No.072 ゴーレムの初陣
王都の上空で空中に静止する一隻の飛空戦艦。
その周囲には数艇の飛空艇が周辺の警戒にあたりながら、占領したばかりの王都上空の監視を続けている。
その飛空戦艦の先端に金属色のメイド服を着た女性がひとり立っている。
飛空戦艦の後方に位置する艦橋内で周囲の警戒を行っていた兵士がそれに気づくまで少しの時間を様した。
「ん、なんだ。甲板に誰かいるのか?」
兵士が艦橋の窓から看板を凝視すると、金属色のメイド服を着た女性が甲板を艦橋に向かってゆっくりと歩いてくる。
「少尉、甲板に誰かいます。こっちに向かって歩いてきます」
周囲の警戒にあたっていた兵士が上官に報告を行うと、少尉も同じく艦橋の窓から甲板を凝視する。
そしてそれが何であるかは分からないが、自軍の軍服を着た兵士ではないことだけは直ぐに判明した。
「鑑定で魔法であれが何か調べろ。敵なら攻撃する。1番砲塔準備しろ!」
そして甲板を歩くそれは艦長室で事務仕事に追われる艦長へと報告された。
「報告します。甲板を歩いているのはゴーレムです!」
鑑定魔法によって甲板を歩く者の正体が判明すると兵士が少尉へ報告する。
「ゴーレムだと。なぜゴーレムがメイド服を着た女性の姿をしているのだ」
「分かりません。ですがあれだけ精巧な姿のゴーレムは見たことがありません」
少尉と鑑定を行った兵士は、甲板を歩いているのがゴーレムであることが信じられずにいたが、艦橋に艦長が入ると艦橋に居並ぶ兵士が一斉に敬礼を行う。
「どうした敵か?」
「いえ、まだ敵とは断定できませんが、甲板にゴーレムが現れました。それもかなり精巧なゴーレムです」
艦長は、甲板を艦橋へ向かって歩いてくるゴーレムを凝視するも、それの目的が何であるかは皆目見当もつかない。
「わが飛空艇部隊にゴーレムは存在しない。であれば敵と判断する。1番砲塔甲板を歩くゴーレムに魔道砲を発射。他にゴーレムがいないか索敵せよ!」
飛空戦艦の第1砲塔が動き出すと、甲板を歩くゴーレム2号に対して照準が定められた。
「発射準備できました!」
「1番砲塔、魔道砲発射!」
艦長の命令により魔道砲を操作する兵士が魔道砲を発射する。
だが、第1砲塔から魔道砲は一向に発射されず沈黙を守ったままだ。
「どうした。なぜ魔道砲を発射しない」
「第1砲塔が反応しません。魔道砲を発射できません!」
艦長が艦橋の窓から甲板を凝視すると、第1砲塔から距離があったはずのゴーレムの姿は、既に第1砲塔の横に移動しており砲塔に大きな穴が空いているのが確認できた。
「敵襲。第1砲塔が破壊された。第2、第3砲塔はただちに甲板上を歩くゴーレムに対して攻撃を行え!」
艦長の命令が飛ぶと艦橋に緊張が走り、飛空戦艦の甲板に配置された魔道砲が甲板を歩くゴーレムに向けられる。
だが、先ほどまで第1砲塔の横にいたはずのゴーレムの姿はどこにもなく、艦橋の兵士がゴーレムの姿を必死に探すも、その姿を見失ったままだ。
「いました。第2砲塔の正面です。ちらからだと死角になっています」
「第2砲塔、ゴーレムに向かって魔道砲発射!」
だが、先ほどの第1砲塔と同じく第2砲塔も魔道砲は発射できない。
「第2砲塔への魔力供給断、魔道砲発射できません!」
「魔力供給の遮断だと。故障か!」
「いえ、第2砲塔も破壊されたようです」
「第3砲塔、第2砲塔ごとゴーレムを破壊しろ。砲塔のひとつくらい失っても気にするな!」
動かなくなった第2砲塔は、既に戦闘用ゴーレム2号により破壊されており、ゴーレムは甲板の後方にある艦橋へ向かってゆっくり歩いている。
「第3砲塔、魔道砲発射します」
兵士が言葉を発したと同時に第3砲塔から魔道砲が放たれ、戦闘用ゴーレム2号の正面へと向かう。
魔道砲の光は、ゴーレムの正面を貫く軌道を進んでいたが、ゴーレムの手前でいきなり魔道砲の光はかき消えていた。
「ゴーレムに魔道砲命中・・・。いえ、ゴーレムは健在です。艦橋へ向かって歩いてきます」
「第3砲塔、魔道砲を連射し続けろ!」
兵士の言葉に艦長が大声で指示を出すも、第3砲塔から発射される魔道砲はゴーレムの手前でかき消えるばかりだ。
「魔道砲効果ありません」
「ええい、強力な魔法防壁でも張っているのか!」
すると甲板上を歩いていたはずのゴーレムの姿がいきなり消失する。
「ゴッ、ゴーレムが甲板から姿を消しました。場所を特定できません」
「どこに行った。探せ!」
艦長の怒鳴り声のあとに兵士がゴーレムの居場所を発見する。
「ゴーレム、艦内を移動しながら真っすぐ艦橋へ向かってきます!」
兵士の報告に艦長は思わず困惑し、そして焦りの色を浮かべる。
飛空戦艦の主砲である魔道砲ですら歯が立たないゴーレムに対して、兵士が放つ攻撃魔法など役に立たないのは明白だ。
それでも、飛空戦艦の指揮をとる艦長は、部下の兵士に残酷な命令を下さなければならない。
「艦内に敵勢力のゴーレムが侵入した。艦内にいる者はゴーレムへ攻撃を行え!」
兵士は、艦長の言葉を全艦に伝えるも時すでに遅しといった状況である。
艦内に侵入したゴーレムは、艦橋の真下へ移動すると艦橋へ向かって床を突き破り艦長席がある艦橋に姿を現した。
「ゴーレムだ。艦橋にゴーレムが現れた!」
艦橋にいる兵士達は、装備している短剣を抜く者、或いは魔法杖を手に持ち攻撃魔法を放つ準備を始める者などさまざまだが、艦長とゴーレムの距離は手を伸ばせば届く距離であり、事が起きれば艦長の命はない状況だ。
「ゴーレム、艦長から離れろ!」
ひとりの兵士がゴーレムに向かって走り寄ると短剣をゴーレムに突き刺した。
ゴーレムの背中に刺さった短剣は、かなり深く食い込み、兵士は手ごたえを感じたが液体金属の体を持つゴーレムにとって短剣による攻撃など全くの無意味であった。
ゴーレムは体から白い光を発すると、周囲を囲む兵士達に向かってその光を一瞬だけ膨張させる。
するとゴーレムを囲っていた兵士達の体は、白く光り出して霧散していく。
それは、ゴーレムの前に立つ飛空戦艦の艦長も同様である。
艦長の体が白く光ると徐々に霧散していき、飛空戦艦の艦橋に残ったのはカルルの戦闘用ゴーレム2号だけになった。
カルルが創った戦闘用ゴーレムには、分解魔法の魔石を搭載してはいるものの、分解魔法を放つことはできなかったが分解魔法を防壁として使うこはできた。
これにより体の周囲や両手の先に分解魔法の防壁を展開しつつ、障害物を分解または破壊することがでる特殊な攻撃が可能となっていた。
ゴーレムは、飛空戦艦の艦橋の操術卓に配置された魔力の魔石に手を置くと、魔力を送り込み飛空戦艦を地上へと着陸させることに成功した。
飛空戦艦の沈黙は、王太子殿下陣営に大ダメージを与えたが、王都を防衛する飛空艇の数は50艇を超える。
意図せず王都から離れた平原に着陸した飛空戦艦の周囲には、10艇以上の飛空艇が警戒しながら集まっていた。
そして地上に着陸した飛空戦艦から次々と兵士が飛び出し走り去っていく光景は、艦内に敵が潜んでいることを暗に物語ったっている。
飛空戦艦を取り囲む10艇の飛空艇は、魔石砲を飛空戦艦に向けながらゆっくりと周囲を浮遊し索敵を行う。
その時、飛空戦艦の周囲を飛んでいた1艇の飛空艇が爆散して地上へと落下していった。
その光景を目撃した飛空艇は、地上に着陸した飛空戦艦が攻撃を行ったと判断して飛空艇の魔石砲を一斉に放ち、飛空戦艦の外壁を穴だらけにしていく。
だが飛空艇が飛空戦艦を攻撃している最中も、次々と飛空艇は爆散しては地上へ落下していく。
その時、1艇の飛空艇が空に向かって数発の魔石砲を放った。
その姿を目撃した他の飛空艇は、飛空戦艦への攻撃を止めると空に向かって魔石砲を向けた。
そして目にしたのは、金属色のメイド姿をしたゴーレムが空を飛びながら飛空艇に向かって体当たりをしている光景だった。
カルルは、ゴーレムの動きを指示する命令を魔力に乗せて中継コアへ送ると、中継コアは魔獣として登録されたゴーレムにその命令を転送する。
ゴーレムは、命令の実行結果として実施した行動をゴーレムコアから中継コアへと即座に送り返し、中継コアからカルルの脳にゴーレムの周囲の状況を送る。
これを遅延なしに転送コアとゴーレムコアは、リアルタイムで処理する。
「ゴーレムが空を飛びながら飛空艇を攻撃している。敵は空にいるぞ!」
飛空艇の兵士がそう叫びながら、空を高速で飛ぶ金属色のメイド姿のゴーレムに向かって魔石砲を連射していく。
「くそ!当たらない。なんて速さだ!」
兵士が焦りの表情を浮かべながら魔石砲を放っていくと、目の前にゴーレムが姿を現す。
「敵は目の前だ!」
兵士がそう叫んだ瞬間、乗っていた飛空艇は爆散して地上へと落下していく。
地上へ着陸した飛空戦艦の周囲に集まった10艇の飛空艇は、ものの数分もかからずに爆散しながら地上へと落下していた。
カルルの戦闘ゴーレム2号は、飛空戦艦1隻と飛空艇10艇を破壊した後、王都の上空で編隊を組みながら戦闘態勢を取る飛空艇に襲いかかる。
飛空艇からは、無数の魔石砲が放たれ魔石に封じ込められた攻撃魔法が空中で炎や雷撃を放っていく。
「敵は何処にいる。敵を探せ!」
飛空艇の操術室の左右に突き出たバルコニーに兵士が出て、周囲を肉眼で索敵するも攻撃魔法による爆炎と煙で周囲の視界が悪くゴーレムを見つけることができない。
「ゴーレムは何処だ。何か見えるか!」
兵士のひとりがそう叫んだ時だった。
「目の前にメイドがいる。凄い美人だ・・・」
飛空艇のバルコニーからゴーレムを探索していた兵士がそう言葉を放った次の瞬間、飛空艇は爆散して地上へ破片をまき散らしながら落下していく。
ゴーレムは、空を飛びながら次々と飛空艇に体当たりを行い、体の周囲に張り巡らせた分解魔法の防壁により飛空艇は爆散していく。
飛行魔法が使える魔術師は、この世界では貴重で飛空艇に乗り込む兵士達の中に飛空魔法を使える者はいない。
カルルの戦闘用ゴーレム2号により破壊された飛空艇の数は50艇に達した時、王都を守る飛空艇の姿は王都の上空から姿を消していた。
ただ1艇だけ大空の遥か上を浮遊していたのは、カルルの飛空艇のみだ。
<戦闘用ゴーレム2号、飛空艇に戻ってこい>
その命令によりカルルのゴーレムは飛空艇の1階の開け放たれた入り口へと静かに飛び込んできた。
「終わった。ゴーレムの操作はけっこう疲れる」
飛空艇の床に座り込んだカルルの前には、飛空戦艦1隻、飛空艇50艇を破壊した戦闘用ゴーレム2号が立たずむ。
カルルは、中継コアによりゴーレムを遠隔操作する術を得ており、ゴーレムが空を飛ぶ感覚や敵の飛空艇を破壊した時の感覚が頭の中へと流れ込んでくるのだ。
「もし戦闘用ゴーレムを創ったとしても1度に操れるのは1体が限度かな。2体を同時に操ったらどちらを動かしているのか分からなくなりそう」
カルルは、惑星防衛システム内で誰かに操作されている訳でもないゴーレムが、まるで自身の意思を持ったように動き自然に話している様を目の当たりにしている。
「ゴーレムを自立行動させたり話せるようにできる魔石とか無いのかな」
カルルの欲求は、当然のことであるがその魔石を入手できたのは、もう少し先の話であった。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:174
1000艇まで残り826
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイリシュア王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 50艇(戦闘型50艇)




