シェル編 2
話が進むと、各主要登場人物の過去(一周目~)を外伝として投稿していきます。お気に入りのキャラを見つけてください!
「全然違う」
入ってすぐセルスはそう言った。
シェルに見える景色は、さっき登ったのと同じ長さの下り階段。
砂の地面以外何もない広いフロアに繋がっているようだ。
シェルからすればピラミッドの外観からして、何も妙ではない。
セルスは階段を下りようとしない。
「食べた魔法石の名前覚えてる?」
覚えているが、シェルの肩にも痣のようにローマ字で刻まれている。
「覚えているよ」
「用途は?」
「説明は覚えているが、シルラ以外よくわからない」
彼女が初めて使った風の魔法だ。
セルスに言われて、アニメか何かで見たかまいたち現象のように、
イメージをしながら名を言うと、
シェルのイメージ通りに、吹き付けた風が大木の幹を一筋にばっさりと傷つけた。
「ネストは瞬時にできあがるダイヤモンドより固い砂の盾と思って使って。
トストは同じく瞬時に纏える、液体から身を守る水球の壁と思って。
今攻撃はしなくていい」
「何かいるのか」
「雑魚は確実にいるよ、
渦巻いてるの見える?」
渦。
本当だ、僅かだが砂が、渦上に動いている。
あそこも。そこも。気づいたら渦だらけだ。
セルスはシェルを一瞥した。
そうして背中の鞘にある両刃の剣を、
慣れた様に片手で抜いて構えた。
「ついてきて。俺へのカバーはいいから、自分を守ってよ」
「わかった」
そう答えてついて行くものの、何も起きそうにはない。
階段を下りきった。
歩み出たセルスが一番近い渦に向け、
低い姿勢で剣を真横に空振りさせた途端、
芋虫に触手が生えたような生き物が渦から飛び出し、液体を吐き出したが、
セルスは身を翻してそれをかわしながらまた剣を素早く切り返し、
芋虫を二つに裂いた。
全長はセルスの腰程で細かったが、確かに皮や肉がある生き物を一刀で両断した。
切られた、死んだ虫の死骸は残らないようだ、残骸はふわりと消えた。体液も残らないらしい。
シェルは、セルスの剣と、セルスを交互に見た。
「鉄製か?」
「うん」
「重くないのか」
遠心力を使ったような早さだった。
「今の俺には適度かな」
安全と判断したのか、セルスはまた晴れやかな飄々とした顔になっていた。
持たせてくれるようなので、シェルは手渡しで受け取ったつもりが、
剣先が一気に下を向いて砂に刺さった。
両手で柄を持つと少し、浮いたが、シェルにはとても振り回せそうにはない。
セルスはまた片手で切っ先を天井に向けた。
「何の力だ?」
セルスは特別筋肉のある外見をしていない。むしろ細身だ。
「経験値っていう現実にはない概念と、これも現実にはない、装備品の効果。
結構レアものなんだ」
両腕にある揃いの腕輪が、らしい。
「さて、あんた攻撃しなくていいって俺言ったけど。
今のボルゴっていう虫なんだけど、倒し方のコツわかった?」
コツ。
誘い出した虫は何かを吐いてすぐ渦に戻ろうとしていた。
それだけセルスの動きは素早かった。
「ネストで土を、固めて固定して、風で刻む」
「何で誘う? 身体じゃさせないよ」
運動ができるほうとは、階段を上り下りした後のシェル自身が思えない。
あとシェルに使える魔法は…。
「ネラムで石を投げる」
「オーケー、やってみて」
シェルは渦の前に立った。
まだまだ冒頭部分、世界設定や登場人物は増え続けます。