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No.028 いざ神殿遺跡へ

カルルは、飛空艇創りの場所を錬金術ギルドの薬草園に移し、ハイリシュア王国から受けた飛空艇創りを続けていた。


そこで知った"神殿遺跡で入手した魔石は、誰でもどんな魔石でも作れる魔石"という信じられない話に興味を持ち、神殿遺跡へと行く決意をした。


神殿遺跡に向かうのは、依頼を受けた残りの飛空艇を完成させたのちとなる。


となれば、トーデスインゼル(死の島)がどんな島なのかを知る必要があるが、カルルの護衛となったハンドとパトリシアは、以前にトーデスインゼル(死の島)で魔獣狩りをしたことがあるというので、飛空艇創りの合間に話を聞くことにした。


パトリシアが語るトーデスインゼル(死の島)の話は実に興味深いものであった。


「トーデスインゼル(死の島)へ向かうには、メリダの街で冒険者ギルド証を呈示して入島税を払う必要があります」


「冒険者ギルドの会員はFランクからSランクまでの7段階に分かれています。この中でトーデスインゼル(死の島)に渡れるのはCランク以上で、Dランクより下の会員は島に渡る船にすら乗せてもらえません」


「かなり厳しい条件ですが理由があります。トーデスインゼル(死の島)には上位ランクの魔獣しかいないのでDランク以下の冒険者では魔獣を狩ることすらできません」


「島の突端に砦があり、トーデスインゼル(死の島)に船で渡った冒険者達は、そこから島内に入ります」


「島は周囲200kmほどの大きな島で中央に標高2000m程度の山々が点在します。神殿遺跡はその山の中腹にあります」


「島に生息する魔獣は、海岸近くにいるCランクの魔獣が最も弱く、島の中央にには少数ですがSランクの魔獣がいます。神殿遺跡に行くにはこのSランクの魔獣を倒す必要があります」


「海岸に生息する魔獣は、弱いとはいえCランクの冒険者チームで何とか倒せる強さです。群れで襲われるとチームでも対処は難しいです」


「島にはいくつかの街道があり、その街道沿いに退避豪が点在していて魔獣から身を守ることができて水や食料を入手することも可能です」


「退避豪には、冒険者ギルドが絶えず物資を補給しているので冒険者達は、継続して魔獣狩りができます」


「ただ、稀に退避豪が魔獣に襲われることがあるので数日分の水と食料を持ち歩くのは必須と言えます」


「島の中央で魔獣狩りができるのは、Sランク冒険者チームのみですが、それでもSランク冒険者チームが戻ってこなかったという話はよく耳にします」


「カルル殿の戦いぶりを見るに錬金術師でありながら攻撃魔法も使いこなせるようですが、冒険者ギルド会員でないのでトーデスインゼル(死の島)に入ることはできません」


「常時魔獣狩りをする冒険者は、魔獣との戦いに慣れています。話によるとカルル殿は魔獣とは殆ど戦ったことがないそうですね。となるとトーデスインゼル(死の島)の神殿遺跡に行くのは絶望的だと断言します」


パトリシアの"絶望的"という最後の言葉を聞いたカルルは、ますます神殿遺跡へと向かう決意が湧きあがる。


「パトリシアさん、お話ありがとうございます。では、僕がどうやって神殿遺跡に行こうとしているのかお話します」


しばしの間を置いてカルルが話はじめた内容は、どの冒険者も今までやったことの無いものだったが、カルルなら当然といった内容でもあった。


「僕は、島内を徒歩で移動する気はありません。せっかく飛空艇があるんですから空を飛んで神殿遺跡へ向かいます」


「神殿遺跡の上空でSランクの魔獣を発見したら上空から飛空艇の魔道砲で攻撃を行い、速攻で魔石を回収して戻ります。そうすれば薬草園からなら1日で往復が可能です。冒険者ギルドに入島税を払う必要もありません」


その話を聞いたパトリシアとハンドは、呆然とした。そんな話は今まで聞いたことすら無いからだ。


「えっと・・・、飛空艇で神殿遺跡に行くんですか」


「はい。僕の目的は"知恵の魔石"の入手であって魔獣狩りではありません」


あまりの突拍子の無い話に呆然とするハンドとパトリシア。


「異論がないようなら街に行って食料を買い込んで準備をしましょう」


カルル達は、メリダの街の市場で食料を買い込んでいく。


食料は、4人が3日程度食べられる量があればよいので、そこまで大きな荷物ではない。


しかも神殿遺跡まで背負って歩くのではなく飛空艇で運ぶのだから重さも気にならない。


街の市場で食料を買い込んだカルル達は、ある光景に出くわした。


それは、冒険者ギルドからの依頼を受けたSランク冒険者チームが神殿遺跡へと向かうにあたり、街に集まった冒険者達から声援を受けながら送り出される光景であった。


冒険者ギルドの依頼は、神殿遺跡に向かい"知恵の魔石"を持ち帰ること。


100年前に大錬金術師ゼストが持ち帰って以来、誰にも成し遂げられていない最難関クエストだ。


Sランク冒険者チームを送り出す冒険者の数は、500人は優に超えている。


「送り出す時って盛大にやるんですね」


カルルの言葉にハンドとパトリシアは暗い表情を浮かべる。


「生きて帰って帰って来れない可能性が高いからこそ盛大に送り出すんです」


「SランクチームでもSランクの魔獣が複数で現れたら厳しいだろうな」


冒険者稼業は、気楽だと考えていたカルルだが、実際のところ必ず生きて帰れる保証はない。


Sランクの魔獣といえども、個体差は相当なものだという。それを必ず倒せる保証など皆無なのだそうだ。


カルル達が飛空艇で神殿遺跡へと向かったのは、Sランク冒険者チームが神殿遺跡へと旅立ってから10日目の朝であった。


・・・・・


カルル達は、飛空艇に乗り込むと錬金術ギルドの薬草園から一路海を目指す。


眼下には、メリダの街とトーデスインゼル(死の島)へ向かう多くの船が見える。


間もなく飛空艇は、高度2000mを時速200kmで飛行しながらトーデスインゼル(死の島)へと進む。


飛空艇には、高度や速度を常時計る道具は装備していないので、鑑定の魔石を使って飛空艇の状態をときたま観測する必要がある。


これは、以外と面倒な作業なので神殿遺跡で"誰でもどんな魔石でも作れる魔石"というものを持ち帰る事ができたなら、ぜひ飛空艇に取り付けたいと考えるカルルであった。


しばらく空の旅を楽しんでいるとトーデスインゼル(死の島)が見えてきた。


周囲約200kmの島ともなるとかなりの大きさで、島の中央にはいくつもの山が点在していて雲に覆われて全景を見ることはできない。


飛空艇の高度と速度を徐々に落としながら、島の中央に点在する山へと向かう。


ハンドとパトリシアも神殿遺跡は島の中央辺りにあるということしか知らないとのこと。


島には街道もあるが空からだと森の木々が邪魔をして街道を頼り場所を特定する訳にもいかず、飛空艇で飛びなが

地道に探す以外の方法がない。


島の中央には、2000m級の山々が点在しており、しかも中腹辺りから山頂は雲と霧に覆われて視認できない状態だ。


もし山の中腹よりも上に神殿遺跡があると見つけるのは容易ではない。


すると山々の峰の間に高原のような場所があり、そこに巨大な白いカーテンの様なものが揺らめいているのが見えた。


「もしかしてあれがそうなのかな?」


飛空艇の操術室の窓から見える白いカーテンの様なものは、かなりの範囲を囲う城壁の様にも見える。


「以前に冒険者ギルドで聞いた話では、神殿遺跡は魔獣の侵入を防ぐために魔法防壁で守られているそうです。あれがそうだと思います」


飛空艇は山々の間をすり抜けて揺らめく魔法防壁の上へと到達し、神殿遺跡の上空から魔法防壁とその周囲を見渡すと、あることに気が付いた。


「神殿遺跡の魔法防壁って壁だから神殿の上には防壁って無いんじゃないの?」


カルルの言葉に衝撃を受けるハンドとパトリシア。


そこにアリスが割って入ってくる。


「カルル。神殿遺跡の周囲を徘徊している大きな魔獣がいるみたい。頭が・・・4個もある」


思わず飛空艇の両脇にあるバルコニーに飛び出すとアリスが言っていた頭が4つあるという魔獣を探す。


「ヒュドラだ。頭が4個だとまだ幼体か。だがSランクの冒険者チームが複数集まらないと倒せない魔獣だ」


「ヒュドラなんて初めて見ました。こんなものが神殿遺跡の周囲にいるなら、魔石を持ち帰った人が100年もいなかった理由が分かるわね」


カルルは、大錬金術師ゼストが神殿遺跡から魔石を持ち帰ったという話は、何処か意図的に改変されたのではと考えていた。


街で聞いた話だと神殿遺跡で魔石を入手したことで飛空艇が作れる様になったと聞かされたが、カルルは逆だと考えている。


それはなぜか。それはカルルがそうだからだ。


つまり、カルルは飛空艇を創るスキルを持っていたから飛空艇で神殿遺跡に来ることができた。


もしこれが逆だとすると、大錬金術師ゼストは魔獣と戦いながら徒歩でここまで来たことになる。


例えば、大錬金術師ゼストがもの凄く強力な攻撃魔法が使えたとして、ヒュドラがいるような場所に来るだろうか。


そう考えると、大錬金術師ゼストも飛空艇で神殿遺跡へとやって来て魔石を入手したと考えるのが正しいのではないだろうかと。


「アリス。魔道砲でヒュドラが倒せるか試してみようか」


「了解!」


アリスは、やる気満々で準備に入る。


「えっ、ヒュドラを飛空艇の武器で倒すんですか」


「いくら魔道砲が強力でもそれは無茶だ」


ハンドとパトリシアは、冒険者としての経験からヒュドラと戦うこと自体を避けようとしている。


「無茶かどうかは、やってみないと分からない」


カルルは、魔力の魔石に手を置き魔道砲の魔法術式を変えていく。


「魔道砲の設定変更、魔法強度は5。発射間隔は連射。連射間隔は秒間5・・・」


冒険者ギルドが派遣した暗部の部隊を壊滅した時の設定と比べると、魔法強度(攻撃力)を上げた変わりに連射速度を下げることにした。


「ヒュドラは、全ての頭をほぼ同時に切り落とさないと何度でも復活します。いくら魔道砲が連射できるとはいえ、4つの頭を同時に破壊するのは無理なのでは?」


元冒険者のハンドは、魔獣と戦った経験も豊富なためか、命に危険を感じる狩は極力避けるきらいがある。


「やってダメならすぐに逃げます。そのための飛空艇です」


「この位置からだとヒュドラを狙うのは厳しいかな。少し高度を下げるてみようか」


カルルが魔道砲でヒュドラを狙い撃ちする位置に移動するため、アリスが飛空艇の高度を下げていく。


そしてカルルが魔力の魔石に魔力を送り込み、魔道砲の発射対イミングを計る。


「魔道砲・・・発射」


カルルの言葉と同時に4個の頭を持つヒュドラに向かって魔道砲が連射される。


発射時間は、4秒足らず。1秒間に5発の魔道砲が発射され、4秒間に計20発が発射された。


神殿遺跡の周囲を取り囲む様に広がる魔法防壁のすぐ脇を歩いていたヒュドラは、4個の頭が無い状態で地面へと倒れ込む。


「まさか・・・幼体とは言え、ヒュドラを倒したのか」


ハンドがそんな言葉を発しながら飛空艇のバルコニーからヒュドラの動きを追っていく。


だが、いくら待ってもヒュドラが再生する様子はない。


「本当にヒュドラを倒したんだ」


ハンドとパトリシアは、バルコニーから呆然としながらその光景を見守っていた。


「それじゃあ、神殿遺跡に行こうか」


カルルの言葉にアリスが頷き、ゆっくりと飛空艇は飛空神殿の周囲を取り囲む魔法防壁の中へと降下していく。


飛空艇は、ゆっくりと降下しながら神殿遺跡の中央へと降り立った。


地面は土ではなく石畳で石の柱が屋根を支える神殿がいくつも建っている。


飛空艇の扉を開け、周囲を警戒しながら魔石が入手できるという"知恵の魔石"を探すと、ほどなく見つかった。


だがそこには先客がいた。


彼らの顔は、何処かで見た覚えがありよくよく思い出してみると、メリダの街で冒険者達に盛大に見送られていたSランク冒険者チームの面々だ。


彼らは、神殿遺跡の石畳の上に倒れ込み身動きができずにいた。


「たっ、頼む。助けてくれ」


カルル達に向かってSランク冒険者のひとりがそう囁いた。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:73

 1000艇まで残り927


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用


 王国向け飛空艇の内訳

 ・アリーア王国向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

 ・ハイリシュア王国向け飛空艇 10艇


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― 新着の感想 ―
ようやくここまで読めました。話の幅が広く、難しい内容なので、時間がかかりまっした。
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