No.005 追跡
カルルが初めての飛空艇を創った日から、家の周りを自作の飛空艇で何度も飛んでみて、問題点があるかの確認が始まった。
魔石に魔力を伝えると飛空艇は宙に浮く。
魔力の魔石には、かなりの魔力を貯め込めるため、魔石に魔力を蓄えるのは既に実施済みだ。
宙に浮いた飛空艇を右に左にと旋回させる。
ゆっくりと前進しながら高さを上げていくと、徐々に木の高さまで浮き上がる飛空艇。
今度は、速さを徐々に上げていく。
最初は、人が歩く程度の速さで。次に馬車が進む程度の速さ。さらに早馬が走る程度の速さへと。
飛空艇試作1号機は、全く問題なく空を飛んでいる。軽やかにという言葉がぴったり当てはまる程だ。
家の周辺を何度も周りながら試験飛行を続けるカルル。
その光景を見守るカルルの母親。内心は、飛空艇が落ちないかとはらはらしっぱなしだ。
ほどなくしてカルルの飛空艇は、畑へと降り立った。
「かーさん。僕の飛空艇は、問題ないみたい」
カルルの上気した気持ちが母親にも伝わるが、いつ空から飛空艇が落ちるかと気が気でないカルルの母親の表情には、不安で一杯なのがカルルにも分かる。
「大丈夫だよ。安全なのかを確認しながら飛ぶから」
カルルの飛空艇はその日以来、森の上を飛び、山の上を飛び、徐々に大空へと飛ぶ範囲を広げていった。
カルルの母親は、地上に降り立った飛空艇を見てある事をつぶやいた。
「この飛空艇だとちょっと狭いわ。遠くに行った時に飛空艇の中で寝られるといいわね」
「狭い・・・のか」
その言葉にカルルは、飛空艇試作2号艇を作ることを決意する。
飛空艇試作1号艇は、大人3人が座れる程度の広さだが寝ることはできない。
カルルが次に創った飛空艇試作2号艇は、飛空艇の床に大人4人が並んで寝ることができるほどの広さとなった。
カルルは、既に飛空艇の創り方を理解した。
飛空艇を飛ばす魔石も十分すぎるほどある。
後は、使い勝手のよい飛空艇を創ること。それが目標になった。
・・・・・・
カルルが飛空艇試作1号艇で初飛行をした日、カルルの父親は、魔石を冒険者ギルドで換金すると早々に乗り合い場所で街を出た。
冒険者ギルドを出た時から誰かに見張られ後をつけられている感覚を覚えたからだ。
乗り合い馬車に乗り、来た街とは反対方向の街へと向かう。
カルルの父親は、元Aランク冒険者で魔法剣士だ。それなりの魔法の使い手でもある。
追跡者を感知する探査魔法を発動すると追跡者は4人。2人組に分かれて付かず離れす追跡しているのが分かった。
乗り合い馬車が街を出ると2組の追跡者も追って来るのが分かるが、その姿を肉眼で捉える事はできない。
カルルの父親は、追跡者をかなりの手練れと認識した。
乗り合い馬車が次の街へと到着すると、別の馬車に乗り換え次の街へと向かう。
家からどんどん離れていく。恐らく何処に住んでいるのかを探る気でいるのだろうと推察する。
乗合馬車は、途中の村で1泊し次の街へ到着するのは明後日の昼となる。
カルルの父親は、乗り合い馬車が村へと到着すると宿はとらずに村の外に広がる森へと足を踏み入れた。
そこで取り出したのは、カルルから手渡された浮遊の魔石と飛空の魔石だ。
「何かあったらこの魔石を使って!」
息子の言葉に思わず頬が緩んでしまい恥ずかしさを覚えた。
村の外に広がる森に分け入ると、左手に浮遊の魔石を握り、右手に飛空の魔石を握る。
そして両手に魔力を込めると体が宙に浮き森の木々の高さを超えるところまで体が持ち上がる。
そしてカルルの父親の体は、鳥が空を飛ぶ様に宙を舞うこととなった。
「これは面白い。飛行魔法なんてものはごく一部の魔術師の特権だと思っていたが、この魔石があれば誰でも空を飛べるという訳か!」
「これを魔道具として売ったら売れるぞ!」
思わずそんな独り言を発しながら鳥の様に空を飛んでいく。
子供の頃に飛空艇見習いになった時にいだいた空を飛びたいという夢が叶った瞬間であった。
・・・・・・
森の木々の上を飛び、草原を飛び、山の峰を超える。
まるで鳥の様に自由に空を飛べる喜びは、何物にも代えがたい。
気が付けば陽も落ちていた。月明りがあるとはいえ暗い夜空を飛ぶのは流石に危険と判断したカルルの父親は、草原を流れる川の近くへと降り立った。
背負っていた鞄からパンとチーズ、それれと干し肉を取りだすと口の中へと放り込んで行く。
若い頃、冒険者として夢を追っていた時を思い出しながら夜空を見上げる。
夜空には流れ星が頻繁に現れては消える。
カルルの父親が子供の頃から続く光景だ。
流れ星は、見ていると奇麗だが稀に地上に落ちて村や街を破壊する災害を引き起こす厄介な存在でもある。
カルルの父親も流れ星が地上に落ちて巨大な穴を作り住民もろとも街や村が消えたのを何度も見てきた。
カルルの父親は、浅い仮眠をとると夜明け前の空へと舞い上がり我が家へと向かう。
だが、その姿を遥か彼方から監視するものがいる事にカルルの父親ははまだ気づいてはいなかった。
探査魔法では届かないほどの距離から監視できるスキル持ちがいる。
カルルの父親は、そんなスキルを持ったものが追跡者にいることまで考慮してはいなかった。
・・・・・・
「王国軍のものではない飛空艇だと?」
「はい。ルドの街から山間部に分け入った冒険者や村人が何人も目撃しています」
「本当に王国軍の飛空艇ではないんだな?」
「目撃した者達の話では、飛空艇には王国の紋章は刻まれていなかったと申しております」
従士長による報告を受け、首をかしげるアルバート男爵。
この地を統べるアルバート男爵の領地は、王国内でも辺境に類する場所にある。
そんな辺境に他国の飛空艇が越境までして来る目的が分からない。
飛空艇は、隣接する王国間の取り決めで所属国が分かる様に所属する王国の紋章を刻むという取り決めがある。
それが刻まれていないとなると、対戦前に使われた飛空艇を誰かが見つけたのか。
「確認させろ。もし大戦前の飛空艇を誰かが見つけて動かしているならその者を捉えよ!」
「はっ、既に斥候を向かわせております。続報が入りしだい兵を向かわせます」
アルバート男爵の領地で最も規模の大きな街がルドである。
その街の近くに所属不明の飛空艇が飛んでいるとなると大問題である。
だが、もしその飛空艇が100年前の大戦時に使われたもので、所有者のいない動く飛空艇を誰かが見つけたというなら、いくらでも理由を付けて奪い取るのは容易だ。
「世は、いつまでもこんな辺境の地でくすぶっている気などさらさらないのだ」
自身の屋敷から見える遠くの山々の何処かにその飛空艇があるのだと思うと男爵は自身の高揚を隠せずにいた。
・・・・・・
カルルと母親は、小さな畑で美味しく成長した野菜を収穫しながら父親の遅い帰りを待っていた。
畑の一角には、飛空艇試作一号艇と創ったばかりの飛空艇試作二号艇が並んでいる。
飛空艇試作一号機の高さは2mほどと小ぶりだが、飛空艇試作二号艇の高さは4mとかなりの大きさがあり、飛空艇がふたつも並ぶと存在感がある。
飛空艇試作二号艇は、創るのに2日もかからず魔石を取り付けて初飛行も既に終えている。
飛空艇試作二号艇は、カルルの母親の意見を取り入れて1階は大人が4人は寝られるほどの広さにして、その場所を確保するために飛空艇を操作する場所は1階から2階えと移動させた。
さらに飛空艇を操作し易い様に外が見える大きな窓を2階に設置した。
森の中にあった飛空艇の残骸と構造的には全く同じ作りにしてある。
「おとうさんが帰ってきたらこの飛空艇に乗って家族3人で海が見える海岸にでもいってみない」
「うん。僕は海を見たことがないから楽しみ」
そんな事を話す母親の笑顔にカルルも嬉しそうに答える。
そんな話をしながら畑の一角で他の野菜よりも3倍近く成長した野菜を見て何が起きたのかと驚きの表情を浮かべるふふたり。
野菜が大きく成長した畑は、カルルが飛空艇創りをしていた場所のすぐそばだ。
「カルル。飛空艇って野菜を大きくすることができるのかしら?」
母親の言葉にカルルも首を傾げるばかり。
カルルは、野菜が大きく成長した畑をよくよく観察してみる。
すると以前に土魔法で作った飛空艇の外殻が雨に濡れて土が流れ出て、それが畑へと流れ込んでいた。
カルルは、飛空艇を創る時に何をやったのかを思い出してみる。
土魔法で飛空艇を創る時は、土にかなりの量の魔力を込めて外殻を作っていた。
「野菜って魔力を込めた土を使うと成長が早くなるのかな?」
カルルの何気ない言葉に母親が思わず頷く。
「それよ。かーさんやとーさんの様に攻撃魔法を使ったら野菜は燃えてなくなってしまうけど、土魔法で土に魔力を込めると野菜が大きく成長するのかしら」
「だったら試してみようか!」
カルルは、野菜を収穫して根だけが残された畑に魔力を込めた土を撒いて根がどうなるのか試すことにした。
◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆魔石を創るスキル
・魔石錬成
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:2
1000艇まで残り998
◆創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇




