No.077 精製所襲撃
<人族というのは業が深い。同族を食い物にしてもなお己の欲望を追い求める>
そう言い放ったのは梟の姿をした暗黒龍だ。
カルルの頭の上で寝ていた梟が、ふとカルルの頭の中に直接話しかけてきた。
「僕もそう思います。人間同士で戦争をしたり殺し合ったり、人身売買をしたり、麻薬で人心を破壊して利益を得たり・・・きりがない」
<我が人族と関わりを持った遥か昔から何も変わっておらん>
「そういえば、龍族は同族で戦ったり殺し合ったりするの?」
<そうだな、しないと言ったら嘘になる。龍族とて同族と争いは絶えないが殺すことは稀だ>
「龍族は、同族で殺し合いはしないんだ」
<どちらかが負けを認めた時点で戦いは終わる。元々龍族は数が少ない。同族で殺し合っていては種族が滅んでしまう>
「人族は、数が多いから戦争しても大して数は減らないからなあ」
<これから人心を蝕む麻薬とやらを作る精製所を破壊しに行くのだな>
「人族が戦争で殺し合うのと、麻薬で人心を破壊するのとどちらが嫌かと言われたら麻薬なんだけど、どちらも人の命を奪うことに違いは無いんだよね」
<つまり尊厳のある死と尊厳のない死ということだな。戦いは尊厳のある死で、麻薬による死は尊厳のない死というかは、異論はあると思うがどちらも死であることに違いはない>
「つまり死に優劣はないってこと?」
<どう考えるかは人族に任せる>
暗黒龍との会話は、種族も考え方も異なるが人族に比べて遥かに成熟していると感じたカルルであった。
飛空艇の操術室で小さな梟と会話をするカルルだが、小さな梟はカルルの頭の中に直接話しかけているので、アリス、ハンド、パトリシアの3人にその会話は聞こえない。
対してカルルは声を出して話をしているため、会話にならない独り言を延々を話しているように見える。
ましてや"殺し合い"だの"死"だの、普通の会話では出てこない単語を連発しているため、皆が怪訝な表情を浮かべている。
「カルル、何か悩みがあるなら話してみて。私だと頼りないかもしれないけど、私より人生経験の豊富なハンドさんもパトリシアさんもいるから、悩みを打ち明けてくれれば何かしら答えてあげられると思うよ」
アリスの言葉にカルルは何を言っているのかと疑問を感じたが、小さな梟と話をしているたことを3人は知らないのだ。
「あっ、そうだった。梟さんを話をしていたんだ。梟さんは念話って言うんだっけ。僕の頭の中に直接話しかけてくるから会話が成り立つんだけど、皆から見ると僕が独り言を話しているように見えるんだよね」
「梟さんとお話してたのね。ならいいけど。でも悩み事があるなら相談してね」
「うん、そうする」
カルルは、アリスとの会話を簡単に締めくくったが、皆からは独語を話す危ない少年と思われているんだと、いまさらながら気が付き少し悲しさを覚えた。
飛空艇は、モンデレーザ王国の上空を南へと向かって飛んでいる。
目の前に映る地形図には探査の魔石と鑑定の魔石が示す地名や山や川の名前が映しだされている。
「ラングスタ山は、何処だろう?」
地上では丘と低山が続く特徴のない地形が続く。
するとカルルの目の前に映し出された地形図にハリハ草という名前が現れた。
「ハリハ草だって、この下がハリハ草の群生地みたい」
地形図を見ると群生地に見えたが、人の手が入ったように整地された場所に規則正しく植えられているのが分かる。
「これってハリハ草の畑みたいね」
「この辺りって街も村もないから畑があること自体に凄く違和感がある」
「カルル、地形図だと目の前の山の裏側に砦があるみたい」
「砦?こんなところに?」
「地形図には、ラングスタ山って出てる」
「山の斜面に魔力樹も植えられているから、ここで麻薬が作られているんじゃないかな」
いくつもの低山が連なる地形の遥か先に陽が沈みかけ、もうすぐ夜を迎える時刻だ。
「もうすぐ暗くなるけどどうする?」
「飛空艇を森の中に着陸させて夜を待ちます。夜になったら飛空艇で砦の上空に移動して、探査の魔石と鑑定の魔石で麻薬と魔石があるかを調べて、魔石があるならそれを奪いに行って砦を麻薬ごと破壊します」
カルルの言葉に皆が相槌を打ち、飛空艇は森の木々の間に着地して影を潜めながら暗くなるのを待った。
飛空艇に取り付けられた探査の魔石で周囲の森に人がいないかを注意深く探索しながら暗くなるのを待っていると、上空に1艇の飛空艇が現れた。
「これから暗くなるのに飛空艇が飛ぶって珍しいわね」
「飛空艇が飛んでいるのを見られたくないとかかな?」
「鑑定の魔石の結果だと、麻薬と魔道具を積んでるみたい」
「つまりあの飛空艇が港についたら、麻薬を船に乗せ換えて他国に運ばれて不幸になる人がさらに増えるってことか」
カルルはしばし考えると、決断を下しそれをハンドに伝える。
「ハンドさん、あの飛空艇の床の中央を魔道砲で打ち抜いて。地上に落下したら積荷を調べにいこう」
「了解!」
ハンドは、飛空艇の魔道砲で夕焼け空を飛ぶ飛空艇に照準を定めると、魔道砲を1発だけ発射した。
音もなく発射された魔道砲は、夕暮れの空を飛ぶ飛空艇の床の中央を打ち抜くと、飛空艇はふらふらと森に生い茂る木々の中へ姿を消す。
カルルとハンドのふたりは、飛空の腕輪で暗い森の木々の間を飛び、墜落したであろう飛空艇の近くへと移動した。
アリスは、飛空艇をいつでも飛ばせるように操術室で待機し、パトリシアは飛空艇の護衛として残った。
「ハンドさん、あそこに飛空艇が墜落しています。外殻は崩れていないようですが木々にぶつかって身動きできないようです」
「扉は閉まったままか。鑑定の魔石で調べたかぎりだと搭乗者は4人で、操術師2人と護衛が2人というところか」
カルルとハンドは、飛空の魔石で空中を音もなく移動しながら墜落した飛空艇へと近づいていく。
すると不意に飛空艇の扉が開かれ、中から男達がはい出てくると地面に横たわった。
カルルとハンドは、木々の影に隠れながら飛空艇のすぐそばまで近づいていく。
「くそ、なんで飛空艇が墜落するんだ!」
「いきなり床が吹き飛ぶなんてあるのか」
「操術師のふたりは操作卓に胸と頭を打って動けないか。ポーションを使ったがあれでは助からないな」
「俺達だって人のことを心配している場合じゃない。ポーションを飲んだから痛みは治まっているが、足が痛くて砦まで歩くのは無理だ」
「麻薬の運搬はどうするんだ。0時までに船に積み込まないと、伯爵様に殺されるぞ」
「だがこの飛空艇では空を飛ぶのは無理だ。それに体中が痛くて歩けないぞ」
森の中に墜落した飛空艇の中から這い出できたふたりが、今後について相談をしているとその喉元にハンドが短剣を当てる。
「動くな。喉をかき切るぞ!」
ハンドの低く響く小声が横たわる男の耳元に囁かれる。
カルルは、服のポケットから腕輪を取り出すと、地面に横たわる無抵抗なふたりの男の腕にそれをはめる。
「さて、隷属の腕輪を取り付けたから僕の質問には、抵抗せずに答えて欲しい。抵抗すると体中を激痛が襲うから気を付けてくださいね」
突然隷属の腕輪をはめられたふふたりの男は、状況が呑み込めないまま茫然と地面に横たわっている。
「この飛空艇は何を運んでいたのかな?」
するとひとりの男が力なく答える。
「麻薬と麻薬を体内に取り込む魔道具だ」
「魔道具?魔道具とは何ですか?」
「麻薬を魔道具に近づけると魔道具に吸収される。その魔道具を腕に装着すると体内吸収される仕組みだ」
カルルは、墜落した飛空艇の内部に入ると、1階のフロアに積み込まれた複数の麻袋に入った玉状の麻薬と腕輪の形をした魔道具を持ち出した。
「これがその麻薬と麻薬を体内に吸収させる魔道具だね」
「そうだ」
「それじゃあ、実際にやって見せてもらってもいいかな?」
「ことわ・・・る、ああっ、いっ、痛い。頭が、全身が痛い、痛い、痛い!」
男は、いきなり全身に痛みを覚えると体を硬直させる。
「隷属の腕輪を付けたから僕に反抗するとあ体中に激痛が走るって言ったのに・・・」
抵抗しようとした男は、体を硬直させて口から泡を吹いている。
「その麻薬を使うと廃人になっちまうんだ。その麻薬だけは勘弁してくれ!」
もうひとりの男が麻薬を使わないようにと懇願するも、それはカルルには全く伝わらない。
「へえ、でもその麻薬を他国に売って金儲けをして、廃人を増やしているのは何処の誰なんだろうね」
カルルは、麻薬の玉を腕輪に近づけると麻薬の玉は腕輪に吸収され消えていく。
そしてその腕輪を横たわる男の腕へと装着する。
「やめろ。やめてくれ。たのむ・・・たの・・・」
腕輪が男の腕に装着されると、体内に徐々に麻薬が吸収され始め、男の表情は力なく無表情へと変わっていく。
「はっ・・・はは・・・」
麻薬が体内に取り込まれていくと、男は小声で笑いながら痙攣を始めた。
「うわっ、この麻薬を使うとこんなことになるんだ」
「恐らくですが、数回程度使ったくらいでは廃人になったりはしないでしょうが、あまり見ていて気持ちのよいものではないですね」
麻薬が体内に吸収されて痙攣を起こしている男の姿を眺めるカルルとハンドは、顔を歪めながら痙攣する男の姿を眺めている。
カルルは、隷属の腕輪の激痛から解放された男の耳元で囁く。
「ひとつ教えてください。"精製の魔石"を知っていますか?」
「・・・ああ、麻薬を作る時に必要な魔石だ。砦の精製所にいくつかあるはずだが詳しいことは知らない」
「そうですか。では、最後にひとつ聞きたいことがあります。この麻薬の製造は、モンデレーザ王国の国王が命令して行っているのですか」
「・・・そうだ。国王陛下がヘルム伯爵様に下命されたのだ」
「"精製の魔石"を持ち込んだのはヴィスターク王国で間違いありませんか?」
「ヴィスターク王国?そんな国の名前は聞いたことがない」
「そうですかご協力感謝します。では、あなたにも運んできた麻薬を使って体の痛みを和らげてさしあげます」
カルルがそう言うと男の腕に腕輪を装着していく。
「たっ、頼む。そのだけはやめてくれ。廃人になりたくない!」
男は、隷属の腕輪によりカルルの命令から逃れることはできず、麻薬の効果により体が痙攣していく。
「ハンドさん。欲しい情報と魔道具を手に入れたので飛空艇に戻りましょう」
「こいつらはどうします?」
「麻薬で多数の人を苦しめているのに、自分達だけ助かろうだなんて許しませんが、もし助かりたければ自身で何とかするでしょう」
カルルの言葉にハンドは頷くとカルルと共に暗い森の木々の間を飛び、飛空艇へと戻った。
「アリス、パトリシアさん、いろいろ情報が手に入りました。砦の上空に移動して"精製の魔石"を探します」
陽が落ちて暗くなった森から飛び立った飛空艇は、まもなく砦の上空へと到着した。
カルルは、飛空艇の操術卓に取り付けられた探査の魔石と鑑定の魔石を使い、砦の何処に"精製の魔石"があるのかを探る。
「あった。砦の・・・この建物に3個の"精製の魔石"がある。これを奪いに行きます。ハンドさん随伴よろしいですか?」
「ああ、これで麻薬を撲滅できるなら喜んでお供する」
「では、アリスとパトリシアさんは、飛空艇で待機していてください。もし砦でドンパチが始まったら飛空艇で迎えに来てください。お願いします」
「「了解!」」
カルル、アリス、ハンド、パトリシアの役割を決めたカルルは、飛空艇の1階へ移動すると腕に見慣れない腕輪を装着する。
「ゴーレムを連れていきます。この腕輪は、中継コアを取り付けたものです。これがあればゴーレムが離れていても命令を伝えることができます」
カルルの言葉にアリスとハンドとパトリシアが頷く。
飛空艇の1階の扉が開かれると、カルルとハンドと戦闘用ゴーレム2号は夜の暗闇の空へと飛び立っていく。
それを見守るアリスとパトリシアのふたりは扉を閉じると、アリスは2階の操術室へと戻り、操術卓に手を置き探査の魔石で周囲の飛空艇や砦を守る兵士の位置を探り、パトリシアは戦いに向けてカルル特製の魔道具に魔力を送り込む。
飛空艇から飛び立った2人とゴーレムは、静かに闇夜の空を降下していくと"精製の魔石"の反応がった建物へと向かう。
そしてカルルは、分解の魔石を取り付けた腕輪に魔力を込め、分解魔法を発動して建物の屋根を破壊して一気に建物内へと侵入した。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:264
1000艇まで残り736
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイリシュア王国軍向け飛空艇 80艇(通常型30艇、戦闘型50艇)
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
・マレーナ王国沿岸警備隊向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)
・カヌーナ王国沿岸警備隊向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物資補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 50艇(戦闘型50艇)




