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No.054 地上に広がるダンジョン外への脱出

11月から毎週末(土曜日、日曜日)にアップロードします。

北極圏の孤島で発見されたダンジョン。


そのダンジョン調査が失敗した調査隊は、全滅した。


生き残ったのはたった3人だけだが、魔獣に乗っ取られた元調査隊員が操る飛空艇を奪い、北極圏の孤島からの脱出に成功した。


海を渡り大陸へと戻ってきた3人が奪った飛空艇に、食料は積まれておらず何処かで調達する必要がある。


大陸に入り近くの村の上空へとやってきた3人は、その時になって事の重大さを思い知ることになった。


村の住民全てが頭の上に黒い影の様な魔獣を乗せているのが上空からでも見えたからだ。


「まずいな。既に村は魔獣に汚染されていたのか」


「あれでは、食料を分けて欲しいと言ったそばから魔獣に襲われるな」


「次の村かもう少し離れた街まで行った方がよさそうですね」


3人が乗る飛空艇は高度を上げると最も近い街へと向かい食料の調達を行う算段をした。


だがそれも無駄に終わる。


「この街も魔獣だらけだ」


「街のあちこちに倒れている者がいるが、あれは・・・」


「恐らく魔獣に魔力と生命力を奪われて死んだ者達だろう」


3人を乗せた飛空艇は、ガルラント王国を南下しつつ王都を目指す。


当面の目標は、ダンジョンの調査失敗を国王陛下と冒険者ギルドに報告することだが、ダンジョンの魔獣が調査隊員の体を奪い、飛空艇でこのガルラント王国内に広がっていることを伝えるのは、とにかく気が重い。


飛空艇が南下して向かう村や街のあちこちで、火の手があがり死体が散乱している。


村、街、或いは街道を往来している者の頭の上には、あの黒い影の様な魔獣が張り付いていて、島から飛び立ってからというもの魔獣に乗っ取られていない者をひとりたりとも見ていない。


3人は、水を補給するために地上に降り立ったものの、食料を見つけることはできなかった。


「仕方ない、何処かの家に忍び込んで食料を調達するほかないか」


「俺達が泥棒になるとは思わなかった」


「泥棒はしたくない。何処かの畑で野菜を採るのではだめなのか」


「人の家に侵入して食料を奪うのも、人の畑で勝手に野菜を採るのも泥棒には変わりない」


「そうなんだが、罪悪感が違うだろう」


「今は緊急事態だ。我慢しろ!」


3人の腹の具合もそろそろ限界となった頃、街道に荷馬車が捨て置かれているのが見えた。


「おい、荷馬車だ。もしかして喰い物があるかも」


「飛空艇を近くに着陸させるから、荷馬車に喰い物があるか探してきてくれ」


魔石研究員は、飛空艇の2階でいつでも飛び立てるように待機し、グランゼとヴァルターが馬車へと向かう。


荷馬車の積み荷は雑貨と保存食と水であった。


「不味い干し肉がこんなに愛おしいと感じたのは生まれて始めてだ」


「こっちには、固くて歯が立たない乾燥パンもある、塩と胡椒もあるからスープでも作って食べるか」


2人は持てるだけの食料と水の入った樽を飛空艇に運び入れると空へと上っていく。


「何処か見晴らしのよい場所を探して食事にしよう。いい加減空腹で死にそうだ」


そんなことを言いながら3人は、魔獣に乗っ取られた人々がやってこない場所を空から探し始めた。


すると街道を疾走する4頭の馬を見つける。


「あれは、魔獣に乗っ取られていない人間じゃないのか」


「あの馬の前に飛空艇を降ろせるか」


「やってみよう」


3人が乗った飛空艇は、少し先の街道へと降り立つと4頭の馬に乗った者達が来るのを待ち構える。


そして馬の姿が見え始めた頃、グランゼが大声を張り上げた。


「俺達は、冒険者だ。そちらで話ができる者はいるか」


4頭の馬が少し手前で止まると、馬から降りたひとりの兵士がグランゼ達の元へと走ってきた。


「私達は、バーミリオン地方伯とその護衛だ」


「バーミリオン地方伯。それは大変失礼した。だが今は非常事態。失礼な言動はご勘弁願いたい」


馬が飛空艇に近づいてくると、馬上からひとりの男が声を発する。


「そなた達は、どこへ行かれるのか」


「この惨状を伝えるべく王都の冒険者ギルド本部と王城へ向かうつもりでいる」


「なんと、王都へ行かれるのか。すまないが我ら4人を飛空艇に乗せてはもらえないか」


「バーミリオン地方伯も王都に行かれるのですか。では、早急に出立しましょう。ここではいつ魔獣に襲われるか分かりません」


グランゼ達3人と、バーミリオン地方伯とその護衛4人は、飛空艇に乗ると空高く舞い上がっていく。


しばらくして夕暮れとなり、飛空艇は小高い山の中腹へと降り立った。


森の木々がまばらに茂る場所で、火を起こし荷馬車から拝借した鍋で簡単なスープを作り、それを皆へと振舞われた。


「このスープ、美味いな」


「空腹の時は何でも美味いと言うからな」


「我らもここ数日、食事をしておらぬから美味いぞ」


「干し肉も乾燥パンも暖かいスープに浸さないと歯が立たないので、時間をかけてスープで戻してから食べてください」


ダンジョンの生き残り調査隊3人とバーミリオン地方伯御一行という、本来なら出会うはずのない者達が魔獣による大災害という環境の中で飯を共にする機会を得た。


「そういえば、喜啓らは冒険者ということだが、北方で魔獣狩りでもしていたのか」


バーミリオン地方伯の言葉に3人は、食べていた食事が止まる。


いくら王国軍と冒険者ギルドの合同調査隊とはいえ、この未憎悪の大災害の始まりは、ダンジョンに調査隊が入ったことにより始まった。


もしそのことをここで話せば、大災害の元凶として殺されてもおかしくはない。


「実は、ギルドから北方に未知の魔獣がいるという連絡が複数の冒険者からあり、その調査をすべくギルドから派遣されたのですが、例の魔獣に出くわしまして、調査隊の殆どが帰らぬ者となってしまいました」


「そうであったか。思い出したくないことを聞いた。許せ」


バーミリオン地方伯は、グランゼに対して深々と頭を下げた。


「とんでもございません。バーミリオン地方伯様も聞けば、城と多数の兵を魔獣により奪われたそうではないですか。魔獣を倒して再び北方地域に平和が訪れることを切に願っております」


「この魔獣の元凶を早く取り除き、命を落とした民や兵達を安らかに眠らせてやるのが我の務めだ!」


バーミリオン地方伯の意気込みたるやすさまじく、この大災害の真相は墓場まで持っていくと誓う3人であった。


次の日の朝、陽が上らないまだ暗いうちに飛空艇は空へと飛び立ち一路王都へと向かう。


街道の上空を飛び王都へ向かう途中に点在する村や街には、横たわる亡骸と頭に黒い影のような魔獣を乗せた人々の姿ばかりだ。


そしてあちこちから火の手があがり、空は黒煙で埋め尽くされている。


その中でもひときわ巨大な黒煙を上げる場所が遠くからでも見ることができた。


王都だ。


飛空艇の2階にある操術師席の両サイドにはバルコニーがあり、そこは飛空艇の外で魔術師が魔法攻撃を放つ場所なのだが、グランゼとバーミリオン地方伯がバルコニーから王都の状況を確認している。


「王都は火の海だ」


「王城も焼け落ちているのか・・・」


辺り一面火の海となった街の上空は、家々が燃え盛る炎と熱と黒煙で飛空艇ですら地上へ近づくことすらできない。


「バーミリオン地方伯様、どうされますか。この状況なら恐らくですが国王陛下は中央地域か南方地域で兵力の再編を行っていると思われますが」


グランゼは、一縷の望みを込めてバーミリオン地方伯へと進言した。


「そうだな。もしかすると飛空艇を率いて魔獣と戦っている可能性は高い」


飛空艇内に戻ったバーミリオン地方伯は、少し考え込むと護衛の兵士達と今後について話を始めた。


グランゼ達は、冒険者と魔石研究者であり軍人ではないので、話の輪の中へは入らずにその結果を待った。


「我らは中部地域を治めるベルダルグ伯爵のもとへと向かうことにする」


「では、そこまではお送りいたします」


「手間をかける」


飛空艇は、王都をあとにして中部地域を治めるベルダルグ伯爵領へと向かった。


その間も眼下に見える村や街からは火の手が上がり、倒れている人の姿で溢れかえっている。


「こんな中部地域まで魔獣による大災害が広がっているのか、これからどうすればよいのやら」


飛空艇のバルコニーから眼下に燃える景色は、そこまでいっても横たわる亡骸と頭に黒い影のような魔獣を乗せた人々の姿ばかりで、思わず愚痴がこぼれるバーミリオン地方伯であった。


そして飛空艇は、ベルダルグ伯爵領に入ったものの、どの村も街からも火の手があがり、あちらこちらに亡骸と頭の上に黒い影の様な魔獣を乗せた人達の姿ばかりが目に入る。


「地上は、どこも惨状だらけだ。もうこの国は復興できるのかすら分からない」


バーミリオン地方伯がそう言いかけた時だった。


眼下に広がる山の斜面に砦が見えた。


飛空艇の高度を下げて近づいてみると、砦の城壁を守る兵士や住民と思しき頭の上には黒い影の様な魔獣の姿は無かった。


「まだ生き残った者がいるぞ!」


バーミリオン地方伯は、飛空艇のバルコニーから身を乗り出しながら叫ぶ。


飛空艇は、間もなく山の斜面に構築された砦の城壁の上に着陸する。


「この砦の責任者はいるか。私は、北方領域を治めるバーミリオン地方伯である」


飛空艇の突然の来訪に驚く兵士達は、剣を向けて飛空艇を取り囲む。


「騙されないぞ。飛空艇に乗っている奴らは、魔獣に体を乗っ取られた者ばかりだ!」


「そうだ。皆、騙されて魔獣に襲われた!」


飛空艇を取り囲んだ兵士達は、口々にそんな言葉を発する。


そこに現れたのは、この砦の臨時指揮官となったハモンド大尉であった。


「これは、失礼しました。私はベルダルグ伯爵領アンゼルム砦の防衛を臨時で任されたハモンド大尉であります。バーミリオン地方伯におかれましては、北方地域から遠路はるばるのご遠征ご苦労様です!」


敬礼で出迎えたハモンド大尉の顔色は、酷く青ざめており今にも倒れんばかりに窶れている。


「ハモンド大尉、砦の防衛ご苦労。疲れているところ悪いが状況を教えてくれ。ここに残る兵士の数はどれくらいだ」


「はっ、50名ほどです。他は全て避難民を収容しております」


「避難民の数は、どれくらいだ」


「ざっと500人ほどおります。殆どが女性と子供であとは老人になります」


「食料と水はどれくらいある」


「水は山の湧き水があるので何とかしのいでいますが、食料が底をつきかけておりあと2日といったところです」


兵士と避難民の数を合わせると550人にもなると、当面の食料だけでも相当な量になる。


「まずは避難民への食料の調達が急務か・・・」


だが、魔獣がはびこる中部地域において地上から馬車による食料の補給は自殺行為に等しい。


となると唯一、食料を調達できるのはグランゼ達が乗ってきた飛空艇頼みとなる。


「グランゼ殿、おぬし達は軍人ではない。そのことを重々承知の上でお願いしたい。飛空艇で食料の調達と運搬をお願いできないだろうか」


飛空艇を囲う兵士達は、いまだに敵意向き出しで飛空艇を取り囲んでいる。


飛空艇から降りたバーミリオン地方伯は、同じく飛空艇を降りたグランゼ達に向かって食料の買い付けと運搬を依頼した。


「食料ですか。さすがに飛空艇1艇で運べる食料はたかが知れています。となれば飛空艇を何処かで調達しつつ、食料の買い付けを行う必要があります。500人を食べさせる量の食料となると、かなりの額になります」


グランゼは、食料を大量に備蓄している北方地域の街があるかを記憶の中から探り出した。


「恐らくですが、王国内での食料調達は、ほぼ絶望的でしょう。ならば、船で物資輸送を行っている港を所有するユグドリア王国へ行って話を纏めるしかないでしょう」


グランゼ達3人は、砦に逃げ込んだ500人の避難民とそれらを守る50人の兵士達の食料買い付けに紛争することになった。


3人を乗せた飛空艇は、休む暇もなく一路ユグドリア王国へ向かって飛び立った。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:174

 1000艇まで残り826


◆カルルが創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用


◆北ラルバード大陸


王国向け飛空艇

・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)

・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇

・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)


錬金術ギルド用飛空艇

・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇

・薬草栽培兼治療用飛空艇

・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇

・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇

・遊覧用飛空艇 4艇


◆北コルラード大陸


王国向け飛空艇

・ユグドリア王国向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)


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