No.052 ミスリルを狙う兄とダンジョン脱出
相変わらず残業続き。
次回は11月1日に投稿します。
ルイーゼが注文した戦闘型飛空艇10艇と、カルルが持ちかけたミスリル系魔石との取引により、追加の戦闘型飛空艇10艇も創り終わった。
あとは、アリスが操術師達への教育が終われば、ユグドリア王国での商売は終了となる。
ところが、事はそう簡単には行かないのが世の常である。
王都では、ある疑惑が浮上していた。
それは、ルイーゼが反乱を起こすのではないかという疑念だった。
その発端はというと、市場で純度99.9%のミスリルが出品されたという耳を疑う話からだ。
とある商人が市場に持ち込んだミスリルがありえない純度を誇り、それが高額で取引されたという。
真意を調べると純度99.9%のミスリル1kgが市場に持ち込まれ、取引価格はプレミアム価格で金貨25000枚という高額であった。
この世界では、純度99.9%のミスリルを製錬できる者などいないとされ、市場には稀に純度90%のミスリルが参考出品として出されることはあった。
この純度90%のミスリルは、錬金術師が長い年月をかけて製錬したもので10年に1回程度の間隔で市場に極少量が持ち込まれる。
それが純度99.9%のミスリル1kgというありえない量が売却されたとなると、これ以外にも存在するのではという疑念が湧き上がった。
ミスリルを売買した商人は、代理人を通していたため名前は特定できなかったものの、ミスリルを売買する商人の数は限られるため、調査すればおおよその検討はついてしまう。
そこで浮かび上がったのは、最近山間部で多数の飛空艇が飛ぶさまを目撃したと証言する者が増えた地域があった。
その場所を領地としていたのがルイーゼであった。
そこからは推測となるが、ルイーゼの領地で新しい魔石の鉱脈が見つかったのではないか。
他国から招致した錬金術師が純度99.9%のミスリルを製錬できるスキルを持っており、その錬金術師にミスリルの製錬を行こなわせて、大量の武器を買い込んでいるのではないかというのだ。
これは、半分ホントで半分ウソになるのだが、実際にこの世界で飛空艇は武器とみなされる。
また、カルルは他国から招致された錬金術師であるため、これもホントの話である。
異なるのは、隣国のガルラント王国の飛空艇が越境行為を阻止するために飛空艇を導入したのだが、それを王国への反乱とみなされたことだ。
このミスリルの件を調べていた密偵は、この調査結果をユグドリア王国の王太子殿下ライマーへと報告した。
ライマーは、ルイーゼの腹違いの兄妹であり次期国王の最有力候補であるが、ルイーゼが次期国王の座を狙っていると疑心暗鬼に駆られており、ルイーゼを亡き者にしようと目論んでいた。
「これは好機だ。すぐに父上、いや国王陛下へ兵を動かす許可を具申する」
ライマーは、すぐさま国王陛下へ調査結果を報告すると、ルイーゼ討伐の勅命を受ける。
そして3000人の兵を引き連れてルイーゼの領地へと向かった。
ルイーゼの領地には、新しいミスリル鉱山が発見されており、他国から招致した錬金術師がいるという密偵の話を信じて疑わない。
ライマーは、ルイーゼを亡き者としミスリル鉱山と錬金術師を手中に収め、さらには飛空艇を手に入れることができれば、自身の力は王国内でより盤石となると考えていた。
だがルイーゼの領地に入って目にしたのは、ガルラント王国の飛空艇と空中戦を繰り広げるルイーゼ領軍の飛空艇の姿だった。
ガルラント王国の飛空艇は、ユグドリア王国の国境を超えた先でルイーゼ領軍の飛空艇と戦っている。
そして数では圧倒的にガルラント王国の飛空艇が有利だが、それを技量で跳ね返すルイーゼ領軍の飛空艇の姿は、まさに圧巻という言葉しか思いつかないほどであった。
「なぜ、我が王国の領内にガルラント王国の飛空艇が侵入しているのだ。誰か説明しろ!」
ライマーの問いに答えられる者は誰もいない。
自国が置かれた状況を把握できず、王国内で政争に明け暮れるライマーにとって、ルイーゼの領地で他国との戦争状態に突入していることに今更ながら驚くばかりであった。
そしてガルラント王国の飛空艇は、ライマー率いるルイーゼ討伐軍にも戦端を開いた。
・・・・・・
北極圏の孤島で発見されたダンジョンへ調査に向かった王国軍と冒険者ギルドの合同調査隊は、無数の天然魔石が広がる広間に調査用のキャンプを設置した。
暗いダンジョン内に複数の魔法ランタンが置かれ、小さいながらも天幕が設営され天然魔石の収集と解析が行われる。
ダンジョンは、ここからさらに下層へと続いているが、まずはこの広間と天然魔石の調査が最優先となる。
魔獣の出現にそなえて広間に魔獣が入ってこれないように出入り口付近に土魔法で簡単な土塁が設置された。
調査隊に同行した魔石調査を専門とする研究員は、天然魔石を天幕に持ち込むと鑑定魔法を用いて魔石を詳細に調べている。
調査隊の隊長であるグランゼは、S級冒険者でありギルドからのたっての要請により今回のダンジョン調査に加わった。
グランゼは、大陸中にある全てのダンジョンを制覇しており、その経験を買われて調査隊の隊長となったのだが、このダンジョンに関しては何か腑に落ちなかった。
理由は至極単純であった。
それは、ダンジョン内に魔獣の姿が全く見当たらないからだ。
今までに攻略したダンジョンでは、第1層ですらスライムなどの魔獣がいたが、このダンジョンには魔獣の姿は1匹たりとも見てはいない。
ところが天然魔石は、魔石鉱山を凌駕するほどの数である
ダンジョンは、人の魔力や生命力を糧に成長すると言われている。
だが、このダンジョンは北極圏の海に浮かぶ孤島に存在し、このダンジョンを訪れた冒険者の記録は未だかつて存在しない。
では、このダンジョンはいったい何を糧に成長しているのか、この無数の魔石は何を糧にここまで数を増やしたのか。
疑問は尽きないが、それを調べるのは隊長のグランゼではなく、調査隊に同行した研究者達だ。
そしてグランゼの疑問を研究者のひとりが一部だが解明した。
「グランゼさん。このダンジョン内にある天然魔石ですが、どうも本物の魔石ではないようです」
「本物の魔石ではないとは?」
「魔石というものは、もの凄く固いというのはご存じですね」
「ええ、鎚で叩き割ろうとしても割れないのは知っているが」
「先ほど誤ってテーブルから誤って落とした魔石は粉々に砕けました」
「どういうことですか」
「この魔石は、鑑定魔法で調べると”天然魔石”と鑑定されますが、どうもそれは魔石が偽っているように見えます」
「魔石が偽るとは?」
研究者は、グランゼの耳元に小声でこう囁いた。
「あの魔石自体が魔獣ではないかと推察します」
「魔石が魔獣だと?」
「はい。魔石を鑑定魔法で調べると本物もありますが稀に"天然魔石(中継コア)"と鑑定されるものと天然魔石(擬態)と鑑定されるものがありました」
「擬態、つまり魔獣が魔石に成りすましているということか」
「はい。もしかすると我々の周りにある無数の魔石は、全て魔獣が魔石に擬態したものかもしれません」
「つまり、我々は魔獣の巣窟の中にいるということか」
「このダンジョンには、他のダンジョンで見かけるような魔獣は全く存在しません。それは他のダンジョンと性質が異なるからではないでしょうか」
「となれば、ここは危険地帯と考えるべきだな」
「ええ、一旦ダンジョンを出て対策を考えるべきだと思います」
研修者は、グランゼとの会話を終わらせると、必要最低限の荷物を持ち帰還の準備を始める。
グランゼは、魔術師のヴァルターに声をかけると耳元で囁いた。
「ダンジョンから撤退する。この広間の魔石は魔獣の可能性があるそうだ」
「なっ、なんですって!」
「研究者の話では、魔獣が天然魔石に擬態して我々をだましていると言っていた。それにイーヴォのダンジョンでドロップした鑑定の指輪で魔石を調べると"闇属性"と出た」
「闇属性の魔石ですか。そんなの聞いたことないですね」
「もしかすると闇属性の魔獣が擬態している可能性もある」
グランゼは、腰にぶら下げたホルダーから聖属性のナイフ2本を取り出すと、いつでも使える状態にした。
「ヴァルターは、聖属性の魔道具を持っていたな」
「はい。女神の微笑みの杖を持っています」
「俺も聖守護の短剣がある。杖は、いつでも使える状態にしておけ」
グランゼは、研究者や護衛の冒険者と兵士に撤退の意思を伝えた。
だが、一部の者はそれに反論を呈した。
「待ってください。こんな北極圏の孤島のダンジョンまで来て手ぶらで帰るなんてどうにかしている。せめて魔石だけでも持ち帰るべきだ!」
魔獣が魔石に擬態している可能性があると伝えたにも関わらず、まだ魔石に固執して帰ると言い張る者がいた。
これには、さすがにグランゼもあきれ顔だ。
冒険者のひとりがひときわ大きな魔石を抱えると、それを袋の中に入れようとした時だった。
魔石から黒い影のような物が無数に飛び出すと、魔石を袋に詰めようとした男の頭めがけて飛び出してきた。
男は声を出す暇もなく黒い影の様な物に、体の自由を奪われるとその場に倒れ込む。
それが全ての合図だった。
ダンジョンの広間に無数に存在する魔石から黒い影のようなものが溢れ出した。
「そういうことか。魔石の中に魔獣が潜んでいたのか!」
グランゼは、自身が抱いた違和感の正体が分かると納得の声を上げる。
「ヴァルター、広間の入り口で退路を確保しろ!」
グランゼがそう言った時には、ヴァルターは広間の入り口で聖属性の魔法杖により魔法攻撃を開始していた。
調査隊の冒険者や兵士達の戦いを観察していたグランゼは、人に取り付いた魔獣は防壁を張ることができ、物理攻撃も魔法攻撃も効かないこと知った。
ヴァルターが放つ聖属性の攻撃魔法は、防壁を破壊すると同時に人の頭に取り付いた魔獣をも破壊して見せた。
ただし、1度でも魔獣に取り付かれると魔獣が消滅しても人は倒れ込んだまま2度と立ち上がっては来なかった。
既に調査隊の殆どは魔獣に取り付かれているか、或いは広間に倒れて立ち上がってこない状態だった。
「調査隊は、全滅だな」
グランゼは、覚悟を決めるとヴァルターが守っている広間の入り口へと向かう。
両手に持つ聖守護の短剣により黒い影の様な魔獣を切り刻むことはできるが、とにかく数が多すぎて残った調査隊を助けに行くことなど不可能であった。
広間の入り口に到着したグランゼは、そこを守るヴァルターと共に黒い影のような魔獣と戦いを繰り広げた。
「残ったのは俺達だけか」
「いや、研究員のひとりが聖属性の魔石を持ち込んでいたおかげで、ここだけ魔獣が寄ってこない。このダンジョンの魔獣に聖属性のアイテムは鬼門らしい」
グランゼが研究員に視線を向けると、魔獣が魔石に擬態しているのではないかと言ってきたあの研究員が聖属性の魔石を手に持ち、魔獣達が近づくのを阻止していた。
「仕方ない。俺達3人だけでもダンジョンを脱出する」
3人は、ダンジョンを地上に向かって走り出した。
手に持つ魔法ランタンが揺れて視界が悪い中を必死に走る3人。
ダンジョンの通路は、黒い影の様な魔獣によって埋め尽くされているが、研究員が持つ聖属性の魔石が近づくと魔獣達は、面白いように道を開けていく。
数時間ののち、3人はダンジョンから脱出することができたが、目の前には荒れ果てたベースキャンプと死体が散乱していた。
「くそ、ベースキャンプはとっくにやられていたのか!」
「飛空艇がない。魔獣に襲われた時に逃げたと思いたい」
「だといいが。あの魔獣は人に取り付くように見えた。もし飛空艇の操術師が魔獣に取り付かれていたら」
「まさか・・・」
雪が降り積もる北極圏の孤島に取り残された3人。
食料と天幕は残っているものの、ダンジョンの魔獣がいつ襲ってくるかも分からない場所にいつまでも留まることなどできない。
「とにかく船でも何でもいいから島から出る方法を探そう」
3人は、雪が降り積もる極寒の孤島をあてもなくさまよい始めた。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:174
1000艇まで残り826
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)
趣味のキャンプ動画です。
ランタンの灯りで心に癒しを。
お暇でしたら見てやってください。
https://www.youtube.com/watch?v=6c2k6d5exW8




