No.027 神殿遺跡とは
カルルの飛空艇は、ハイリシュア王国内を飛びつつ一路グルズ山脈を目指す。
搭乗者は、飛空艇を創ったカルルとカルルに雇われた16歳の操術の少女アリス。
アリスは、冒険者だが魔力病を患い攻撃魔法の発動が出来なくなったことで仲間に裏切られ、高原にひとり見捨てられた悲しい過去を持つ。
カルルは、そんなアリスを助け魔力病を完治させた経緯があった。
アリスは、カルルの飛空艇の操術士となり飛空艇の操縦を任されている。
アリスが飛空艇を操作している間のカルルはというと、飛空艇用の魔石創りに励んでいる。
この旅からは、カルルの飛空艇に新たに2人の搭乗者が加わった。
いつもは、錬金術ギルドの支部で護衛の任務に付いているが、グランドマスターの護衛としての役割も担っている。
そんな2人がカルルの護衛として加わった。
ひとりは男性魔法剣士のハンドで火魔法の魔法剣を扱う。
ひとりは女性魔術師のパトリシアで雷魔法を扱う。
飛空艇は、大きな壺のような外見をしているが、飛空艇本体は、土魔法で作られていて飛空艇の底には魔石の殆どを配置する構造体、骨格となる躯体、内側の壁となる内殻、外側の壁となる外殻で出来ている。
土魔法で作られた飛空艇は、本来強度が全くないため人を乗せて飛ぶこは出来ないが、強化魔法を使うことで強度不足を補っている。
飛空艇の1階の床下に飛空艇用の魔石を埋め込む穴が複数あり、中央に魔力魔石をひとつ配置し、そこから放射状に浮遊の魔石と飛空の魔石へと魔道回路が繋がり、魔道回路により各魔石に魔力を伝達する仕組みになっている。
浮遊の魔石と飛空の魔石の数は、飛空艇により若干事なるものの、浮遊の魔石3個、飛空の魔石3個を使うのが通常である。
2階は、飛空艇を操縦する操術士や魔法攻撃を行う魔術師、飛空艇の指揮を行う士官が座る席がある。
飛空艇の1階には、8人から10人程度が乗る事ができ、操術士など5人と合わせると最大15人が乗ることができる。
2階の操術士の前には操作卓があり、卓の上に魔力の魔石が埋め込んである。
操術士は、魔力に飛空艇の動きの指示を乗せ、その魔力を魔力の魔石に送り込むことで飛空艇は動くように出来ている。
指示を乗せた魔力を送り込んでおけば、魔力の魔石に蓄積された魔力量分だけ直前の指揮を履行し続ける。
なので飛空艇は、水平飛行を行ったり上昇や下降を一定速度で行うのであれば、魔力の魔石から手を放しても飛び続けることができる。
操術士の卓の前には、小さな窓があり外を見ることが出来るが、飛空艇の窓は通常の硝子ではなく魔石を薄く伸ばした魔石ガラスというものが使われている。
これは、通常のガラスの数十倍から百倍の強度があり、攻撃魔法の直撃を受けても割れることのない代物だ。
操術士が座る席のすぐ後ろには、左右に小さな扉がある。
扉は小さくかがんで出入りできる大きさで、扉の外には人が2人程度立てる手すり付きのバルコニーがあり、魔術師はそこから攻撃魔法を放つのが、通常の飛空艇による攻撃方法だ。
操術室の後方には、もうひとつ小さな扉があり、そこから外に出ることができる。
カルルの飛空艇には、後方の扉を開けた先に人の身長程の長さで斜めにせり立ったマストがあり、そこに飛空戦艦から移植した対空用魔道砲が備え付けられている。
対空魔道砲は、直径60cmほどの球形で魔力の魔石、浮遊の魔石、魔力の魔石が内包されている。
対空用魔道砲は、対飛空艇用の攻撃魔法武器であり飛空艇を破壊するに十分な攻撃力を備えている。
2階の操術室は天井が低く立って歩くことはできない高さで、飛空艇の前半分程度の広さしかない。
1階と2階は、梯子を使って行き来をする構造となっている。
2階の操術士の卓に埋め込まれた魔力の魔石と1階の床下に埋め込まれた魔力の魔石とは、魔道回路で結ばれており、魔道回路を経て各魔石に魔力が送られる。
1階には、錬金術ギルドで購入した魔道トイレという魔道具が備え付けられている。
魔道トイレは、扉付の小さな小部屋の中に取り付けてあり、便器に取り付けた魔石に魔力を送り込むと汚物を細かい透明な結晶に変換してくれる。
さらに魔道トイレの魔石は、汚物が発する独特な匂いを消してくれるため、狭い飛空艇内が汚物の匂いで充満するようなことはない。
カルルの飛空艇には、もうひとつの魔道具が取りつけられている。
それは、1階と2階に取り付けられた魔道ストーブという魔道具だ。
ストーブという名ではあるが、飛空艇内の温度調節が行える便利な魔道具で高温だと50℃、低温だと-20℃まで温度を変化させることができ、魔道ストーブに内包されている風魔法の魔石から送られる風により飛空艇内を快適な状態に保ってくれる。
カルルは、この魔道ストーブに自身が錬成した魔力の魔石を追加して、長時間使える様に改造を施している。
飛空艇は、空を飛ぶ乗物でより高く飛ぶと飛空艇内の気温は氷点下になることがある。
また、真夏の暑い時期に締め切った飛空艇内は高温になるため、艇内を冷やすのは必須ともいえる。
今のところ魔道ストーブと魔道トイレを取り付けた飛空艇は、カルルの両親が使っている飛空艇とカルルの飛空艇の2艇のみだが、カルルとしてはこのふたつの装備は飛空艇の必須装備としたい思いがあった。
カルルの飛空艇には、魔石ガラスが壁や天井の数ヵ所に取り付けられている。
魔石ガラスは、魔力を送り込むと光るという性質があり、飛空艇の照明として使っている。
・・・・・・
カルルの飛空艇は、グルズ山脈を超えると護衛の2人の案内により標高1000mに位置する錬金術ギルドの薬草園へと降り立った。
この薬草園は、錬金術ギルドが各支部で販売するポーションなどの材料となる薬草を栽培し、それらを材料に作ったポーションを各支部に卸している施設だ。
今は錬金術ギルドの職員2人と薬師2人が常駐している。
カルルは、この薬草園にある倉庫を借り、そこで王国から依頼のあった飛空艇を創る予定だ。
王国からの契約は、既に済んでいるため飛空艇創りの場所さえ決まれば、つでも作業に取りかかれる。
王国と錬金術ギルドが交わした契約では、飛空艇20艇を半年以内に作り納品することを求められている。
カルルは、飛空艇1艇と飛空艇用の魔石を計2日で創る。
王国から依頼された飛空艇20艇は、2ヶ月もあれば作れる数である。
カルルは、精力的に飛空艇創りに取りかかった。
錬金術ギルドの薬草園で10艇の飛空艇を完成させた頃、薬草園から見える景色にふと見入ってしまう。
この薬草園がある山からは広大な海と大小さまざま島の景色が垣間見えるのだが、遠くに見える大きな島へ往来する船が驚くほど多く見られる。
多くの船が往来する大きな島には何があるのか不思議に思い、薬草園の職員に聞いてみると面白い話をしてくれた。
「あの大きな島には、神殿遺跡と言われる遺跡があります。そこに行けば誰でもどんな魔石でも作ることができる"知恵の魔石"なるものが入手できるそうです」
そこでカルルは疑問を抱いた。
カルルが魔石を作れるのは、魔石錬成というスキルを持っているからだ。
逆を言えば、魔石錬成のスキルが無ければ魔石は作れない。
なのに誰でも魔石が作れる魔石など本当に存在するのか。
そんなおいしい話があるはずが無いと、錬金術ギルドの職員へ質問をしてみると。
「申し訳ありません。詳しいことは分からないんです。でも街に冒険者ギルドの案内所があります。そこに行けば教えてくれます」
カルルは、居ても立ってもいられずに皆を連れてメリダの街へと向かうことにしたが、護衛の2人は当然の如く大反対だ。
「工房街であったことがここでも起きないとは限りません。絶対に街には行かないでください」
護衛のパトリシアは大反対だ。
「冒険者ギルドの暗部の部隊と戦って生きているだけでも不思議なのに、冒険者ギルドがあるあの街に行くなど自殺行為だ」
もうひとりの護衛であるハンドも大反対。
カルルは、錬金術ギルドの工房街で冒険者ギルドの暗部の部隊とやり合い、暗部の部隊員6人を葬っている。
もし冒険者ギルドにカルルの居場所が知れれば、彼らは何をしてくるか分からない。
だが、どうしても"錬成スキルがなくても魔石が作れる"という魔石を手に入れたいという衝動を抑えられずにいた。
「それなら顔を隠して行くというのはどうかな」
カルルは、何処からか持ち出した顔を守る防具を手に持ち、頭から全身をすっぽりと覆う黒いローブまで用意していた。
あまりの用意周到ぶりに呆れた2人は、護衛であるハンドとパトリシアから絶対に離れないことを条件に、街へ行くことを了承した。
次の日、朝からメリダ街へとやって来たカルル達4人は、冒険者ギルドの館にだけは立ち寄らないという約束を守りつつ、街にある冒険者ギルドが運営する神殿遺跡情報館へとやってきた。
ここは、神殿遺跡やトーデスインゼル(死の島)についての情報を有料で公開してくれる総合案内所である。
冒険者ギルドが運営すると言っても総合案内所というだけあり、カウンターで待ち受けるのは全て若い美人の女性職員ばかりだ。
カルル達は、案内所で順番を待ちの列に並びカウンターのいずれかの席が空くのを待つ。
しばらくしてカウンターの席が空き、そこに座ると冒険者ギルドの女性職員の前に金貨1枚を差し出した。
「これで神殿遺跡で入手できるという誰でもどんな魔石でも作れるという魔石について教えてください!」
冒険者ギルドの職員からすれば、子供がいきなり金貨を出して魔石について教えて欲しいと言ってくることなど想定外だ。
「金貨・・・ですか。こんなに貰ってもこちらでご用意できる情報は僅かばかりですが」
「構いません、教えてもらえる情報なら何でもいいです。とにかく知っていることをすべて教えてください」
カルルの強引な物言いに笑顔を崩さずに応対する冒険者ギルドの職員もなかなかである。
「では、こちらで分かっていることをお話します。まず神殿遺跡に入ると"知恵の泉"というものがあります。ここに魔石を投げ入れると"知恵の魔石"へと変化するそうです」
「"知恵の魔石"は、古代魔法王国が作ったとされる魔石で、魔石錬成スキルが無い者でも魔石が作れるそうです」
「"知恵の魔石"は、この世界にあるあらゆる魔石を作り出すことが可能だと言われておりますが、どんな魔石を作ることが可能なのかは、記録に残っておりません」
「この"知恵の魔石"を入手した人は、100年前にこの大陸で多くの飛空艇を作りだした大錬金術師ゼスト様です」
「彼は、神殿遺跡で"知恵の魔石"を入手して飛空艇を作ることが出来たと記録に残っております」
その話を聞きカルルは眉をひそめ、冒険者ギルドの女性職員に質問を投げかけた。
「あの、質問いいですか」
「はい、どうぞ」
「最初に"知恵の泉"に魔石を投げ入れると言っていましたが、どんな魔石を投げ入れると"知恵の魔石"になるんでしょうか」
「申し訳ございません。それについては記録が残っておりません」
「"知恵の魔石"は、魔石錬成スキルが無くても魔石を錬成できると言っていましたが本当ですか」
「はい。記録にはそう残っております」
「"知恵の魔石"で作れる魔石として具体的にどんな魔石があったのでしょうか」
「記録では、飛空艇を作るための魔石だと言われております。飛空艇に使われる魔石は、浮遊の魔石、飛空の魔石、魔力の魔石です」
カルルは、さらに眉をひそめる。冒険者ギルドの職員が言っている話には、何か隠している気がしてならないのだ。
「う~ん、何だか情報が曖昧で信用できないんだよね」
カルルは、手の平に何も握っていないことを冒険者ギルドの職員に見せ、手の平を握りしめた後にまた手の平を開けて見せた。
そこには小さな魔力の魔石が錬成されていた。
「魔力の魔石なら僕でも錬成できます。わざわざ神殿遺跡に行かなくてもよい話です」
魔力の魔石を目の前で錬成して見せた少年を見て一瞬だけ頬をひきつらせる冒険者ギルドの職員であったが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
対してカルルは、決定打を欠く情報ばかりで信じるに値しないとがっかりな表情を浮かべる。
すると冒険者ギルドの職員は、カルルに顔をそっと近づけると小声でこんな話を始めた。
「実は、私もお客様に何度もこの話をしていますが、どこまで本当なのか疑問に思っています」
「100年前に大錬金術師ゼスト様が"知恵の魔石"を持ち帰ったあとに、"知恵の魔石"を持ち帰った者はひとりもおりません。いくら何でも誰も魔石を持ち帰れないというのはおかしな話です」
「つまり、冒険者ギルドの記録には、嘘か隠しごとがあるということでしょうか」
「否定はしません」
「分かりました。有意義な情報をありがとうございます」
「ちなみにトーデスインゼル(死の島)ってどういう島ですか」
「はい。Cランク以上の魔獣が生息する島で、トーデスインゼル(死の島)に入るには、船で渡る以外に方法はございません」
「トーデスインゼル(死の島)へは、冒険者ギルドが認めたCランク以上の冒険者でなければ入ることができません」
「トーデスインゼル(死の島)は、そんなに危険なんですか」
「Cランク以上の冒険者から入島を許されてはいますが、神殿遺跡がある島の中央に行くほど、より強力な魔獣が生息しています」
「神殿遺跡の周囲にはSランクの魔獣が生息していますので、神殿遺跡に入るには、Sランク冒険者チームでなければ、ほぼ入るのは不可能をされています」
「情報ありがとうございます」
カルルは、欲しい情報は概ね入手できたので神殿遺跡情報館から出ることにした。
そして開口一番にこう切り出した。
「実際に神殿遺跡に行ってみようと思う」
その言葉に顔を青くする護衛のハンドとパトリシアであった。
◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆魔石を創るスキル
・魔石錬成
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:73
1000艇まで残り927
◆創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
王国向け飛空艇の内訳
・アリーア王国向け飛空艇 30艇
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイリシュア王国向け飛空艇 10艇




