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No.008 王太子エミル

川と並走する街道をひた走る馬車。


馬車の主は、エミル・フォン・アリーア。


アリーア王国の王太子殿下で先代国王の三女にあたる。


国王の突然の死去に伴い次期国王を巡る内戦の真っ最中であった。


次期国王に最有力候補は、長男のモーブ・フォン・アリーア。


彼は、野心家で次代の国王となるべく軍事に長けており、国内の諸侯を集め3万の兵力を有する。


次に有力なのは次男のローワン・フォン・アリーア。


彼は野心家ではないが弁が立つため交渉ごとに長けていた。


三女のエミルはというと、軍事に長けている訳でもなく、内政に長けている訳でもなく、外交に長けている訳でもない。


可もなく不可もなくの平凡な女性であったが、ひつだけ他者に長けているものがある。


それは、不利な状況を有利に換える者と出会うという強運のスキルを持ち合わせていた。


彼女の元に集まった兵はざっと1万あまりだが、砦に集まった兵はたった3000人。


辺境を治めるいくつかの諸侯は、彼女の元に兵を送ったが周辺の街道をことごとく閉鎖され軍勢が集まることができずにいた。


彼女は、自らが赴き辺境伯へ自軍への参加を募ったが、よい返事は得れず馬車で自軍の砦に戻る直前に王太子であるモーブ・フォン・アリーアの軍勢に見つかり窮地に立っていたのだ。


二頭立ての馬車は街道を駆け抜け追手を振り切ろうとするも馬車を追う騎兵は10騎を超える。


馬車を護衛していた騎兵も残り2騎となり成す術もない。


さらに街道の前方で多数の騎兵が待ち構える。


馬車は徐々に速度を落とすと静かに停止した。


街道の前方と後方から王太子モーブ・フォン・アリーアの騎兵が近づいてくる。


馬車の中で王女殿下は、両手の拳を握りしめながら自身の力の無さに行き道理を覚えた。


その時だった。


馬のいななきと共に叫び声が周囲に響き渡る。


何事かとエミルが馬車の中から外に視線を向けると、街道を封鎖していた騎馬隊の上に飛空艇が覆いかぶさる様に空中に停止している。


「新手・・・?」


そう思った王女殿下の前にひとりの剣士が現れた。


「ご助力いたします。馬車を出してください!」


そう言うと剣士は、後方から追ってくる騎馬隊に向かって剣を振り下ろすと、炎の魔法が発動した。


「あの方は、魔法剣士!」


馬車を追っていた騎馬隊は、突如として表れた剣士に一瞬たじろぐも直ぐに剣を抜き剣士に切りかかる態勢に入る。


"ズン"。


そんな音が似合うだろうか。


騎兵の頭上に突如として表れた飛空艇は、騎兵を押し潰さんと地上に勢いよく降下してきたのだ。


慌てた騎兵のことごとくは、落馬し地面を転がる有様。


さらに追い打ちをかける様に飛空艇から雷撃が発せられ、重い鎧を装備した騎兵は身動きが取れずにいる。


「私と飛空艇が護衛します。今すぐ馬車を出してください」


その言葉に御者が直ぐに反応し馬車は勢いよく発車した。


馬車の御者席に駆け上がった剣士は、魔法剣を鞘に納めると周囲に新手が潜んでいないかを警戒する。


「ご助力感謝いたします」


馬車から顔を出した王女殿下が剣士に声をかける。


そして王女殿下と剣士を乗せた馬車と空を飛ぶ飛空艇は、フレバンス砦へと入っていった。


飛空艇で砦へと降り立ったカルル親子を王太子殿下のエミルが快く迎え入れてくれる。


「ご助力感謝いたします。生憎この国は次期国王を決める内戦の最中で、もてなすこともできませんが、休む場所をご提供いたします」


そういって砦の兵士は、カルル親子を客間へと案内したが、しばらくすると軍議があるので参加してして欲しいとの要請を受けた。


「皆さん、お疲れのところ急に及びして申し訳ありません」


王太子のクレアの言葉には、貴族や王族が見せる傲慢さの欠片もなく平民に対しても低姿勢であることが伺える。


「実は、我が部隊は窮地に陥っています。周辺の街道を敵軍に封鎖され孤立の危機に瀕しております」


「それでお願いがあります。分断された部隊と連絡を取るためにあなた達の飛空艇をお借りできないかと」


カルル親子は、お互いの顔を見合いながら、軍議が行われている部屋の隅へと移動すると、小声で家族会議を始めた。


「飛空艇で分断された部隊と連絡をとったところでこの劣勢は覆せないだろう」


カルルの父親の意見だ。


「そうね。この砦に魔術師が50人くらいいて飛空艇が10艇くらいあれば、この状況を変えることはできると思うけど・・・」


カルルの母親の意見が続く。


「だったら僕が飛空艇を創ろうか。飛空艇用の魔石なら創ってあるし1艇2~3日もあれば創れるよ」


カルルから決定打となる意見が出る。


「飛空艇は、そんなに早く作れるのか?」


「それならカルルが飛空艇を作っている間に、あなたが兵士達に飛空艇の操術を教えて、私が魔術師達に飛空艇からの攻撃魔法のやり方を教えるっていうのはどうかしら?」


母親が皆の意見をまとめるとそれを王女殿下に進言する事を決めた。


カルルの父親が家族会議の決定事項を王太子のクレアに伝えるとその場にいた者達から驚きの言葉が発せられた。


「飛空艇を作るだと。用意するの間違いではないのか」


「飛空艇は、市場に出回ることなどめったにない代物だ。しかもあったとしても取引価格は1艇辺り金貨1000枚は下らない。飛空艇をいくつも買う金など我々には無いぞ」


軍議の場は、この場に集まった指揮官達の会話でざわめき始め、それは静まるどころがさらに大きくなる。


「静かに!」


ざわめく場を沈めたのは王太子のクレアである。


「では、改めてお聞きします。飛空艇を作るというのは、何処からか調達するの間違いでは無いのですか?」


「我々家族が乗っている飛空艇は、息子のカルルが作ったもの。1艇につき2~3日もあれば作れます」


「飛空艇の操術は私が教えます。魔力操作に長けた者を集めていただきたい」


「それと飛空艇から魔法による攻撃のやり方は、地上とはまるで異なるので、それについては妻がお教えします」


家族を代表してカルルの父親が返答する。


「飛空艇が作れるというのは、にわかには信じられませんがそれが誠であれば・・・」


王女殿下の言葉には、迷いがあった。この大陸には飛空艇を作ることのできる錬金術師など存在しない。それは誰もが知る周知の事実である。


「この戦いは、我々家族を味方にした王太子クレア様が勝ちます!」


王女殿下の言葉を遮りそう断言したのは、カルルの母親である。


「私達の飛空艇を貸して欲しいと言われるのでしたらお貸しします。ですが飛空艇作りも同時に進めます。それでよろしいですか」


カルルの母親の言葉は、この場にいる者を納得させる力強さがあった。


軍議の翌日から砦の端でカルルが飛空艇創りを始めて数日が経った。


目の前には、出来たてほやほやの2艇の飛空艇が並ぶ。


カルル親子の飛空艇はというと、地方を治める諸侯の説得に向かった王太子クレアと味方する諸侯、それにカルルの両親が乗り込み、数日の間不在となっている。


カルルが創る飛空艇を不思議そうに見る兵士達は、飛空艇が試運転で宙に浮くのを見てどよめきが湧き上がる。


「僕は、飛空艇を創るのが忙しいので操術をつきっきりで教える事はできませんが、操術士に選ばれた人は飛空艇に慣れておいてください」


操術士に選ばれた数人の兵士がカルルの言葉を受け入れ、恐る恐る飛空艇の中へと入っていく。


「いいですか、この魔石に魔力を込めると飛空艇が浮き上がり空を飛ぶことができます」


カルルの教えた通り飛空艇はふわりと宙に浮きあがる。


「慣れないうちは、力みすぎると事故になり易いので気をつけてください」


カルルが最初に操術を教えた者が別の者に教え、その者がさらに別の者に教える。


そうやって徐々に飛空艇を扱える者が増えた頃、カルルは3艇目の飛空艇創りに取りかることができた。


数日後に、王太子クレアを乗せた飛空艇が砦へと戻ってきた。


王女殿下と諸侯は、会議があるといって砦の奥へと姿を消したが、両親は飛空艇を創るカルルの元へとやってきた。


「おっ、もう3艇目の飛空艇を創っているのか」


「私達の息子って天才!」


あまりの親バカぶりにカルルも少し恥ずかしさを思えたが、話を聞いたところ飛空艇で現れた王太子へ協力を申し出る諸侯が殆どだという。


「こちらには、10艇を超える飛空艇があると多少話を盛ってみたら、皆さん協力的で笑いをこらえるが大変だったのよ」


「飛空艇があるというだけで見方が増えるのはよいが、あれではいつ寝返るか分からんのが怖いな」


そんな話を両親から聞かされたカルル。


そしてカルルから操術士の訓練を引き継いだ両親は、操術士組と魔術師組に分かれると本格的な訓練へと入っていく。


それから数日後、砦から少し離れた森の中に敵軍は集結した。


敵軍は、ふたつの軍勢に分かれ正面に1万を超える主力が終結。


敵軍の主力から見て右側の森の中に別動隊5000が陣取る。


対する王女殿下の軍勢は、砦を守る3000人のみ。


王女殿下に味方すると約束した諸侯の軍勢は、街道を封鎖する敵軍に阻まれ砦に近づくことができない。


カルルの飛空艇は、この日までに5艇が完成し、操術士の訓練は、カルルの父親の担当した。


飛空艇を動かすには、繊細な魔力操作が必要でそれに手間取る者もいたが、短い期間で何とか動かせる状態にまで持っていくことができた。


対して飛空艇から攻撃魔法を仕掛ける魔術の訓練は、カルルの母親の担当である。


攻撃魔法を放つ魔術師は、空を飛ぶ飛空艇と地上との距離を測りながら移動速度とそれによる攻撃魔法の着弾地点のずれを絶えず補正する必要がある。


地上で攻撃魔法を放つのとは、やり方が全く異なる。


カルルの母親は、飛空艇で移動中にその練習を絶えず行っていたのだ。


敵軍5000人が前方に隊列を組み、その背後にさらに5000人が隊列を組む。


敵軍は、少しずつ砦へと近づきつつ、魔術師の部隊が遠距離から攻撃魔法を放つ準備を整える。


そして攻撃魔法の詠唱が始まった時、砦から6艇の飛空艇が逆V字形態の編隊を組みながら飛び立った。


地上からの攻撃魔法が届かない絶妙な高さを飛びつつ敵軍の頭上を越えていく飛空艇。


その行先はというと・・・。


「まさか司令部を狙う気か!」


部隊の指揮官は、砦から飛び立った飛空艇の編隊を見て動けなくなったが、はっと我に返ると飛空艇が向かう先を察した。


「全軍戻れ!敵の飛空艇は司令部を狙っている!」


指揮官は、部隊を統率しながら反転して司令部が陣取る森へと転進した・・・のだが、その背後に陣取る第二陣の指揮官は、遥か頭上を飛ぶ飛空艇に向かって届かない攻撃魔法をこれでもかと放っていた。


「撃て撃て撃て。飛空艇を撃ち落とせ!」


攻撃魔法は、飛空艇が飛ぶ高さまで届くことなく空中で威力を失い霧散していく。


それでも指揮官は、魔法攻撃の続行を命令し続ける。


編隊を組んだ飛空艇は、ふたつの敵軍部隊の遥か頭上を飛び越えると森の中に陣どる司令部の複数の天幕と補給物資を発見した。


「敵軍司令部を発見。目標は敵司令部が置かれた天幕だ!魔術師はバルコニーへ出て攻撃体勢に入れ」


飛空艇部隊を指揮するのは、王太子クレアを守る騎士隊副隊長。


そして飛空艇の操術室の両側に張り出したバルコニーに立つのは、同じく騎士隊魔術師のふたり。


飛空艇部隊は、徐々に高度を下げると森の木々の下に点在する天幕に向けて攻撃魔法の詠唱を始める。


「攻撃魔法・・・放て!」


飛空艇部隊の隊長が指揮する飛空艇から火魔法による攻撃が始まると、編隊を構成する飛空艇からも次々と攻撃魔法が放たれる。


敵軍の天幕を守る魔術師はいるが、空から攻撃を想定していなかった事も相まって、飛空艇に対して魔法攻撃は皆無だ。


空を飛ぶ飛空艇から放たれた火魔法による攻撃は、森の中に点在する天幕を次々と焼き払う。


そして火だるまとなった兵士が次々と天幕から這い出ではこと切れていく。


敵軍の司令部が壊滅したのは、飛空艇部隊の攻撃が始まってわずか3分ほどのことであった。


「よし、反転して敵本体を撃て!」


飛空艇部隊の隊長艇が敵軍司令部を壊滅させたと判断し、全ての飛空艇は反転して敵軍の本体へと向かう。


だが、経験の浅い飛空艇部隊の隊長艇は徐々に高度を下げており攻撃魔法が届く距離を飛んでいることに気がつてはいなかった。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:7

 1000艇まで残り993


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国向け飛空艇 5艇



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