No.062 ユグドリア王国
話は、少し前にさかのぼる。
ライマー王太子殿下は、妹のルイーゼが反乱を企て領内にて飛空艇を大量購入して軍事力を蓄えていると、父親である国王にあること無いことを進言し、ルイーゼを反逆者として討伐の勅命を拝命した。
そして3000人の討伐部隊を率いてルイーゼの領地へと向かう途中、越境してきたユグドリア王国の飛空艇の攻撃を受け、数千人の死傷者を出してしまう。
ライマー王太子殿下は、護衛すら失いひとり山中をさ迷い近隣の領地を統治する貴族の屋敷へと逃げ込んだ。
それから数日を経て王都へと戻る途中、あちこちの街で謎の魔獣により領民が命を落としているという話が耳に入る。
ライマー王太子殿下は、やっとの思いで王都へと戻ってきたものの、そこは既に謎の魔獣により壊滅状態となっていた。
謎の魔獣に対しては、物理攻撃も魔法攻撃も効かず唯一の防衛手段は、教会に所属する教会聖魔術師が行使する聖属性魔法であったが、教会を守る教会聖魔術師の数は圧倒的に少なく、王都には5人を数えるほどしかいなかった。
教会聖魔術師は、王都の防衛に駆り出されるも、魔術師の人数の不足から魔力切れを起こし、魔獣に体を乗っ取られた人々に取り囲まれ、程なく全員が姿を消してしまう。
謎の魔獣から王都を防衛できなかった王国軍と国王は、王都を離れて山岳地帯にある城で再起を図る決断をする。
だが、時は既に遅く王都を脱出した国王を乗せた馬車の車列は、魔獣により体を乗っ取られた者達の襲撃を受けてしまう。
国王の馬車の護衛として殿を任されたライマー王太子殿下ではあったが、こちらも魔獣に体を乗っ取られた者達に囲まれ、身動きがとれなくなっていた。
そこに追い打ちをかけたのは、ガルラント王国の国旗を掲げた複数の飛空艇であった。
「またしてもガルラント王国の飛空艇か!」
地上に着陸した複数の飛空艇からは、頭上に黒い影のような魔獣を乗せた、ガルラント王国軍の兵士が降り立つ。
ライマー王太子殿下は、部隊を引き連れガルラント王国の飛空艇を奪取する命令を下すも、ひとりの兵士も飛空艇に到達することなく、黒い影のような魔獣に襲われてしまう。
たったひとり残されたライマー王太子殿下は、騎馬に跨り飛空艇へと突撃を行う。
地上に降り立った飛空艇の前へと到達したライマー王太子殿下は、馬を降りると飛空艇内へと駆け込んでいく。
飛空艇内には、魔石がひとつ置かれているだけで、搭乗員は誰ひとりいない。
「よし、この飛空艇で魔獣を根絶やしにしてやる」
ライマー王太子殿下は、飛空艇の扉を閉めると、2階への梯子を上り操術師の席へと座る。
そして操作卓に埋め込まれた魔力の魔石の上に手を乗せた。
「私も飛空艇の操作くらい知っている。古い物だったが何度か操術の訓練は受けている」
魔石に魔力を送り込むと、飛空艇はふわりと浮上がり2階の操術席の小さな窓から外の景色が見える。
「武器だ。確か魔石砲といったか。攻撃魔法を施した魔石を打ち出すはずだが、どうやって撃つのだ?」
ライマー王太子殿下は、飛空艇の操作はできたが魔石砲の撃ち方までは知らなかった。
さらにこの飛空艇に搭載されている魔石砲には、既に魔石の残弾は無く魔石を打ち出すことはできなかったのだ。
「ええい、どうやったら魔石砲を撃てるのだ!」
飛空艇の2階の操術背室で、慌てふためくライマー王太子殿下の背後には、1階に置かれた魔石から多数の黒い影のような魔獣が姿を現し、ライマー王太子殿下の背中から頭上へと静かによじ登る。
「なっ、何だ。急に眠気が襲って来たぞ。それに体から魔力が抜けていく・・・」
頭上に乗った黒い影のような魔獣は、ライマー王太子殿下の意識を奪い精神支配を行い、魔力と生命力を徐々に奪っていく。
ユグドリア王国の国王と王太子殿下であるライマーの消息は、これ以後どうなったのかを知る者はいなかった。
それから程なくして、王都の空に新たな飛空艇が姿を現す。
それは、ルイーゼ率いる飛空艇部隊であった。
飛空艇は、王都の上空を低空で飛ぶと、飛空艇に装備された分解砲により、魔獣に体を奪われた者達を次々と撃ち払っていく。
「いいか、絶対に地上に降りるな。魔獣に襲われた者達を救うことはできない。安らかに眠れるようにひと思いに屠ることが彼らを救う唯一の道だと思え!」
ルイーゼは、魔獣と戦う兵士達を鼓舞するために話し方まで変えていた。
その理由は、女性として振舞うのではなく、このユグドリア王国を統治する王族として、人の上に立つ者として振舞うためであった。
ルイーゼ率いる飛空艇部隊は、王都のあちこちに置かれた天然魔石(中継コア)の位置を、飛空艇に取り付けられた探査の魔石と鑑定の魔石により把握すると、それらを次々と破壊していく。
程なくして王都を蹂躙した黒い影の様な魔獣と、それらに操られた者達の姿は消えていた。
「よいか。あの魔獣は、中継コアという魔石を介してダンジョンコアと繋がっている。中継コアを全て破壊すれば、魔獣は魔力を消費してやがて活動できなくなる。慌てずに飛空艇で中継コアの位置を把握し、それを破壊しろ。国境まで押し返えせば、ユグドリア王国内にこれ以上魔獣の被害が広まることはない!」
ルイーゼは、城壁や城に立てこもっていた兵士達を集めると、その前で魔獣への対象方法を的確に指示した。
いままで魔獣の倒し方すら分からなかった兵士達は、あたふたするばかりの上官の姿に嫌気がさしていたが、目の前に突如として現れた”救世主”の登場は、兵士達に新たな国王の誕生だと思わせた。
たった5艇の飛空艇ではあったが、王都を魔獣から奪還するのに数日もかからず、王都からガルラント王国の国境に向かってゆっくりと進軍を始める。
その時には、既に国王も王太子殿下も、行方不明となっておりルイーゼは国王代理として魔獣討伐軍を率いていた。
「ルイーゼ様は、どうして魔獣の撃退方法をご存じだったのですか」
魔獣討伐軍の指揮をとるジェームズ大佐は、ルイーゼにそんな質問を投げかける。
「私の領地は、度々ガルラント王国の飛空艇により越境攻撃を受けていた。対抗手段として他国から飛空艇創りができる錬金術師を招へいしたのだが、その者がガルラント王国内に広がる魔獣被害の調査を行い、対処方法まで教えてくれたのだ」
「なんと。そんな錬金術師がいるのですか」
「兵士達が私のことを救世主と呼んでいるのは知っているが、本当の救世主はその錬金術師なのだ」
のちにルイーゼは、ユグドリア王国の正式な国王となり、"救世国王"と呼ばれる存在となる。
カルルの飛空艇とワイアット大尉が率いる飛空艇5艇の部隊は、ガルラント王国の領内に入るとユグドリア王国との国境近くに点在する天然魔石(中継コア)を探し出しては次々と破壊していた。
国境沿いに配置された天然魔石(中継コア)を破壊してしまえば、ユグドリア王国内に活動範囲を広げた魔獣を一掃できる。
空を飛ぶダンジョンに向かいつつ、然魔石(中継コア)を破壊を繰り返しながら、最後にダンジョンと対峙するというのが最初の作戦であった。
途中、ダンジョンの飛空艇と何度も遭遇したが、カルルが遭遇した速く攻撃力の高い飛空艇とは出会うことは無く、順調にガルラント王国の中央地域へと向かっていた。
途中、陽が暮れると山間部の森の中で野営を行い、作戦の詳細を詰めていく。
兵士の中には、迷宮が空を飛ぶという言葉を全く信じていないものも多かったが、カルルが撮録の魔石に記録された映像を見せると、空を飛ぶダンジョンの姿や、そこから飛来した飛空艇の攻撃力に唖然とする者ばかりだ。
「カルル殿は、あんな巨大なダンジョンや飛空艇と戦っていたのですか」
「どうやったらあれだけの数の飛空艇と戦えるのですか」
兵士達からは、次々と質問が投げかけられた。
その問いに答えたのは、カルルではなくアリスやハンドやパトリシアであった。
3人は、それぞれ操術師であり魔道砲の砲手であり分解砲の砲手である。
しかも飛空艇の操術師となる時に、3人から教育を受けているので、みな顔なじみである。
3人は、各グループに分かれると自身の経験を兵士達に伝えた。
兵士達は、誰も巨大な迷宮と10倍以上に達する飛空艇と戦わねばならず、緊張感が漂っている。
そして朝になると、飛空艇部隊を率いるワイアット大尉が、これから戦う兵士に向かって訓示を述べる。
「我々が戦う相手は、今までに見たこともない空を飛ぶダンジョンである。そしてわが部隊の10倍を超える飛空艇と戦わねばならない。だが、この戦いにおいて北コルラード大陸で数万、或いは数十万の民の命が救われる可能性が大である。我らは未来永劫この国で救国の英雄として語り継がれるであろう。我らの戦いこそがこの大陸を救うのだ。皆の奮戦を期待する。以上!」
居並ぶ兵士全員が敬礼で返す。
飛空艇は、空へと舞い上がると中部地域へと飛んでいく。
そして遥か彼方には、空を飛ぶ巨大な筒状の迷宮の姿が見える。
「迷宮の前で複数の煙が見えます。戦いが行われているようです」
飛空艇のバルコニーから空を飛ぶ迷宮を観察している兵士がそう報告してくる。
飛空艇を操術師の目の前に映し出される地形図にもいくつもの飛空艇が乱舞する姿が映し出されていた。
飛空艇に積まれた探査の魔石と鑑定の魔石によると、それらは空を飛ぶ迷宮から飛び立った飛空艇と、ガルラント王国の飛空艇が空中戦を繰り広げている姿であった。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:174
1000艇まで残り826
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)




