ステータスの違いが戦力の決定的差ではない
「あの分身体、どれくらい強いと思う?」
「少なくとも本体より強いことは無いでしょ。」
「それもそうだな。」
初っ端から分身持ちのボスを配置するのヤバいな。推奨人数が四人なだけはあるな。
それはそうどう立ち回ったものか…
「どうする?」
「分身体をお願い。私は本体相手にするから。」
「了解。」
一対二か。まぁなんとかなるだろ。ここからは予測だ。多分分身の数はこれ以上増えない。推奨が四人ってことは二人が分身を一体ずつ相手にしながら残りの二人が本体を相手にする想定なんだろう。
分身体(1)が襲ってくるがそれを軽々とよけ続く分身体(2)に「ナックルインパクト」を当てる。ナックルインパクトは衝撃掌と違い、確定怯みはないがその分威力はこっちのほうが高い。シンプルかつゲームに序盤によくあるスキルだ。
レベル的にもステータス的にも相手のほうが高いため、スキル無しの攻撃はそれほど決定打にはならないだろう。だからといってスキルを無駄に使いすぎると再使用待機時間だらけになり敗北するかもしれない。つまるところ、相手の隙を確実に見分けながらその隙にクリティカルでスキルを当て続けるのが最も最適な行動というわけだ。ハッキリ言ってかなり面倒くさい。
(本体が倒されれば分身体も消えるだろうけど……せっかくならアッチより先に倒したいよな!)
彼が戦っているのは何もモンスターだけではない。双子の妹相手にも常にライバルの意識を持ちながら生きてきた。その意識故にクロトは、どんな面倒な条件も挑戦しようというとする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どっちを相手にするかの相談をした直後、本体が私に向かって、分身体達が黒に向かって攻撃を仕掛けてきた。どうやら向こうもそのつもりだったらしい。攻撃を剣で弾きながらバックステップで少し距離を開け体勢を立て直す。
黒が分身体二体を相手にするからここからは助太刀は見込めない。実際本体一体を相手にするより近い強さの分身体を二体相手にするほうがきつそう。
「まずは様子見が安牌かな。でも…」
分身体が影から出てきた以上、本体以外にも気を付ける必要が出てきた。それはつまり影を用いた攻撃手段を持っているということ。影を攻守に使うのか、こっちの行動阻害に使うのか。もしくは分身体をもう一体出してくるのか。まだ分からないことがある。その為慎重に立ち回る必要が出てくる。
だからといってこのままだとジリ貧になるのは確実だ。武器の耐久力はまだ余裕があるが長引くと不利になるのはこっち。つまり、あまり時間はかけれない。ならば取れる選択肢は一つであろう。
「……少し、集中しようかな。」
そういった直後、ハクアの眼には本体しか映らなかった。そのことに気づきようもない本体は影に潜り込み、ハクアの背後に襲い掛かる。襲撃の大虎の影移動による初見殺し。多くの初心者プレイヤーがこの攻撃により敗北してきた。だが
(影の中に消えた。次来るとしたら…背後。)
短時間の思考直後に、背後のハクアの影から出現した本体相手にドンピシャで「ピアッシング」を当てる。
「グルルアァァァァ!!!」
確かな手応え。ピアッシングは名前の通り、相手に刺突するスキルだ。当然攻撃が当たる場所によってダメージの倍率も変わってくる。今回は手応え的にも上手いこと腹の真ん中に当て、相手の体力を大きく削れただろう。怯み、生まれた隙に間髪入れずに追撃する。スキル「追双刃」起動。効果はに双剣で攻撃する際に攻撃力を上げるバフスキル。そこに乗せるはスキル「スラッシュ」。
シンプルかつ使いやすい斬撃スキル。されどバフとクリティカルを乗せた斬撃は確かな効果を示し、相手の体力を半分以下のへと持って行った。
(この手応えだと相手の体力、そんなに高くないのかな?)
「なら、早いところケリをつけようかな。」
「グルルルルルゥゥゥゥ!!!!!!」
その言葉に呼応したのかどうかは分からないが、襲撃の大虎は怒りの眼を露にする。そして、
「ガルウォォォォォォォォン!!!!!」
高らかに咆哮をする。襲撃の大虎は体力が半分以下になると分身体を取り込み、本体のステータスを上げる「強襲状態」になる。この状態になると、防御に一切のステータスを振っていないプレイヤーは一撃で倒される。当然ハクアもその対象だ。だが……
「何も起こんないね。」
不発に終わった。その理由は簡単だ。
「しゃあ!残り一体!」
クロトが分身体(1)を倒し、分身体(2)の体力を大きく削っていたからだ。強襲状態に移行するには分身体の体力を吸収する必要がある。その為分身体の体力が少なかったり、倒されたりしていると行動が失敗するのだ。そして行動に失敗すると一定時間弱体化するという弱点を持っていた。つまり……
(さすが黒。でもこのままだと先に倒されてそのあと煽られそう。)
「それだけはマジでむかつくからさっさと終わらせる。」
スキル「剣術基礎・力」と「追双刃」を起動、並びに再起動。更に、
「【ウォーターベール】。」
詠唱により魔法【ウォーターベール】を発動し、今使える最大のバフ効果を得る。先駆けに【エアリアルカッター】を発動。風属性の斬撃を飛ばす魔法。威力はそこまで高くないがバフにより底上げがされているため、確かなダメージを与える。攻撃を受けてなお反撃を試みる本体だが、それを読んでいたハクアの「カウンター」により、失敗。そして……
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作戦通り、クソ面倒な行動を続け気づけば残り一体。されど受け主体の俺のビルドだと体力の消耗も避けられない。お互いに残りミリ体力。白のほうもそろそろ決着がつきそうだ。だったら怯んでる場合じゃねえよな!
「こっちもケリつけてやるよ!やってみたいこともあるしな!」
勇気か蛮勇か。そんなのどっちだっていい。この場で勝てば関係ないんだからな。
「武道の構え」起動! 拳と脚を使用した攻撃に対するバフ効果。相手も突っ込んでくる。バフスキル起動分、相手のほうが攻撃に早く転じることができる。
「だが!」
「衝撃掌」起動、相手の爪によるひっかき攻撃にぴったりで合わせる。攻撃同士が拮抗するとどっちが勝つと思う?当然ステータスの高いほうだ。そのままの俺だと反撃しきれずに攻撃を喰らっていただろう。だがバフによる強化を得た今、僅かだがお前のステータスより俺のほうが強い!衝撃掌が反撃に勝ち、直撃。効果により相手に確かな隙が生まれる。そして、
「ストライカー」と「竜爪・切」を同時に起動する。その結果、二つの効果が脚へと集約し、黒が蹴り切る。避けることのできない相手に対し、バフ効果に加えて二つのスキル効果が乗った蹴りは、残り少なかった分身体の体力を削り切り……
全くの同時に、放った白の「スラッシュ」により本体の体力を削りきったのだった。
・襲撃の大虎
最初の街、アインスベルから二つ目の街ツヴァイデルの間にあるエリア「徨いの深緑叢林」のエリアボス。基本的な攻撃方法は牙を使った嚙みつきや爪によるひっかき攻撃、そして影に潜る瞬間移動の三つがある。ボスではあるが体力自体はそこまで多くない。このモンスターの最も特徴的な能力は、戦闘開始から約一分後、自身の影から二体の分身体が出現するところにある。分身体の強さは本体の約四分の三程度で攻撃や敏捷のステータスが本体より低い代わりに、防御力が高くなっている。この分身体は基本的に二体同時に行動するがこの同時というのは同じターゲットを狙うだけであり、攻撃方法はランダムとなっている。その為攻略の推奨人数は4人となっている。また本体の体力が半分を下回ると分身体を吸収し自身の強化をする「強襲の咆哮」を使用、「強襲状態」へと移行する。この「強襲状態」では攻撃、防御、敏捷の3つのステータスに補正が入る。しかしこの技は分身体の体力が半分以上残っている時のみ使用が可能なため、分身体が二体とも体力が半分を下回っていると失敗し、弱体化する。




