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No.006 旅立ち

カルルは、母親と畑の野菜を収穫して残った根の部分に魔力を込めた土を被せたらどうなるかという実験を始めた。


母親の話では、普通なら何も起きないとのこと。


ただ、刈り方を工夫すると根本からまた生えてくる野菜もあるという。


野菜は、実に不思議な植物だ。


相変わらず父親は戻ってこない。既に街に出てから10日以上は経っている。


心配して下手に街に出ていってもすれ違いになる可能性が高いので待つしかない。


そうこうしているうちに魔力を込めた土を被せた野菜の根から新しい芽が伸びてぐんぐん成長していく。


「魔法にこんな使い方もあるのね」


母親が不思議そうな表情を浮かべながら成長する野菜を眺めている。


カルルは、魔力を込めた土にこんな使い方がある事を学んだ。


ならば、錬成した魔石に魔力を込めて畑に埋めたらどうなるか?という疑問が生まれた。


例えばカルルが錬成した飛空艇用の魔石は、魔力を込めるとそれを維持し続ける事は使ってみて分かった。


ならば、屑魔石はどうか。


屑魔石に魔力を込めると微妙に魔力が漏れる。これも試して分かったことだ。


土に魔力を込めると野菜が早く大きく育つ。ならば屑魔石に魔力を込めても同じ効果が出るのではないか。


まだ野菜が育ちきっていない畑に魔力を込めた屑魔石を埋め、目印に棒を差しておく。


さらに以前に父親が村から買ってきた果樹の木の根元にも屑魔石をいくつか埋め、魔石の場所が分かる様に棒を差しておく。


さて、これで畑の野菜が早く大きく育つなら今後の生活が楽になるというもの。


畑仕事が終われば、次にするのは飛空艇試作二号艇の試験飛行と細々とした改良だ。


畑から飛び立ち最初は低空を飛ぶ。


問題ないようなら高さを徐々に上げて山の峰を超えるくらいの高さまで飛び、何か問題が無いかを確認する。


試験飛行が終われば、昼食を食べに戻りまた飛空艇試作二号艇の試験飛行を行う。


これを繰り返す日々が何日か続いたある日、カルルの父親が戻ってきた。


家を出てから実に20日ぶりであった。


「まずい事になった・・・」


家に帰ってくるなり父親の最初の言葉がそれだった。


まずは事の経緯を順に話始める。そして今後どうするかを早急に決めるという。


それは、この地に住み続けるか。あるいは家族で何処か別の場所に移り住むかだ。


「冒険者ギルドは、飛空艇用の魔石を鑑定した時に魔石を錬成した年まで分かったようだ」


「魔石を錬成した年?」


「ああ、うちの鑑定の魔石では魔石の種類は分かるが、魔石がいつ錬成されたのかまでは分からなかった」


「だが冒険者ギルドには、鑑定を行う専門家がいた。そいつの鑑定魔法だと魔石を錬成した年まで分かるらしい」


「鑑定士からは、魔石が錬成されたのは今年だと言われたよ。つまり飛空艇用の魔石を錬成できる者がいるという事がばれた」


「俺は、カルルの事を一切言わなかったが、冒険者ギルドは俺に追跡の専門家をつけやがった」


「馬車で家とは反対の街へと向かい、途中でカルルの魔石で空を飛んで追跡者から逃れようとしたが無駄だった」


母親は、事の重大さをようやくと理解した。


「あなた。この家を棄てましょう。冒険者ギルドは飛空艇用の魔石を錬成できる者を探している。つまりカルルを連れ去るかも知れないという事でしょう。だったらこんな家なんて捨てて今すぐに旅に出ましょう」


「カルル。着替えと毛布を持って飛空艇に積み込みなさい。飛空艇は大きい方を使いましょう。あれなら飛空艇の中でも寝られるから」


「あなた。疲れていると思うけど荷物をまとめて大きい方の飛空艇に積んで。それと周囲の警戒をお願い」


母親の指示がてきぱきと飛ぶ。


カルルの父親と母親は、以前は冒険者チームを組んでいた。


通常、リーダーは父親がやっていたが、危険を察知した時は母親がチームの行動を決めていた。


カルルの母親は、危険を察知するのが得意なのだ。


「カルル、今まで錬成した魔石を飛空艇に積み込んで。それと小さい飛空艇の魔石も全部取って大きい飛空艇に積み込んでおいて」


カルルの母親は、収穫した野菜と小麦が入った袋、さらに飲み水が入った壺を飛空艇に積み込むと周囲に探査魔法を放つ。


すると家からかなり遠くに2組の男達がこちらを監視している事がわかった。


だが2組の男達は、かなりの距離を取っている。これなら直ぐにここにやって来る事はないと考えた。


さらに、探査魔法の範囲を広げるとこちらに向かって来る集団を発見した。


「あなた、誰か分からないけどこちらに向かって来る集団がいるわ。数は20いえ・・・30はいるわ」


カルル達が住む家に向かってやって来る集団の中に騎乗している者もいる。


カルルの父親は、慌てて土塁の上へと駆け上がり、森と草原の境界に作られた細い道の先を目でたどる。


こちらに向かって来る集団は旗を掲げげており、それは領主のものであった。


「領主だ!なんでこんな辺鄙な場所にわざわざ・・・」


そこで気が付いた。


「まさか、カルルの飛空艇が目的か・・・」


恐らくカルルが創った飛空艇を見たものがいて、その話が領主にまで届いたのだと推察した。


「くそ、冒険者ギルドと領主の両方か・・・、とにかく飛空艇を直ぐにでも飛ばせる状態に!」


そして間もなくすると、カルルの家族が住む家と畑をぐるりと囲う土塁の近くで集団の脚は止まった。


「我ら、この地を治めるアルバート男爵の従士だ。」


「この辺りで飛空艇を目撃したという通報が相次いでいる。他国の軍隊が領内に侵入したというなら大問題だ。我らは、領内の探索を行っている」


騎乗した男が馬上から土塁の上に立つカルルの父親に大きな声で要件を伝えてきた。


騎乗の男が従える30人余りの兵士は、全ての者が腰に剣をぶら下げ鎧を装備しており、いつでも攻撃できる体制だ。


「お前達は、ここに住んでいる元冒険者のハンドとパトリシアだな、家の中を検めるので土塁の扉を開けよ!」


カルル達が住む家と畑を囲む土塁の高さは2mを超え、土塁の外側には深さ1m程の堀が作られいて堀の幅も1mはあり、近くの川から引き込んだ水が張られているため、土塁によじ登るのは難しい。


土塁は、魔獣や動物から家や畑を守るためにカルルが作ったものだが、飛空艇の高さよりも低く外からでも大きな壺の様な形をした物は、誰の目にも映っている。


「お前がハンドか。そこに見えている大きな物はなんだ。まさか飛空艇ではあるまいな?」


騎乗している男の視線は他の者よりも高く、土塁の中にある飛空艇の姿が見えている。


「もしそれが飛空艇であるならば、領主様の許可もなく領内を勝手に飛ぶ行為は、領主様の頭上を飛ぶ事と同義でありそれは反逆行為そのものだ!」


さらにに領民が飛空艇を所有する許可を出した覚えはない。飛空艇の所有も領主様への反逆行為とみなし、飛空艇は没収としお前達を領主様への反逆者として拘束する!」


この世界で空を飛べるのは、王国軍が所有する飛空艇と飛行魔法のスキルを持つほんのひと握りの魔術師だけである。


領地を統べる領主にとっては、領内で反乱を起こされる事を最も恐れる。


もし反乱を起こした者が空から攻撃を行ってくれば、それに出来うる対処などほぼ無いのだ。


この世界では、最も警戒すべきは空を飛べる魔術師と飛空艇なのだ。


騎乗した男が部下の兵士達に対して指示を出す。


堀と土塁を超えるための梯子が掘の外から土塁へと掛けられていき、領主の兵士達が次々と土塁の上へと向かってくる。


カルルの父親は、土塁から駆け降りるとカルル達が待つ飛空艇へと飛び乗った。


「カルル。飛空艇を出せ。俺達は、領主への反逆者だそうだ!」


カルルが操る飛空艇は、ふわりと宙に舞い上がり、土塁の数倍の高さへと駆け上がる。


「飛空艇を逃がすな!魔術師、攻撃魔法だ!」


宙に浮いた飛空艇に対して数人の魔術師が火魔法を放ち、それが飛空艇の外壁を焦がし飛空艇が僅かに揺れる。


するとカルルが飛空艇の2階にある操術卓の椅子から立ち上がると、2階の両脇にある小さな扉のひとつを開けて小さなバルコニーへと出た。


飛空艇は、魔力の魔石に魔力を送り込むもとで浮遊の魔石と飛空の魔石へ魔力と飛空艇を動かす魔法術式を発動させている。


その魔力の魔石は、大量の魔力を溜めることができると同時に魔力に込められた命令は魔法術式となり同じ処理を繰り返す。


つまり、操術卓の上に埋め込まれた魔力の魔石は、カルルが直前に命令した「宙に浮いた状態で停止する」という命令を魔法術式という形で魔石内に溜められた魔力が尽きるまで維持する状態になっている。


カルルは、飛空艇の小さなバルコニーに出ると手に持つ袋から屑魔石を手の平一杯分をすくい上げ、それをばら撒いていく。


陽に照らされた屑魔石は、キラキラと輝きながら畑へと落ちていき、畑は陽に照らされて美しく輝いて見えた。


「まっ、魔石だ。畑に魔石が落ちているぞ!」


ひとりの兵士がそんな声を上げた。


すると宙に浮いた飛空艇に向かって火魔法を放っていた魔術師も土塁に掛けられた梯子をよじ登る。


既に土塁によじ登った兵士達は、こぞって畑に落ちた屑魔石を拾いに集まってくる。


「おっ、おい。何をやっている。飛空艇を攻撃せんか。貴様ら!」


屑魔石は、金になる。それは誰もが知っている事実だ。


金にならない飛空艇への攻撃よりも目の前にある金になる屑魔石集めが兵士達の最優先事項へと変わっていく。


誰も騎乗の従士の命令など聞かず畑に撒かれた屑魔石集めに夢中だ。


その光景を飛空艇のバルコニーから眺めてにんまりとするカルル。


「それじゃあ、行こうか」


操術卓に戻ったカルルは、魔力の魔石に手を置きゆっくりと魔力を魔石へと送り込む。


飛空艇は、空へと舞い上がり森を越え山の峰へとさしかかる。


もうカルルが住んでいた家は見えない。


カルルの飛空艇は、狭いが空を自由に飛び回れる家族の新しい家となった瞬間であった。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:2

 1000艇まで残り998


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇


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