表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/64

No.039 魔道トイレと魔道ストーブ

カルルは、とある村にある錬金術師の工房前に飛空艇で降り立った。


村の住人達は、見たこともない飛空艇に怯えて家の中に逃げ込んでしまい、家の外には誰ひとりいない。


カルル達は、飛空艇を降りるととある小さな家の前へとやってきた。


「錬金術ギルドの紹介で来たカルルといいます。ハンスさんはご在宅でしょうか」


そう声をかけると若い男性が慌てた様子で家から出てきた。


「錬金術ギルドの方ですか」


「いえ、ハンスさんと同じ錬金術師です。魔道トイレの買い付けにに来ました」


カルル達は、家の奥にある小さな工房に通されると、そこにある小さなテーブルにお茶が出された。


「すみません。家も工房も狭くてお客さんをお招きする部屋なんて無いんです」


「構いません。僕は家すら持っていなくて、あの飛空艇で寝泊まりしていますよ」


工房には、制作した魔道トイレがいくつも並んでいるが、箱の上にはうっすらと埃が被っていて、魔道トイレが売れていないことはすぐに分かった。


「お恥ずかしい話ですが、私は魔道トイレを作ることしか取り柄のない男です」


「使える魔法は土魔法で錬成できる魔石は"浄化の魔石"のみです」


「魔道トイレは、年に数個が売れれば良い方でして・・・」


ハンスの話を聞き終えたカルルは、魔道トイレを作る工房主のハンスを飛空艇へと案内した。


「これが飛空艇です。僕は、土魔法で飛空艇を創り、飛空艇用の魔石も錬成します。そしてこの小部屋の中に魔道トイレを設置しています」


そう言ってカルルは、飛空艇内にある小部屋の扉を開ける。


「あっ、私が作った魔道トイレが・・・」


「御覧のように飛空艇というのは、決して広いものではありません。しかも空を飛んでいるので用を足す度に地上に降りるのは非効率なんです。なのでハンスさんの魔道トイレの様に匂いもしなくて汚物も結晶化して小さい砂粒状にしてくれると、あとの処理がとても楽なんです」


ハンスは、カルルの話も半分に自身が作った魔道トイレのあちこちを触りながら不具合が無いかを調べている。


「まさか私の魔道トイレが空を飛んでいるとは思いませんでした」


「では、ここらが商売のお話です。僕はいくつかの王国の軍に飛空艇を創って納入しています。その飛空艇の一部に魔道トイレを設置しようと考えています」


「軍の飛空艇にですか」


「はい。軍の飛空艇ともなると作戦開始から終了まで数日から数ヶ月はかかることもあるそうです。搭乗者の交代はするそうですが、数日間は飛空艇の中で過ごすのは日常だそうです。なので排泄の件は皆さんとても困っているそうです」


「分かりました。それでどれくらいの数をご用意すれば・・・」


「とりあえず100個です」


「ひゃ・・・100個ですか」


「はい。既に3ヶ国の軍に100艇以上の飛空艇を納入しています。その中の半分程の飛空艇に魔道トイレを設置する予定でいます」


カルルの言葉にハンスの体が固まり動かなくなる。


「代金は前払いで魔道トイレ50個分、あと払いで50個分を錬金術ギルドの口座に振り込むでよろしいですか」


「えっと、魔道トイレ1個が金貨10枚だから・・・100個で金貨1000枚!」


「飛空艇が売れる度に魔道トイレが必要になります。今後は、定期的に制作をお願いすることになります。いくつ必要かは都度連絡します」


カルルは、ハンスと魔道トイレについての契約を結ぶと飛空艇で村から飛び立っていった。


ハンスの奥さんは、初めて見る飛空艇に怯えて家の中に隠れていたが、静かになると家から顔を出した。


「ちょっとあんた。飛空艇はもう行ったのかい」


「えらいことになったよメリッサ。魔道トイレが100個売れた・・・金貨で1000枚だ。これで借金も返せるし家も工房も大きくできる」


「えっ、金貨1000枚って何の話だい」


ハンスの手には、カルルが手渡した転送の小箱が残されていた。


・・・・・・


カルルの飛空艇は、別の村へとやってきた。


この村も先ほどとと同じで住民達は家の中に隠れてしまい閑散としている。


とある家の前にやって来たカルル達だが、家はボロ屋で荒れ放題だ。


「こんなボロ家に人が住んでいるの?」


アリスが怪訝な表情でボロ家の中をそっと覗き込む。


「アリス、失礼じゃないか。僕が以前に住んでいた家も似たようなものだったよ」


「ごっ、ごめんなさい」


カルルの言葉に思わずしゅんとなるアリス。


「錬金術師のフーゴさんは、ご在宅でしょうか」


カルルが何度か声をかけると、ボロ家の奥から中年の男がぬっと顔を出した。


「金ならねえよ!」


男の顔はやつれていて服もボロボロで酷い異臭もする。


それでも右手に持った酒が入った壺の様なものは手放さない。


「錬金術ギルドの紹介で来ました。錬金術師のカルルといいます」


男は、カルルの顔をじろっと睨みつけるとボロ屋の奥へと入っていく。


「ギルドは、俺に仕事でも世話してくれるっていうのかあ。売れない魔道具しか作れない男にどんな仕事を世話してくれるんだ!」


「魔道ストーブの買い付けに来ました。あれはいい魔道具です」


カルルの何気ない言葉にボロ屋の奥に引っ込んだはずの男だったが、慌てた様子でカルルの前へと戻ってきた。


「魔道ストーブを買ってもらえるんですかい。借金も返せなくて困ってたんですよ」


「借金ってどれくらいですか」


「きっ、金貨6・・・枚です」


カルルが創る飛空艇は、1艇が金貨1000枚で売れる。


魔力の魔石は、その日の相場にもよるが市場に出せば金貨100枚以上で売れる。


だがカルルの目の前に立つ錬金術師は、ボロボロの服を身を纏い金貨6枚の借金に苦しんでいるのだ。


「王国軍向けの飛空艇に魔道ストーブを取り付けるので、魔道ストーブを売って欲しいんです」


「どれくらいあればいいですかい!」


先ほどまで土気色だった男の顔がみるみる赤みがかり、まるで生き返った様にも見える。


「とりあえず200個ほど用意してもらえますか」


「200個!」


「ええ、飛空艇は、2階建てなので1階と2階の操術室に各1個ずつ魔道ストーブが必要です」


だが、カルルの話を聞くうちに先ほどまでの元気がなくなり男の表情が曇り出す。


「俺の創る魔道ストーブは、どんなに魔力を送り込んでも30分しか動かねえ。そんな魔道じゃあ直ぐに返品だ。きっと200個作っても・・・」


「ああ、その事ですか。飛空艇に取り付ける時は、改造するので10日間でも動きますよ」


「はあ。嘘をいうな。俺は何度も試したんだ。何度試しても30分が限界だった!」


「ええ、僕も試したので30分しか動かないのは知ってます」


「それを知っていて買ってくれるっていうのか!」


「はい。飛空艇に魔道ストーブを取り付ける時は、魔力の魔石を追加して個々の魔石を魔道回路で繋いで、魔法術式を書き換えると10日間は動きます」


「おまえさん、魔法術式なんて知っているのか。子供にしては良く知ってるな」


「はい。魔力の魔石の魔法術式ならこの大陸で1番だと自負しています」


男は、自身のボロ家にカルルを案内すると奥に積み上げられた魔道ストーブを見せる。


「あれは全部返却された魔道ストーブだ。30分で止まるストーブなんてだれも欲しがらない。もう捨てるしかないんだ」


「だったら僕が買います。飛空艇は空の高いところを飛ぶので寒いんです」


「そう・・・なのか」


「はい。しかも納入先は王国軍なので、森や山の中に籠ることが多いそうです。空の上では寒くて、地上では閉めきりなので暑いんです。だから飛空艇には魔道ストーブは必須なんです」


「空の上っていうのは、そんなに寒いのか?」


「はい。氷点下なんて日常茶飯事です」


「氷点下・・・」


「新品の魔道ストーブは、1個金貨5枚でしたよね。200個なので金貨1000枚を錬金術ギルドの口座に振り込んでおきますね」


「きっ、金貨1000枚って・・・おい」


「あっ、家の奥にある返品された魔道ストーブも買います。返品なので1個金貨2枚でいいですか」


「あっ、ああ・・・」


「数はどれくらいありますか」


「50個以上はあると思うが」


「1個金貨2枚で50個だから金貨200枚・・・」


カルルは、ボロ家の奥に積み上げられた魔道ストーブの上に革袋をひとつ置いた。


「その中に金貨200枚が入っています。数えてもらったらこの書類にサインをください」


男は、カルルが置いた皮袋を開ける。そこには神々しく輝く金貨がぎっしりと入っているのが見えた。


「お前さん、名前は何と言ったかな」


「僕ですか。カルルです」


「さっき、魔力の魔石って言ってたよな。それがあれば魔道ストーブが10日間でも動くんだよな。いくらだ」


「そうですね。市場価格って変動するんですが、相場としては1個で金貨100枚以上というところです」


「金貨100枚!魔石1個がか!」


「はい。飛空艇は魔力の魔石が無いと飛べないので市場価格も高いんです。買いますか?100個単位で売りますよ」


「100個単位って、金貨1万枚じゃないか」


「ははは。冗談ですよ」


「そんな高価なものを1個でも買ったら泥棒が怖くて夜も寝ていられねえよ」


「そうですね。それが正しいと思います」


カルルは、ボロ家の奥に返品されて積まれている魔道ストーブを、収納の魔石の中へと次々と放り込んで行く。


「お前さん、収納の魔石を持っているのか。収納の魔石って高いんだよな」


「ああ、これですか。僕が錬成した魔石なのでタダです」


「おっ、おい。収納の魔石を錬成できるのか!それを売ったら大金持ちじゃねえか」


「僕は、飛空艇が創りたいんです。お金儲けのために魔石を創っている訳じゃないので」


「そっ、そうか。でも勿体ないな。そんなレア魔石が作れるのに」


「頼まれれば、攻撃魔法の魔道具とか防御の魔道具も創ります。そういったものは、王国軍にも納品しています」


「カルルって言ったよな。歳はいくつだ」


「11歳です。もう少しで12歳になります」


「外にある飛空艇は、カルルが作ったのか」


「はい。僕が創りました。そして僕の家でもあります」


男は、カルルと共にボロ家から出ると家よりも高さのある飛空艇を見上げる。


「これが空を飛ぶのか・・・」


「乗ってみますか」


そう言ってカルルは、ボロボロの服を身に纏とった錬金術師のフーゴを飛空艇内に案内する。


そして空へと舞い上がった飛空艇で男は、生まれて初めて空を飛んだ。


空に浮かぶ雲の中を飛び、雲海の上を飛ぶ。


遥か彼方に見える山脈と眼下に広がる大地を眺める。


飛空艇は、しばしの遊覧飛行の後にフーゴの住む村へと降り立つ。


そしてカルルは、フーゴに小さな箱を渡した。転送の小箱である。


「その小箱に手紙を入れて魔石に魔力を送り込むと僕の所に手紙が送られてきます。何かあった時は手紙をください」


そう言ってカルルは、飛空艇で空へと舞い上がる。


空へと姿を消した飛空艇を見送ったフーゴは、酒を断つことを決めた。


「俺は、錬金術師だ。人の役に立つ魔道具を作ってこその錬金術師だ!」


フーゴの叫び声は、錆びれた村中に響きわたった。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:63

 1000艇まで残り937


◆カルルが創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用

 ・早期警戒飛空艇(試作艇)


 王女殿下軍向け飛空艇

 ・アリーア王国・王女殿下陣営向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

 ・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇


錬金術ギルド用飛空艇

・グランドマスター用兼、商談用武装型飛空艇

・薬草栽培兼治療用飛空艇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ