいらしく小首を傾げながら、楽しそうな声色で少女は問い返すと、アーサーが憤怒して立ち上がる。
「うーん、じゃぁもう一回 こんどは拳打だけにするよ? ほらほら、よーく見てね。カウントダウンするよ~3,2,1,はい、終了」
カウントダウン終了と同時にばっきゃんっと音がする。
今度はちゃんとフィニッシュブローの姿勢でいったん止まっていた。
一瞬で左右の頬にワンツーパンチ、ストレートにフックを織り交ぜて、ストマックブローでフィニッシュ。
「うげぇっ!!」
「きゃー、汚なっ!」
ボディブローに耐えきれずに吐き始めたアーサーから、フェテリシアは慌てて避ける。
アーサーは地面に転がって、げぇげぇと吐く。
「ああ、もうっ! 汚れたら大変なんだからね、この服っ!」
「ギザマ゛-!!!!」
殺意がこもった視線で睨み上げるが、吐いた後の汚い姿ではただ情けないだけだった。
「で、自分の実力判ったかな? 剣聖どころかボクにも勝てないよね~」
「バガな゛っ! オ゛レ゛は、ぜがいざいぎょうの騎士なんだ、負けるはずがねぇっ!!!」
「えー……まだ、わかんないのか。困ったなぁ、どうしよう……? 今のままじゃ剣聖に会った瞬間に殺されちゃうよ、そこんとこ理解してる? 弱すぎるよ」
うさみみ少女は肩をすくめてやれやれという風に首をふる。
「オレが、弱いだとぉおおおおっ!!! 鼠が、なめやがってっ!! ゆるさねぇ、絶対にゆるさねぇっ!!! オレの究極奥義をみせてやるっっっ!!!!!」
「はいはい」
もう、フェテリシアは彼の実力を見切っていた。
何をどうやっても自分を殺すことは出来ないと判ったのだ。となると、究極奥義とやらを見てもいいかなと軽く考えた。
「《我は無敵、絶対無敵の最強なり。天よ震えよ、地よ裂けよ、海よ割れよ! 我が名アーサー・バーカナンの名の下に――》」
「おい、バーカナン一等魔法騎士っ! それは都市内では禁呪だぞっ!!」
「うるせぇえええええっ! アレをコロすんだよっ!!!! 《――命ず。我が剣、聖剣エクスカリバーに万物を滅ぼす力を!!!》」
呪文と共に彼の魔法剣が黄金色に輝き始め、莫大な量の魔法文字が七重の円環になって回転を始める。徐々に高周波音が高まり、紫電が周囲にはしりはじめ、屋根材がはじけてぱらぱらと落ちていく。
「おー、なかなか……」
《魔力収束は悪くありませんね》
《ここらへんが最強と勘違いしている理由かなぁ?》
《バカですね》
《――ああ、うん。さすがに、元幼馴染とはいえ弁護できないなぁ。実戦でこんな大ぶりな技が使えるとも思えないけど》
この収束時間でフェテリシアでも二千回は殺せる。剣聖クラスなら万は超えるだろう。
「死ねぇえええ――!!! 究極魔法剣奥義《裁きの神光風》」
大ぶりに横薙ぎに揮られた聖剣から、極大の閃光が捻れて放たれる。
それは超戦術級、城塞破壊魔法に匹敵する威力の極収束された等位相光の奔流。
――聖剣エクスカリバー。
帝国建国期より伝わるその剣は、神が星の欠片を鍛え上げ、始祖皇帝に与えた神剣である。
それはあくまでも伝承だが、皇帝家に伝わる魔法武器の中でも最高ランクの超兵器であることは事実だ。
この剣は持ち主を選ぶため、騎士ならば一度は触れる機会がある〝選定の剣〟でもある。
剣に選ばれた者達は、ふさわしい騎士になるため猛訓練が課され、徹底的に鍛え上げられる。
そして、年一回開催される皇帝御前試合における優勝者が佩くことを許されるのだ。
そしてアーサーは二回連続で優勝している最強の一角であった。
エクスカリバーは魔法剣としても最優秀だが、それ以上に超戦術級魔法に匹敵する範囲攻撃が可能なことが聖剣と呼ばれるゆえんである。
アーサーはその範囲攻撃を収束する独自の技を作りあげた。
それがこの《裁きの旋風光》である。
鉄槌騎士ですらも一撃で叩きつぶすその究極魔法剣奥義がフェテリシアを襲う。
短いポニーテールのうさみみ少女は軽く息をすってーはいてー、すたんと軽い震脚。それだけで屋根が震える。
拳に真の魔法構成回路が一瞬で展開される。
それは黒い帯状の円環にみえた。極度に圧縮されているためにそう見えるのだ。
魔法陣の円環がゆっくりと回転を始め、そして。
「ほ~いっと!」
間の抜けた気合いで、拳を一閃。
極大の収束光を弾いた。
「――あ゛?」
アーサーが間の抜けた声を上げる。
城塞破壊級魔法に匹敵する威力の究極魔剣技がいとも簡単に弾かれて、空を駆け登る。
「いまのは〝教導モード〟じゃなかったら、ちょっと危なかったかも。具体的には服がダメになっちゃいそうだから、ちょっと乙女の危機」
「ふ、服だと……その程度だというのかよっ!?」
「えー、乙女が公衆の面前に肌をさらすなんてありえなーい」
論点がずれている、いや意図的にずらしている。フェテリシアはむき出しの肩を抱いていやいやをする。
完全にからかわれている――そう感じたアーサーは、怒り狂った。
「うぉおおおおおおっ!!!!!!」
彼は地面を爆発させながら、超加速――ほとんど瞬間移動でうさみみ少女の前に現れて、神速の刺突。
少女に剣が突き刺さる瞬間。
「ぐっ――な、に?」
腕が折れんばかりの衝撃に苦悶したアーサーは驚愕した。
「無駄に力はいりすぎ」
赤い兎装少女が剣先をつまんでいた。
聖剣の魔法力場がそれを排除しようと盛大に火花と甲高い音を上げているが、彼女の指には焦げる様子すらない。
彼女は手首をくぃっと返した。それだけで、アーサーは豪快に転倒しながら地面を跳ね転げた。身体バランスを崩されて、自分の力で跳ね跳んだのだ。
土煙が収まると、そこには無残に汚れた金髪騎士。
「あとなんで刺突するのに咆える必要あるの?」
フェテリシアは首を傾げて、聖剣をぶらぶらさせる。摘んだままもぎ取ったのだ。
真剣白刃取りですらない。
それの正体が少し気になっていた彼女は、ウィルに機密回線を通して命令する。
《これの演算機関にアクセスして》
《該当物の演算機関にアクセス――種別データベースにヒット、個人用環境制御フィールドの制御機関です。およそ600年前に大量生産されたものの一つですね》
《へぇ、600年前のものでもまだ動くんだ。危険なもの?》
《本来は危険ではありませんが、外部接続機器によりジェネレータのエネルギーを攻撃用に転用されています。外部接続供給ポートの機能凍結を推奨します》
《じゃ、暗号鍵をかけて機能凍結して》
《了解――4096桁の暗号鍵を設定しました》
設定の終わった聖剣をアーサーのほうに放り投げる。
「ひぃっ!!」
彼の眼前に突き刺さる聖剣エクスカリバー。
「……拾わないの? あなたの剣でしょう?」
小首を傾げて問いかける。だが、彼は拾えない。
彼は恐怖していた。自分の剣技がまったく通じない。
最強奥義ですら簡単に弾かれた。
それを拾ったら、殺される――。
「お、お前ら、なに見てんだよっ! 一斉にかかれよっ!!」
とうとうアーサーは恥も外聞もなく近衛騎士たちに怒鳴った。
うかつに手を出せないほどの戦闘で、周囲で見ているしかなかったのだ。
彼らは慌てて抜刀し、身体強化を発動する。
「なにがなんでもこいつを殺せよっ! 殺らなきゃ、オレ達全員降格どころか、いい嗤い者だぞっ!!!!」
「だいじょうぶだよ?」
なぜか少女が否定した。
「どうせ全員負けるんだから」
近衛騎士達は憤怒に燃え、無言で一斉に斬りかかった。
――7秒間だった。
「あ゛……な、にが……?」
アーサーは何が起きたか理解できなかった。
それは、ありえないはずの光景だった。
世界最強の最精鋭戦闘集団である近衛騎士が――壊滅していた。
赤いうさみみを風に揺らしている少女は、腕を広げてゆったりと立っている。
両手指に四本の魔法剣を挟み、周囲にはいくつもの魔法剣が乱雑に転がっている。
そして地に転がる近衛騎士――総勢16人。
全員が五体無傷。しかし立ち上がることすらままならない。脳震盪により体がまともに動かないのだ。
だが、フェテリシアは少し不満そうだった。
「7秒かかっちゃったかぁ~。6秒以内に終わらすつもりだったんだけど」
「ば、化け、物……!!」
青ざめたアーサーが悲鳴を上げる。目の前の光景が信じられなかった。
近衛騎士が、帝国の最後の守護が、世界最強の戦闘集団が誰一人立っていないのだ。
そして、それは息を切らすでもなく悠々と立っていた。
「失礼な。こんなにかわいいうさぎさんを化け物呼ばわりなんて」
フェテリシアは指に挟んでいた魔法剣をぽいっと放り投げた。
(さて、どう収集つけようかなぁ……?)
実はフェテリシアは困っていた。
派手に騒動を起こすのが今の役割だが、すこしやり過ぎている気がしないでもない。
そうして無表情に困っているフェテリシアの頭上に黄金色のきらめきが出現した。
複雑な模様を描く何重もの魔法陣。ごぉっと轟く排気音。
――巨大な人型が天から降ってきた。
轟音をあげ、膝を充分に曲げて衝撃を吸収して着地したのは銀色の巨人だった。
「おお~、魔装騎士だ」
フェテリシアが感嘆したようにつぶやいた。
『そこにいたか、鼠賊がっ!!!』
どこかで聞いた声が魔装騎士から降ってくる。
ゆっくりと見せつけるように巨大な剣を引き抜いて掲げた。
『近衛騎士である私になめたことしやがってっ! ああ、殺してやるぞ、この鼠賊がっ!!』
先ほど名乗りも上げずにどこかに転がっていった銀髪の騎士だった。
彼はとうとう魔装騎士を持ち出してきたのだ。
「わー、対人相手に魔装騎士もってくるって……なんて大人げない態度……でも」
あきれながらもフェテリシアは無表情なままどこか嬉しそうな声で続けた。
「ボク、いちど魔装騎士とは戦ってみたかったんだ~♪」
指を鳴らしながら、歩き始める。もうアーサーや近衛騎士達の方は一顧だにしない。
そうして魔装騎士の前まで進み出た。
『な、なめやがってっ!!! 潰してやるぞ、このクソネズミがぁあああああっ!』
巨大な剣が少女に振り下ろされる。
地を穿たんばかりの巨大な衝撃音。地面が爆発し、衝撃波で土煙が吹き荒れる。
少女はその大剣を片手で受け止めていた。
大質量の衝撃に地面がひび割れて、少女の小さな足形に陥没している。
『う、受け止めただとっ!!!』
「力任せじゃ、面白くないよ?」
驚愕した魔装騎士と平然としている少女。
動きを止めて会話をしたその瞬間、、膨大な量の光球が殺到、着弾して次々と大爆発を起こした。
《光球よっ!》《遙かな太古よりの盟約を守りて、我が名――》
アーサーが大量の魔法弾を撃ち込んでいく。
彼は簡易魔法術式の超短縮呪文を唱えていながら、同時に超戦術級呪文を詠唱している。
多重詠唱と呼ばれる高等技術を駆使し、簡易術式を連鎖起動させて大量の魔法弾を撃ち込みつつ、とどめの一撃の術式を構築しているのだ。
「おらおらおららおらっ!!! 死ね死ね死ねっ!!!!」
絶え間なく打ちこみ続ける。火焔が柱のように上がり、地面が溶解して溶岩のようになる。
そして超戦術級魔法の術式が完成する。
「これでとどめだっ!《来たれよ、天上の劫火、〝極炎乱舞〟》!」
アーサーの掲げた右手に魔法陣が回転、炎が吹き上がり収束していく。それは青白い火球となり、揮った腕に従って撃ち出され、爆炎を貫き、大爆発を起こした。
爆炎と巻き上げられた土砂と煙で、辺りが見えなくなる。
「ぎゃはははっ!! 死んだ、死にやがった!! なーにが、『弱すぎ』、だ。オレをなめるから死ぬんだよ、バカがっ!!! オレが負けるわけねーんだよぉおおっ!!」
轟々と燃え盛る炎と赤く熱され溶けた地面を前にして、アーサーは狂ったように嗤いつづける。
ちょうど区切りがよいのでここで終了です。
――「なろう」での更新はしばらくお休みしようかと思います。
詳細は活動報告のほうにて。(ちょっと愚痴っぽいので)