No.051 ミスリルの価値と城を攻略するダンジョン
相変わらず残業で帰宅時間が遅い・・・。
ミスリル鉱山の坑道で倒れたルイーゼとその護衛達を乗せたカルルの飛空艇は、ルイーゼの屋敷へと戻った。
ルイーゼは間もなく意識を取り戻すと、飛空艇創りを再開したカルルの元へ再び現れる。
「あの、先ほどの製錬したミスリルですが、いただいてもよろしいですか」
「あっ、あれなら差し上げますよ。元々あの鉱山はルイーゼ様の物です。僕は、採掘と製錬を試して欲しいと言われたのでやったに過ぎません」
カルルは、何か素っ気ない感じだがルイーゼから見れば、ミスリルを99.9%で製錬できる魔石は、喉から手が出るほど欲しいものなのだ。
「あっ、あの。カルル殿が錬成した魔石を譲っていただくことはできませんか」
「あの魔石ですか、それは構いませんがミスリルを99.9%の純度で製錬するには、かなりの魔力を消費します。それでも構いませんか」
「では、いかほどの価格になりますか」
「うーん、そうですね。ではなぜ僕の魔石が純度99.9%で製錬できたのかから種明かしいたします」
カルルは、そう言うと自身の飛空艇から折り畳みの椅子とテーブルを持ちだすと、飛空艇の前に並べてルイーゼ様に座る様に促した。
「では、僕の魔石がミスリルを99.9%の純度で製錬できる理由ですが、魔石にはレベルというものがあります。このレベルというのは、魔石をどれくらい創ったかに依存します。例えばですが飛空艇を1艇創るのに最低でも9個の魔石が必要です。飛空艇を200艇創ったとすると必要な魔石は1800個になります」
「魔石1800個ですか!」
「はい。1800個の魔石は全て同じものではありませんが、それだけの魔石を創ると魔石のレベルが上がります。では、ルイーゼ様はミスリルを製錬する魔石を今までに何度作りましたか」
カルルの問にルイーゼ様は、両手の指を折ながら数えていく。
「えーと、7個です」
「そんなものですよね。僕の鑑定の魔石で調べてみましたが、ルイーゼ様の指輪の魔石は製錬したばかりの魔石と同じレベル1でした」
「レベル1・・・」
「はい。これでは純度99.9%のミスリルを製錬することなどできません。そしてもうひとつ理由があります。魔石には魔法術式というものがあります。これは魔石の性能を決定付けるもので、攻撃魔法の魔石や防壁の魔石などどんな魔石にも備わっています。ちなみにルイーゼ様は、魔法術式の設定を変えたことはありますか?」
「いえ、そもそも魔法術式というものを知りませんでした」
「ルイーゼ様の魔石は、レベル1でした。レベル1の魔石の魔法術式では純度は80%が限界です。これは先ほど確認しました」
「でも、カルル殿はあの魔石を創ったのは初めてでしたよね」
「そうです。ですが僕の魔石はというとレベル5です。レベル5だと99.9%まで純度を上げることができます」
「初めて作った魔石がなぜレベル5になるのでしょうか?」
「それについては、僕の商売にも関わる話になるのでお答えはできません。ですが、僕が創ったミスリル製錬の魔石はお譲りいたします。ルイーゼ様は、飛空艇を買っていただいた大切なお客様ですから」
カルルの言葉に思わず小さな涙が頬を伝わったルイーゼの表情は、何処か笑顔と泣き顔が混ざった複雑な表情を浮かべていた。
翌日、ルイーゼ様は自身の魔石鉱山へ赴くとカルルが錬成した魔石でミスリル鉱石の採掘とミスリルの製錬を行い、10kgの純度99.9%のミスリルを製錬した。
とある日、そのミスリルを出入りの商人が屋敷に来た時に買い取りについて相談するととんでもない話となる。
「この1kgのミスリルをおいくらで買い取ってもらえますか」
ルイーゼは、ミスリル鉱山で製錬した純度99.9%のミスリルを1kg毎に小分けにて商人の前に差し出すと、どういった反応をするかを探ってみた。
「では、鑑定をせていただきます。ミスリル1kgで製錬具合は・・・製錬・・・具合・・・」
出入りの商人の言葉は、そこで途切れると次の言葉は出て来ず、ずっとミスリルを凝視している。
「あっ、あの、このミスリルはルイーゼ様が製錬されたのですか」
「とある国の高名な錬金術師の方のご助力をいただきました」
商人は、何度も何度も何度も鑑定魔法でミスリルの塊の鑑定を繰り返した。
「驚きました。まさか純度99.9%のミスリルをこの目で見られる日が来るとは思いませんでした」
そう言うと商人は、屋敷の天井を見上げながら計算を始める。
「純度99.9%のミスリル1kgですので、金貨16665枚となります。これには市場でのプレミア価格は含まれておりません」
「金貨16665枚。たった1kgのミスリルがですか!」
「私も市場では、純度90%のミスリルを1度しか見たことがありません。ましてや純度99.9%などというものがこの世界に存在するとは思いませんでした」
「このミスリルの売買をお願いできますか」
出入りの商人は、しばし考え込むとルイーゼの顔をじっと見つめて首を縦に振る。
「では、このミスリルをより高い価格で売れるように努力いたします。私を信用していただいたルイーゼ様に損はさせません!」
そう言うと商人は、預かりの証文を残してミスリルを商う市場へと向かうため山を下りていった。
商人の馬車が進む道の脇では、飛空艇を作る錬金術師の少年が黙々と飛空艇創りを続けている。
商人は、その光景をちらりと見ただけで去っていった。
まさか飛空艇を作るこの少年が、先ほどの純度99.9%のミスリルを製錬できる魔石を作った張本人だとは、気ずくはずもなかった。
・・・・・・
北コルラード大陸の中央に位置するガルラント王国。
その北方地域を治めるバーミリオン地方伯は、北方地域の守りの要として数万の兵力を有する。
そのバーミリオン地方伯の居城では、数日前から異変が起きていた。
周辺の街や村はおろか主要な砦からの連絡が途絶え、街道を行き来する人の姿を見なくなったのだ。
連絡が途絶えた街や村に斥候を出して状況確認を行ったものの、その斥候すら戻って来ないというまさに異常事態である。
「伯爵。これは反乱かそれとも近隣諸国の侵略と考えた方がよろしいのでは」
伯爵と配下の部隊を統括する幹部達は、少ないながらも集まった情報を整理して何が起きているのかを必死に探るも、あまりにも情報が少なすぎて兵を動かすことすら敵わない。
「現状、どの街と連絡が取れないのか、それだけだけでも把握しろ!」
「全てです。この城と城下街以外とは全く連絡がとれません」
鎖帷子を装備して臨戦態勢の兵士が地方伯にそう告げる。
「では、国王陛下からお預かりした飛空艇による偵察はどうなった。偵察に出てから半日は経ったはずだが飛空艇も戻ってこないのか」
「はっ、飛空艇3艇を周辺の街の偵察に向かわせましたが、いずれも未帰還であります」
「飛空艇すら戻らないというのか。つまり地上だけなく空にも異変があったと考えるべきか」
地方伯もここまでの事態は、想定の範囲を超えていた。
王国内の反乱であれ、近隣諸国からの侵略であれ、各地域を守る部隊から早馬による伝令があるはずなのだ。
それすらないということは、この城は既に孤立したと考えるのが自然だ。
その時、半日前に城から飛び立った飛空艇の1艇が戻ってきた。
城の中庭に作られた飛空艇の駐機場に降り立った飛空艇からは数名の兵士が出てきた。
「おい、外では何が起きている!」
飛空艇部隊の指揮官と数名の兵士が飛空艇から降りてきた兵士達に状況説明を求めるも。
「なっ、なんだその黒い物は!」
飛空艇から降りてきた兵士達の体には、びっしりと黒い影のような物が張り付いていて、それらが一斉に周囲を囲む兵士達へと飛び移る。
「なっ、何だこれは!」
暴れる兵士達の頭に駆け上った黒い影のような物は、複数の食指を出して兵士達の頭の中へとねじ込んで行く。
黒い影の様な物を頭から引き剥がそうとする者、頭に張り付いた魔獣にナイフを刺す者、或いは攻撃魔法を自らの頭に向かって放つ者など、他者から見れば気が狂っているとしか思えない狂気の行動に出るものが続出した。
「緊急事態。緊急事態。飛空艇が魔獣によって汚染されている!魔術師は、対魔獣戦用意!」
現場の状況を見ていた別の部隊の指揮官は、混乱する状況を的確に判断すると対魔獣用の戦闘を魔術師に命じた。
魔術師達は、火魔法、雷魔法、氷魔法、風魔法と自身が持つ攻撃魔法を次々と黒い影のような物に支配された兵士達に向かって放っていくが、どの攻撃魔法も魔法防壁によって阻まれてしまう。
今度は、黒い影のような魔獣に支配された兵士達に向かって、剣を持った兵士が立ち向かうがこれも物理防壁により全く通らない。
逆に剣の間合いまで近づいた兵士達に対しては、黒い影の様な物が飛びかかると次々と兵士達を支配していく。
城の中庭は、黒い影のような物に支配された兵士達で埋め尽くされ、それは城のあちこちに広がっていった。
城のあちこちで攻撃魔法が放たれ火の手が上がり、手が付けられない状態へ陥った。
さらに誰かが城の城門を解き放ち、城を取り囲むように広がる城下街に向かって、黒い影の様な物に支配された兵士達が解き放たれていく。
「伝令、伝令。城内に未知の魔獣が多数侵入。物理攻撃も魔法攻撃も効果ありません。さらに城下街にも魔獣が広がり手が付けられません」
伝令の言葉を聞いたバーミリオン伯の顔色は真っ青になり、次の手を打ち出すことが出来なくなっていた。
難攻不落と言われた城が、ほんの数時間で魔獣の巣窟へと変わってしまったのだ。
しかも5000人からの兵士が守っていた城が内側からあっけなく瓦解した。
さらに城下街には数万の住人がおり、それらを守るはずの兵士達が住民を襲っている。
「バーミリオン伯、今はお逃げ下さい。逃げてこの惨状を国王陛下にお伝えください。このままではガルラント王国は魔獣により滅びてしまいます!」
副官の言葉に、我に返ったバーミリオン伯は、数名の兵士を引き連れて城の緊急脱出用の地下通路へと向かう。
通常は誰もいない用水路内を腰まで水につかりながらバーミリオン伯と数名の護衛の兵士達が進む。
そして城下街を取り囲む城壁の外にある納屋の床下へ通じる狭い通路を進み、物音を立てずにゆっくりと納屋の床下から外の様子を伺うと、黒い影の様な物を頭に乗せた住民達が城壁の外へと溢れ出ていた。
「ここもダメか」
バーミリオン伯がそう嘆くと、兵士のひとりがこう言い出した。
「この納屋の裏手には用水路があります。その中を通れば川に出られます。川の近くには村があるので馬を調達して王都に向かうことができます」
バーミリオン伯と兵士達は、音が出る鎧や鎖帷子を外ずして身軽になると、最低限の武器だけを持って用水路の中を川へと向かった。
だが、この地域のほぼ全ての街や村の住民達は、黒い影のような物により支配されていた。
たった数日でガルラント王国の1割が魔獣によって地獄と化していた。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:154
1000艇まで残り846
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 23艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇




