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No.032 冒険者ギルドとの戦い

薬草園にやってきたSランク冒険者チーム"女神の雫"のリーダーであるアリオスから聞かされたのは、冒険者ギルドが強制クエストを発動してカルルの拉致と"知恵の魔石"の奪還を企てているという。


カルルは、まさか冒険者ギルドが強制クエストを発動してまで"知恵の魔石"を欲しているとは思ってもみなかった。


「強制クエストを発動してまで"知恵の魔石"が欲しいなら王国から飛空艇を借りてでも自身で神殿遺跡まで行けばいいのに。自分で行くのがそんなに嫌なのかな?」


「それとも冒険者ギルドのギルドマスターって、元々盗賊団あがりがギルドマスターになったのかな。だったら人の物を盗みたがる訳だよね」


「カルル殿、そんな悠長なことを言っている場合ではない。この薬草園も既に冒険者ギルドの暗部に囲まれている。明日の朝まで生きていられる保証もないのですよ」


「ああ、暗部の6人が薬草園を取り囲んでいるのは知っています」


「ろっ、6人。そんなにいたのか。3人までは知っていたが・・・」


「ええ、飛空艇に広域探査の魔石と広域鑑定の魔石を装備したので、薬草園の周囲にどんな人がいるのかは分かります」


「それも"知恵の魔石"から錬成した魔石ですか」


「そうです。でも、僕以外の人は"知恵の魔石"を持っていたとしても魔石の錬成はできないですよ」


「やはり、魔石錬成のスキルは必要なのだな」


「詳細は言えませんがそうです。冒険者ギルドのギルドマスターが魔石錬成のスキル持ちかは知りませんが、冒険者ギルドのギルドマスターが"知恵の魔石"を入手したところで、魔石なんて作れないのに何で欲しがるのか理解できません」


「薬草園を取り囲んでいる暗部の連中はどうする。夜になったら襲ってくる可能性もあるが」


「こちらにも対抗策はあります。それよりもうすぐ夜になりますが、皆さんはどうされますか」


「我々は、カルル殿に命を助けられた身の上だ。冒険者ギルドが強制クエストでカルル殿を拉致するというなら、カルル殿は我々で守るつもりで来た」


「ありがとうございます。でしたら皆さんにこれをお貸しします」


そういってカルルが手渡したのは、飛空の腕輪と防壁の腕輪だ。


飛空の腕輪は、飛空艇で使われている魔力の魔石、浮遊の魔石、飛空の魔石を埋め込んだ腕輪で、魔力を送り込むと空を飛ぶことができる。


空を飛ぶ飛行魔法は、ほんの一握りの魔術師にしか使えない魔法だ。


防壁の腕輪は、魔力の魔石と魔法防壁の魔石と物理防壁の魔石を埋め込んだ腕輪で、ふたつの防壁の魔石は"知恵の魔石"から錬成したものだ。


防壁の魔石は、魔力を送り込むことで魔力防壁と物理防壁を小盾、大盾、身体の前面へ半球状、身体の周囲全域に球状と4つの形態で展開できる。


カルルが創る魔道具の特徴は、魔力の魔石に組み込んだ魔法術式に魔法発動の呪文を組み込んであるため、魔法が使えなくても魔力さえあれば誰でも魔道具が使える点にある。


「魔道具の使い方は、腕輪に魔力を送り込めば誰でも魔法が発動します。呪文の詠唱は必要ありませんので、使い方の練習はしておいてください。魔道具の習熟度合が勝敗を分けます」


カルルから魔道具を渡されたSランク冒険者チーム"女神の雫"の面々は、見たこともない魔道具に戸惑い、使ってみて驚き、そしてその魔道具がいかに優れているかを知り歓喜した。


アリスには、既に飛空の腕輪を渡してあるので防壁の腕輪を渡し、ハンドとパトリシアには飛空の腕輪と防壁の腕輪を渡した。


カルルは、飛空艇の前に皆を集めて明朝に起こるであろう事態に対してどう向き合うのかを話した。


「明朝、冒険者ギルドが強制クエストを発動して100人の冒険者を使って僕を拉致しようとしています。でも僕は黙って拉致されるつもりはありません」


「ということで、この薬草園で迎え撃ちます。もし100人の冒険者が僕に剣を振るったり、攻撃魔法を使った時点で飛空艇の魔道砲を使います。もし僕を人殺しと言うのなら、強制クエストを発動した冒険者ギルドこそ暗殺者集団と名乗るべきです。さあ皆さん戦いの始まりです」


カルルの言葉に誰ひとり反論せずに立ち尽くしていると、飛空艇の中から錬金術ギルドのグランドマスターが現れた。


「坊やの面構えも相当良くなったね。わしの腰の調子も少しはよくなったよ。坊やが冒険者ギルドと事を構えるなら、責任は私がとるよ。好きなようにおやり」


そう言い残して錬金術ギルドのグランドマスターは、また飛空艇の中へと戻っていった。


「グランドマスターの言葉は心強いね」


カルルは、グランドマスターの言葉を嚙みしめながら飛空艇に戻ると、明朝の戦いに備えて準備を始めた。


・・・・・・


まだ陽が水平線から登る前の薄暗い朝、街の冒険者ギルドの前には、多くの冒険者達が集まっていた。


冒険者ギルドが強制クエストを発動すると、その街にいるCランク以上の全ての冒険者は強制クエストに無条件参加となる。


当然冒険者には、クエスト参加料は支払われるが、神殿遺跡があるトーデスインゼルで魔獣狩りをした方が遥かに見入りはよい。


だが冒険者ギルドの強制クエストに参加すれば、ランクアップポイントが加算されるという特典が付くため、それ目当ての冒険が殆どだ。


強制クエストへの登録を終えた冒険者達は、山の中腹にある錬金術ギルドの薬草園へと向かう。


何とか馬車が通れる程度の狭い坂道を秩序なくぞろぞろと歩く冒険者達は、水分補給をしながらゆっくり進んで行く。


最初に薬草園に到着した冒険者達と最後に薬草園に到着した冒険者とでは、1時間程の時間のずれが生じていた。


冒険者達の先頭に立つのは、冒険者ギルドの副ギルドマスターだ。


「ここに強制クエストの対象者のカルルという子供がいる。その者を捉えるか、その者が持つ"知恵の魔石"を持ってきた者には、金貨300枚の報酬を支払う」


「だが対象者を子供だと思って侮るな。奴は飛空艇を操る錬金術師でありながら、土魔法を操る魔術師でもある。しかも神殿遺跡から生きて帰ってきた強者だ。細心の注意を払って対処っして欲しい」


各チームの盾役が大盾を並べて防御陣形を作り、その後ろに剣士が並び、弓使いが並び、さらにその後ろに魔術師が並ぶ。


剣士は、弓使いと魔術師による魔法攻撃のあとに錬金術ギルドの建物へと突入する作戦であった。


盾役がじりじりと錬金術ギルドの建物へと近づいていく。


錬金術ギルドの建物からは、まだ何の反応もない。


冒険者達の防御陣形は、少しずつ錬金術ギルドの建物へと近づいていく。


すると、建物から王国の軍服を着た6人の兵士が現れた。


「お前ら、いったい何の騒ぎだ。責任者は誰か!」


「私は、王国軍装備局の主任担当官であるルイス大尉である。この事態を統括している責任者は誰かと聞いている。さっさと名乗り出ろ!」


大盾で防御陣形を形成しながら進んでいた盾役達の脚が止まる。


「おい、王国軍の大尉だってよ。そんな話は聞いてないぞ」


「まずいんじゃないか」


「まさか冒険者ギルドが王国軍に喧嘩を売るんじゃないだろうな」


「このまま戦ったら俺達、反逆罪で極刑になるんじゃ・・・」


冒険者達に動揺が広がり、大盾による防御陣形が徐々に崩れ始めた。


すると防御陣形の隊列からひとりの男が立ち上がると名乗りを上げる。


「私は、冒険者ギルドの副ギルドマスターのドレクセンです。これは、冒険者ギルドの強制クエストです」


「強制クエストだと。見たかぎり100人以上の冒険者がいるように見える。この薬草園に盗賊団でもいるのか」


「お言葉ですが、ここにカルルという少年がいます。彼は、トーデスインゼルの神殿遺跡にて冒険者ギルドが派遣したSランク冒険者チームから魔石を強奪した容疑がかけられております」


「ほう、ならば我々がその容疑者を尋問して真意を問いただそう」


「いえ、魔石を強奪されたSランク冒険者達の証言も既にとってあります。王国軍の大尉殿の手を煩わせる必要はありません」


「そうか。Sランク冒険者チームというのは彼らのことか」


ルイス大尉が振り向くとそこに立っていたのは、Sランク冒険者チーム"女神の雫"の面々だ。


すると大盾の防御陣形を形成していた冒険者達からどよめきが起こる。


「Sランク冒険者チーム"女神の雫"のアリオスさんだ!」


「神殿遺跡から帰っていたのか」


レオン大尉の横に"女神の雫"のリーダーであるアリオスが立ち、神殿遺跡で何があったのか話始める。


「アリオス殿。あなたは神殿遺跡でカルルとかいう子供に魔石を奪われたのかね」


「いえ、魔石を奪われたりはしておりません。いくら食料と水が不足していたとはいえ、私もSランク冒険者です。子供に遅れは取りません」


「では、神殿遺跡で何があったのか説明してもらってもよろしいか」


「はい。我々は、神殿遺跡に入りギルドマスターから預かった魔石20個をひとつずつ"知恵の泉"に投げ入れました。ですが、どの魔石を投げ入れても"知恵の魔石"には変化しませんでした」


「我々は、魔法防壁で覆われた神殿遺跡へ入ることはできましたが出ることができず、神殿遺跡に入り数日が経ち食料と水が尽きてしまい満身創痍の状態となったところに空から飛空艇が現れました」


「その飛空艇には少年が乗っていて、我らに水と食料を与えてくれ、街まで飛空艇で運んでくれたのです。カルル殿は我らの命の恩人です」


「アリオス殿は、その飛空艇で現れた子供に魔石を奪われたりしたのかね」


「いえ、魔石はひとつも奪われたりしておりません。ギルドマスターから借用した魔石は、全て返却済みです」


「神殿遺跡で何があったのかは、ギルドマスターのバラム殿に詳細にお話しましたが、"知恵の魔石"が奪われたと言い張るばかりでした」


「なんだか話が食い違っているようだな」


ルイス大尉は、副ギルドマスターのドレクセンの前へと出ると疑いの目で睨みつける。


「神殿遺跡にいた本人は、魔石をひとつも奪われていないと証言した。だが、神殿遺跡にいなかった冒険者ギルドのギルドマスターは魔石が奪われたと言っている。そしてこんな騒ぎを起こした張本人はここにはいない。これはどういう事だ」


ルイス大尉の質問に強制クエストを現場で指揮する冒険者ギルドの副ギルドマスターが答えた。


「我ら冒険者ギルドは、国王陛下からトーデスインゼルの管理を任されている。トーデスインゼルの遺跡神殿の魔石は全て冒険者ギルドの所有物だ。よって"知恵の魔石"を持ち出すなら冒険者ギルドの許可が必要だ」


副ギルドマスターのドレクセンは、声を荒げてそう言い放った。


「ほう、では啓に問う。いつから王国所有の地であるトーデスインゼルが冒険者ギルドの所有物になったのかね。あの島は、冒険者ギルドに管理は任せてはいるが、わが王国の国有地だ」


「冒険者ギルドに島の管理は任せたが、島の所有権や遺跡神殿で個人が入手した魔石の所有権、そこで行われた行為については王国の法が適用される。法まで冒険者ギルドに一任した覚えはない!」


「そしてもうひとつ言っておく。カルル殿は、わが王国軍の飛空艇整備事業に関わっている大切な御仁。国王陛下も新しい飛空艇の出来栄えに大変ご満足している。それは我ら王国軍も同じだ。そんな御仁を冒険者ギルドの玩具にされてはたまらない」


ルイス大尉の声の高さは徐々に下がり、最後は副ギルドマスターの耳元で囁くように話を終えた。


そしてルイス大尉の背後には王国軍の3艇の飛空艇が空から現れると薬草園へと降り立つ。


飛空艇から王国軍の兵士が次々と下艇すると、防御陣形を組んでいる100人以上の冒険者を取り囲んだ。


「この件に関わった冒険者ギルドの関係者と冒険者達に告ぐ。貴様らは速やかに武装解除せよ。この件に関係した全員を国家反逆罪の容疑者として取り調べる。この場から逃げた者は、その場で極刑とする!」


カルルを拉致する目的で冒険者ギルドが発動した強制クエストに参加した冒険者達は、落胆しその場に武器を置き投降を始めた。


カルルはというと、飛空艇の中でいつ魔道砲を発射しようかと魔力の魔石に魔力を送り続けていたのだが、王国軍のルイス大尉に戦いを食い止められた形となった。


錬金術ギルドのグランドマスターは、飛空艇の1階で腰の治療に専念している。


薬草園で何が起きているかを知らない冒険者ギルドのギルドマスターであるバラムは、自身の執務室で"知恵の魔石"の到着を待っていた。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:88

 1000艇まで残り912


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

 ・ハイリシュア王国向け飛空艇 25艇


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