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 紅い靴が欲しかった。

 おろしたばかりの洋服に映えるような、そんな紅い紅い靴がほしい。

 

「そんな事言ってると、異人さんに連れていかれてしまうよ。」

 私があまりにもうるさく騒ぎ立てたせいだろう。冗談混じりに姉が言った。

 

 紅い靴を履いてた女の子。異人に連れられて行っちゃった。

 

 よくラジオから流れる歌。

軽快なメロディーのくせに、どこかもの悲しく、歌詞が怖い。

「それでも欲しいの」

 姉の一言で、紅い靴への得体の知れない恐怖が襲った。

 だが、私は紅い靴を履いた自分の姿を想像してにやにやと笑う。

そう考えるだけですごく幸せな気持ちになれた。

 

 紅い靴を履いた私は、大人っぽくて、なんて素敵なんだろう。

 

 紅い靴が欲しい。

 

 昼間、みんなが広場で遊んでいる中。

私は一人で、広場から近い川沿いの草原に向かう。

そして座りこんで、ただ空を眺めてぼんやりと、妄想するのが好きだった。

 そんな日が、何日か続いたある日。

「何をしているの?」

 鈴のような可愛らしい声が、いきなり私の鼓膜をくすぐった。

「え…?」

「こんにちは。」

 驚いて振り向くと、そこには白い肌に、キラキラと太陽のような髪の毛の女の子が、私を見下ろして立っていた。

「きゃ…。」

 彫りの深い顔。

 幼心に『こわい』だの『気持悪い』だの思ってしまった。

 知らずに私は、彼女を拒絶してしまっていた。

「驚かせてしまったみたいね。」

 私達とは全く違う容姿。

 それなのに、喋る言葉は私と同じ。とても流暢…。

 彼女はくすくすと笑いながら、手にある傘をくるくると回した。

「何をしてるの?」

「あ…。」

 見慣れない少女。見慣れない人間。

 私は緊張してしまい、うまく言葉が出て来ない。顎ががたがたと震えた。

「空を…。」

「ん?」

「空を見て…。」

 かたかたとかち合う歯。自分でも、今何を言ったのか、いまいちよく分からなかった。

「空?」

 だが、彼女は私の言葉を聞き取ってくれていた。

「う…ん。」

「そっかー。空見てたんだ。」

 自分は馬鹿だと思った。

 彼女は、にこにこと私の顔を覗いた。

 くるくる動く表情は、とても活き活きしていて、なんだか可愛い…。

「うん。」

 違う…と、何故か言えなかった。

別に空なんか見てやしない。私はただ、靴が欲しいと思っていただけだ。

 私はつい、うなだれた。

「うわぁ…。」

 自分の彼女が声をあげた。

 何事かと思い、彼女を見てめる。

 彼女は空を見上げていた。

「すごい青空…。」

 言われて、彼女の視線の向こうへ、私も目を向ける。

「本当だ…。」 

 このまま上を見続けていればよかったのだ。

 

 首が疲れてしまったので、私は首を回した。視界も回る。回る回る。

 彼女の白いスカートが風に揺られる。

 その時、私は見てしまったのだ…。

「あ…。」

「ん?」

 

 紅い靴。

 

 白くて細い彼女の足に、紅はとても際立って美しかった。

「いいなぁ…。」

「え?」

「すごい…似合ってる。」

 彼女は、困ったように眉を寄せたが、すぐに微笑んで

「ありがとう」

と言った。

 色んな事を話した。

家族の事、学校の事、自分の事。

話してみると、話題が豊富で楽しかったし、とても話し易かった。

 羨ましい。彼女は私が持っていない・とても欲しい多くの物を持っている。

 羨ましくて、妬ましかったが、それでも私は彼女といるのが楽しくて仕方がない。

それからと言うもの、広場で遊んでいる友人の目を盗んでは、彼女へ会いに行った

 

 彼女と私は、仲良くなった。

 

「可哀想にね」

「あぁ、あの子…?」

「そこの女郎屋の孕み子なんだろう?」

「おぉ怖い。」

「母親も酷なことを…。」

「別にいいじゃない。どうせ私達とは違うのだから。」

「確かに。あの面相じゃあ。」

「アレは鬼子じゃ。」

 

 彼女は異人なのだ。

 

 ある日、私は見てしまった。

 母のお使いで町に出た。玉葱とにんじん。丁度もらったものがキレてしまったようだ。

「あら?」

 一目で分かる、その髪色。太陽の光が揺れて、キラキラと綺麗だった。

「おーい。」

 私が呼び掛けるも、彼女は気付いていないのか、路地裏に消えてしまった。

「気付かなかったのかな?」

 呑気な私はそう考え、彼女の後を追った。馬鹿な子だったのだ。私は。

 路地裏の、さらに奥まった所に小さな小屋があった。

そこには父親らしき人物がいて、彼女は頭を撫でられ、指で顔を上向かせられていた。

 今更、言葉をかけられる雰囲気ではない。私はそっと立ち去ろうかと踵を返した

 いつも笑っている彼女の顔から、笑顔が消えているのは気にはなったが。

 その小屋から、いつも二人で遊んでいる河原は近かった。歩いて五分ぐらい。

 待っていれば彼女はやって来るだろうか?

 そんな考えで、私は彼女を来るのを待っていた。

しかし、太陽の位置がかなり変わってしまったのにやって来はしない。

 今日は来ないのだろうか?

 私は、腰をあげて、様子を見に小屋へ近寄った。

 近付くにつれ、悲鳴のような声が聞こえた。私は何事かと焦り、窓から中を覗いた。

 

 室内は暗く、目がなれるまでに時間がかかった。 

 その間も、彼女は悲鳴をあげていた。

 

 

 違う。悲鳴じゃない。

 

 

 暗さに目がなれ、彼女の白い足と、猿のような男の体が見えた。

 

       

 暗闇の中で、彼女は踊る。

 鈴を転がしたような甘い声。

 横になって震えながら。彼女の足だけが宙を舞う。

 彼女はただひたすら、踊り続けていた

 呆気にとられて眺めていたら、彼女と目があってしまった。

「嫌だ…。」

 私の顔を見て、泣きながら言う。

「見ないでっ!!」

 私はその場から走り出した。

 

 弱い私は逃げたのだ。

 馬鹿な私は逃げてしまったのだ。

 

 次の日河原へ行っても、彼女の姿は見掛けない。その次の日も、その次の日も。

 私は一言誤りたかったのに。

 

 紅い靴が欲しいと思わなくなった。

 

 彼女がいなくなって随分たつ。彼女は今、何をしているのか。

 元気でいるだろうか?

 

 彼女は異人だったのだ。

 

 知らない人間に連れて来られた

 

 彼女は異人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い靴をはいて踊り続けた少女は、絞首刑の役人に、足を差し出してこう願ったそうだ。

「どうか私の足を切ってくれ」

 と。

 

 

完。 


童話『赤い靴(だっけ?)』を読んで、絞首刑の役人が少女の実の父親なら、なんだかロマンチックだな〜とか思ったり。

暗い話を書くのが好きなようです。

わけの分からない話をかくのも嫌いじゃなかったり。


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― 新着の感想 ―
[一言]  掲示板からやって参りました、でん助です。  後半部よくわかんなかったんですが、甘い声をあげて、踊っていたっていうのは、つまり……? アレなわけですか? あれ? 違う?  作中ラストですが…
2008/04/28 15:31 退会済み
管理
[一言] 余計な表現がなく、すらすらと読むことができました。 あの場面を『踊る』と表現したのがうまいなぁ、と。
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