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第一話

 防塵マスクに砂避けのポンチョ。ゴーグルをつけた少女が、立っていた。

 移動型巨大コロニーと言われる鉄の怪物の船首付近で、黒髪を靡かせる砂塵を感じる。


「おい、ネイル! そこにいるとシールドの邪魔になるから下がれ!」

「えー!? 聞こえなーい!?」

「どけって言ってんだ!! この、砂馬鹿!!」


 怒られて、頬を膨らませながら数歩下がる。突如、感じていた振動がさらに大きなものへと変わった。

 手すりに手をつきながら、ネイルは半透明の膜が乗り物全体を覆っていくのを見る。


 数秒後、砂塵は抑えられ、頬に当たる熱気は少なくなった。


 ゴーグルを額に起き、砂塵マスクを取った。

 快活そうな赤い瞳。薄い唇にふっくらした頬は幼さを残している。砂やけにも負けない浅黒い肌は、彼女の元気を象徴しているかのようだ。


「ここから先は、ちょっと砂化区域に触れる」


 ネイルの前に現れたのは、先ほど彼女を叱った壮年の男だ。


「居住区にはもう通達を出しておいた」

「それで〜? わざわざ艦長自ら出てくるってことは、私に運んでほしいものがあるんでしょ?」


 いたずらっ子の笑みを浮かべてジト目で見てくるネイルに、艦長は後頭部をかいた。

 彼は懐から紙を取り出して手渡してくる。


 書いてあるのは地図だった。赤い丸やら線やらが書き込んである。


「ここ最近の砂化が激しいところだ。弟のコロニーに物資とともに届けてほしい」

「はは〜ん。他のコロニーには伝えないで、身内贔屓するんだ〜? いーけないんだ〜」

「そんなんじゃねぇ。ただ、情報を握ってたほうが何かと便利だろ。ほら、あっちのコロニーは一世代前だからよぉ」


 受け取った紙をしまいつつ、くるりと楽しそうにネイルは回る。


「じゃ、報酬はいつもの一ヶ月滞在費ってことで」

「あぁ、構わねぇ」


 それだけ聞くと、ネイルはスキップ気味に甲板から立ち去った。



※※※※※※※※※※



 世界は砂化という現象で崩壊した。風が有機物無機物問わず、砂にする。

 それが通ったあとは、何もかもが死地となる。


 人類の生存方法は大きく変わる。毎日変わる風や地形から逃げるために、巨大な鉄の自動車のようなものを作り上げた。数百から数千の人がそこに住み、一つの移動式のコロニーという生態系を取っている。


 しかし、いつの世にもはみ出し物はいるようで……。


『いいか? 観測圏外になったら、こっちからの支援は受けられねぇからな?』


 無線機から響く艦長の声に、ため息混じりにネイルは答える。


「分かってるって〜。私を何だと思ってるの?」

『お前だから言ってるんだろ!』


 響く声がネイルの乗っている四輪駆動の車の中を反響する。耳を貫き、遅れて耳鳴りがやってきた。


『毎回毎回、わざわざ危険な道を選びやがってよぉ! こっちの身にもなれ!』

「しょうがないじゃん? 普通に真っすぐ目的地に着くほうが珍しいし」


 ネイルが手で合図をすると、眼前の巨大な鉄扉が開いた。外の風と砂が流れ込む。

 周囲の整備士たちが急いで退避していた。


『普通ならそれでも危険避けようとすんだよ。お前の場合、わざと危険に飛び込んでるだろ!』


 言われ、下唇をぺろっと舐める。


「あは。危険があったほうが楽しいでしょ」

『お前なぁ……。それがどれ──』


 半ば無理やり通信を切ってから、アクセルを踏む。重力が後ろに流れ、車が外へ一気に飛び出した。

 風と砂をかき分けて、地面へと着地する。


 巨大な移動要塞は、いくつかの小型要塞を引き連れて前へと進んでいた。

 巻き起こる砂煙に巻き込まれるように、ネイルの乗る車は揺れる。荒ぶるハンドルをしっかりと握って、制御した。


 ネイルはこの世界で言うところのはみ出しものだ。コロニー間を股にかけて、物資などを運ぶ。そうやって生活している。そして、今の生活は窮屈なコロニー生活よりも何倍も気に入っていた。


 急加速でバックする。鉄の要塞の合間を抜けるように、砂煙を割る。一気にハンドルを切って、車体を百八十度回転させる。

 ギアを入れ直して、前進する。轟音を背に、コロニーとは進行方向を逆にする。

 

 風と砂がガラスに当たる。死んだ世界の気配を感じながら、ネイルのテンションは上がった。


 自分は世界の中で生きているんだと感じる。その考えは他人には強制はしないし、するつもりはない。分かり合えるとも思っていない。


 何故、そんな危険に身を投じるのだと聞かれれば、それが自分だからだとネイルは答える。


「うーん! いいねいいねぇ!」


 フロントガラス奥に映る砂ばかりの地面。風で舞い上がる砂塵。そして、照りつける太陽。

 そのすべての環境が、人間を拒否している。


 その誰も足跡を残さない領域に、自分の車の通った跡をつけるのが最高に気持ちがいい。

 自由だということを実感できる。


 だからこそ、ネイルはこれからも走り続けるのだろうなと自分で思う。


 一気にアクセルを踏んで、砂を巻き上げながら進む。

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