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No.022 王国を守る魔道具

国王陛下から山火事と森林火災を消火する魔道具作りを依頼されたカルル。


参考にする魔道具をいくつか借り受けると、飛空艇創りをする砦に戻り魔道具創り取りかかる。


鑑定の魔石で最も威力の高い水魔法の魔石が取りつけられた魔道具を選ぶ。


魔石は、魔道具に取り付けられた状態でも構わないが、カルルが左手で魔石に触れる必要がある。


作りたい魔石を左手で触れた状態で、魔石錬成のスキルを発動すると右手に魔石が錬成されるのだ。


作れない魔石でも錬成できるスキルは、かなり反則技だがこれもれっきとしたカルルのスキルである。


あとは水魔法の魔石と魔力の魔石を土魔法で作った腕輪に埋め込み、魔石同士を魔道回路で結ぶ。


だが魔道具作りは、これで終わりではない。


通常、魔石を単独で使う場合、魔法術式はそのまま使うことが多い。


魔法術式は、魔法発動用の特殊な術式を組み替える事で魔石の性能を何倍にも引き上げることができる。


ところがこの魔法術式は、かなり難解な術式でカルルも最初は何が書かれているのか全く理解できなかった。


それが理解できる様になったのは、魔力の魔石と他の魔石を連動させた時からだった。


魔力の魔石は、他の魔石を魔法術式で制御することができるが、特に攻撃魔法の魔石は癖が強く超難解な魔法術式が殆どで、それを分かり易い魔法術式に変換してくれるのが魔力の魔石という訳だ。


カルルが試した限りでは、初心者魔術師が使う初級の魔法杖に使われる火魔法の魔石でも、魔力の魔石と連動させて魔法術式を組み替えると、上級魔法並みの威力が出せることが分かっいる。


この世界の魔道具は、魔石の性能の殆どを使っていないのだ。


カルルは、魔力の魔石を錬成することができ、魔力の魔石の魔法術式を組み換えもできる。


とはいえ、全ての魔法術式を理解している訳ではないが、カルルが飛空艇を飛ばしたり魔道具を簡単に作れるのは、この魔力の魔石の魔法術式を簡単に理解できる仕組みがあるおかげなのだ。


最初の水魔法の魔道具が出来たのは、魔道具を作り始めてからたったの1時間ほど。


試しに砦の隅で出来たての魔道具を使い水魔法を発動させてみると、目の前に大きな水球が生まれそれが勢いよく宙を飛んでいく。


さらに魔道具に魔力を込めるとより大きな水球ができた。


検証の結果、魔力量にもよるが最大で直径20mほどの水球を作り出す事に成功した。


直径20mの水の球となると約4000立方メールとなり、400万リットルとなる。


その光景を見ていた砦の兵士からはどよめきの声が上がる。


「あれなら山火事も簡単に消えるのではないか」


「逆にあれだけの水をあびたら魔術師がおぼれるのでないか」


いろんな声が飛び交いカルルの耳にも入るが、魔道具をどう使うかは兵士の問題だ。


「カルル。私にもその魔道具を使わせて」


水魔法の魔道具を使うカルルを見ていたアリスが横からそんな事を言ってきた。


「いいよ。この魔道具も詠唱無しで使えるからね。魔力量で魔法強度を制御するだけで魔法は発動できるよ」


「いつも思うけど、カルルの魔道具って詠唱がいらないけど、何で詠唱しなくても魔法が発動できるの?」


アリスは、かなり真剣な表情でカルルに疑問をぶつけている。


「それはね。魔力の魔石に詠唱呪文が組み込んであるからかな。魔術師は魔力量で魔法の強さ・・・つまり魔法強度を制御するのと魔法発動のトリガーを命令するだけで魔法発動ができる様に魔法術式を組んであるからだよ」


カルルは、自身が作った魔道具がどうやって魔法を発動させるのかをかなり分かり易く説明したつもりだった。


だがアリスは、首を傾げたままで理解には遠く及んでいない表情を浮かべている。


「まあ、とにかく魔道具を使ってみて感想を聞かせて」


カルルから手渡された魔道具を腕に装備したアリスは、自身が使えないはずの水魔法が使える度に大声を上げてはしゃいでいる。


カルルはというと飛空艇内に戻り水魔法の魔道具作りを再開した。


その日の夕方までに完成した水魔法の魔道具は全部で13個。


最初は、魔法術式の修正が発生したが、これで明日からは日に同じくらいの魔道具が作れる。


そう考えている矢先にカルルの元に調達部門のレオン中尉がやってきた。


「カルル殿。国王陛下から依頼された魔道具が出来ているようですね」


「えーと、まだ13個しか出来ていませんが・・・」


「かまいません。直ぐに山火事の消火に向かうので、魔道具を引き渡していただけませんか」


「わかりました」


カルルは、出来立ての魔道具をレオン中尉に引き渡すと、魔道具を装備した兵士達は飛空艇に乗り込み薄暗い夕闇へと飛び立っていく。


砦から見える山々のいくつかには赤々とした炎と黒い煙が立ち上る。


山火事は、以前よりも勢いを増しているようにカルルの目には映った。


次の日もカルルは、国王陛下より依頼された山火事消火用の魔道具作りを進め、日に15個のペースで制作が進んだ。


そして7日程で100個の魔道具を作り終えた。


魔道具が作り終わる頃には、山火事も森林火災もほぼ鎮火していたので、カルルは以前の様に飛空艇創りを再開することにした。


飛空艇創りがいよいよ終わりにさしかかった頃、また国王陛下から呼び出しがかかり、飛空艇で王城へと向かうカルルとアリス。


「飛空艇創りが忙しいところすまないが、燃えてしまった山と森の再生について、何かよい案はないか?」


国王陛下の執務室に通されたカルルとアリスだったが、突然の相談にカルルは眉をひそめる。


「これから燃えた森に植林を始める予定なのだが、森の消失範囲が広すぎて再生には最低でも30年はかかるという試算が出た」


「その間、森林が保持する水資源が減ることで周辺の畑への水の供給が滞るという意見が専門家から出ているのだ」


カルルは、森の再生については全くの素人だが果樹や野菜や薬草を早く育成させる方法は知っている。


以前住んでいた家の畑で育てていた野菜と果樹は、カルルの魔力を込めた屑魔石で短期間で数倍に成長した。


カルルの飛空艇内で育てている鉢植えの薬草も魔力を込めた屑魔石で、通常の何倍もの葉を茂らせている。


それが森林でも同じ様に再現できるのであれば、想定よりも早く森林の再生が可能ではないかと考えた。


「方法は、ありますが確実にできるかという自信は無いです。それでもいいのなら・・・」


「何か知っているのか!」


カルルは、砦に集められた工兵部隊の兵士達に森林再生の方法を伝授して再生を任せる事にした。


まずは火事が起きていない森や山に生えている木々の苗木を工兵部隊の兵士に採取させ、それを砦の外に鉢植えにして並べさせた。


鉢植えにした苗木の根本に魔力を込めた屑魔石を埋めて数日待つと、指の長さほどだった苗木が人の身長ほどにまで成長する。


それ以上成長すると飛空艇では運べなくなるので、鉢ごと苗木を飛空艇に乗せて火事があった森へと運ぶ。


鉢植えの苗木を飛空艇から下ろして苗木を地面に植える。


苗木の根本には、魔力を込めた屑魔石を埋めていく。


屑魔石が何処に埋まっているかが分かる様に棒を立てて目印にする。


苗木の根本に埋めた屑魔石に数日毎に魔力を込めて埋め戻すという地道な作業を経ると、数ヶ月で苗木を植えた場所は、数十年を経過した森へと変貌する。


カルルは、この方法を工兵部隊の兵士に伝授して大量に作った屑魔石を兵士達に引き渡した。


もちろん屑魔石もれっきとした魔石だから依頼料は、国王陛下が始めた森林再生事業の予算から頂戴する。


カルルが砦で飛空艇創りを再開して数日が経つ頃には、鉢植えにされ成長した苗木は飛空艇で森へと運ばれていった。


カルルの飛空艇創りが最終段階にさしかかった頃、国王陛下の耳にこんな話が持ち込まれた。


干上がった溜池に水魔法の魔道具で水を溜めてみたところ、数日でため池が満水になったという。


本来なら水魔法もれっきとした攻撃魔法であり、水魔法が使える魔術師以外には魔道具は扱えないはずなのだ。


だが、カルルの魔道具を使う限りは。水魔法のスキルは不要である。


スキルも詠唱も不要で、必要なのは魔力のみ。


つまり魔力さえあれば誰でも使える水魔法の魔道具は”無限に水が湧き出る魔法の壺”なのだ。


今後、この国で干ばつが起こった時を想像してみれば、これがどれだけ国民の命を守るに足るか想像に難しくない。


カルルの作った水魔法の魔道具は、森林火災や山火事の消火用だけではなく、干上がった溜池の水資源の再生にも使える。


さらに都市での大規模火災の消火にも重宝したという話も出はじめ、当初作成された100個の魔道具では足りないという話が出始めた。


こうなるとカルルを寵愛した国王陛下こそが正しかったという評価が大臣達からも出始めた。


そんな話が王国の御前会議で持ち上がっている事など知らないカルルは、飛空艇創りも終わり次なる飛空艇創りの場を探して下町にある錬金術ギルドの扉を開けていた。


古びた壁に貼られた木札に書かれた依頼の中に”飛空艇制作、30艇”という依頼の文字を見つけたカルル。


「この飛空艇制作の依頼はまだ有効ですか?」


壁に張られた木札の事を店の奥にいる老婆に尋ねる。


「ほお、お前さん飛空艇が作れるのかい。それはどっちだい?」


「どっちと言うと?」


「飛空艇の外殻を作る方かい。それとも魔石を作る方かい?」


「両方できます」


「そりゃ凄いね。で、飛空艇1艇を作るのに何日かかるね」


「2日もあれば出来ます」


カルルの自信に満ちた答えは、その表情を見れば嘘ではないことが老婆にも分かった。


「この依頼は、ハイリシュア王国のギルドから出されたものだからそっちで確認しておくれ」


「依頼が出されたのは30年も前だが、この依頼が取り消されたという話は聞いてないから大丈夫だと思うよ」


「ありがとうございます」


カルルは、そう言うと老婆のしわだらけの小さな手に金貨3枚を握らせた。


「これは、少ないですがよい仕事を紹介してくれたお礼です」


「おやおや、こんなにいいのかい」


「飛空艇1艇を作れば金貨1000枚で売れます。これは経費のうちです」


老婆の顔に刻まれたしわが僅かだがひろがり笑みがこぼれる。


「今日は、早々に店じまいだね」


カルルが店を出ると下町の路地裏にある錬金術ギルドの扉に”閉店”の看板がかかげられ扉に鍵がかかる。


臨時収入が入った老婆は、久しぶりに酒場へと向かい好きな酒を美味しそうに飲み始めた。


カルルは、国王陛下に置手紙をしてアリーシュ王国をあとにした。


次の飛空艇創りは、ハイリシュア王国である。


そこは、カルルにとって新しい魔石が錬成する"知恵の魔石"との出会いへと続く地でもあった。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:63

 1000艇まで残り937


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:63

 1000艇まで残り937


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇

 ・飛空艇試作三号艇


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇


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