シェル編 3
シェル編では、アフターワールドの基本的で健全な仕組みを体感する様子を、引き続きご覧下さい。
シェルは魔法を使った。
「ネラム」
シェルの目の前で地面から浮き上がり球状に固まった砂が、
ひとつの渦のすぐ上を通り過ぎ。
「ネスト」
出て来た虫が吐く液体は、離れているシェルには届かず。
「シルラ」
しぱっ、
と、セルスの剣のような重さはない刃が、
虫を縦二つに割いていた。
「お見事」
セルスは手をたたいてそう言うが、
顔は薄笑いのままだ。
「序の口なのか」
「初歩の初歩だね。雑魚片付けて様子見て逃げよう。倒してもいいけどね」
入り口は開いたままだ。
このフロアいっぱいにいる雑魚を片づけたら、何かが起こる、
それはシェルにも何となくわかる。
セルスはもう近くの虫から、
同じ要領どころか、三体同時に仕留めていく。
それが彼のスピードらしい。
シェルも自分を試す気でまた魔法を使った。
「ネラム、ネスト!」
複数の石を適当に放ち、円形に広範囲の砂を固めてみた。
捕まえた虫は、ざっと20匹とセルスは見た。
「竜巻のイメージ湧く?」
虫の触手だけがチロチロとあちこちで動いている。
気を抜くと砂が溶けそうな耳鳴りがする。
シェルには初めての経験だ。
「ゲームみたいなものしか。原理は知らないよ」
「やってみて」
竜巻。
「シルラ!」
風が円柱形に虫たちを取り囲み、それが中心に凝縮する勢いで、虫たちは裂かれた。
真ん中に風を集結させるときにシェルは手を握り歯を食いしばって体を縮めていた。
魔法は体力を消耗するらしい。
ほんの雑魚だ。
力加減はともかく、
セルスのイメージと違いより合理的な風による広範囲攻撃だった。
そう判断したセルスは、最後の虫を切った。
地面が揺れる!
二人を容易に飲み込むほどの大渦が発生!
冒険者二人の身長の三倍はある、巨木の幹のような虫が生えた!!
砂から目を守りながらそれを見上げていたシェルは、口が開いたままセルスを見た。
こちらにも驚いたからだ。
「装備の効果か」
流れる砂渦になった足場でセルスはシェルを抱え、渦の外に一足飛びで脱出していた。
並の脚力、体力と思えない。
見た目はボルゴの巨大版、そのままだが。
「そういうことだけど、俺こんなやつ知らない! っと、
げっ!!」
巨大虫が吐いた液体をセルスはよけたが、浴びた砂が蒸発した!!
「やっば、毒液じゃなくて消化液、
だ! 俺切れないよっ、
っと!」
上方からばらばら撒かれるから、セルスは動きっぱなし。
砂は溶けても渦で新たに流れ込むばかりだ。
虫を切ったとき液体が流れ出ていたのを、シェルも見ている。
毒液? よくわからないが、何にしろこのでかぶつのそれを浴びたら一溜まりもなさそうだ。
よって風で刻むこともできない。
剣を鞘に収めたセルスは回避に徹して上しか見ていられない。
また地面を蹴って、安全な場所へ飛び跳ねた。また。
液体を撒き散らすしか攻撃手段はないようだけど、こっちには攻撃手段がないかもしれない。
「本気でどうしようっ、
逃げようか?」
「焼くのは?」
その場合、中身の液体ごと蒸発させないといけない。
シェルは特別かもしれないが、セルスの知る限り、そこまで強力な熱量は
レベル2の火の魔術師でも無理だ。
「あんたの火力じゃまだ無理、
かなっ!」
土は溶かされるから使えない。なら…。
「溺死だ!」
「多分それが正解だ、
ねっ! お願い!」
水球。
「トラム!」
アフターワールドの魔法名は単純で覚えやすくなっています。
風属性が「シ」、土属性が「ネ」、水属性が「ト」で始まり、
続く言葉は同じ用途を示します。
「ラム」が球体の発生・発射、「スト」が防御壁というように。
「ルラ」は各属性特有の攻撃効果を持ちます。風ではかまいたち現象です。
用途を越えたイメージは実現できませんが、
用途を越えるかどうかは魔術師のレベルが上がる程曖昧になります。