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No.009 飛空艇部隊の誤算

カルルの創る飛空艇は、躯体も内殻も外殻も全て土魔法で作られたものであり、それを強化魔法により強度を極限まで上げてある。


外殻は、土魔法で4層構造になっているものの断熱材などが入っている訳ではない。


つまり火魔法により長時間の攻撃にさらされると、外殻が高温になり亀裂が入ったり焼け崩れる可能性がある。


例えば、外殻は火魔法に耐えたとしても飛空艇の内部に熱が伝わり高温により搭乗者が焼け死ぬかもしれない。


氷魔法はというと、小さな氷塊をぶつけられた程度では外殻はびくともしないが、大きな氷塊を高速でぶつけられれば、外殻が壊れる可能性は高い。


また飛空艇全体を凍結してしまえば、氷の重さで飛空艇が飛べなくなったり、飛空艇内が低温になり搭乗者が低温で動けなくなる場合も想定される。


土魔法も同様で大きな石の塊を高速でぶつけられれば、飛空艇の外殻が耐えられるかは分からない。


雷魔法に至っては、外殻を通り越して搭乗者に直接作用するかもしれない。


カルルの飛空艇には、物理防壁や魔法防壁といった防御魔法の魔石を装備していないため、攻撃魔法に対しては十分距離を取るというのが鉄則だ。


カルルが王太子クレアの軍勢向けに創った5艇の飛空艇のうち3艇は、地上すれすれを敵軍に向かって飛んでいる。


対してカルル親子の飛空艇はというと攻撃魔法を警戒して地上からはかなり距離を保っている。


「おいおい、あいつらあんな低空を飛んでいやがる。攻撃魔法を警戒して地上からの距離をとれってあれほど教えたのに!」


カルルの父親が愚痴をこぼす。


「あれだと攻撃魔法のいい的ね」


カルルの母親は、低空を飛ぶ飛空艇の未来を暗示している。


「このままの高さで飛ぶけどいい?」


カルルは、家を棄てた時に飛空艇に攻撃魔法を受けたことがあり、警戒しなければならない事を承知している。


案の定、転進してきた敵軍の魔術師が放つ攻撃魔法の集中砲火を受けた3艇の飛空艇が地上へと落下していく。


「あらら、地上に落ちた飛空艇は1、2、3艇・・・もう2艇は何処かしら・・・」


カルルの母親がバルコニーから周囲を見渡すと、カルルが操る飛空艇のすぐ後ろを飛ぶ2艇の飛空艇がおり、魔術師が互いにバルコニーから手を振っている。


カルルの飛空艇には、お互いに連絡を取り合える魔法具は装備されていないため、作戦内容を事前に決めておき、想定される動きをいくつか決めてある。


また、簡単なハンドサインで指示を出す決まりにもなっていた。


地上に墜落した3艇の飛空艇から出てきた搭乗者達は、周囲を警戒しながら防御陣形を整えてはいるが、目前に迫る1万の軍勢に対してたった数十人でいったい何をしようというのか。


「仕方ない。あれをやりますか」


カルルの母親がバルコニーで詠唱を始める。


"あれ"とは、広域殲滅魔法である"タワーリングキュムラス"の使用を意味する。


この魔法を見るのは、カルルも初めてである。


先ほどまで晴れていた空に、突然黒い雲が湧き出すとあっという間に遥か上空までそれが膨らみ周囲の空から陽の光を奪っていく。


雲はさらに厚みを帯て広がり足元さえ見えなくなる程の暗さとなった。


"ポツポツ・・・"。


雨が降り始めたかと思うといきなり強風が吹き始め、風に乗った雨が四方から叩きつける。


凄まじい風と雨が転進してくる壁軍に容赦なく襲いかかり、目の前がホワイトアウトしたと同時に轟音が響き渡る。


落雷だ。


厚く立ち込める雲は、遥か上空まで続きその巨大な雲から吹き出す強風と大量の雨。


そして幾度となく繰り返される落雷によるホワイトアウトと轟音。


カルルの母親が放った雷魔法の広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"は、地上に落下した飛空艇部隊に迫る敵部隊の頭上へと降り注ぎ、連続する落雷に打たれた敵軍の兵士が次々と地面へ倒れていく。


落雷が起きる度に発生するホワイトアウトと耳をつんざく轟音により、身動きが全くできない敵軍の兵士。


それは、飛空艇を降りて闘おうとした味方の騎士達も同様だ。


落雷がこれほど連続で続き、ホワイトアウトで視界が全くきかず、耳をつんざく轟音で五感は殆ど機能せず、この様な経験をした者はいるだろうかという状況となった。


しばらくすると風と雨はやみ、空を覆った黒く厚い雲はどこかへ消え去っていた。


地面には、大量の雨により腰まで冠水しており、あちこちに落雷で命を落とした兵士の亡骸が浮いている。


この広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"によりいったいどれだけの人命が失われたのか推測すらできない。


地上に落下した飛空艇も冠水の被害からは逃れられず、1階フロアの半分まで冠水している。


先ほどまでカルル達が乗る飛空艇の目の前に広がっていた巨大な雲は、跡形もなく消えさったが地上は大雨の影響で歩くことすらできない。


仕方なく冠水した飛空艇のバルコニーの直上に飛空艇を移動させ、搭乗者の救助を行うこととなった。


「怪我人はどれくらいいる?」


「意識がない者が3人。それと死亡者が2人いるわ」


カルルの母親が使った広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"は、今までに魔獣の群れに放った事はあったが、対人戦で使ったのはこれが初めてであった。


飛空艇に搭乗していた者の中には、砦から飛び立つ前に話をしていた者もいた。


それが、次に会った時には死んでいる。


例えそれが戦争であったとしても現実として受け入れられず、ショックを受けてしまったカルルの母親だったが、それをカルルの父親が慰める。


「俺の作戦を無視して低空を飛んだからだ。地上に降りた時点で1万人の敵軍に囲まれて蹂躙されたに違いない。お前が責任を感じることはない。これは戦争なのだ」


カルルの父親と母親お互いの目を見つめ合い抱きしめ合う。


その光景を見てカルルも戦争がどういうものかを子供ながらに理解した。


敵軍は、腰まで水につかりもはや身動きもできず一方的に降伏を宣言するに至る。


広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"により死亡した敵軍の兵士の数は、ざっと数えても2000人以上となった。


落雷で命を落とした者、腰まで冠水したことにより装備していた重い鎧や鎖帷子が災いし、脚をとられて水の中に倒れ込み溺死した者など、直接的あるいは間接的にここまで被害が出ることなど、両軍勢とも考えてはいない。


しばらくして冠水した地上から徐々に水が引き始めたが、今度は泥だらけで歩くこともままならず、負傷者の救助には、戦い以上の困難が待ち構えていた。


・・・・・・


結局、冠水した地面から水が完全に引き泥が乾くまでに3日を要した。


砦も広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"の影響により冠水し建物内に流れ込んだ雨と泥で殆どの施設が使い物にならなかったものの、食糧庫は高床式になっていたことで辛うじて水没は免れた。


ただ、砦の中にあるいくつかの井戸は、全て泥が流入してしまい使い物にならず、水抜きと流入した泥の撤去に数日を要した。


建物内に流入した泥を撤去したものの、まだまだ影響が色濃く残る会議室内に集まった王太子エミルと諸侯達。


それと王太子エミルの申し入れを受けて各地から集まった諸侯が集まり今後の戦いの進め方について議論が交わされた。


カルル親子も会議室の端に用意された椅子に座り、軍議の光景を静かに見守っている。


軍議が始まると今回の味方の軍勢の被害、さらに敵軍に与えた被害が報告された。


「今回の戦いによりこちの損害は、飛空艇3艇が敵の攻撃魔法により撃墜。さらに広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"による大雨により水没したことで撃墜された飛空艇3隻は完全に使用不能となりました」


「また、搭乗者5人が死亡。さらに砦内での冠水により重い鎧を装備していた事で溺死したものが5人ほど出ておりますが、これは戦いで想定される死亡者数を考えると、限りなく"0"に近い被害になります」


「恐らくですが、広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"が使われていなければ、こちらの死亡者は敵軍を遥かに上回っていたと推察されます」


被害状況の説明はさらに続く。


「敵軍の被害状況としましては、死亡者数2502人、負傷者1308人となります。また、冠水により身動きが出来なくなった敵軍の殆どが投降しております」


「敵軍の司令部についてですが、最初の飛空艇の奇襲により上級士官のことごとくが死亡しておりました」


「飛空艇による魔法攻撃が正確であった事により、敵軍の兵站の殆どが無傷で残っていたのは幸運でした」


そこから今後の作戦が話し合われたのちに、飛空艇部隊の指揮についての話が持ち上がった。


「今回の作戦において、攻撃魔法を避けるために上空から敵軍に対して対処するといった作戦を立てておりましたが、飛空艇部隊の隊長の誤った指揮により飛空艇3艇を失う事となりました」


「わが軍勢においては数少ない兵力を挽回するためには、飛空艇による空からの攻撃は欠かせないものとなります。よって飛空艇部隊の指揮は、それらを熟知したダラム殿に、飛空艇に搭乗する魔術師の指揮はララ殿に一任いたします」


「飛空艇の製造に関する状況ですが、墜落し水没した飛空艇は既に修理が終わっており作戦に復帰しております。さらにカルル殿により飛空艇10艇が新造されております」


「また、新造された飛空艇の搭乗者となる操術士と魔術師の訓練も進んでおりますれば、わが軍勢の戦力は着実に増強されているものと考えております」


カルルの母親は、自身のスキルである広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"の話が出る度に心が締め付けられる思いにさいなまれた。


そんな時は、夫であるダラムの肩にもたれかかり、力強く抱きしめてもらう事で心の支えを得ることができた。


「ララ殿の魔法スキルである広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"は、使い処がかなり難しいものですがタイミングさえ間違えなければ、国を守る要になると考えております。この国の守り手としてこれからもお力添え願いたいと存じます」


最後に魔法スキルである広域殲滅魔法"タワーリングキュムラス"についての総括があり、そこで"国の守り手"と言われるとは思ってもみなかったララは、この国から頼りにされていると考えると、少しだけ誇りに思えた。


軍議によりカルルの父親は正式に飛空艇部隊を指揮することとなり、カルルの母親は飛空艇に搭乗する魔術師を指揮することとなった。


そしていよいよ王太子クレアの軍勢を守りながら王都に向かって前進することとなった。


地方を治める諸侯の軍勢が集まり、王太子クレアの軍勢はいまや2万を超える数へと膨れ上がった。


王太子クレアが完全に自軍を統率できているかといえば嘘になる。


だが、それでも王都を目指し兄である王太子モーブ率いる軍勢に勝利しなくては、自身の未来はない。


次の攻略目標は、グルズ山脈の入口にある渓谷の砦だ。


難攻不落といわれる渓谷の砦をどう攻略するのか。


全ては、カルルが創る飛空艇にかかっている。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:17

 1000艇まで残り983


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国向け飛空艇 15艇


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