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第三話

 第二危険域。それは、旧型のシールドならば砂化を免れないほどの場所。

 太陽は閉じて、光が届かない。


 異様なのはそこだけではない。


 光が閉じることによって、急激に気温が落ちる。息が白くなるほどだ。


 ヘッドライトをつけて辺りを照らす。砂の嵐の音は、聞こえない。不気味な静けさが空間を包んでいた。

 大体の人間は、第二危険域に入ってしまえば生きては帰れない。しかし、ネイルは違う。何回もショートカットをするために侵入し、生還を果たしている。

 彼女の車のシールドも、数時間程度なら活動できるようになっていた。


──問題は。


 後方を確認する。カンナが乗っていた車両が消えていた。やっぱりかと、頭に手を置く。


 もう一つの現象。──第二危険域に入れば、別場所に飛ばされる。

 それは暴風の壁を突き破ることによって起きる現象。一瞬で飛ばされることから、人間はどこかに瞬間移動したと錯覚する。多くが生還を果たせないのは、ここにも起因する。


 当然、ネイルの車はその対策を施している。だから、カンナの車にぶつかって飛ばされないように試みた。しかし、それは無駄足だったようだ。


「あーもー! 面倒くさいことになった!」


 怒り任せにハンドルを叩く。クラクションが、ネイルの気持ちを代弁するかのように辺りに響き渡る。


 カンナの車が第二危険域に対応していればいいのだが、飛ばされたところを見るとそれはないだろう。


 ため息をつきながら、左手についた腕時計を確認する。

 前世代の車が残るのは三十分前後。さらにそこから、人間がこの領域で生きれるのは三十分前後。つまりタイムリミットは、一時間。


 タイマーをセットして、大きく息をついた。


 コロニーの人間なら、生存確認のためのビーコンが支給されている。それを辿ればある程度の位置を絞り出すことはできる。

 しかし、略奪者のリーダーであるカンナには、そんなものがついているわけがなかった。


 ダメ元で生物探査用のソナーを打ち込んだ。

 車を中心地点として、半径百メートルほど。引っかかれば幸運だったというレベルの狭さだ。


 当然、一回で反応あるわけがない。ついてるモニターには、何も映し出されていなかった。

  ゆっくりと車を前進させて、もう一度打ち込む。これを地道に繰り返していく。


 何の成果がないまま、時間だけが過ぎ去っていった。


 タイマーは残り五分を切った。諦めかけたその時、ソナーに反応が一つ引っかかる。

 その地点まで車を寄せて、懐中電灯を片手に車外に出た。


 打ち付ける寒さと風の痛みが、体中を刺激する。防塵用の装備を着けているのに関わらずだ。

 もし、生身のまま第二危険域に入ったらと想像すると、ゾッとしない。


 足跡をつけ、ソナーの引っ掛かりがあった付近に光を照らした。


 砂に埋もれる何かが光った気がする。焦ってはだめだと心に言い聞かせて、ゆっくりと近づいた。


 砂に埋もれていたのは一人の少女。懐中電灯の光に反射するのは茶色いツインテールの髪であった。顔は思った以上に幼い。年齢はネイルよりも三つ以上は下ではなかろうか。

 彼女の肌には砂化の兆候が現れ始めていた。血管が少し浮き上がり、ひび割れを起こしている。


 薄く目を開けた。瞳は濁ったように揺れ、青白い唇は震えている。


 ネイルは砂から彼女を掘り起こした。想像以上の小さな体を背負って、車へと戻った。


「どうして……?」


 声にはあの元気だったカンナらしさがない。ただ、弱々しい一人の女の子だった。

 そんな彼女を、後部座席に座らせる。


「曲がりなりにも知り合いだからね。見捨てられないよ」


 安心させるように笑顔を作って、彼女のシートベルトを締めた。


 運転席に戻って、アクセルを踏む。車の振動が、身体全身に伝わってくる。

 セットしていたタイマーがちょうど鳴り響いた。


「あの、私の車に乗っていた仲間は?」


 その問いに、確かに拡声器ではもう一人の声がしていた。

 思い出し、黙る。


「……そっか」


 納得していたような声を漏らしたが、彼女は嗚咽を漏らしていた。


 困ったなと、ネイルは頬をかいた。そして、心の中で大きくため息をつく。


──だから一人が気楽なんだと。


 後部座席で震えるカンナの息遣いを聞きながら、車を運転する。ボンネットについている観測用の旗はなくなっていた。

 フロントガラスの端が少しだけヒビが入っている。コロニーについたら、要修理だなとため息をついた。


「……いつも、こんな道通ってるの?」

「いつもじゃないよ。本当に緊急なときだけ」


 その緊急なときはかなりの頻度で起こるわけだが、それは言わないことにした。


「……第二危険域がここまで恐ろしいとは思わなかった」


 強気だった彼女の声が震えている。

 それはそうだ。

 寒さも痛さも尋常ではない。車もなくなってしまうほどの異常。体が蝕まれていく痛さ。一度味わえば、トラウマとなる。


 しかし、弱っているがカンナの言葉の芯はしっかりしていた。そして何より、最初に出てきたのは自分よりも仲間の心配だ。

 やはり、はぐれものをしているだけの度量はあると思う。


 そうこうしているうちに、砂の膜が薄くなっていく。大きな揺れが、第二危険域と第一危険域の境目を通ったことを示唆していた。

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