No.046 暗部襲撃
アリスとパトリシアが錬金術ギルドの薬草園に戻ると、錬金術ギルドの敷地内に多数の亡骸が転がっていた。
カルルとハンドは、亡骸が身に着けている装備品を集めながら何やら話をしている。
「ここにも暗部の連中が来たんですね」
飛空の腕輪で空から舞い降りたパトリシアが薬草園の惨状を見て目を細めている。
「凄い数の暗部。どれも胸を1発で撃ち抜いてる。魔道具を作るだけでも凄いのに使い方も凄い!」
アリスは、薬草園の惨状を眺めると思わず本音がこぼれる。
「数でざっと15人を超えていたが、飛空艇の広域探査と広域鑑定の魔石で、かなり遠くから冒険者ギルドの暗部が来ているのが分かったから、対処はし易かったな」
ハンドが遠くの空を見上げながら、15人もの暗部を相手にして生き残ったことに安堵の表情を浮かべる。
「身分証を持っている人がいました。暗部なら証拠になる物を持って暗殺に来ちゃダメですよね。いったい何を考えているのやら」
カルルは、亡骸にツッコミを入れながら冒険者ギルドの所属である証拠品を地面に並べている。
「私達のところにも9人ほど来ましたが、亡骸はメリダの街の路地裏に転がっています。そういえば、彼らは認識阻害の魔法を使ってました」
パトリシアが街で起きたことをカルルに伝える。
「やっぱり、こちらでも暗部の連中は認識阻害の魔法を使ってました。でも、その程度で僕の飛空艇の魔石を騙せると思ったら大間違いです」
カルルは、胸をはりながら自慢げな表情だ。
「暗部の連中を自白させたら、トーデスインゼル(死の島)の救助隊を襲撃すると言ってました」
アリスが地面に並べられた冒険者ギルド所属を示す証拠品を見ながら、自白で得た情報を話していく。
「自白の魔石を使ったんだ。僕達のところに来た暗部の連中で生き残った者は、自ら命を絶ったので何も分からなかったんだ」
カルルは、少し考える素振りを見せると皆にこう伝えた。
「トーデスインゼル(死の島)の救助隊を狙っているとしたら・・・、救助隊が行動できないようにするのか、或いは救助が失敗するように仕向けて評判を落とすか・・・」
「暗部のことですから面倒なことなんてしないと思います。恐らく救助隊を殺す気でしょうね」
カルルの言葉にパトリシアが告げた。
「だよね。僕達のところにこれだけの暗部を送り込んできたんだから、救助隊を殺すのにどれくらい人数を費やすと思う?」
カルルの問いかけにハンドがこ返答する。
「トーデスインゼル(死の島)に船で渡るなんてまどろっこしいことはせずに、複数の飛空艇を使うかもしれません。例えばジュダルグート王国
が導入した魔石砲を搭載した飛空艇とか」
「なるほど。それなら大勢の暗部を一気に運べるか・・・」
カルルは、ハンドの言葉に頷きながら暗部の出方を探ることにした。
「とりあえずトーデスインゼル(死の島)に行って怪しい飛空艇がいないか見回りかな。それと救助隊に危険が迫っていることを伝えないとね」
カルルは早速、飛空艇へと向かう。その行動を理解したアリスとハンドとパトリシアが、カルルのあとを追って飛空艇へと向かい離陸の準備を始めた。
物騒な物音が止んで建物から出てきた錬金術ギルドの職員達は、目の前に広がる惨状に思わず地面へと座り込んでしまう。
「なっ、何なのこの状況は・・・」
錬金術ギルドの職員のことなど考えることもなしにカルル達が乗った飛空艇は空高く舞い上がっていく。
いまだに薬草園の敷地内には、冒険者ギルドの暗部達の亡骸が転がったままだ。
この亡骸を誰が片付けるのかを考えると、錬金術ギルドの職員達の顔はさらに青ざめていく。
・・・・・・
メリダの街の冒険者ギルドの管理が、国王の命令により冒険者ギルドから錬金術ギルドに移管され トーデスインゼル(死の島)の管理も錬金術ギルドへと移譲された。
それに伴い、錬金術ギルドは島を訪れる冒険者達に何かあった場合に対応できる飛空艇による救助隊を設置した。
当初は、懐疑的であった冒険者達も救助される者が増えると、救助隊への評価を一変させる。
トーデスインゼル(死の島)で魔獣に襲われ、命を落としていたかもしれない冒険者達が助かれば、救助隊のことを良くいう者は増えれど、悪くいう者は減っていくのが道理である。
トーデスインゼル(死の島)で魔獣狩りをした冒険者達は考えた。
錬金術ギルドは即座に救助隊を結成し冒険者達の救助を行った。
なのに冒険者ギルドはこの数百年間何もしてこなかった。
トーデスインゼル(死の島)の魔獣は全てCランク以上の魔物だ。当然、ケガをすれば死に直結する。
そして冒険者は、ほぼこの考えに到達した。
<冒険者ギルドは、冒険者の命を軽視しているのではないか>
だが冒険者ギルドは、メリダの街のギルドを奪われたことに対しての怒りから自身が行ってきた行動に対する反省はせず、ギルドの奪還のみに固執する。
その結果、冒険者ギルドはトーデスインゼル(死の島)に、他国から購入した複数の飛空艇を向かわせる。
その飛空艇には、多くの暗部の戦闘員が搭乗していた。
トーデスインゼル(死の島)の突端の小さな街で救助隊が連絡待ちをしている。
島のあちこちにある避難豪や避難砦に設置した転送の小箱に手紙を入れると、メリダの街の錬金術ギルド支部に救難要請の手紙として送られる。
ギルド支部は、その手紙の内容から救助隊を向かわせるかの判断を行い、救助隊へ出動要請の手紙を送る。
手紙といっても紙に要件だけを完結に書きなぐった簡単なものだ。
この世界には、遠く離れた場所と連絡をとる手段は存在しないため、手紙であっても瞬時に連絡がとれる転送の小箱は特異な魔道具である。
第1救助隊、第1飛空艇のグラント隊長は、救助用の飛空艇の前に置いた椅子に座り、椅子の横に置かれたテーブルの上を見つめる。
そこにあるのは、救助隊の出動要請の手紙が送られてくる転送の小箱だ。
小箱の蓋に埋め込まれた魔石が光り出すと、手紙が送られてきたという合図になる。
今日は、すでに2回出動して7人を救助している。なかなかの数である。
飛空艇で搬送した者の中には軽症の者もいれば、重症の者もいる。稀に死んでいる者もいるが、トーデスインゼル(死の島)で仲間の死体を持ち帰ることができるだけでも奇跡なのだ。
ふと見ると転送の小箱の魔石が光っている。
グラント隊長は、転送の小箱の蓋を開けて手紙を取り出すと、それを広げて書かれている文字を注意深く読み解く。
<冒険者ギルドの暗部が救助隊を狙っています。認識阻害の魔法を使ってきますが、飛空艇の広域鑑定の魔石で暗部を見破れます。カルル>
手紙を広げたグラント隊長は、手紙を隊員達に見せると意見を求めた。
「カルル殿からの注意喚起ですね」
「冒険者の暗部が俺達を狙ってるんですか」
「暗部って暗殺とか裏仕事専門の部隊じゃないですか。俺達って救助隊ですよね」
「カルル殿ってこの飛空艇やら魔道具を作った錬金術師ですよね。何処からこんな情報を仕入れてくるんですか」
「カルル殿も暗部と戦ってるってことですか」
「認識阻害の魔法ってヤバいですよ。あれを使われたら打つ手ないですよ」
隊員は、手紙を読むと思い思いの言葉を口に出した。
そしてグラント隊長の元に手紙が帰ってくるとこう告げる。
「では、今から救助要請があった場合は、要救助者は全て暗部だと思え。最優先は我々の命だ。冒険者はこの島に覚悟して来ている。もう一度言う、我らの命が最優先だ!」
グラント隊長が隊員達に向かってそう告げた瞬間、転送の小箱の魔石が光り出す。
<避難砦9番で救助要請。重傷者3人>
「避難砦9番で救助要請だ。重傷者3人だ。急げ急げ!」
その言葉で隊員達が一斉に走り出すと飛空艇に乗り込み、空へと駆け上がっていく。
その頃、トーデスインゼル(死の島)へと向かったカルルの飛空艇は、3艇の未確認の飛空艇が背後に迫っていた。
「カルル、後ろの飛空艇がウザいんだけどどうする?」
アリスが操術席で飛空艇を操りながら追跡してくる飛空艇をどう対処するかカルルに意見を求める。
「そうだね、撃ってきたら撃ち返す。まずは防壁展開して備えようか」
「了解!」
カルルの飛空艇の周囲に魔法防壁と物理棒激が展開され、魔法と物理の攻撃に対して鉄壁の防御を展開する。
カルルの飛空艇は、操術師席の右側にアリスが座り、左側にカルルが座る。
カルルの後席に魔道砲の砲術師の席があり、そこにハンドが座る。
アリスの後席に分解砲の砲術師の席があり、そこにパトリシアが座る。
魔道砲は、射程が長く威力はあるが強力な魔法防壁だと防がれる可能性がある。
対して分解砲は射程は極端に短いものの、魔法防壁であろうが魔法そのものを分解できる。
「ハンドさん、追跡してくる飛空艇が撃ってきたら魔道砲を撃ってください。ただし撃つのは海に出てからでお願いします」
カルルは、撃った飛空艇が地上に落下して街や村に被害がでるのを恐れての発言だ。
「パトリシアさんは、ハンドさんが撃ち漏らした飛空艇が接近してきたら容赦なく撃ってください。相手は、こちらを殺す気です。ならば逆に殺される覚悟があるってことです」
カルルの言っていることは間違ってはいない。
人を殺す気満々の者に対して"腹を割っては無そう"と言ったところで誰が相手にするというのか。
ハンドの顔の周囲には、広域探査と広域鑑定の魔石が収集した周囲の地形と追ってくる飛空艇の情報が、映しの魔石によって映像として映し出され、魔道砲の照準が何処に向けられているのかが分かる赤い十字が示されている。
その赤い十字は、カルルの飛空艇を追ってくる飛空艇のひとつと重なっている。
「相手が撃ってくるまで待ってくださいね。撃ってきたら速攻で撃っていいですよ」
パン、パン、パンとカルルの飛空艇の周囲で何かが弾ける音が散発する。
「後方の飛空艇から撃ってきています。魔石砲です」
パトリシアの顔の前に映されている映像には、後方の飛空艇から放たれた魔石砲の魔石がいくつも映し出されている。
「ハンドさん撃ってください!」
カルルがそう言い放った瞬間、ハンドが操作する魔道砲が連続発射される。
カルルの飛空艇から放たれた魔道砲の光跡は、カルルの飛空艇を追う3艇のうちの1艇の船体に連続した穴を空けていき、飛空艇の外壁がバラバラと砕けていく。
穴だらけになり崩れた飛空艇は、外壁をまき散らしながら海へ向かって落下していく。
ハンドの目の前に映る映像には、残りの飛空艇が映し出されていて赤い十字と重なり、魔道砲の連射が始まると同時に、2艇の飛空艇の外壁が穴だらけになる。
2艇の飛空艇は、空の上で砕けた外壁をまき散らしながら海へと落下していく。
「いつもながら魔道砲の威力は凄いな」
魔道砲の砲術師の椅子に座るハンドが、自身の行動に少しの動揺を垣間見せる。
「ああ、これからが本番です。島にはもっと多くの冒険者ギルドの飛空艇がいるはずです。バンバン撃ち落としますよ!」
カルルの何処か浮かれた言葉が飛空艇内に響き渡る。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:154
1000艇まで残り846
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物質補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇




