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No.042 ギルドの交代

錬金術ギルドの総会でグランドマスターから依頼書を受けとり、飛空艇創りにフルーム王国へと向かったカルル達。


フルーム王国では、飛空艇10艇と戦闘型飛空艇10艇、それに早期警戒飛空艇2艇を創り何事もなく終わった。


今までは、飛空艇創りをすると必ず何かしらのトラブルに巻き込まれていたので、変な神様にでも好かれたのかと思っていたところ、グランドマスターから手紙が届いた。


その手紙には、こう書かれていた。


<メリダの街の冒険者ギルド支部を錬金術ギルドが管理する。あんたも来な>


グランドマスターの手紙は、毎度ながら塩味だ。


とりあえず手紙で返事を返す。


<何処に行けばよいですか>


しばらくすると手紙が送られてきた。


<薬草園に来な>


実に塩味の効いた手紙だ。


とはいえ、急いで来いとは言われていないので、フルーム王国の王都の街で買い物を楽しんでから行くことにした。


この国は、魔道具を作る錬金術師が多く住み街の一角には魔道具を売る露天が並び、魔法剣、魔法杖、アクセサリなどが売られている。


どんな魔道具があるのかと覗いてみたもののカルルの目を引く珍しい魔道具は無かった。


とはいえ、世の中の魔道具の需要はどれくらいあるのか、どんな魔道具が好まれるのか、売価はどれくらいなのかなど勉強になるところもかなりある。


カルルが露店を周りながら魔道具を見ていると、アリスがとある露店の前で立ち止まった。


露店に並べられた指輪が気になるようで、手に取りながらいろいろ見ている。


「欲しいの?」


カルルの言葉に少し戸惑いながらもとある指輪に視線を投げかけるアリス。


「ちょっと気になったの。でも・・・金貨5枚ですって。いいお値段よね」


「回復系の魔石が使われていて、魔石の台座の下だけミスリスが組み込んであるね。純度6割のミスリルで指輪自体は銀製、装備していると体力を少しだけ回復してくれるみたい。でも魔法術式に手を入れた形跡はないかな」


カルルが鑑定魔法の結果を淡々と口にする。


「そういった指輪なんだ。でも私はこ装飾が好き・・・かな」


アリスは、目をキラキラさせながら指輪を眺めている。


カルルは、指輪の前に置かれた価格が書かれた小さな板を見て値段を確認する。


「露店主さん、この指輪は金貨5枚ですか」


カルルの問に露店主が答える。


「彼女に贈るのかい。お客さん金貨5枚なんて払えるのかい?」


露店主は、どう見ても子供が金貨5枚を出せるはずがないと、カルルに疑いの目を向けている。


カルルは、懐からさっと金貨を5枚出して見せたが、それを直ぐに渡すわけもなく値段交渉に入る。


「露店主さん。この指輪の仕入れ値って金貨3枚くらいだよね。利益が金貨2枚ってちょっと多くない」


カルルの言葉に露店主の顔から大粒の汗が噴き出す。


「お客さん、さっきの会話からしてもしかすると錬金術師かい」


カルルは、露店主に首にぶら下げた錬金術ギルドのマイスター証を見せる。


「なんと、マイスター証。しかもシルバーかい。それは失礼しました」


カルルが持っているマイスター証は、シルバーの上のゴールドのさらに上のプラチナだが、一見すると銀とプラチナでは見た目はあまり変わらない。


そんな些細なことをいちいち指摘するのも面倒なので、露店主との価格交渉に入る。


「金貨4枚と銀貨20枚でどうかな?」


「ああ、分かったよ。お客さんみたいな子供がシルバー持ちとは驚いたよ」


カルルは、露店主に金貨4枚と銀貨20枚を手渡した。


すると護衛のパトリシアが露店の中央奥に置かれた最も高い指輪を凝視しながら、ハンドの顔をチラ見する。


「私、あの指輪がいいな。カルルさんが金貨5枚の指輪をアリスにプレゼントしたんだから、大人のハンドはどうするのかしら」


パトリシアの言葉には妙に棘がある。そしてハンドへのプレッシャーが凄い。


「お客さん、お目が高い。この指輪は魔力の回復を助けてくれます。お客さんは魔法杖をお持ちなので魔術師ですかね。だったらこの指輪をお持ちになった方がいいですよ」


露店主は、パトリシアの右手の中指にそっと指輪をはめていた。


「いいわね。素敵。これおいくらかしら」


「そうですね。お客さんのお仲間の方が指輪を購入されましたので、勉強させていただいて金貨12枚のところを、金貨10枚でいかがでしょうか」


パトリシアは、指にはめた指輪をながめつつ、ハンドの顔を凝視する。


「その指輪の台座のところにもミスリルが組み込んであります。純度は8割なのでよいものですよ」


カルルの言葉がパトリシアの行動を後押しする。


「ハンド、どうするの」


パトリシアからハンドに向けられたプレッシャーがさらに増していく。


「ろっ、露店主。これで・・・」


ハンドが自身の財布か金貨10枚をそっと露店主へと手渡した。


「ありがとうございます。もし結婚指輪など御所望でしたらぜひ当店に起こしください。その時は女神アグライア様の祝福をお授けします」


今まで購入した魔道具に次いで高い買い物に、さすがのハンドも財布を持つ手が震えている。


露天主は、店から出るとカルル達の姿が見えなくなるまで頭を下げて見送っている。


その日の夜は、街の少し高級な宿屋に泊まり1人1部屋を確保した。


そこそこ良い部屋を4部屋取ったのでかなりの宿泊代となったが、いつも飛空艇内で寝泊まりしているカルル達からすれば、フカフカのベットで寝るのも久しぶりになるので奮発したのだ。


そもそも飛空艇が1艇売れるだけでカルルの懐に金貨1000枚が入る。


実際には分割払いなので、いきなり大金を手にすることはなく、代金は錬金術ギルドの口座に振り込まれるのだが、高級な宿屋に数日泊まったくらいで破綻するようなやわな財布は持ち合わせていない。


錬金術ギルドからカルルの護衛として派遣されたハンドとパトリシアは、街に繰り出して2人でお酒を飲みに行っている。


きっと昼に露店で購入した指輪を肴に、2人は盛り上がっているはずだ。


カルルとアリスは、宿屋の食堂で食事をしたあと、各々の部屋でのんびりと時間を楽しんでいた。


コンコン。


カルルの部屋の扉をノックする音がする。


「アリスです。ちょっといいかしら」


カルルの部屋を訪れたアリスは、フカフカのベットの端にちょこんと座りつつカルルの姿を凝視している。


カルルはというと窓際に置かれた椅子に座り、テーブルの上にはいくつもの魔石が並べられている。


それは錬成したばかりの魔石であった。


「カルルは、お仕事中・・・のようね」


「僕の飛空艇を欲しいという国があるうちは、なるべく早く届けてあげたいと思って」


カルルの心は、飛空艇創りの方向にばかり向いていて、あまり周囲の事には興味を示さない。


それは、アリスも知ってはいるが、今日の指輪のお礼が言いたくてカルルの部屋を訪れたのだ。


「カルル。指輪ありがとうね。凄く嬉しかった」


するとカルルは、アリスの指輪をひょいっと取り上げると何かの作業を始めた。


「この指輪の魔法術式って何も手を加えていないんだよね。せっかくいい指輪なのに」


そう言うと指輪の魔法術式をちょいちょいと修正してアリスへと返す。


「指輪の魔法術式を修正して、アリスの体力が5割を切ったら魔力を使って体力を全回復するようにしたよ。魔力が残り2割を切ったら回復魔法は発動しないように制限を加えてあるから気をつけてね」


カルルは、魔石の魔法術式を簡単に修正して見せたが、全ての錬金術師が魔法術式を使いこなせる訳ではない。


「あっ、ありがとう」


アリスは、そう言うとカルルが座る椅子の横に立ち、カルルが座る高さまで腰を下ろすと、自身の唇をカルルの唇にそっと重ねた。


「今日は、本当にありがとうね」


そういってアリスは、赤い顔をしたままカルルの部屋から出ていく。


アリスが行った予想外の行動に思わずカルルは固まり、顔は赤くなり頭からは湯気が出ていた。


その日の夜も多くの流れ星が光の河を創り暗い空を輝かせているのであった。


・・・・・・


カルル達は、飛空艇で以前にお世話になったグルズ山脈にある錬金術ギルドの薬草園に向かった。


そこには、既にグランドマスターが乗る薬草栽培兼治療用飛空艇と王国軍の飛空艇が並んで置かれていた。


薬草園の事務所に入ると、グランドマスターとハイリシュア王国の軍人が打ち合わせを行っている。


カルルは、事務所の部屋でグランドマスターを待つことにした。


しばらくしてグランドマスターが、沢山の資料を抱えながらカルルの元へとやってきた。


「待たせたね。時間が惜しいから要件だけ言うよ。メリダの街にある冒険者ギルドと関連施設は、今後錬金術ギルドが管理・運営するよ」


その言葉にハンドとパトリシアが目を白黒させている。


「でも、どうして冒険者ギルドの施設を錬金術ギルドが管理するんですか」


カルルの問にグランドマスターがひと息つくと、これまでの経緯を話し始める。


グランドマスターの話では、ハイリシュア王国の王太子殿下がなにやら企んでいると諜報部門が嗅ぎつけ、王太子殿下の領地で内偵を進めていたところ、隣国から大量の飛空艇を購入していることが分かった。


しかも武装した飛空艇だ。


その飛空艇は、ハイリシュア王国が天然魔石鉱山を占領する時に使ったものと全くの同型だという。


では、その空挺を購入する資金を提供したのは誰なのかということで、こちらも内偵を進めていたところ資金提供を行ったのはメリダの街にある冒険者ギルドのギルドマスターであることが分かった。


内偵も終盤にさしかかり、いざ冒険者ギルドへ捜査に入ろうという段階で、カルルを標的にした強制クエストが起きたという訳だ。


メリダの街の冒険者ギルド支部は、その捜査のために長い間閉鎖されていた。


だがいつまでも閉鎖しておくわけにもにかず、とはいえ冒険者ギルドが動きだせば、必ず王太子殿下への資金供給は再開すると国王陛下は苦慮していた。


そこで国王が信頼できる者にメリダの街の錬金術ギルドの管理を任せるという前代未聞の案が出たという。


ただ、メリダの街の冒険者ギルドを錬金術ギルドに任せたとしても、そんなノウハウを持ち合わせていない。


しかもメリダの街の錬金術ギルドは、トーデスインゼル(死の島)の管理も行っている。


つまりトーデスインゼル(死の島)の管理も錬金術ギルドが行うことになる。


これには、百戦錬磨のグランドマスターも驚きを隠せずにいた。


結局、メリダの街の冒険者ギルドは錬金術ギルドが管理し、冒険者ギルドの職員は全て錬金術ギルドへ出向扱いとなり、職員の業務は継続となった。


だが、これでは冒険者ギルドの職員と冒険者ギルドに所属する冒険者達から見れば、錬金術ギルドが乗っ取りを企んだように見えてしまい、反発は必至だ。


そこでグランドマスターは、冒険者ギルド職員と冒険者達を納得させる妙案はないかとカルルを呼び出したのだ。


「冒険者ギルドにはできなくて、錬金術ギルドだからできることってないのかい」


「錬金術ギルドのマイスター会員になったばかりの僕に聞くんですか」


「うちのギルドで飛空艇が作れるのは、おまえさんだけだよ。他のやつには思いつかないことがあるんじゃないのかい」


カルルは、ふうーと溜め息をひとつ吐いたあとにグランドマスターに、以前から考えていた案を口にした。


「いくつかあります。まずトーデスインゼル(死の島)には、冒険者が避難に使う避難豪や避難砦が数多くあります。冒険者ギルドでは人を雇って水や食料を運んでいたと聞きました。でも島の内陸へは危険なので水も食料も運べなかったそうです」


「ほう、よく知ってるね」


「避難豪や避難砦に備蓄する水や保存食を飛空艇で運べば、荷運びで死人やケガ人を出さずにすみます」


「そりゃいい案だ」


「でもこれは、本命ではありません」


「では、本命とやらを聞こうかね」


「飛空艇を使った救助隊です」


「救助隊?」


「トーデスインゼル(死の島)に渡った冒険者達でも対処できない魔獣がいるそうです。ケガをした冒険者達は、避難豪や避難砦に逃げ込むそうです。そこに救助要請ができる転送の小箱を置いておきます」


「それで・・・」


「救助要請の手紙が送られてきたら、飛空艇で救助隊が向かいます。これでケガをした冒険者の相当数を助けられると思います」


「そりゃ凄いね。よくそんなことを思いつくね」


「冒険者ギルドには出来なかった。でも錬金術ギルドだから出来る芸当です」


「いや違うね。おまえさんがいるから出来る芸当だよ」


「恐れ入ります」


グランドマスターは、しばらく考え込むとカルルに次なる意見を求めた。


「救助隊を作るとして飛空艇はどれくらいあればいい?」


「例えば、魔獣に対処するには戦闘用飛空艇が必要です。戦闘用飛空艇2艇を1組とします。飛空艇の操術師として1艇辺り操術師2人、飛空艇長1人、砲術師1人が必要です。それ以外に救助要員として2人、治癒師が1人です。ケガ人や死体を運ぶのは、飛空の腕輪があれば1人でもできます」


「随分と具体的だね」


「はい、前々から構想を練っていました。この2艇1組のチームを4チーム作り、2チームずつで出動組と休暇組で数日毎に入れ換える運用にします」


「そこまで考えているのかい」


「恐らく救助隊は、Cランク以上の魔獣の巣窟へ突入することになるので、かなりの腕が立つ者でないと役に立たないでしょう。しかもとっさの判断力を求められます。となると救助隊員はかなりの腕の立つ冒険者上がりが適任だと思います」


「飛空艇が8艇とはまた随分な出費だね」


「トーデスインゼル(死の島)から上がる利益を考えたら、飛空艇は10艇くらいあっても直ぐに元が取れますよ」


「ははは、おまえさん子供にしては金勘定にも詳しいね」


「これでも各国に飛空艇を売っていますから」


「よし、それで行こうかね」


「実は、もうひとつ案があります。冒険者ギルドから錬金術ギルドへトーデスインゼル(死の島)の管理が錬金術ギルドに移ったことをアピールする絶好の機会になります」


カルルは、グランドマスターの耳元で自身が考えていた案をささやく。


その話の内容を聞いたグランドマスターの顔が高揚していくのがカルルにも分かった。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:140

 1000艇まで残り860


◆カルルが創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用


王国向け飛空艇

・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)

・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇

・フルーム王国軍向け飛空艇 23艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)


錬金術ギルド用飛空艇

・グランドマスター用兼、商談用戦闘型飛空艇

・薬草栽培兼治療用飛空艇


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