第三話
「かつて地中海には、あたり一帯を支配する強大な帝国があった・・・」
西洋史の先生は、古代ローマの歴史について、熱をこめて語りはじめた。
だけど・・・、先生には悪いが、俺は先生の授業をまじめに聞く気は無か
った。
だって、授業に出席している生徒は、ほとんどいないんだもの。こんな
状態で、真面目に授業をうけるのは、はっきりいってしまうと、馬鹿らしく
感じた。
「なあ、アーマド。夏休みに、海に行かねえか」
俺が座っている席の右にいるアリーが、俺の肩を叩いて言った。
「海・・・いいなー。僕も行きたいな」
俺の左にいるフローラが、俺とアリーの顔を見て言った。
「はい、はい。私も、行きたい」
フローラの左にいたマルヤムが手を挙げて言った。
「こいつらは、海に行きたがっているようだが、お前はどうなんだ?」
アリーは、俺の目をじっと見つめて言った。
・・・アリーに言われて、俺は、考えた。・・・確かに、この暑い季節に
海に行くのは、気持ちがいいだろう。・・・反対する理由は無さそうだな。
「いいね。是非ともいきたいよ」
俺の言葉を聞いて、アリーは、にっと笑った。
「よし、なら決まりだな」
昼休みになり、俺とフローラは、大学の近くにあるメキシコ料理屋で、タ
コスを一緒に食べている。
「アーマド。海、楽しみだね」
フローラは、目を輝かせて、うれしそうな顔をして言った。
「そうだね」
「海には、何を持っていこうかな・・・。とりあえず、日傘は持っていきた
いな。・・・アーマドは、何か海に持って行きたいものはある?」
「俺は、酒かな?」
「アーマドは、お酒が好きだもんね」
「海では、俺だけでなくみんなと一緒に、酒を飲みたいんだけど・・・、そう
いう場合、どんな酒を持っていったら、いいかな?」
フローラは、俺の言葉を聞いて、しばらく考え込んでいたが、やがて、口を開
いた。
「シャンパン何か、いいんじゃない」
シャンパンか・・・。悪くないな。
「それは、いいね。海には、シャンパンを持っていく事にするよ」
「それでそのシャンパン、アーマドは、持っているの?」
「持っていないから、食べ終わったら買いに行こうと思って」
「そうなんだ。なら僕と一緒に買いにいこう」
俺とフローラは、酒屋の中に入った。
「いらっしゃい」
キリスト教徒の酒屋の主人は、俺とフローラの顔を向けて言った。
「一番安い、シャンパンをお願い」
「一番安いシャンパンですか・・・、それならこれがおすすめですけど・・・」