第四話 終話
「うおおおおおおお! おやぶううううううん!」
砂化嵐から少し離れたところ、待っていたカンナの車両群と合流した。早速中から完全防備の男たちが現れて、ゴーグル越しに涙を拭いている。
ぶっちゃけ拭けていないことは見ればわかったが、突っ込む気力はなかった。
カンナに肩を貸して、近くの男に渡した。
「泣かない! ちゃんと私は生きてたんだから!」
先ほどまでの弱気なカンナは消えていた。それでも体力はギリギリだったからか、深くせき込んでいる。
「砂化しかけたからしばらく安静に。カンナに無理させたら、崩れちゃうかもだから」
「へい! 姉御!」
並んだ男たちが、声を合わせて敬礼した。
「誰が姉御だ!」
「そうよ、こんなやつを慕うな! リーダーは私よ!」
二人の突っ込みに、男たちは笑う。
カンナは大きくため息をつき、ネイルは肩をすくめた。
「──それで」
しかし、カンナのワントーン下がった声で、空気が豹変した。
ネイルも何を言いたいのか察して、口を閉じる。
「一人巻き込んでしまって、その上助けられなかった」
よろける体をなんとか自分で支えながら、男たちに向かってカンナは頭を下げた。
彼らは顔を見合わせて、困った様子だ。
「これは完全に私のミス。罰なら何でも受ける。ごめんなさい」
その言葉の重みを受け止めながら、それでもなお男たちは笑っていた。
「正直、悲しいですよ?」
「でもさ、笑って過ごしたほうがあいつのためになると思うんすよ」
「そうっす。それに親分に真剣さは似合わないっすよ!」
湿っぽい空気を吹き飛ばす豪快な笑いに、カンナの額に青筋が浮かんだ。
「人が真剣に話してる時くらい、静かに聞けー!」
そして、笑いが周りを包み込む。それは砂の音さえ押し返した。
これが彼らがこの世界で生きていける理由で、原動力なのだろうとネイルは小さく息をついた。
こういう人間関係もあるんだねと、苦笑を浮かべる。
やかましい声を背にしてネイルは車の中に乗り込んだ。
「ネイルー!」
エンジンをかけると同時に、カンナの声が聞こえた。
「次会ったら、絶対倒してやるから!」
「いや、懲りなよ!」
「懲りるわけねぇでしょバーカ!」
それでこそカンナだなと笑みを浮かべてから、アクセルを踏んだ。
砂を巻き上げながら、ネイルは目的地へと発車する。
※※※※※※※※※※
「さすがだね。今回も助かったよ」
兄弟コロニーの艦長が、ネイルを迎え入れた。握手を躱してから、部屋の椅子に座る。
「安心安定のネイルだね」
「そう言ってくれるとうれしいんだけど……」
ネイルにしては歯切れが悪く、頬をかいていた。その様子を見て、彼は首を傾げる。
「何かあったのかい? 第二危険域なんて行き慣れてるでしょ?」
「私だけならね」
その言葉に、彼は首を傾げる。
そんなことを気にする様子はなく、ネイルは大きく伸びをした。
自分の生活には不満はない。これからも変える予定もない。
しかし、少し考え方くらいは見直してみようかなとは思えた。
頬杖をつくネイルの口元には自然と笑みが漏れる。
「じゃあ、こちらは契約通り、一ヶ月の安全は保証するよ。あと、君の愛車も修理しておくね」
「うん、ありがとう。助かるよ」
──砂化した世界でも、人間たちはたくましく生きていく。




