No.068 戦闘用ゴーレムを創る
ユグドリア王国内で水と食料を補給して魔道具屋に立ち寄ったあと、カルルの飛空艇は、洋上へと出て西に向かって飛んでいた。
飛空艇の2階にある操術席のひとつにアリスが座り、同じ高度を同じ速さで飛んでいるだけの退屈な時間が続き、特にすることもないので洋服に刺繍を施しながら、ときたま周囲に飛空艇などがいないかを確認する。
とても退屈な時間だが、障害物を自動で感知して回避行動をするなどできない飛空艇なのだから仕方のないことではある。
大陸近くの洋上には島が点々とあったが、しばらく飛ぶと島すらも無くなり海上を航行する船すら見かけることは無くなった。
カルルの飛空艇は、高度5000mを飛んでいるがこの高度を飛ぶ飛空艇はそうそう無い。
とりあえず鳥や空を飛ぶ魔獣との衝突で飛空艇が破損しないように、魔法防壁と物理防壁を展開はして不測の事態に備えている。
飛空艇の操作は、アリス、ハンド、パトリシアが交代で行っていて、カルルはというと飛空艇の1階でゴーレム創りにとりかかり始めたところだ。
最初に行うことは、ゴーレムの魔石の錬成。
カルルが持つ魔石の組成複製というスキルを使うと、創ったことのない魔石を左手に掴み、スキルを発動するとオリジナルの魔石が右手に錬成できる。
魔石の組成複製というスキルは、魔石が割れて破片となっていても、魔石から情報を読み取り破損した情報を補完することができる。
さらに知恵の魔石を所有した状態で、魔石の組成複製スキルを使うと、知恵の魔石に錬成できる魔石のメニューが追加されていく。
魔石の組成複製スキルで錬成した魔石は、魔石レベル1から始まるが、知恵の魔石に錬成できる魔石としてメニューに追加されると、その魔石はレベル5から始まるという特典が付く。
これらは、既に惑星防衛システム内で実施済みなので、カルルが創るゴーレムの魔石は、既にレベル5となっている。
通常、魔石錬成にな膨大な魔力と時間を要するため、魔石錬成のスキルを持つ錬金術師であっても、生涯において錬成した魔石がレベル5に達することは殆どないのが実情だ。
さて、ゴーレムの魔石を錬成したら魔石の魔法術式を開いて魔石の設定を行っていく。
ここでゴーレムがどういった用途なのかを決めるが、この用途を決めるとあとから変更はできない。
ここで選べるのは、戦闘用、汎用、作業用、生活用の4種類で、カルルが求めているのは戦闘用と作業用の2種類である。
そしてゴーレムの体を構成する素材の選択があり、土、石、金属、水、その他の4種類があり、カルルが選んだのはその他だ。
最後にゴーレムの体を構成する素材選択でその他を選んだ場合、魔石がレベル5の場合のみ追加設定で液体金属を選ぶことができる。
最後に重大な設定が待っていて、これが上手くできなければ、せっかくのゴーレム創りも水の泡である。
カルルは、収納の魔石からとある物を取り出すと、それを凝視しながらゴーレムの魔石にイメージを込めた魔力をゴーレムの魔石に送り込んでいく。
ここで送り込んだイメージは、以前にカルルが雇った元冒険者のソフィアの姿を模した塑像だ。
元冒険者のソフィアは、魔獣との闘いで左足の膝から下を欠損していて、体中に多数の火傷を負っていたが、火傷に関しては飛空艇内での治療で完治した経緯がある。
カルルは、もしゴーレムを創るならどんな姿がよいのかを、惑星防衛システムで魔石を錬成しながら考え、塑像として創っていたのだ。
そこはカルルも男の子であるがゆえ、女性の姿をした美しいゴーレムにするのは決定で、多少盛るところは盛った姿にしたのは内緒の話である。
ゴーレムの魔石の魔法術式の設定を終えゴーレムの体のイメージを送り終わると、ゴーレムの魔石はゴーレムコアとなる。
あとは体を構成する素材の中に、ゴーレムコアを沈めればゴーレムの体は完成するのだが、戦闘用のゴーレムを創るならさらなる構成が必要となる。
例えば、戦闘用ゴーレムなら攻撃用に魔道の魔石か、分解魔法の魔石を追加する必要があり、防御だと魔法防壁の魔石と物理防壁の魔石が必要になる。
さらに周囲の敵を感知するためには探査の魔石が必要であり、それが何であるかを調べるには鑑定の魔石が必要になる。
さらに、これらの魔石をゴーレムコアに直結しても魔力を蓄えたり、他の魔石をゴーレムコアは制御したりはできないので、魔力の魔石を追加する必要がある。
これらの魔石を魔力の魔石から制御する魔法術式の構築も必要となるので、ゴーレム1体にゴーレムコア1個をただ作れば良いという簡単な話ではない。
全ての準備が整ったところで、収納の魔石からスライムの洞窟から採取した液体金属の素材を入れた壺を取り出し、その中にゴーレムコアを沈めると、ゴーレムの上半身が完成した。
だが壺ひとつ分の液体金属で創れたのは、ゴーレムの体の半分だけだったので、液体金属が入った壺をもうひとつ取り出して追加する。
そしてカルルが待ち望んだ精巧なゴーレムは完成した。
試作した精巧なゴーレムの姿にカルルもご満悦な様子だが、飛空艇の操作を交代したアリスが1階に降りてくると、騒動が起きた。
「カルル。何よこれ。なんでゴーレムの姿が私じゃなくてソフィアさんの姿なの!」
カルルは、アリスがなぜ怒っているのか全く理解できずにきょとんとした表情を浮かべる。
「いえ、百歩譲ってソフィアさんの姿なのは許すけど。でもなんで裸なの。胸もあそこもそのままじゃないの。服を着せなさい服を!」
アリスが大声で騒ぐので2階の操術室にいたハンドが1階へと降りてくると、精巧なゴーレムの姿に思わず声を上げる。
「この造形は凄い。美術品だと言われれば信じてしまうくらい美しい。これなら惑星防衛システムにいたゴーレムの造形を超えたんじゃないか」
カルルが創ったゴーレムの姿をハンドがべた褒めするので、カルルは思わず照れてしまう。
「ハンドさん。そうじゃないでしょう。だって女性の裸の像が立っていて、しかも動くなんてあり得ません」
「でも、惑星防衛システムでも裸同然の姿をしたゴーレムが歩き回っていたが」
「あれは、ここまで精巧に作り込まれていなかったから許容できました。とにかくカルル、ソフィアさんの姿をしたゴーレムに服を着せなさい!」
アリスのあまりの剣幕に、困り顔のカルルであったが仕方なくゴーレムに服を着せることにした。
とはいえ、本物の服を着せるのではなく、液体金属で服を造形したものを追加するだけだ。
そして完成したソフィアさんの姿をしたゴーレムは、メイド服を着ていた。
「あのねカルル。なんでソフィアさんがメイド姿なのよ。もっと違う服があるでしょう」
「えー、でも戦闘用ゴーレムがメイド服を着て戦うとかロマンあるじゃないですか」
そう言い争っているところにまたハンドが現れるとカルルを擁護した。
「このゴーレムの元になったソフィアさんは、かなりの美人だ。ゴーレムがこの容姿でメイド姿で戦ったら、戦場の花を思わせる。この姿は絶対に外せないと思うが」
カルルとハンドは、メイド服姿のゴーレムを擁護しているので、アリスは2階で飛空艇を操作しているパトリシアに援軍を求めた。
「パトリシアさん、メイド服姿のゴーレムなんで容認できないですよね」
アリスが飛空艇の2階にある操術室で飛空艇の操作を変わると、パトリシアが1階へと降りてくるなりこう言い放った。
「カルル殿、凄い造形美です。これなら何処に飾っても誇れると思います。土魔法で飛空艇を作っているだけのことはあります。美的センスは芸術家にも負けないと思います。私もメイド服姿のゴーレムを容認します」
結局、3対1でメイド姿のゴーレムは容認されることになり、カルルもガッツポーズを取ってしまう。
だが、それに納得できないアリスは、口を尖らせてカルルに抗議の意思を伝えるのが精いっぱいであった。
飛空艇は、陽が傾きかけた頃に洋上に浮かぶ小さな島を見つけると、そこに着陸して一晩を過ごすことにした。
そこそこ大きな島ではあったが、上空から探査の魔石で調べた限り人が住んでいる痕跡はなく、強い魔獣の反応無かったため、ひと晩を過ごすにはよさそうな場所である。
カルルは、創ったばかりのメイド姿のゴーレムを飛空艇から出すと、ゴーレムに装備した重力の魔石で空を飛べるかを試すことにした。
「ゴーレム、重力の魔石で空を飛んでみて」
カルルの言葉にゴーレムは空に舞い上がる。
「やった。ゴーレムが空を飛んだ・・・」
喜んだ矢先、カルルはゴーレムが何処かに飛んで行ったまま、いつまで待っても戻らないことに愕然としていた。
そう、このあと分かったことだがゴーレムに命令を伝えられる距離は、とにかく狭く目で見える範囲でしか命令は伝えられない。
カルルが初めて創ったゴーレム1号機は、こうして失われてしまった。
愕然としながらもカルルは、どうやってゴーレムに命令を伝えられるかを考え、あることを思い出した。
それは、空を飛ぶダンジョンが飛空艇に積んでいた中継コアだ。
あれを使えば、ゴーレムを魔獣として捉えてある程度の距離までなら制御できるのではないかと考え、実際に試してみるとこれが大正解。
ゴーレム2号機は、中継コアを介して遠距離でも制御できることが分かり、これでカルルが求めたゴーレムが誕生したことになる。
ただ、いくつか問題が残っていた。
それは、戦闘用ゴーレムとして体内に分解の魔石を搭載しているのだが、ゴーレムは分解魔法を放つことができなかったのだ。
理由はよく分からず、ゴーレムコアと分解魔法の魔石と魔力の魔石の魔法術式を何度組み替えても、分解魔法を放つことはでないままだった。
ただ、ゴーレムの両手の先や体の周囲に分解魔法による防壁を展開することに成功したため、これを使って体当たりによる攻撃ができないかを後日試すことにした。
さらに問題は、もうひとつ。
ゴーレムが飛んで帰ってくると、身長が微妙に縮んでいることに気がついたカルル。
これは、ゴーレムが空を飛ぶ速度が速すぎて、液体金属が微妙に削られてしまうことが原因だと分かった。
それからゴーレムを飛ばす時は、物理防壁を常時展開した状態にすることが決まりとなった。
とりあえずは、空を飛ぶ戦闘用ゴーレムは誕生した。
次に創るは、飛空艇を作るゴーレムと魔石を錬成するゴーレムの2種類となる。
カルルの錬金術師としての技術力は、いつしか錬金術ギルドに所属する全ての錬金術師を遥かに凌駕する領域へと到達していたが、カルル本人はその自覚は一切ないのであった。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:174
1000艇まで残り826
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 50艇(戦闘型50艇)




