シェル編 9
アフターワールドでは船の移動は3時間で目的地に着くと決まっています。
体感する船の速さと地図上の距離は関係がありません。
もし冒険者が自力で作った船で海を渡ろうとした場合は、
実際の速度と距離が適応されます。
青空の下、赤い海鳥たちが猫のように鳴いている。
コンクリートの船着き場から見渡すだけでも、
中世のヨーロッパにいる気が、シェルはする。
町は高い壁に囲われて、
遠い丘の上には城があるのがここからわかる。
自然、案内役として前に出たセルスについて街中に入ると、
灰色の石レンガにカラフルな屋根の二階建ての家々が、
大通りの両脇に並ぶ。
広場のように噴水のある開けた場所で、
セルスは説明した。
「正面が宿を通って城に行く道。
こっちが図書館を通ってショッピングモールに行く道。
あっちは自警団と共同墓地。
あとは小さな露店と民家。
孤児院はないから、
里親は跡取りを欲しがってる露店を当たるのが無難かな。
なりたい職業は?」
シェルも隣のカーンを見た。
「お父さんが、
道具鑑定士だった。
多分」
「気味が悪いだろ?」
シェルが気にして読んでいた掲示板には、
『道具鑑定士募集、年齢不問』
の求人広告がある。
他にも求人はあるけど、
シェルも少し違和感を持った。
「雇ってもらうのに、
また発展イベントか」
「いや、
あんたまだ報酬を得てない。
行ってみよう」
求人広告を出していた、
民家を改装した小さな道具屋に3人で入った。
「いらっしゃい」
店主は老夫婦のようだ。
シェルは一礼して言ってみた。
「求人を見て来ました。
孤児なんですが、
住み込みで雇ってもらうことはできませんか」
老夫婦は顔を見合わせた。
「お前さんたち、
冒険者だろう。
孤児の面倒なんぞ見とるのか」
セルスが後ろで吹き出したのがわかるから、
自分のしていることが普通かどうか自信のなくなったシェルは、
自分を押し通した。
「頼めませんか」
老婆が、
細い目をして応えた。
「仕入れの輩から聞きましたよ、
セイレネスを倒してくれたって。
ようやくまともに品が揃います。
子供ひとり養うのは難しくないでしょう。
坊や、名前は?」
「カーン、です」
「何も裕福ではないけど、
厭う理由もありません。
ここでよければ店を手伝いなさいな。
ねえあんた」
「残す理由はないが絶やす意味もない。
ちょっと若いが、
まあええじゃろう」
ほっとしたシェルと、
何か台本のようなものを感じるシェルがいる。
老婆が店の奥から箱を持ってきた。
「うちのとっておきです。
人のいい人には備えが要りますでしょう。
持っていきなさいな」
シェルには痛い言葉だった。
「ありがとう」
シェルが受け取った箱を開けると、
手のひらに収まる小さな女性像があった。
天使のような羽を生やしている。
セルスが覗きこんできた。
「ありがたいね、
妖精の像だ。
壊れるまで何度でも、誰でも使える、
速攻休息がとれるアイテムだよ」
いまいち効果がシェルにはわからないが、
荷にしまっておいた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、
ありがとう。
ありがとう」
涙は台本には思えなかったシェルは、
かがんでカーンの小さな身体を、
上半身で包んだ。
セルスも一言かけておいた。
「恩を返せる人間になりなよ」
「うん」
老夫婦に微笑ましく見守られ、
手を振るカーンをあとに、
シェルとセルスは道具屋を出た。
少し空がオレンジ色を帯びてきた。
「妬けちゃうな。
あんた俺に微笑んでくれないよね」
微笑んだりしたら、
どこまでも入り込まれそうな気が、シェルは今した。
「あまり笑うのが得意じゃないんだ」
「そのくらいがいいのかもしれないね。
すごい人ごみだろ。はぐれそうなら」
セルスの、言葉と行動を少し考えてから、
本当に、はぐれてしまいそうなほどの人波だから、
シェルは黙ったまま、出された手と手を繋いだ。
急に近代的なアーケードのような通路から、
ショッピングモールの中に2人は入っていった。
住人にとって冒険者がどのような存在であるかは、
その冒険者がどのような冒険者と世界に設定されているかによります。
冒険者がプラス評価を受ける行動は、
・ダンジョンをクリアする
・イベントをクリアする
冒険者がマイナス評価を受ける行動は、
・現実世界で犯罪に当たる行為を住人に対して犯す
・イベントを途中放棄する(タイムリミットが各イベントごとに設定)
冒険者は王都自警団のブラックリストに一度載ると、
評価はマイナスから戻る事はありません。