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No.020 次期国王選定

アリーシュ王国の王都からほど近い場所にある丘と草原が広がる王国軍の演習場。


いつもなら、王都の防衛にあたる部隊や周辺の都市を守る部隊が演習を行っているのだが、今日に限っては大きな櫓がいくつも組まれており、櫓の周囲には騎士隊が配置され物々しい警備体制が敷かれていた。


櫓の上には、国王陛下と大臣が居並びこれから始まる演習の結果によって次期国王が決まる次期国王選定が始まろうとしていた。


国王陛下には、16歳を迎えた6人の子供達がおり、5人が男性で1人が女性である。


この6人が次期国王選定に名を連ねたのだが、次期国王選定の前日に4人が辞退を申し出る異例の展開となった。


その理由は、王太子フローラが引き連れてきた飛空艇の存在であった。


王太子フローラの部隊は、演習場からかなり離れた場所に陣を構えた。


馬でも半日はかかる様な辺鄙な場所に陣を構えたその理由は、飛空艇の存在を公にしたくなかったこと。


それと飛空艇であれば演習場まで数分で到着できてしまうからだ。


陣の中央に10艇の飛空艇が並び、武装した兵士達がぐるりと周囲を囲み、部外者が侵入していないか警戒にあたる。


だが、そこには巨大な飛空戦艦の姿はない。


それは、ここから飛空艇でさらに数十分もかかる森の中に隠されていた。


飛空戦艦には、カルルとアリスと警備のために20人程の兵士が乗り込んでいる。


飛空戦艦の外殻は強固であり通常の攻撃魔法程度ではびくともしない、そのため船体の上部に数人の兵士が交代で警戒にあたる程度だ。


飛空戦艦の操術室では、カルルが魔力の魔石に手を置いては魔力の魔石へ魔力の補充を行っている。


王太子フローラの屋敷からグルズ山脈を越えてこの演習場の近くまで移動するのには3日程かかった。


飛空艇は、夜になると視界が悪くなり飛ぶには危険なため陽が落ちる前に地上へと降りて野営をするのが通例である。


また、訓練を行ったとはいえ長距離移動経験のない操術士ばかりの部隊では、何が起こるか分からない。


休息は十分に取ることがこの長距離移動の大前提となっていた。


「ねえ、カルルは飛空戦艦の魔石に魔力を貯めているけど、この飛空戦艦にはどれくらい魔力って貯められるの?」


アリスの唐突な質問に頭を悩ませ少し間を置いて答える。


「うーん、その質問には正確には答えられないんだ」


「えっ、魔力の魔石って貯められる魔力に上限があるんでしょう」


「そのはずなんだけど、今までその上限に達したことって無いんだ」


「本当なの?」


「本当」


「カルルの飛空艇は?」


「あれでも上限に達したことないね」


「じゃあ、今までどれくらい魔力を貯めたことあるの?」


「えっとね。この飛空戦艦を動かすために、ひとつの系統には、7個の魔力の魔石を取り付けてあるんだけど、魔力の魔石ひとつに5000以上の魔力を貯めてある」


アリスは、その話を聞いて暗算を始めると顔が青ざめる。


「ちょっと待ってよ。7個の魔石に各5000の魔力って言ったら魔力総量35000じゃない。いったいどうやって貯めたの!」


「毎日コツコツと・・・」


「毎日って・・・、魔力は寝るとある程度は復活するとはいっても・・・もしかしてカルルの魔力総量って凄いの?」


「教えない。でも魔石錬成で魔石を1個創るだけで魔力総量は10上がる・・・かな」


「今までにどれくらい魔石を創ったの?」


「飛空艇1艇辺り最低でも9個の魔石が必要で、作った飛空艇の数は40艇以上で、それ以外にも魔道具を沢山作ってるから・・・」


もしカルルが生まれつき魔力総量が多かったとして、今までに創った魔石の数を単純に加算するだけでも想像はつく。


アリスは、高原でたまたまカルルに助けられ雇われたが、目の前にいる少年は飛空艇を創れるだけの存在ではなく、魔術師としてもかなりの能力を秘めているのではないかと思い始めた。


・・・・・・


次期国王銭湯の儀の朝を迎えた王国の演習場。


そこに陣を張る王太子殿下の軍勢は、総勢1万人を超える。


各2000人の兵士で構成された3部隊、計6000人が左翼、中央、右翼に分かれ、中央の奥には本隊3000人が陣取る。


中央奥の本隊両脇には、各500人の騎馬隊が控えており、指揮官の出撃の合図を待つ。


そして左翼、中央、右翼の部隊の最前列の兵士が大盾を構えながらゆっくりと進軍を始める。


3つの部隊は、隊列を崩さず整然と進軍を始める。


実に訓練された兵士達だ。


その光景を櫓の上から眺める王太子ジョルア。


「父上、実によく訓練された兵士達ではないですか。わが軍勢の進軍を止められる者などおりますまい」


王太子ジョルアは、自身を慕う諸侯より集めたえりすぐりの部隊による演習を父親である国王に披露できた事に誇りに思い、そして酔っていた。


この国の次期国王は自分だと憚らない。


だが国王の目にはそうは映らなかった。


こんな演習など自身が国王になった時に既に何度もやって見せた。


恐らく先代の国王も先々代の国王に同じことをやって見せたに違いない。


戦術の教科書に書いてあることをそのままやれば、誰でもできる事なのだ。


目の前では、騎馬隊が左右から進軍して敵軍に突撃する場面となっていた。


「つまらん。これはわしが30年前にやったことだ。わしはもっと革新的な演習を見たいのだ。お前は所詮この程度か」


国王は、ぼそりとつぶやくと演習を早く終わらせる様にと進行役に苦言を呈した。


・・・・・・


王太子殿下の1万人を超える軍勢が櫓の前から姿を消した頃、演習場のいくつもの丘が連なる草原に1艇の飛空艇が姿を現す。


地上から20mほどの高さをゆっくりと水平飛行すると、ひとりの騎士が飛空艇から飛び降りた。


櫓の上で見ている者達から"あっ"というどよめきが起こるが、それも直ぐに納まる。


飛空艇から飛び降りた騎士は、空中を浮きながらゆっくりと地上へと降り立ったからだ。


「あれは飛行魔法か!」


だれかがそう言ったものの、その答えを知っている王太子フローラはあえて答えなかった。


騎士は、腰ほどの高さまで伸びた草むらにしゃがみ込むと手に持つ大盾を前方に構える。


すると頭上の飛空艇から次々と大盾を装備した騎士が飛び降り、草原へふわりと着地していき4人が前方に向けて大楯を並べ、4人が頭上に大盾を並べる。


防御陣形の完成だ。


気が付けば、頭上には4艇の飛空艇が姿を現し先の1艇と編隊を組みながら騎士を次々と降下させていく。


1艇からは各8人が降下し5つの防御陣が形成されていく。


続いて5艇が飛来すると先陣の飛空艇と並び編隊を組み、騎士を次々と降下させる。


気が付けば、地上には10もの防御陣が形成されていた。


飛空艇の操術室の両脇に突き出た小さなバルコニーに2人の魔術師が立ち、炎の攻撃魔法を前方の草原へと放ち始める。


飛空艇は、全部で10艇が編隊を組みながら微速前進を開始。


それに呼応する様に騎士達の防御陣は解放され、大盾を前方に構えて低空飛行を始める。


騎士の飛行形態への移行である。


騎士達も編隊を組みながら草原の草と同じくらいの低空を飛ぶ。


そして騎士達が一斉に炎魔法を前方に向けて放つ。


上空では、飛空艇からの炎魔法が放たれ、地上では低空飛行を行う騎士達が炎魔法を放つ。


本来、騎士が炎魔法を扱える事などありえない。


これもカルルがこの日のために用意した特注の魔道具の成せる技である。


王国軍の中でも飛行魔法が使える者は、数えるほどしかいない。


それが、目の前にいる騎士の編隊が全て飛行魔法で一糸乱れぬ飛行を披露しているのだ。


櫓の上で国王は、思わず椅子から立ちあがると櫓の手すりから身を乗り出していた。


「陛下、危険です。陛下」


護衛の兵士達が櫓から身を乗り出す国王の体を必死に掴むが、今にも櫓から飛び立ちそうな勢いである。


10艇の飛空艇と80人の騎士達の飛行演舞は佳境に入る。


地上に降り立った騎士達は、ふわりと浮くと頭上を飛ぶ飛空艇へと向かい飛空艇の後方の扉から入っていく。


地上では、周囲を警戒しながら騎士達が大盾を構える。


そして最後のひとりが飛空艇へと乗り込む。


飛空艇は徐々に高度を上げると地上から50m程の高さで編隊を組んだまま左右に分かれていく。


そこに姿を現したのは、全長100mを超える飛空戦艦。


10艇の飛空艇の中央に並び上空で静止する。


飛空戦艦の操術室にいるのは、カルルとアリス。そして数人の兵士達。


「第1主砲、魔道砲発射!」


カルルがそう言い放った瞬間、飛空戦艦の主砲のひとつが閃光を放つ。


それは、演習場の遥か彼方へと飛来し地上に落下すると巨大な爆炎を放った。


数秒ののちに爆発音と衝撃波が国王と大臣達が居並ぶ櫓へと到達。


あまりの爆音に思わず耳を塞ぐ者が続出するも国王は、相変わらず櫓から落ちんばかりの勢いで爆炎と空に浮かぶ飛空戦艦を交互に見上げる。


この演習を櫓の上で見ていた者の中でただひとりだけ腰を抜かして床に座り込んでいた者がいる。


王太子ジョルアである。


王太子フローラはというと、ただひとり椅子に座ったまま静かにこの状況を見守っていた。


やがて飛空戦艦と10艇の飛空艇は、編隊を組んだまま空高く飛び姿が見えなくなる。


この櫓の上にいる者の中で、このような飛空艇の演習を見た者など誰ひとりとしていない。


相変わらず王太子ジョルアは、腰を抜かし床に座り込んだままだ。


国王は、振り返ると椅子に座り平静な姿を見せる王太子フローラの前に立った。


「次の国王はお前だ。あの飛空艇でこの国を守ってくれ」


そう言い放つと、護衛の兵士を引き連れて櫓から降りていった。


腰を抜かして動けない王太子ジョルアとは対照的に、櫓の上から馬車で城へと戻る国王の姿を見送る王太子フローラ。


居並ぶ大臣達は、国王の決定に異議を唱えるはずもない。


この王国の未来は、王太子フローラへと託された。


その頃、飛空戦艦で空高く舞い上がったカルル達がどうなっていたかというと。


「まずいよ。魔力が底をつきかけててる。早く地上に降りないと墜落する!」


「カルルは、魔石に魔力を送り続けて、私が操作するから!」


飛空戦艦は、主砲を発射したことで魔力の魔石に蓄えていた魔力の殆どを使い切っていた。


通常よりも数倍の速さで地上へと降下を始める飛空戦艦。


その操術室の中では、てんやわんやの大騒ぎであった。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:43

 1000艇まで残り957


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇

 ・飛空艇試作三号艇


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国向け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 10艇



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