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No.061 飛空艇対空を飛ぶダンジョン

残業続きで0時前に帰宅できることを、喜んだ方がよいのか・・・。

カルル達が乗る飛空艇は、空を飛ぶダンジョンの上を旋回している。


それは、ダンジョンがなぜ空を飛んでいるのか、どうやって空を飛んでいるのか、何が目的でを空を飛んでいるのかを観察するためだ。


「あのダンジョンの中にかなりの数の飛空艇があったけど、ダンジョン自体を空に浮遊させるだけでも相当な数の魔石を使っているんだろうね」


「だが、それだけの数の魔石をどこから入手したのだ。まさか飛空艇から取り出した訳でもあるまい」


カルルの言葉に魔石研究員が答える。


「あれだけ巨大なものを飛ばすためには、浮遊の魔石、飛空の魔石、魔力の魔石は、100や200じゃ済まないだろうね」


「恐らく、魔石を複製するなり錬成するなりしたのだろう。となれば、あのダンジョンは、他の魔石も複製なり錬成できるのではないか」


「ダンジョンコアって凄いね」


「関心ばかりしておれん。あんなダンジョンがもし他にも存在するとしたらどうする」


「確かに脅威だね」


「あのダンジョンは南に向かっている。このまま進むと南方地域のまだ魔獣が到達していない領域へ向かうのではないか」


「そこで人々を襲い、魔力や生命力を奪ってさらにダンジョンを大きくしようとしているってこと?」


「そう考えた方が自然だろう」


カルルは考え込み、そして唸り始める。


あのような巨大なものを止める方法など全く思いつかないと言わんばかりだ。


「やっぱり分かんない。ああいったものは、普通なら軍隊が相手するんじゃないの?」


「普通はそうだが、空を飛ぶダンジョンなど、どの王国の軍隊も対処方法など知らんだろう」


カルルと魔石研究員の掛け合いに割って入ったのは、アリスであった。


「あるじゃない。カルルが海でやったあれよ」


「海で?」


「あれ、覚えてないの。そうか、カルルは頭を打って意識がもうろうとしていたわね。魔力の魔石とミスリルで起きた爆発のことよ」


カルルは、記憶の片隅を必死にほじくり返してみると、確かに海上で魔力の魔石が大爆発したことを思い出した。


「それだけじゃなくて、あの時は飛空艇の魔石も全て使えなくなったじゃない。あのダンジョンも空を飛ぶなら、浮遊の魔石、飛空の魔石、魔力の魔石とか使っているんじゃないの」


「そうか。あの爆発の方じゃなくて魔石が破壊される現象を利用すればいいのか」


「カルルって変なところがダメダメよね」


「ははは、だってまだ12歳だから!」


今度は、カルルとアリスの掛け合いとなった。


「それじゃあ、魔石を用意してダンジョンを破壊して・・・」


カルルがそう言いかけた時、アリスが声を張り上げる。


「ダンジョンから多数の飛空艇が出て来たわよ。50、60、70・・・100艇を超えてる」


「飛空艇は、何処に向かっているの?」


「真っすぐこっちに向かって来てる!」


「全速で逃げて!」


アリスが発した言葉に対してカルルが声を張り上げる。


「高度5000mまで上昇。速度最大。防壁展開!」


カルルの飛空艇は、空で吹き荒れる強風を受けて小刻みに揺れながら、どんどん高度を上げていく。


「えっ、そんな。追ってくる飛空艇も高度4500mに達してる。速度もこちらよりも速い!」


アリスを言葉を聞いたカルルは、思わず凍付く。


今までカルルの飛空艇よりも速く高く飛べる飛空艇は、この世界では存在しなかったのだ。


通常、飛空艇が飛ぶ高度は1500m程度だが、カルルの飛空艇は消費する魔力量を度外視して魔石を多く積んでいるため、普通の飛空艇の3倍以上もの高度まで浮遊することがることができる。


ところがだ、空を飛ぶダンジョンから飛来した飛空艇は、カルルの飛空艇の性能と同等かそれ以上の可能性があるのだ。


「とっ、とにかくダンジョンからできるだけ離れて!」


カルルの脳裏に最悪のシナリオが思い浮かぶ。


「ハンドさん、パトリシアさん。追って来る飛空艇が射程圏内に入ったら撃ちまくって!」


追ってくる飛空艇との距離は徐々に縮まり、カルルの飛空艇に向かって複数の魔石砲が放たれる。


カルルの飛空艇は、魔法防壁と物理防壁を展開済みのため、数十発の魔石砲なら防ぐことは可能である。


だが、速く高く飛ぶように改造を施されたであろうダンジョンの飛空艇は、魔石砲のみを無改造で放置するなどあり得ない。


カルルの飛空艇で展開された防壁に、ダンジョンから飛び立った飛空艇の魔石砲から、放たれた魔石が防壁に命中する度に攻撃魔法がさく裂する。


「カルル、魔石砲の威力が強すぎて防壁がもたない。破られる!」


アリスの悲痛な言葉に呼応するようにカルルは、魔力の魔石から防壁の魔石の魔法術式を呼び出すと、防壁強度を最大へと振り向ける。


通常、防壁の魔石が消費する魔力を少なくするため、消費する魔力量はある程度抑えてあるが、最悪の状態となった場合は、魔力消費量など度外視で魔法強度を限界にまで上げることで飛空艇を守るのだ。


魔力砲の砲手を担当するハンドも、分解砲の砲手を担当するパトリシアも追って来る飛空艇への攻撃を必死に続行中だが、数の多さに2人の顔色が青ざめていく。


カルルは、他に手は無いかと思考を巡らせていく。


と、その時であった。


追って来たはずのダンジョンの飛空艇が全て引き返していく。


何が起きたのかと状況を確認すると、追って来た飛空艇と空を飛ぶダンジョンの距離がかなり開いていた。


「もしかしてダンジョンと追って来た飛空艇に積まれている天然魔石(中継コア)との距離が開きすぎて、魔力の伝達が限界に達したのかも」


カルル達は、何とか救われた形になったものの、空を飛ぶダンジョンの飛空艇は、カルルの飛空艇よりも、高度、速さ、攻撃力ともに性能を上回る可能性があることがはっきりとした。


これでは、何か対策を打たない限りは、再戦という訳にはいかなくなったのだ。


「何とか助かったね。とにかく、この状況をユグドリア王国のルイーゼ様に報告しよう」


カルル達は、何とか助かったもの飛空艇内は重苦しい雰囲気に包まれていた。


ユグドリア王国のルイーゼ様の元へと帰還したカルル達は、早速ルイーゼに事の経緯を話し始める。


「ダンジョンが空を飛んで移動しているというのですか。さすがに信じろと言う方が無理があるかと思います」


この反応は当然と言える。


カルルは、懐からとある魔石を取り出すと、その魔石に魔力を込めて記録された映像を部屋の壁に映し出す。


「これは撮録の魔石といって、目の前で起きていることを魔石に記録できるものです。この魔石を飛空艇に取り付けておいたので、空を飛ぶダンジョンの姿をお見せします」


ルイーゼの目の前には、空を飛ぶダンジョンの姿がはっきりと映し出される。


さらにカルル達の飛空艇がダンジョンの中に入っていった時の映像や、ダンジョンコアの姿もはっきりと映し出されていた。


そしてカルルの飛空艇が攻撃を受けて防戦一方であった情景も映し出される。


「本当にダンジョンが空を飛んでいます。しかもあんなに巨大だなんて」


「あのダンジョンから出てきた飛空艇は、僕の飛空艇よりも速く飛びます。武器も強力でした。ダンジョンの飛空艇は、かなり厄介な相手です」


「空を飛ぶダンジョンは、何処に向かっているのですか」


「今の進路で進むと、数日中にガルラント王国の中央地域に達します。そのまま直進すると仮定すると南方地域に達します」


「つまり、また大勢の人が死ぬという訳ですね」


「恐らくそうなります」


ルイーゼは、頭を抱え込んでしまった。


王国の王太子殿下という身分でしかないルイーゼにとっては、ひとりで抱え込める問題ではなくなっていた。


そこにさらなる悪い知らせが舞い込んで来る。


「ルイーゼ様。王都で未知の魔獣が暴れています。大臣や国王陛下は避難されたようですが、その後の足取りがつかめておりません」


とうとうユグドリア王国にもあの魔獣が到達したのだ。


だがユグドリア王国のルイーゼの領地では、あの魔獣の侵入は何とか食い止めることができていた。


それは、カルルが創った飛空艇に装備された分解砲から放たれる分解魔法により、魔獣も天然魔石(中継コア)も破壊できたことによるものだった。


とはいえ、カルルがルイーゼの依頼により創った飛空艇20艇のうち、分解砲を搭載した飛空艇は、お試しで創った5艇のみ。


それ以外は、全て魔道砲のみを装備した飛空艇だ。


ルイーゼは、カルルに残る飛空艇全てに分解砲を搭載する依頼を出すと、5艇の飛空艇を引き連れて王都へと向かうことになった。


カルルには、気がかりな点がひとつあった。


それは、ガルラント王国の中央地域へ向かったはずの空を飛ぶダンジョンが、進路を変えずに進んでいるのかという点である。


もし、進路を変えてこのユグドリア王国の王都へ向かっていたら、カルルではどうすることもできない。


だが、今はやることがある。


ルイーゼ様向けに創った15艇の飛空艇に分解砲を装備して、砲術師に使い方を教えることだ。


カルルは、いそいでルイーゼ様向けに引き渡した飛空艇に、分解砲を取り付けていく。


1日に追加で装備できるのは5艇程度で、15艇全てとなると作業に3日はかかる。


恐らく3日もあれば、空を飛ぶダンジョンは、ガルラント王国の中央地域へと到達する。


そうなれば、また数千から数万の人の命が奪われる。


もし、ダンジョンから飛び立った飛空艇が、あのダンジョンで作られたものだとしたら、この3日間でどれくらいの飛空艇が増えるのか。


カルルは、飛空艇に分解砲を取り付ける作業を行い、3日目の深夜に最後の飛空艇に分解砲の取り付けが間もなく終わろうとしていた。


「カルル殿。悪い知らせです。飛空艇で偵察に向かった部隊が、ガルラント王国の中央地域に入ったダンジョンを確認しました。ダンジョンの足は遅いものの、昼夜を問わずに飛び続けているそうです」


「とうとう来ましたか」


「我らもこの状況を座視している訳にはまいりません。ルイーゼ様より領地を守れとの命令を受けておりますが、空を飛ぶダンジョンを何とかできるのであれば、それはこのユグドリア王国そのものを守ることにもつながります」


ルイーゼの領地の防衛を任されたワイアット大尉は、カルルに何かを訴えるかのような言葉を発する。


「僕に空を飛ぶダンジョンに向かって欲しいということ?」


「カルル殿は、ルイーゼ様のお客様であります。その様な御仁に空を飛ぶダンジョンを何とかして欲しいとは言えません。ですが、我らはカルル殿をお守りしろとの命令も受けております」


「つまり、僕が行けばワイアット大尉も護衛としてついて来るということ?」


「カルル殿を守るようにと命令を受けております」


何か含みのある言い方だが、軍人である以上命令は絶対で、それを逸脱することは許されない。


だが、命令を実行するために多少の拡大解釈は許されていた。


「分かりました。では、早朝にダンジョンが到達した中央地域へと向かいましょう」


「はっ!」


ワイアット大尉は、カルルに敬礼をすると飛空艇を2隊に分け、部下に指示を出す。


飛空艇5艇は、カルルと共に空を飛ぶダンジョンへと向かい、残り10艇で国境の警備を行いながら魔獣の侵入を阻止するという。


カルル達は、空を飛ぶダンジョンと再戦することとになった。


空を飛ぶダンジョンから飛び立つ飛空艇は、カルルの飛空艇よりも速く飛ぶことができる。そして武器も強力である。


何か対策がある訳ではないが、見て見ぬふりはできない状況である。


カルルの心には、一抹の不安が残ったが、そんな不安を払拭するように自身の頬を両手で叩いて気合を入れるのであった。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:174

 1000艇まで残り826


◆カルルが創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用


◆北ラルバード大陸


王国向け飛空艇

・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)

・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇

・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)


錬金術ギルド用飛空艇

・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇

・薬草栽培兼治療用飛空艇

・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇

・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇

・遊覧用飛空艇 4艇


◆北コルラード大陸


王国向け飛空艇

・ユグドリア王国向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)


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