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No.025 商業ギルドと冒険者ギルド

商業ギルドは、10年程前から飛空艇の試作を行っていた。


他の大陸から雇い入れた飛空艇本体を土魔法で作れる錬金術師と魔石錬成を行える錬金術師の計3人だ。


だがその中には、魔力の魔石を錬成できる者はいない。


この大陸とは異なる別の大陸には、魔力の魔石を錬成できる者はごく少数だがいる。


彼らは、その大陸では国家に管理され国から出る事も街から出る事も許されず、ほぼ軟禁様態で魔力の魔石の錬成を強制されていた。


商業ギルドは、100年前に作られた古い飛空艇から程度の良い魔力の魔石を取りだし、それを新しい飛空艇に移植して飛行試験を何度も行っていた。


だが、何度もやっても上手く行かないのだ。


魔力の魔石に弱い魔力を流す分には、飛空艇はゆっくりと浮き上がり空を飛ぶ事はできた。


ところが、魔力の魔石に多くの魔力を流すと、魔力の魔石から浮遊魔石や飛空魔石に流れる魔力が乱れ、飛空艇は安定して飛ばないのだ。


飛空艇は、より高くより速く飛ぶほど魔力を多く消費する。


この不安定な状態は、中古市場から仕入れた魔力の魔石全般に言える事なのだが、その不安定さも魔力の魔石の個体によってまちまちだった。


なぜこのような事が起きるのかは、3人の魔術師も分からず頭を悩ませていた。


3人の魔術師は、試作を何度も重ねては飛空艇の試験飛行を続けた。


飛空艇も3人程度が乗れる小さいものであれば安定して飛ぶものの、10人程度が乗れる大きさになると途端に不安定になる。


既に10人程を乗せられる試作飛空艇は、10艇以上は作られ飛ばしてみたものの、その全てが墜落していた。


当然、墜落するからには相当数の死傷者を出していたが、それは闇に葬られる形となり飛空艇作りは商業ギルドの裏の事業として長年に渡り継続され、事業費用の改修という重圧が担当部門に重くのしかかることとなる。


そんな飛空艇の試作が10年も続いたある日、ハイリシュア王国に10艇の飛空艇が納入された。


商業ギルドは、王国内の伝手をたより納入された飛空艇がどういった物なのか探りを入れたところ、100年前に作られた飛空艇にそっくりなものであることが分かった。


飛空艇を操る操術士2人、魔術師2人、飛空艇長1人の計5人が乗り、さらに10人の人を乗せられるという。


しかも同じ飛空艇がアリーシュ王国とアリーア王国に計60艇納入され王国軍で既に運用されているという信じがたい話が伝わってきたのだ。


これにより商業ギルドの10年の歳月を費やした事業は、不採算事業という烙印を押され、事業の廃止が決まる。


飛空艇事業を商業ギルドの新しい収入現と位置づけ、開発に多額の予算を費やした結果がこの有様だ。


飛空艇開発の責任であった商業ギルドの仕入れ担当部門のヒッチャーは、一発逆転を狙い飛空艇を納入した錬金術ギルドへと向かった。


・・・・・・


実は、商業ギルドがなぜ飛空艇の開発に失敗したのか。


魔力の魔石を大量に用意できなかったからなのか?


答えは、カルルが知っていた。


魔力の魔石は、他の魔石を制御する魔法術式を組むことができるが、当然の様に浮遊の魔石と飛空の魔石にも魔法術式というものは存在する。


では、魔石によって魔法術式に違いはあるのかというと、魔石には魔石レベルというものが存在する。


この魔石レベルによって魔法術式で出来ることがかなり変わってくるのだ。


例えば浮遊の魔石は、浮遊する事を目的とした魔石である。


魔石レベルが上がることで浮遊する能力、つまり空高く浮く力(限界高度と上昇力)が増すのだ。


そして空高く浮くためには、より多くの魔力を消費する。


どれくらいの魔力量でどれくらい浮くのか。どれくらいの速さで浮くのか。どこまで浮くのか。


魔力量を減らした場合、どれくらい速さで降りるのか。


例えば、カルルが錬成した浮遊の魔石には、降下速度と地上からの距離によって飛空艇の速度を制御するように魔法術式を組んである。


これは、飛空艇が地上に激突しないための安全装置の様なものである。


しかも飛空艇には、浮遊の魔石が3個は使われているため、各魔石を連携させる必要がある。


魔力の魔石と他の魔石を連携させて魔法術式を組む場合、どういった術式を組むのかが重要になる。


商業ギルドの飛空艇開発では、魔力の魔石を錬成する者がおらす、魔力の魔石の魔法術式を組める者がいなかったのが致命的であった。


しかも、中古の魔力の魔石には、その魔石を組み込んだ飛空艇に合わせた魔法術式が組み込まれている。


もし、古い飛空艇から魔石を取り出して他の飛空艇に魔石を取り付けた場合、異なる魔石レベルの魔石用に組まれた魔法術式を使って浮遊の魔石や飛空の魔石を制御する事になる。


これだと魔石に流す魔力量が多くなった途端に不具合が出るという訳だ。


カルルは、今までに創った飛空艇用の魔石は、最初に創った魔石に合わせる様に魔法術式を組み込んでいる。


魔力の魔石を使うという事は、連携する他の魔石とどう連携させるかを魔法術式で詳細に制御しなければならない。


魔石を錬成できれば、何でもできるという訳ではなく、より高度な魔法術式の制御方法を知る必要があるということでもある。


それを知らずに飛空艇を作るという事は、自殺行為に他ならない。


・・・・・・


商業ギルドの仕入れ担当部門のヒッチャーが工房街を訪れてから数日後、またまたヒッチャーが工房街へと現れた。


「ここへ何にしに来たんだい」


錬金術ギルドのグランドマスターは、半分切れかかった表情でヒッチャーの前へと立ちはだかる。


「頼みがあってやってきた。魔力の魔石を売ってくれ。数は1000個。そちらの言い値を払う」


グランドマスターは、魔力の魔石と聞いて商業ギルドが何をしようとしているのかを察した。


「商業ギルドは、大型の飛空艇を作るつもりだね」


「・・・そうだ。浮遊の魔石を錬成できる者はいる、飛空の魔石を錬成できる者もいる。飛空艇を作れる土魔術師もいる。だが魔力の魔石を錬成できる者だけがいないのだ」


「それは、こっちの知ったこっちゃないよ」


「たのむ。商業ギルドは、王国に飛空艇を納入すると約束してしまったのだ。試作の飛空艇3艇を1ヶ月以内に納入しないと違約金を払わねばならんのだ」


ヒッチャーは、いきなり地面に座り込むとグランドマスターの脚にしがみ付いた。


「お願いだ。中古市場の魔力の魔石では、飛空艇をまともに飛ばすことができんのだ」


「それで、うちから魔力の魔石を買って飛空艇が墜落したら全部うちの責任にするって魂胆かい」


「そっ、それは・・・」


腹の中を探られ魂胆を暴露されたヒッチャーは、言い返すこともできない。


「うちの錬金術師はね、錬金術ギルドを頼って来たんだよ。商業ギルドなんて頼ってないんだよ。いくらおまえさん方が金を積んでもうちは飛空艇も魔力の魔石も一切売らないよ」


するとグランドマスターの脚にしがみついていたヒッチャーは、演技をぼろくそに言われた劇団員の様に立ち上がると態度を一変させる。


「わしがここまで我慢したというのに。そうか、ならばお前の命もあとわずかだ。王国に飛空艇を納入できんのであれば、飛空艇を作る錬金術師の身柄をこちらで確保するまでだ」


「そうなった時は、お前の命は無いものと思え。せいぜい残り少ない人生を楽しむといい」


そう捨て台詞をはいたヒッチャーは、工房街の門の外に止めた馬車に乗り込むと姿を消した。


グランドマスターは、錬金術ギルドが雇う護衛達に工房街の警備を強化するように伝え、さらに護衛を増やす指示を出した。


だが、工房街に数日以内に集合できる錬金術ギルドの護衛は、ほんの数人程でヒッチャーの捨て台詞が本当ならばかなり危険な状態である。


工房街を守る警備隊の数は6人。


グランドマスターの護衛は、4人。


王都の錬金術ギルドの護衛の2人を呼び寄せたとしても護衛は6人にしかならない。


問題は、商業ギルドが何をしようとしているかだが、グランドマスターは、おおよその検討は付いていた。


グランドマスターの考えが当たっていれば、工房街の錬金術師を全員退避させたところで命の保証はない。


カルル達を他の施設へ移したところで、追跡されいつかは見つかり拉致される。


事の重大さを飛空艇内で魔石の錬成を続けるカルルに伝えたグランドマスターだったが、カルルの表情が笑顔に変わり始める。


「つまり、商業ギルドと錬金術ギルドとの戦争という認識で合っていますか?」


カルルの質問に首を立てに振るグランドマスター。


「錬金術ギルドは、僕を商業ギルドに差し出す事はしない。全力で守ってくれるという事ですか」


「お前さんを守れるかは正直分からんよ。ここにいる味方の手練れは4人だ。商業ギルドには護衛や警備を専門に行う者が大勢いる・・・」


そこでグランドマスターは言葉を濁しつつ、知っている事を話し始めた。


「商業ギルドは、もめ事になると冒険者ギルドの暗部に仕事を依頼するんだよ」


「暗部?」


「ああ、暗部というのはもめ事を秘密裏に片付ける専門部隊のことだよ」


「そいつらがここに来ると?」


「恐らくね。お前さんは拉致されて一生飛空艇作りでこき使われるだろうね」


「他の方々は?」


「恐らく私も含めて皆殺しだろうね」


グランドマスターの表情は、真剣そのもので嘘を言っているとは微塵にも思えない。


「だったら、僕から提案があります」


カルルがそう言って飛空艇の上部にあるマストに取り付けられた球形の物体を指差した。


「あれは何だい?」


グランドマスターは、カルルが指差した球形の物体が何であるかを知らない。


ここで球形の物体の事を知っているのは、カルルとアリスのみ。


「あれは、アリーシュ王国にあった飛空戦艦に装備してあった対空魔道砲を飛空艇に移して使えるようにしたものです」


「飛空戦艦の対空魔道砲・・・お前さん、そんな物騒なものを飛空艇に取り付けているのかい」


「僕からしたら、魔術師が持ち歩く攻撃魔法の魔道具の方が危険に感じますけどね」


カルルの飛空艇に取り付けた魔道砲は小型で大した威力は無いものの、カルルが創る飛空艇を破壊するには十分な威力がある。


それを対人戦に使うとなれば、いささか過剰すぎるのだが、人を殺そうとする相手に容赦をする余裕などない。


「僕が合図を送ったら護衛の皆さんは全員下がってください。そうしないと巻き添えを喰らいます」


カルルは、グランドマスターの護衛の4人にこれから何をしようとしているかを説明した。


目を丸くしながら話に真剣に耳を傾ける護衛の4人。


そして門を閉じた工房街の城壁の上に、見慣れぬ6人の冒険者が立っていた。


商業ギルドと冒険者ギルドの連合と、錬金術ギルドとの戦争が始まろうとしていた。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:73

 1000艇まで残り927


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用

 ・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用


 王国向け飛空艇の内訳

 ・アリーア王国向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇

 ・ハイリシュア王国向け飛空艇 10艇


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