No.066 重力の魔石とゴーレムの魔石
カルルの飛空艇は、3000m級の山の山頂付近に鎮座する直径1000mにも及ぶ構造物の中にいた。
この構造物は、この星を隕石の衝突から守る惑星防衛システムで、カルルはこのシステムで更新が必要な魔石の錬成を依頼されることになった。
「あの、ゴーレムさんでよろしいでしょうか。重力の魔石というのは何に使うものか聞いてもよいですか」
カルル達の前に佇む4人は、金属色をしてはいるが人の姿にそっくりで実に精巧に作られたゴーレムだと推測された。
「はい。重力の魔石はこの惑星防衛システムを物理的に動かすために使用されます」
「ゴーレムの魔石は、皆さんのようなゴーレムに使うということでよろしいですか」
「そうです。主にこ惑星防衛システムのメンテナンスや魔石の錬成を行います」
カルルは、ゴーレムが言い放った言葉に違和感を覚える。
それは、ゴーレムが"魔石の錬成"という言葉を使ったところだ。
カルルは魔石の錬成を行うスキル有しているが、カルル以外で魔石を錬成できる人間は、錬金術ギルドでも少数である。
それをゴーレムができるのかという疑問だ。
「魔石の錬成をゴーレムが行うのですか」
「はい。この惑星防衛システムで使用される魔石は、特殊なものばかりなので通常の知恵の魔石では錬成できません。そのためここで使われる魔石を錬成できる特殊な知恵の魔石を作ります。カルル殿には、その核となる魔力の魔石を作っていただきます」
カルルは、知恵の魔石に時々出てくるある言葉を思い出していた。
<機密情報>。
つまり、カルルにも教えられない魔石があることと、神殿遺跡で入手できる知恵の魔石では創れない魔石が多数存在すると理解した。
そのことにはあまり触れないことにして、言われた通りに魔石の錬成を許諾することにしたカルル。
「分かりました。では、何処で魔石を錬成すればよいですか」
「では、ご案内いたします」
カルルの言葉にゴーレムが魔石の錬成を行う場所へと案内するため、4人のゴーレムが歩き出し、カルル達はそのあとをついていく。
惑星防衛システム内の通路をしばらく歩くと、大きな部屋へと案内される。
そこには、複数のテーブルと椅子。そしていくつかの小部屋が並んでいた。
「ここで魔石を錬成を行っていただきます」
一見、快適そうに見えた部屋だが、よくよく見ると複数の小部屋にはベッドはあるものの寝具がない。
「ここで寝泊まりをするのですか?」
「はい。ご自由にお使いください」
「水や食料は、用意してもらえるのですか?」
「そのようなものはございません」
「トイレは?」
「汚物の処理を行う生活処理システムが機能していないため使用できません」
「この部屋はかなり寒いけど、暖房は使える?」
「全ての部屋は、この温度と湿度で管理されておりますので、温度や湿度の変更はできかねます」
カルルは、ゴーレムにいろいろ質問してみたものの、人が暮らすには居住性は良いとはとても思えず、結局いつものように飛空艇で魔石錬成を行うことにした。
「もしかしたらこの惑星防衛システムというのは、ゴーレム達に快適な環境になっているのかな」
カルルの問いかけに答えたのは、パトリシアであった。
「恐らくそうでしょう。あのゴーレムの体は色からして金属ですが、水銀のような液体金属の可能性があります」
「液体金属?」
「はい。例えば魔獣の中にも体が金属なのに水のように形を変えるものがおります。そういった金属を使えば人の姿そっくりなゴーレムが作れる可能性があります」
「ということは、僕がゴーレムの魔石を創ることができても液体金属というものがないと、精巧なゴーレムは作れないということ?」
「私がダンジョンで見たことのあるゴーレムは、土でできたものと岩でできたものでしたが、どれもあのような精巧なものとは程遠く、素材となった土や岩の塊がただ繋がっていただけのものでした」
「ちょっと期待したんだけどなあ、ああいった精巧なゴーレムを創るのは難しいのか。空を飛ぶゴーレム欲しかったなあ」
「いっそのことゴーレムに、液体金属を分けてもらえないか聞いてみるのも手ではないでしょうか」
パトリシアの助言にカルルは頷くと、カルル達の近くで待機しているゴーレムに素材の話をしてみたのだが。
「申し訳ございません。私達ゴーレムの素材は、この惑星防衛システム内で製造されておりますが、それを提供することはできかねます」
ゴーレムの素材提供は、あっさりと断られてしまった。
「だめだった。ゴーレムの素材は提供できないって」
カルルは、落胆しながら飛空艇の外に置いた椅子に座り、テーブルの上で魔石を錬成し並べていく。
飛空艇の周囲には、何もなく殺風景なため日除けの天幕を張ったりして、作業場所としての雰囲気作りをしている。
カルルの頭の上には、小さな梟に化けた暗黒龍が瞼を閉じて就寝中だ。
食事は、何かあった時にと収納の魔石に備蓄しておいた水と食材を使い、皆で交代で用意していく。
この惑星防衛システムには、魔獣も人もいないためとても静かだ。
カルル達以外にいるのは、金属色をしたゴーレムがいるだけだ。
カルルの護衛として行動を共にしているハンドとパトリシアは、することもないので走り込みをしたり、魔力の鍛錬を行っている。
アリスは、皆にお茶をいれたり洋服に詩集を施したり、梟と戯れたりしながら時間を有意義に使っている。
そんな数日が経ったある日、ゴーレムがカルルにこんな事を告げた。
「以前、ここに来た錬金術ゼスト様から、次の錬金術師に向けてメッセージが残されておりますが、御覧になりますか」
カルルは、ゴーレムから錬金術師ゼストという以外な名前を告げられて思わず身構える。
「はっ、はい。お願いします」
「では、ここに映像を出します」
ゴーレムは、カルルが魔石の錬成を行っているテーブルから少し離れた何もない場所に、映像を映し出す。
「僕の飛空艇と同じだけど、魔石が見当たらないね」
そう、カルルの飛空艇も操術師の目の前に、飛空艇の外の映像を映したり地形図を映せるようにしている。
これらは、魔石により実現しているのだが、ゴーレムの周囲に魔石らしきもものはなく、やはりカルルの遥か上を行く技術力を持っていることが分かる。
「あっ、ああ。これで映っているのかな」
「はい。お話して大丈夫です」
映像には、若い男性が映っていて、その横に金属色のゴーレムが立っている。
映像に映っている場所は、この惑星防衛システム内と同じ部屋に見える。
「私は、錬金術師のゼストです。飛空艇創りと魔道具創りを生業としています。1年前の夜に枕元に女神と名乗る女性が現れて、私に飛空艇を創れと言ってきました。最初は何のことか分かりませんでしたが、以前から飛空艇を創りたいと考えていたので了承しました」
カルルも、錬金術師ゼストが体験した同じことを、あの夜に体験している。
「そして世界中の国々で飛空艇を創り歩いているうちにこの惑星防衛システムに出会いました。惑星防衛システムは、この星に落下する隕石を破壊することを目的に作られたとということですが、実際に何をしているかは、映像を見た方が早いと思うので、これからそれを見せます」
映像には、この星だと説明された丸い青い星が映し出され、その背景は黒一色である。
その青い星の周囲にはドーナツ型の惑星防衛システムがいくつも存在するのが分かる。
そして青い星が点として表されると、点の周囲に無数の点が映し出され、その無数の点がこの星に落下する隕石群であると説明された。
数でいうと大きなもので数千を超えていて、小さいものを含めると数十万という途方もない数である。
そして、その隕石の中でも特徴的な隕石が映し出され、大まかな大きさが示された。
カルルは、その映像を見て唖然とする。
隕石の大きさが10kmを超えるものから徐々に大きな隕石へと切り替わり、最後には直径200kmの巨大な隕石が映し出される。
その後の映像は、惑星防衛システムが隕石を破壊していく映像へと切り替わったが、どんな武器を使えば巨大な隕石を破壊できるのか、カルルのは皆目見当も付かない。
「これを何とかしろと言われても僕にはどうることもできない」
そうつぶやいた時、映像は錬金術師ゼストへと切り替わる。
「この映像を見せられると、絶望感に打ちひしがれると思いますが、あまり深く考える必要はありません。私も最初は同じ絶望感でどうしたものかと思いましたが、私達のような錬金術師がひとりでこの星を救えと言う方が土台無理な話なんです」
錬金術師ゼストは、カルルの心の中を見透かしたような口ぶりだ。
「私達は、魔獣と戦う冒険者じゃない。まして英雄譚に出てくるような魔王を倒す勇者でもない。魔石や魔道具を作る錬金術師だということを忘れずにいてほしい。この星を守る役目はあくまで惑星防衛システムだ。私達錬金術師は、そこで必要とされる魔石作りに注力すればよいのです」
錬金術師ゼストの言葉は、映像を見たカルルの心をかなり軽くしてくれた。
「私より前にここに来た歴代の錬金術師達も同じことを言っていたな。私の言葉は、歴代の諸先輩方の受け売りです」
そう言って錬金術師ゼストは、映像の中で大笑いをしていた。
そして映像の最後に錬金術師ゼストは、カルルが欲していた情報を提供してくれた。
「この映像を見ているということは、ゴーレムから魔石の錬成を依頼されたと思いますが、重力の魔石は飛空艇の浮遊の魔石と飛空の魔石の上位互換です。飛空艇に取り付けると飛空艇の動きが劇的に変わります。そしてこの星の周囲を飛んでいる惑星防衛システムへ直接行けるようになります。ただ、あそこに行くには、かなり準備が必要です」
錬金術師ゼストは、思いもよらない情報を残していた。
それは、いつかここに来る後輩となる錬金術師へのアドバイスとも受け取れた。
「そしてもうひとつ、ゴーレムの魔石を手に入れたと思いますが、ゴーレムの体を作る素材は入手できなかったと思います。目の前に立つ精巧に作られたゴーレムをぜひ欲しいと思ったはずです。だが素材がなければ作れません」
カルルが欲しいのは、精巧なゴーレムの体を作る素材なのだ。
「とある場所に液体金属の体を持つスライムが多数生息する森があります。その森の奥の洞窟内に液体金属の池があるので、そこに行けば精巧なゴーレムの素材が手に入ります。ただし、スライムは気分屋なので手土産は必要です。高純度のミスリルを用意するといい。その場所の地図を映しておくので行ってみてください。私も数体の精巧なゴーレムを作って伴っているが、飛空艇作りの手助けになってくれますよ」
カルルは、その言葉に思わず両手の平を握りしめてガッツポーズをしてしまう。
「それでは、あまり無理をせずに魔石の錬成に精を出して欲しい。そうだ、大陸にいくつか神殿遺跡があります。そこで知恵の魔石を知識の魔石へと変えることができるからぜひ試してほしい」
そこで錬金術師ゼストの映像は途絶えた。
カルルは、欲していた精巧なゴーレムの体となる素材のありかを入手することができた。
それを教えてくれたのは、100年前にこの世界に名をはせた大錬金術師ゼストその人だ。
カルルは、その日から魔石錬成に力が入ると、どんなゴーレムを創るのか思案を始める。
飛空艇と並走して空を飛ぶゴーレムや、飛空艇を共に創るゴーレム。
カルルの頭の中では、想像力と妄想が渦を巻いていた。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:174
1000艇まで残り826
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 50艇(戦闘型50艇)




