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No.037 宝物庫

カルルは、その日はワーズディン王国の宝物庫内にいた。


理由は、ワーズディン王国がアリーア王国に借款を求めたことから始まる。


ワーズディン王国には天然魔石の鉱山がいつくかあり、国家財政の殆どを天然魔石の売買で賄っていたが、天然魔石を採掘する採掘師が減少し、魔石の採掘がほぼ停止する事態となっていた。


魔石の売買ができなくなると国王は、100年間の魔石鉱山の採掘権を提供する代わりに、アリーア王国へ金貨10万枚の借款を願い出た。


アリーア王国にとっても金貨10万枚は大金であったが、長年の友好国であるワーズディン王国の要請を了承した。


ところが、ワーズディン王国は隣国のジュダルグート王国に対しても同様の借款を求め、魔石鉱山の採掘権を提供すると約束してしまう。


ここで問題が発覚する。


ワーズディン王国は、アリーア王国とジュダルグート王国に対して魔石鉱山の採掘権を提供したが、その魔石鉱山が同じであったのだ。


これに両国は怒り魔石鉱山の採掘権をめぐり紛争へと発展した。


アリーア王国は、魔石鉱山へ10艇の飛空艇を派遣したが、魔石鉱山の上空にはジュダルグート王国の飛空艇50艇が待ち構え、アリーア王国の飛空艇は一方的な攻撃を受け撤退する。


アリーア王国の飛空艇は、ジュダルグート王国の王都防衛という名目で王都を包囲し、魔石鉱山の採掘権の再要求と借款の即時返却を国王に求めたが、国王は所在不明となり国政は大混乱となる。


ワーズディン王国での戦争が時間の問題となり、アリーア王国は他の物で借款の即時返済を求めた。


国王不在の評議会は、宝物庫から"国の宝"を差し出すことで借款の足しにすることを了承したため、アリーア王国から複数の鑑定士が派遣されたが、"国の宝"を鑑定する鑑定師のひとりとしてカルルも同行することになったのだ。


カルルは、飛空艇を創る錬金術師であり鑑定士ではない。


だが、神殿遺跡で入手した"知恵の魔石"の所有者であることにより、国王陛下より王宮付き魔石鑑定士という肩書を与えられてしまう。


アリーア王国から派遣された美術品の鑑定士と共に宝物庫に来てみると、殆どの宝が箱の中に保管されているため何処に何があるのか全く検討もつかない。


ワーズディン王国の宝物庫内に保管されている宝物の目録はあるものの、保管場所にあるはずの箱が無かったり無いはずの場所に箱が山積みになっていたりと、ワーズディン王国の国宝の管理を任されている者ですら何が何処にあるのか皆目見当がつかない状態だ。


しかも目録を見たところで価値があるものなのかが全く分からない。


国宝というのは、その国の生い立ちに登場する武器や装飾品が多く、装飾品については持ち出し厳禁というのが相場だ。


武具はというと、数百年以上前に作られたものが殆どで、実用に堪えないものばかりで価値は無いに等しい。


「国の行事で使用される国宝の保管はしっかりされているみたいですね」


「国宝が盗難に合えば、本当の意味で管理者の首が飛びます。ですから管理は厳重に行っております」


「カルル殿は、その歳で魔石鑑定士と伺っておりますが」


「ははは。魔石鑑定士といっても"知恵の魔石"を所有しているだけの駆け出しです」


「なんと、あの。"知恵の魔石"をお持ちなのですか!」


「神殿遺跡でたまたま入手できただけです」


「それは凄いですな」


宝物庫の管理を任されている文化財局の管理官でるハーミアは、分厚い目録のページをめくりながら、いくつか価値のありそうな武具が保管された箱の前に立ち止まる。


目録に書かれた武具が保管された箱を探し、その箱を空けてみるも武具に装備された魔石は粉々に砕け魔石片へと変わっていた。


「魔石は、割れたり曇ったりしたら使い物にはならないんです。魔石片を修復できるスキルを持っている方がいればよいのですが、そんな都合のよいスキルがこの世界にあるんですかね」


「ははは、確かに破損した魔石を修復できるスキルというのは聴いたことはありません」


カルルの言葉に文化財局の管理官のハーミアも呼応する。


そう、破損した魔石は修復はできない。それは、この世界では常識である。


だが、カルルはそれができるのだが、それは誰にも明かさない秘中の秘である。


箱の中に保管された剣や魔法杖は、確かに価値のある一品であることは、カルルの鑑定の腕輪で調べて確認済みである。


ただ、今回は剣や魔法杖を探しているのではなく、使える魔石が欲しいのだ。


文化財局の管理官のハーミアが分厚い目録を見ながら足を止める。


「これなどどうでしょうか。遥か昔にこの王国を襲った暗黒龍を討伐したと言い伝えられている魔剣です。その魔剣に装備されていた魔石が残っているはずです」


「暗黒龍を倒した魔剣ですか・・・」


カルルは、その話を聞いた途端、絶対嘘だと確信した。


どの王国にもその手の英雄譚は存在するが、実際に龍討伐に使われたという武器は、大抵がレプリカで本物は存在しないのが通例だ。


まして倒した龍が暗黒龍ともなれば、倒せる武器などこの世には存在しないといわれている。


「場所は、ここになります」


宝物庫の最奥の箱に保管されていた魔剣は、装飾は程々でどちらかといえば実用重視といったもので、剣身には魔石が埋め込まれていたであろう穴がいくつか開いていた。


だが、魔剣には魔石は無く魔剣が保管された箱の中に小箱がいくつか入っていただけであった。


「剣には魔石は装備されていないですね」


「恐らく魔石は破損して使い物にならないので取り外されたのでしょう」


「わが王国で採掘された天然魔石で作られた魔石なら500年は持ちますが、人が錬成した魔石なら100年程度しか持ちません」


「天然魔石だと500年も持つんですか」


「この国に暗黒龍が現れたのは500年前と記録にあります。この魔剣が作られたのは、それよりも前だそうです」


「つまり天然魔石であっても寿命はとっくに過ぎているということですか」


文化財局の管理官でるハーミアは、剣が保管されていた箱の中にあった小箱を手に取ると、その箱を開けて見せた。


「この小箱に入っているのが魔石の破片です。恐らくこの魔石が剣に装備されていたと思われます」


小箱の中には、小さなガラス片のようなものがいくつか入っているだけだ。


「やはり魔石は破損してますね」


カルルは、小箱の中の小さな魔石の破片をのぞき込むと、鑑定の腕輪に魔力を送り魔石片の鑑定を試みた。


"分解の魔石。分解魔法を放つ魔石。分解魔法は、暗黒龍の防壁、暗黒のブレス、暗黒龍の鱗を分解できる世界で唯一の無属性魔法。欠点は魔法の射程が極端に短いこと"。


鑑定結果は、目を見張るものであった。今ではその存在すら否定されている暗黒龍だが、この魔石は本当に暗黒龍と対峙したかもしれない。


カルルは、鑑定の結果を見てこの"分解の魔石"が欲しくなった。


「ハーミアさん、この魔石の破片を手に取ってもよいですか」


「構いません。破損した魔石はもう国宝ではありませんから」


カルルは、小箱から魔石片を手に取ると左手で魔石の破片を握り、魔力を送り魔石錬成のスキルを発動させる。


すると握った右手に違和感が伝わり、右手に魔石が握られているのが感触で分かった。


右手に握られた魔石を鑑定の腕輪で鑑定すると、やはり"分解の魔石"であった。


「やはりいくら鑑定しても破損した魔石ということ以上は分からないですね」


「はい。他の武具を探してみましょう」


カルルは、右手に錬成した"分解の魔石"を握ったまま、左手に持った魔石片を小箱へと戻す。


カルルが持つスキルのひとつには、左手で持った魔石と同じものが錬成できるというスキルがある。


カルルは、あくまでも魔石錬成スキルのひとつと考えているが、このスキルは破損した魔石片であっても魔石として錬成できるので、魔石修復スキルと言っても過言ではない。


その後も文化財局の管理官でるハーミアと共に宝物庫内を巡ったものの、価値のありそうな魔石はなかった。


カルルは、自身の飛空艇へと戻るとポケットに忍ばせた”分解の魔石”を手に取る。


今度は"分解の魔石"を握らずに魔石錬成のスキルから"分解の魔石"の錬成を試してみたが見事に成功した。


さらに"知恵の魔石"のツリー構造のメニューを覗き込むと一覧に"分解の魔石"が存在することも確認した。


カルルは、思わず小声で喜びの声を発した。


「やった。"分解の魔石"を入手できた!」


カルルがワーズディン王国の宝物庫内で魔石片から魔石を錬成したことを知る者は誰もいない。


まずは入手した"分解の魔石"の能力を知る必要がある。


土魔法で創った腕輪に魔力の魔石と分解の魔石を埋め込み、ふたつの魔石を魔道回路で繋ぎ、魔力の魔石の魔法術式を修正して分解魔法を放てるようにする。


魔法強度:1、発射間隔:単発。


魔法術式の設定を変更してどれくらいの威力なのかを探るべく、飛空艇を飛ばし人がいない山間部へと向かう。


「皆さん、これから新しい魔石で創った魔道具の試し撃ちをします。攻撃魔法なので危なくない様に防壁を展開しておいてください」


カルルの言葉にアリス、ハンド、パトリシアは、飛空艇の影へと走り込み、さらに防壁の腕輪に魔力を送り物理防壁と魔力防壁を展開する。


「カルル殿の魔道具は、威力が凄いので怖いというのが本音だ」


「攻撃魔法の武具を作る錬金術師は、いろいろ見てきましたが、カルル殿が作る魔道具は異質です」


「でもカルルが作る魔道具は、魔道具屋で売っていないから正直欲しいのよね」


飛空艇の後ろに体を隠しながら顔を半分だけ出して3人は、カルルの創る魔道具に対する各々の評価を口にする。


「ではいきますよ」


カルルは、目の前にある絶壁に向けて"分解魔法"を発射した。


だが、魔法が発射された様子もなく、絶壁に穴が開いた形跡もない。


「あれ、おかしいな。魔法術式を間違えたかな?」


腕輪の魔法術式を展開して設定を詳細に見ていくと"収束:1"と"有効射程:100"となっている。


「これかな・・・」


収束は、魔法を1点に集中させるか拡散させるかを決定する値で、小さくすると魔法は極小の点になる。


この値を大きくすると拡散され広範囲に魔法の影響を与える。


有効射程は、魔法が届く範囲で収束の設定と対になる。


収束を"1"にすると射程は100mとなり、収束を"10"にすると射程は50mとなった。


逆に有効射程の値を変更すると収束の値が変更されるので、"収束"か"有効射程"のどちらで値を選ぶのかは好みの問題となりそうだ。


「有効射程が100mって短いな。飛空艇の魔道砲だと最大で10kmは届くからなあ」


カルルは、この"分解の魔石"を飛空艇の魔道砲と同様にマストに取り付ける算段をしていた。


だが飛空艇が飛ぶ速度は早ければ時速200kmを超える。


そうなれば、射程100mだとほんの一瞬でしかない。とても武器をしては使えない代物と思えた。


だが、鑑定の結果にあった"暗黒龍の防壁、暗黒のブレス、暗黒龍の鱗を分解できる世界で唯一の無属性魔法"というのが気になって仕方がない。


カルルは、魔法術式の"収束"を半分の"5"に変更し、絶壁の下に防壁の腕輪を置き、常時物理防壁と魔道防壁が展開できるようにして置いた。


そして防壁の魔石の魔法強度を"10"に設定した。これは防壁の魔石で設定できる最大値でカルルの飛空艇に装備している魔道砲を最大威力で放っても貫通できない強度である。


「皆さん、もう1度魔法を使いますよ。注意してください」


すると飛空艇の後ろで、カルルの行動を遠巻きに見ていたアリス、ハンド、パトリシアは、先ほどと同じ様に体を飛空艇の影に隠し、顔を半分だけ出して様子を伺う態勢をとった。


カルルが分解の魔石と魔力の魔石を埋め込んだ腕輪に魔力を送り、分解魔法の発射を指示する。


すると絶壁の前に置いた防壁の腕輪が展開する物理防壁と魔法防壁が一瞬で消滅し、その後ろにあった絶壁が丁度飛空艇程の大きさでえぐられていた。


炎や雷の攻撃魔法の様な激しい現象は起きない。


音もなく静かに絶壁に飛空艇程の大きさの穴が開く光景は他の攻撃魔法とは一線を画すものであった。


カルルが絶壁に近づくと、絶壁に開いた穴の深さはざっくり10mほど。


「魔法強度:10の物理防壁と魔法防壁を破壊しながら飛空艇程の大きさで10mも深く抉るのか・・・」


絶壁に開いた穴の中に入りながらカルルは考え込む。


「射程は短いけど、鑑定魔法の結果の通り"暗黒龍の防壁"を分解できるというのは本当かもね」


カルルが"分解魔法"で絶壁に開けた穴を見たアリス、ハンド、パトリシアは、分解魔法の威力に驚きの言葉を口にする。


「魔法強度:10の物理防壁と魔法防壁を破壊できる攻撃魔法って何なんだ」


「まさかあれを飛空艇に装備する気かしら」


「カルルなら絶対に飛空艇に装備するに決まってるわね」


"分解の魔石"による"分解魔法"の試し撃ちが終わり、飛空艇に戻ったカルルは、アリス、ハンド、パトリシアに魔道具を手渡す。


「これ、さっき試した"分解の魔石"を埋め込んだ腕輪ね。僕のチームにいる限りは飛空の腕輪、防壁の腕輪、それと新しく作ったこの"分解の腕輪"は標準装備にするから、いつでも身に着けておいてね」


手渡された魔道具を見つめる3人は、音もなく絶壁を深さ10mまで抉る未知の魔道具をどう管理すればよいのかと、大粒の汗を流しながら途方に暮れていた。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:63

 1000艇まで残り937


◆カルルが創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用

 ・早期警戒飛空艇(試作艇)


 王女殿下軍向け飛空艇

 ・アリーア王国・王女殿下陣営向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

 ・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇


錬金術ギルド用飛空艇

・グランドマスター用兼、商談用武装型飛空艇

・薬草栽培兼治療用飛空艇

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