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No.035 早期警戒飛空艇

カルルが乗る飛空艇は、新しく錬成した魔石の実験を行う実験艇という位置づけである。


自信で創った魔石を自身で創った飛空艇に取り付ければ、魔石も飛空艇も材料費はかからず、全て"自身の魔力とスキルのみ"を使っているため実費のみとなる。


ちなみに"実費"とは、衣食住にかかるお金のことだ。


よってカルルは飛空艇をタダ同然で創れる。


では、なぜ空を飛ぶだけの飛空艇が金貨1000枚で売れるのかというと、100年前に作られた飛空艇で程度のよいものは中古市場で金貨1000枚で取引されているからだ。


100年前に作られた飛空艇が中古市場で金貨1000枚で取引されている状況で、新品の飛空艇が金貨1000枚で売られたら、どちらを買うだろうか。


さらに細かくいうと、飛空艇を飛ばすために必要な浮遊の魔石と飛空の魔石の中古市場での取引価格は、魔石1個当たり金貨100枚である。


魔力の魔石は、希少性から中古市場での取引価格は、相場にもよるが金貨140枚以上となる。


この"以上"というのは、魔力の魔石がどれくらい老朽化しているかによる。


飛空艇1艇に使われる魔石は、魔力の魔石が3個、浮遊の魔石が3個、飛空の魔石が3個の計9個である。


魔石だけで9個も使う飛空艇は、魔石の塊のような魔道具である。


飛空艇本体の価格と各魔石に魔力を伝達する魔道回路の価格を考慮しても、新品の飛空艇が金貨1000枚で購入できるとなれば、それは破格といっていい。


中古市場に出回っている魔石は、錬成されてから既に100年という時を経ていて、殆どが寿命を迎えつつある。


そんな市場に新品の飛空艇が持ち込まれ、あと100年は使えるとなれば、果たして中古魔石や中古飛空艇を買うだろうか。


だが飛空艇の中古市場は、依然として存在する。


理由は、新しい飛空艇の数が圧倒的に不足しているために他ならない。


大陸中の王国が運用している飛空艇は、100年前に作られたもので、中古市場で程度のよい魔石を探して何とか運用している状態だ。


カルルが住む大陸で飛空艇本体を創れる錬金術師は、そこそこいる。


飛空艇本体を修理できる錬金術師もそこそこいる。


浮遊の魔石や飛空の魔石を錬成できる錬金術師もそこそこいる。


だが、魔力の魔石を錬成できる錬金術師は、カルルひとりだけである。


魔力の魔石は、飛空艇を動かす要的な魔石ではあり、凝った魔道具を作るために必要とされることがある。


それは、複数の魔石を連動させた魔道具を作るには、魔力の魔石が必要不可欠だからだ。


理由は、魔力の魔石は複数の魔石を魔法術式で制御することができるからだ。


例えば、浮遊の魔石から飛空の魔石を魔法術式で制御することはできない。


だが、魔力の魔石から浮遊の魔石と魔力の魔石を魔法術式で制御することは簡単にできてしまう。


そしてカルルは、飛空艇本体、浮遊の魔石、飛空の魔石、魔力の魔石を錬成することができ、さらに神殿遺跡で"知恵の魔石"を入手したことで、今まで錬成できなかった魔石も錬成できるようになった。


この大陸で運用されている飛空艇の殆どは、武装が無いものばかりで国家間で戦争になれば、飛空艇に魔術師が乗り込み攻撃魔法を撃ち合う形になる。


だが、空の上で飛空艇同士が戦ったとしても、やっていることは地上での戦いとさほど変わらない。


カルルは、自身の飛空艇に飛空戦艦に装備されていた魔道砲を移植し、自身の魔石錬成スキルで魔石を修理して使えるようにした。


修理した魔道砲の威力は凄まじく、魔法防壁を展開していた冒険者ギルドの暗部の部隊を一瞬で葬り去ったほどである。


さらにカルルは、飛空艇を動かす時の視界の悪さを改善すべく、探査の魔石、鑑定の魔石、映しの魔石と魔力の魔石を連携させ、操術士が飛空艇の周辺の景色を飛空艇内から見ることができる魔石の組み合わせを見つけ、それを実際に試してみた。


飛空艇の操術師の席に座ったまま飛空艇の外の景色を見ることができる仕組みは、創ったカルルでさえも唸るものであった。


さらに超遠距離探査の魔石と超遠距離鑑定の魔石とを組み合わせることで160m以上離れた遠くの地形を視界に収めることができるようになった。


カルルは、この魔石の組み合わせによって得られた情報を操術士だけが使うのではなく、複数の飛空艇で共有できないかを模索していた。


たとえば、飛空艇Aが周囲100km以上の地形、味方兵士の位置、敵兵士の位置、味方飛空艇の位置、敵飛空艇の位置を把握し、それを飛空艇Bや飛空艇Cに連携することで、戦場全体の状況を味方飛空艇全体で把握するといった感じだ。


ただ、これにはいくつか問題があった。


いくら地形情報や敵味方の位置情報を把握できたとしても、味方の飛空艇にその情報を連携して、部隊の指揮官が指示を出す手段がないのだ。


カルルは、"知恵の魔石"で魔石の一覧を見ながら何か魔石を使って飛空艇同士が連絡を取り合う方法はないのかと探してみたがなかなか見つからない。


飛空艇同士で地形情報などを連携するには"連携の魔石"を使えばよいことは分かった。


だが地形情報や敵味方の位置情報を伝達できるのに各飛空艇に指示を出す連絡方法が無いはずがない。


そう考え、今度は"連携の魔石"の魔法術式のより詳細な設定を調べてみると、声を伝達する術式が見つかった。


試しにふたつの飛空艇に"連携の魔石"を装備させ、魔法術式で音声を送る実験を試みた。


「こちらカルル。声を送っています。アリス聞こえますか?」


しばらく無音の時間が続き、失敗かと思った時に声が聞こえてきた。


「カルル。聞こえるわ。こちらアリス、私の声は聞こえてる?」


「アリスの可愛い声が鮮明に聞こえてる」


また無音の時間が続き、しばらく待っていると声が聞こえてきた。


「まあ、お世辞でも嬉しい」


"連携の魔石"で声を送る実験は成功したが、相手に声が伝わるまでに若干の遅延があるのは、今後の課題だ。


また地形情報や敵味方の情報を特定の飛空艇のみに送ることができるかなど、試してみないと分からないことが山ほどある。


「実際に国境の近くで敵味方を認識でこるかを試してみないと魔法術式が正常に動いているのかは分からないか」


カルルは、薬草栽培と治療用に作った飛空艇と同じ形の飛空艇を創り、そこに超遠距離探査の魔石、超遠距離鑑定の魔石、映しの魔石、連携の魔石を配置して周囲の地形情報や敵味方を識別する専用の飛空艇とした。


"知恵の魔石"の魔石一覧には、魔石の説明が記載されていて、それを読むと遠距離を広範囲に索敵する飛空艇のことを"早期警戒艇"というらしい。


今のカルルが持つ魔石錬成のスキルで創れる魔石では、飛空艇から160km四方を探査することができるが、魔石によっては探査範囲をもっと広げることは可能らしい。


早期警戒飛空艇と名付けた試作飛空艇の上部に大きな四角い枠の様なものを取り付け、そこに超遠距離探査の魔石や超遠距離鑑定の魔石をいくつも配置して魔道回路で魔力の魔石と繋げていく。


武装のない飛空艇と比べると超遠距離探査の魔石、超遠距離鑑定の魔石、映しの魔石、連携の魔石を制御する魔力の魔石の魔法術式は、かなり複雑で面倒な記述が必要となる。


そして試作艇ではあるが"早期警戒飛空艇"は何とか形になった。


これを何処かの王国の国境に持っていき、実際に敵味方の識別が正常に行えるのか、各部隊の飛空艇と連絡が行えるのかを確認するために、カルルの両親がいるアリーア王国へと向かうことにした。


そこで"早期警戒飛空艇"の動作検証を行い、改良を重ねて売れる飛空艇の種類を増やそうという算段だ。


錬金術ギルドの薬草園で飛空艇の捜術を覚えたソフィアは、飛空艇での治療により若返ったグランドマスターを乗せて、一足早くハイリシュア王国の王都へと向かった。


これから王都でグランドマスターの知り合いの貴族に声をかけて、若返りの治療を試すのだという。


カルル達は、2艇の飛空艇に分乗してアリーア王国へと向かう。


カルル達がいるのは、ハイリシュア王国の最も東に位置するグルズ山脈の東側にある錬金術ギルドの薬草園で、そこから海岸線を南下してアリーシュ王国を横断し、アリーア王国へと入る。


そこからグルズ山脈を超えてアリーア王国の王都へと向かう予定だ。


今まで乗っていた飛空艇はアリスとパトリシアが乗り、新しい早期警戒飛空艇には、カルルとハンドが乗り込み薬草園を飛び立った。


カルル達が向かったアリーア王国では、カルルの両親が国王陛下直属の飛空艇軍の司令官を拝命している。


カルルが考えていたのは、アリーア王国と西側で国境を接しているジュダルグート王国近くへ行き、早期警戒飛空艇で相手国の部隊が映しの魔石によってどのように映し出されるかを確認することだ。


それによって魔法術式の組み換えを行い、早期警戒飛空艇の完成を目指す。


さて、早期警戒飛空艇では飛空艇を中心に160km四方の地形を探査し、建物や人や魔獣の詳細な情報を鑑定できる。


だが、街のように人が多く住む場所だと超遠距離鑑定の魔石では、鑑定が間に合わず"不明"と映し出されることが多く、個人を特定するのは難しいことが分かった。


対処方法としては、超遠距離鑑定の魔石の数を増やすか、鑑定の質を落とすかのどちらかになる。


超遠距離鑑定の魔石を増やせば、それだけ魔力の魔石の魔法術式が複雑になり、新しい飛空艇を創ったあとの魔法術式の調整に日数ばかり取られてしまうため、当面は鑑定の質を落とすことにした。


もうひとつ切実な問題が浮上した。


この早期警戒飛空艇には、カルルの飛空艇の様に魔道トイレは取り付けてはいない。


理由は、場所をとるので買わなかったのだ。


魔道トイレは、何処でも手に入るようなものではなく、今のところ各王国の王都にある錬金術ギルドの店でしか買うことができない。


飛空艇で空を飛んでいる最中に、もよおすと地上に降りて用を足すか、飛空艇の中に壺でも用意してそこに用を足すししかない。


さすがに飛空艇の中に壺を置いて用を足すと、匂いが籠ってしまい飛空艇の操術に支障をきたす。


今まで王国に売却した飛空艇には魔道トイレは装備していない。となると兵士の皆さんどうしているのだろうかと。


これは早急に対処しなければならない問題だと、今更ながら考えるカルルであった。




◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:63

 1000艇まで残り937


◆カルルが創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用

 ・早期警戒飛空艇(試作艇)


 王女殿下軍向け飛空艇

 ・アリーア王国・王女殿下陣営向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

 ・ハイザバード王国軍向け飛空艇 30艇


錬金術ギルド用飛空艇

・グランドマスター用兼、商談用武装型飛空艇

・薬草栽培兼治療用飛空艇

このお話に出てくる早期警戒飛空艇内で映し出される地形図と敵味方の飛空艇の映像は、こんな映像を想定しています。

2分23秒辺りからちょくちょく出てきます。

NELLIS AIR COMBAT TRAINING SYSTEM

https://www.youtube.com/watch?v=QUOwqeTeK0w&list=RDMMQUOwqeTeK0w&start_radio=1

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