シェル編 6
この話は「シェル編」ですので、
主にシェルの目線で冒険を描写しています。
彼女はセルスが持つ地図の世界大陸の配置や、
セルスが持つ他の装備品の効果や、
ダンジョンやパラレルの謎についてはあまり関心が向かない人のようです。
食事はセルスが荷として持っていたパンと水で済ませ、
異性と同じ部屋など気遣えず、セルスが気遣ったので、
疲れていたシェルはすぐにただ眠った。
翌朝セルスは、おはよう、と、
少し眠りすぎた彼女に笑むだけだった。
次は、シェルの装備を整えに、
中心の大陸にある王都へ船で向かうとセルスは言う。
船はこの町から出航しているようだ。
市場を抜けて船着場まで、
人通りがぱらぱらとある中、
セルスが左腕を捕まえた。
「たまにいるんだ」
捕まったのは、シェルに向かってきた子供だった。
反抗しても敵わないとわかったのか、ぶすっとして黙っている様子から、
この子供は自分の手提げの荷物を奪おうとしたのかと、今シェルもわかった。
「冒険者じゃないのか」
「ない。俺が知る限り全員成人からスタート。
母親の名前は?」
シェルには答えられない質問だ。
子供も答えない。
「孤児も継母も珍しい事じゃない。行こう」
「試すと言ったら悪いが、怪我を治すくらいいいだろう」
子供はこけたようなすり傷だらけだ。
セルスは軽くため息をついて手を離したから、
シェルは逃げない子供の目線までかがんで、
食べたばかりの青い魔法石の名を唱えてみた。
「トリムス」
治そうと、
意識した部分が痛い。シェル自身の身体がだ。
その予期しない傷みで一度やめかけたが、
それ以降途切れる事なく、
淡い青色の光は子供の全身を覆い、
シェルの痛覚は刺激されなくなった。すべて癒えたようだ。
「シェル、痛かっただろ?」
顔が歪んで方目を瞑りそうなほどだった。
「痛かった。
もう痛くないか?」
頷いた子供は、
無表情でシェルのワンピースの裾を掴んで引っ張る。
どうも、ついて来いと言う気らしいので、
シェルは理由を推測してセルスに言ってみた。
「まだ誰か怪我しているのかもしれない」
セルスは諦めたように軽く肩をすくめて、
シェルと子供に前を歩かせた。
ついたのは、墓地。
カーン、と掘られた墓石を子供が力を込めて動かすと、
開けられた空の棺の中には宝飾品、ネックレスと、
古ぼけた世界地図が2枚ある。
シェルにあげる、ということらしい。
空の棺。
生き埋め?
シェルが目で聞いたらセルスは応えた。
「アイテムがないと乗り物にも乗れないからね、
いろいろミニイベントみたいなのはあるらしいよ。
俺はここまで深入りした事ない」
シェルが聞きたかった答えではなかったが、
ミニイベント。
シェルは瞬きしながら考えて、
またかがんで、返事をした。
「人から盗ったものだろう、私はもらえない」
少し、
落ち込んだような子供の片手を、
シェルは取った。
そうしてもらえないと言ったネックレスを手に取るから、
セルスは思わず笑ってしまった。
「王都で里親でも探す気?」
「できない事かな」
「しようとも思ったことがないけど、多分できるよ。
船賃も足りる。
ただ俺は、
あんたと俺しか守れないからね。
発展イベントはよく戦闘を伴うらしいよ。
その覚悟ある?」
覚悟。
シェルの身体で本当に痛んだのは、
子供の服で見えないところばかりだった。
「なんとかしてみるよ」
「オーケー、俺も覚悟するよ。
行こう」
セルスは薄笑いのまま男の子の頭をぽんと叩いて、
歩き出した。
「名前はカーンか」
男の子は頷いた。
「私はシェルだ。
行こう」
何を思ってこの子は泣いているのか、
シェルにはわからないから、
何も聞かずに頭を撫でて立ち上がった。
気持ち微笑んでいるようなシェルと、涙を拭ったカーンは、
セルスについて行った。
この世界の謎を知り追うセルスは、
鍵かもしれないシェルにその解明を急かすことを避けているようです。
それは冒険はフリーシナリオであり何が正解か未だにわからないことと、
自分の目線で物を言うと彼女がどう反応するのか、
あるいは、
冒険当初の自分の目線とかけ離れた彼女自身はどういう人なのかを、
慎重に探っているためです。