No.071 契約
カルルの飛空艇は、北ラルバード大陸にあるハイリシュア王国へと向かっている。
この王国にある錬金術ギルドに籍を置いているカルルは、ギルドのグランドマスターから次の飛空艇創りの話があると手紙で呼び出しを受けての移動だ。
「転送の小箱は、何処でも手紙のやり取りができるのは便利だけど、遠くにいる時に呼び出しを受けると移動が面倒なんだよね」
カルルは、飛空艇の操術室で椅子に座り送られてきた手紙を操作卓の上に無造作に置きながらぼやいている。
「でも、グランドマスターが次の飛空艇の契約を取ってきてくれたなら、作業用ゴーレムを使って飛空艇の量産を試せるんじゃないの」
「それはそうなんだけど。もう少し北コルラード大陸でミスリルの採掘をやっていたかったかな」
「惑星防衛システムの修理が控えているなら、あまりのんびりもできないんじゃない」
「そうなんだよね。地上に降りてる惑星防衛システムがふたつあるって言ってから、その場所に行って修理をしないとね」
「グランドマスターから依頼があった飛空艇を作ったら、惑星防衛システムの修理に行くつもりなのよね」
「そうしないと、僕達が住んでるこの星に隕石が落ちてみんな死んじゃうからね」
アリスとの会話しながらときたまため息つきつつ、飛空艇の進路を調べるカルル。
「そろそろトーデスインゼル(死の島)があるダスタルス諸島が見えてくるはずだから、神殿遺跡に寄ってくれないかな。知恵の魔石を補充したいんだ」
「まさか空を飛ぶダンジョンが他にもあるかもって考えているの?」
「あれが、世界にひとつだけって誰が断言できると思う?」
「でも、あんなのがあちこち飛んでいたら、何処も死体の山になるじゃない」
「そうならないように知恵の魔石とミスリルの用意はしておくべきだよね」
「そりゃあそうだけど・・・」
アリスは空を飛ぶダンジョンへの恐怖心で何も考えたくないようだが、カルルは可能性を否定できないなら準備は万全にしておくべきと考えていて、双方の考え方の違いが浮き彫りとなった会話であった。
飛空艇は、しばらく洋上を飛ぶと目の前にいくつもの島が見えてきた。
「多分ダスタルス諸島だと思うけど、探査の魔石と鑑定の魔石で調べて・・・うん、間違いないみたい」
飛空艇は、神殿遺跡へと入り前回と同様に魔石を錬成したカルルが魔力の魔石を泉に投げ入れると、それは知恵の魔石へと変化した。
知恵の魔石を入手して再び飛空艇に乗り込みトーデスインゼル(死の島)への玄関口となっているメリダの街へと向かう。
トーデスインゼル(死の島)の山脈や島に生い茂る森の上空を飛んでいると、1艇の飛空艇が森へと降下していくのが見える。
「救助隊の飛空艇が冒険者の救助に向かったみたい」
「冒険者ギルドがこの島の管理をしていた頃は、島内で重症を負った冒険者は放置されていたっていうから酷い話だね」
「救助された冒険者。助かるといいわね」
「救助隊の皆さんお疲れ様」
アリスとカルルは、冒険者の救助に向かったであろう救助隊にエールを送る。
島内で魔獣狩りをしている冒険者がケガをした場合、避難豪や避難砦から転送の小箱を使って手紙を送れば、救助隊が飛空艇で助けに行く仕組みを作ったのはカルルである。
もちろん飛空艇を使った救助隊の運用を行っているのは、錬金術ギギルドだ。
それにより、冒険者ギルドがこの島を管理していた頃に比べると、冒険者の死亡率は桁違いに少なくなっていた。
カルルの飛空艇は、メリダの街中にある飛空艇の駐艇所へ飛空艇を着陸させると、錬金術ギルドの裏口から2階にあるグランドマスターの執務室へと向かう。
「カルルです。入ります」
執務室の扉を開けると、忙しそうに働く数人の職員に囲まれながら、指示を出すグランドマスターの姿があった。
「やっと戻ってきたね。帰ってきたばかりで悪いが会ってもらいたい人がいるんだよ」
「今すぐですか?」
「そうだよ。ハイリシュア王国で以前からくすぶっていた現国王と王太子殿下がドンパチ始めたんだよ。国王は心労が祟って倒れちまってね。今は後継者となった国王代理が実務を取り仕切っているから、その人に会ってほしいんだよ」
「それは、飛空艇を創る話と繋がると思っていいですか」
「まあ、それもそうだがね、お前さんがアリーア王国の現国王陛下に力添えをした話は、私も知ってるよ」
「その話ですか。あれをこの国でも再現しろと?」
「内戦を始めた王太子殿下は、冒険者ギルドと商業ギルドを味方に付けたんだよ。しかも某国から飛空戦艦まで借り受けて戦争を始めたから、現国王はジリ貧なんだよ」
「あらら。そりゃ大事ですね」
「お前さん他人事のように言ってるけど、王太子殿下は内戦を制したら錬金術ギルドを解体するって宣言したんだよ。錬金術ギルドとしてはこの戦いに協力する以外に生き残る術がないんだよ」
「それで僕に戦争で戦えということですか?」
「そこまでは言わないよ。お前さんは飛空艇を作って現国王の体制を維持できるように手助けをしてほしんだよ」
「まあ、飛空艇は創りますが・・・」
「とにかく今から国王代理の所に行くから飛空艇でついてきな」
錬金術ギルドのグランドマスターは、数人の部下を連れて錬金術ギルドの支部を出ると飛空艇で国王代理の元へと向かった。
標高2000mから4000mを超える山々が連なるグルズ山脈を飛空艇で越えてしばらく行くと大きな城が見えてきた。
城内の広場に着陸した2艇の飛空艇から降りた錬金術ギルドのグランドマスター達とカルル達は、兵士の案内で場内の客室へと案内され、いくばくかの時を待つ。
しばらくすると数人の士官を伴った女性が姿を現すと、グランドマスター達が席を立ち頭を下げて礼を尽くす。
「遅くなった。そちらがカルル殿だな。今は時が惜しい。席に座って話を進めよう」
全員が席に座ると錬金術ギルドのグランドマスターが中央正面に座る女性をカルルに紹介する。
「こちらの方が国王代理として国政を治めているグレース様だよ」
グランドマスターの紹介でカルルは、席を立つと頭を下げて一礼する。
「儀礼的な挨拶はよい。今は時が惜しいと言ったはずだ。先日王都が兄のマディソン率いる反国王軍に占領された。我ら国王軍に残された戦力はいくばくもない。これを何とかできないか」
国王代理のグレースは、カルルの目を見つめるその表情は、国王代理という立場というよりも助けを求める女性のそれに近い。
「う~ん。そう言われましても。僕はこの国の国民でもなければ兵士でもありません。まして冒険者ギルドに登録している冒険者でもありません。錬金術ギルドで年に数回行われる特売を利用しようと一般会員になった錬金術師です。もっと平たく言えば、魔法が少し使えるただの職人です」
カルルは、遠回しにこのハイリシュア王国とは深く関わりたくないとアピールした。
「だが、アリーア王国ではエミル王太子殿下の軍勢に飛空艇で参加し、今は国王になったではないか」
「あれは、たまたま運が良かっただけの話です」
「アリーシュ王国でも、次期国王選定の義でフローラ国王に助力をしたと聞いた」
「そんなこともありましたね」
「頼む。私を助けて欲しい。この国で内戦が長引けば苦しむのは国民なのだ」
「僕にできることは、飛空艇と魔道具を創ることぐらいです。あとはちょっとだけ戦いのお手伝いは出来ますが・・・」
「そうか、やってくれるか!」
国王代理のグレースの表情がいきなり明るくなる。
「まずは、相手の戦力を教えてください」
国王代理のグレースの秘書と名乗る男性は、マディソン率いる反国王軍のおおよその戦力をカルルに伝えた。
「推定戦力は、飛空戦艦3隻、戦闘型飛空艇100艇以上、地上軍15000人以上」
カルルは、秘書が伝えた戦力に対して興味を示した。
それは、"飛空戦艦が3隻"というところだ。
カルルが所有する飛空戦艦は、アリーシュ王国の地下格納庫に置かれたまま修理を待っている。
この戦いで飛空戦艦からカルルの知らない魔石を入手できれば、飛空戦艦の修理にはずみが付くのではという考えが浮かんだ。
「武装した飛空艇の武器は魔石砲ですか?」
「そのようです」
「飛空戦艦3隻は、常時行動を共にしていますか?」
「1隻は王都の上空に居座っています。2隻はマディソン王太子殿下の領地を守っています」
「僕が以前に創った30艇の飛空艇はどうなりましたか?」
「20艇は飛空戦艦と飛空艇の攻撃により撃破されました。残った10艇も多かれ少なかれ損傷していて偵察に使える程度です」
「そうですか。ならば防衛用に最低でも戦闘型飛空艇を50艇は購入してもらいます。この王国の領土の広さから考えると100艇以上は必要だと思いますが、予算の都合もあるでしょうから」
国王代理のグレースは、少しの間を置くとカルルにこう返答した。
「マディソン王太子殿下の領地を接収できれば、直ぐに返済するがそれでよろしいか」
「分かりました。では、僕が提示する条件は以下になります」
・ハイリシュア王国は、カルルから国土防衛用に戦闘型飛空艇50艇を購入すること。
・戦闘型飛空艇50艇の購入代金は、マディソン王太子殿下の領地接収後1年以内に分割払いで10年以内に全額を錬金術ギルドを通して返済すること。
・カルルが本内戦において対峙する敵勢力は、反王国軍が運用する飛空戦艦と飛空艇のみとする。
・反王国軍の地上軍への対応は、ハイリシュア王国軍が担当する。
・ハイリシュア王国は、飛空艇1艇を破壊する度に金貨10枚、飛空戦艦1隻を破壊する度に金貨5000枚をカルルに支払う。
・カルルが破壊した飛空戦艦はカルルの所有物とする。
・飛空戦艦3隻と飛空艇50艇を破壊する期限を契約開始日より60日以内とする。
・契約開始日は、契約発効日とする。
「この条件で問題がなければ契約書を作成してください」
カルルが提示した契約内容は、秘書官が書き留めて国王代理のグレースが承認して正式な契約書となり、カルルがサインをして即日締結となった。
ハイリシュア王国軍が全く相手にならなかったマディソン王太子殿下の反王国軍の飛空艇を、カルルは60日以内に破壊すると宣言して契約に示したことを、錬金術ギルドのグランドマスターは驚きの表情を浮かべながら見ていた。
国王代理のグレースとの契約の場から退出したカルルに、グランドマスターが軽減な表情を浮かべながら話しかけてきた。
「お前さん。60日以内に飛空戦艦3艇と飛空艇50艇を破壊するなんて大風呂敷を広げて大丈夫なのかい」
「北コルラード大陸へ向かう途中に所属不明の飛空戦艦が僕の飛空艇に攻撃を仕掛けてきたんです。その飛空戦艦は破壊しました」
「そんなことがあったのかい」
「それと北コルラード大陸で、空を飛ぶ高さ500mものダンジョンが現れて数万人以上の命を奪ったんです。そのダンジョンを魔石を使って破壊しました。そのお時は、本当に死ぬかと思いましたよ」
「お前さん、よそ様の大陸で何をしていたんだい」
「僕の代わりに誰かがあのダンジョンを破壊してくれればよかったんですが、誰も手が出せないので僕が戦ったんです。もし空を飛ぶダンジョンが海を越えてこの大陸にやって来たら数万人の人が死ぬ可能性があります。そうなったら僕の代わりにグランドマスターが戦ってくれますか」
「・・・・・・」
カルルの言葉に何も反論できないグランドマスターは、沈黙したままであった。
カルルは、その日のうちに飛空艇で城を飛び立つと、王国軍の2艇の飛空艇を引き連れて王都へと向かう。
王国軍の2艇の飛空艇は、勿論カルルのお目付け役である。
そして次の日の朝早くにカルルの飛空艇は、王都の上空5000mで空中静止するとマディソン王太子殿下の飛空艇部隊の探索を始めた。
「いたいた。飛空戦艦だ。王都の上空で警戒中かな。メルリア列島の上空で戦ったやつと同じ型なのは間違いないね。今回は前みたいにやられっぱなしじゃないからね」
カルルはニヤリと笑みを浮かべると、飛空艇の1階へと降りる梯子に手をかける。
「アリス。僕は中継コアを経由してゴーレムであの飛空戦艦を攻撃するから。もし敵の飛空艇が近づいてきたら適当に逃げて。ハンドさんとパトリシアさんも接近する飛空艇がいたら、どんどん撃っちゃってください。ここは、敵陣のど真ん中で周囲は敵だらけです」
「「「了解」」」
カルルの呑気な指示に笑みを浮かべながら答える3人。
カルルのお目付け役として随伴してきた2艇の飛空艇は、カルルの飛空艇の同じ高度まで飛ぶことができないため、王都近くの森の中から戦いを監視することになった。
カルルは、飛空艇の1階にある扉を開け放つと、中継コアに手を置き魔力を送り込む。
<戦闘用ゴーレム2号。飛空戦艦に向かって飛べ!>
カルルが中継コアに魔力を送り込むとゴーレムは飛空艇から飛び降り、時速500kmで飛空戦艦に向かって飛行を始めた。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:174
1000艇まで残り826
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイリシュア王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 50艇(戦闘型50艇)




