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No.018 飛ばない飛空戦艦

カルルは、飛空戦艦の魔道回路が何処に繋がっているかを延々と調べ数日が経った。


操術卓に魔力の魔石を置いて微量の魔力を流し、それがどの魔道回路を経て何処に向かっているかを探す地道な作業だ。


飛空戦艦の階層を下り、魔力を帯びた魔道回路をさがして回路が切れていないかを調べ、断線していればそこを補修していく。


全長100mもの巨体をひとりで調べるなど狂気の沙汰だが、ここでこれが出来るのはカルルしかいない。


そして汗だくになりながら飛空戦艦を飛ばすために必要な魔力の魔石と浮遊の魔石と飛空の魔石を配置する場所を探し当てた。


それは、船体の最も底に当たる部分に全部で5ヵ所あった。


基本的な構造はカルルの飛空艇とあまり変わりはないように見える。


だが、カルルの飛空艇の床下には、魔力の魔石1個、浮遊の魔石6個、飛空の魔石6個を固定する穴があるだけだが、この飛空戦艦には、1ヵ所につき穴が30個以上も用意されていた。


「まさかこれ全部に魔石をはめるのかな・・・」


カルルは、絶望のあまりその場所に座り込んでしまう。


1ヵ所につき魔石をはめる穴が30以上もあり、それが船体の底に5ヵ所もあるのだ。


全ての穴を魔石で埋めるとなると150個の魔石が必要になる。


カルルが絶望したのは、魔石をはめる穴の数の多さではない。


もし、150個の魔石を穴にはめたとして、その魔石が消費する魔力量は計り知れない。


そんな膨大な魔力をどうやって調達するというのか。


カルルの魔力量は、他者とは比べられないほど膨大だ。


その魔力総量は、魔石錬成をする度に増えていく。


1艇の飛空艇を創るだけで魔石を9個消費する。


その魔石を全てカルル自身が錬成するのだから魔力量も膨大になるのだ。


それをもってしても飛空戦艦を飛ばすだけの魔力を供給できるのかは分からない。


カルルは、飛空戦艦の床板を外したままの魔石をはめる穴を見つめている。


「いつまで見ても何も変わらないか・・・」


仕方なく、いつものやり方で魔力の魔石と浮遊の魔石を穴にはめ込み固定化の魔法を施していく。


1ヵ所に魔力の魔石1個と浮遊の魔石6個を置き、それを全部で5ヵ所。


全部で35個の魔石を置いて飛空戦艦が浮くのかを確かめる。


飛空戦艦の底から階段をかけ上り操術卓の魔石に魔力を注いでみる。


「浮かないか・・・。1ヵ所に浮遊魔石6個だと少ないのか」


カルルは、1ヵ所につき浮遊魔石を倍の12個に増やして飛空戦艦が浮くかを試した。


飛空戦艦は、少し傾きながらもふわりと浮いた。


「やった。浮いた・・・でも何で傾いて・・・」


そこでカルルは、ようやくと理解した。


飛空戦艦の保管庫の壁が崩れた影響で大量の土砂が飛空戦艦に覆いかぶさっていたことを。


それからは、土魔法で土を取り除きながら保管庫の壁の補修作業となり、それだけで3日を要してしまう。


飛空戦艦の土砂を取り除いた結果、浮遊魔石はそこまで必要ではない事が分かったが、創った魔石を取り外すのも面倒なのでそのままにした。


次は、いよいよ飛空の魔石を取り付けてこの巨体が空を飛べるのかを確認する必要があるが、その前にやらなければならない事がひとつある。


それは、保管庫の天井を開けること。


王太子殿下の侍従の話では、保管庫の天井は魔力を流すと開閉する仕組みだという。


「つまり魔石が何処かにあって、その魔石を修復しないと天井は開かないということか・・・」


次から次へと問題山積みである。


侍従に連れて来たのは、階段脇にある小さな部屋。


そこには人ひとりが座れる椅子と操作卓があり、卓の上に魔石をはめる小さな穴が数個ある。


恐らく以前は何らかの魔石が埋め込まれていたはずだが取り外されて何もない。


これだとカルルにはどうする事もできない。


仕方なく外に出て飛空戦艦の保管庫の天井を見てみると、屋根自体は独立した構造物で動かせることが分かった。


ただし、手で持ち上げたり押したりして動く様な重さではない。


「これをどうやって動かせば・・・」


そんな独り言をつぶやいていると、目の前に数人の兵士を連れて空を飛ぶアリスの姿が目に入った。


体ひとつで空を飛べるのは、カルルが作った魔道具"飛空の腕輪"があるからだ。


魔力の魔石、浮遊の魔石、飛空の魔石と飛空艇を飛ばすために使う3種類の魔石をひとつの腕輪に収めたものだ。


これを装備すれば、人ひとりを抱えても楽々空を飛ぶことができる。


「気持ちよさそうに空を飛んでる姿って、見ているだけでこっちまで楽しく感じる」


「あれっ、空を飛ぶ・・・飛ぶと動く・・・よね」


カルルは、自身が最も得意なことに気が付いた。


独立した構造物の屋根に飛空艇と同じ様に魔石を取り付けて動かせばいい。


屋根を飛空艇と見立てればいいのだと。


さっそくカルルは、屋根の構造体(骨組み)を土魔法で補強してそこに魔力の魔石と浮遊の魔石を取り付けた。


飛空の魔石は、屋根の数ヵ所に取り付けてそれらを魔道回路で繋いで魔力を伝達できるようにもした。


そして魔力の魔石に魔力を送り込むと、屋根は何事も無かった様にゆっくりと動きはじめる。


「なんだ、最初からこうすれば良かったんだ」


屋根は、壊れる事もなく保管庫の外へと移動を終えた。


カルルは、腕に装備した飛空の腕輪でふわりと浮く保管庫の底に横たわる飛空戦艦の船体へと降り立ち、操作卓がある操術室へと向かう。


「浮遊の魔石しか取り付けていないから浮くだけでゆっくりとしか移動できないけど、どれくらい浮くかな」


操術卓の上に取り付けた魔力の魔石に魔力を送り込む。


すると飛空戦艦はふわりと浮き上がり、風景は保管庫の壁から庭の緑を通り過ぎて青い空へと変化していく。


「やった。こんな大きな飛空艇でもちゃんと浮くんだ!」


喜びながらも飛空戦艦が消費する魔力量を考え、早々に降ろす場所を探す。


「あっ、いいところがあった」


カルルが全長100mを超える飛空戦艦を降ろした場所は、王太子殿下の屋敷の正門前であった。


「ここなら道も広いし真っ直ぐだから邪魔にならないよね」


カルルは、操術室から出て飛空戦艦の底にある小さな扉へと向い、そこから外へと出た。


すると数十人の兵士達が遠巻きに飛空戦艦を囲っている。


だが誰もその巨大な船体へは近づこうとはしない。


「飛ばすことが出来ましたよ。大きすぎて飛ばないと思いましたがやってみるもんですね」


そんな言葉を発するカルルに顔見知りの兵士が近づいてくる。


「これ、お前が飛ばしたのか」


「はい。王太子殿下との約束が果たせて良かったです」


「そんな約束を王女殿下としたのか?」


「ええ、なかなか難しかったですが、何とかできました」


カルルは満足気な表情を浮かべて巨大な飛空戦艦を見上げる。


その場にいる兵士達も同じく飛空戦艦の巨体を見上げずにはいられなかった。


そこへ息を切らせながら侍従と共に走って来る一団。


そう王太子殿下の姿である。


「はあ、はあ、はあ。まっ、まさか本当に飛空戦艦を飛ばせることができるなんて・・・はあ、ああ、はあ」


息が上がる王太子殿下と侍従達。


「はい。でも武器とかは手つかずなので、せめて武器のひとつくらい使える様にしたいです」


王太子殿下は、思わずその場に座り込んでしまう。


あの手紙に書いてあった内容は、本当なのかもしれない。


「この少年を味方にすれば"国王"になれる」


あの手紙には、そう書かれていたことを。


・・・・・・


カルルは、飛空戦艦を保管庫に戻すと再び飛空戦艦の修理を続けた。


船底に配置した魔石は、浮遊の魔石6個とに飛空の魔石6個を1ヵ所につき計12個、5ヵ所で60個の飛空の魔石を埋め込み固定魔法をかける。


次の目的は、この飛空艇の名前にもなっている"戦艦"の武器を復活させること。


これがまだ問題であった。


武器とおぼしき物は、飛空戦艦の前方に3個。


両側面上部に8個、両側下部側面にも8個。


合計で19個あることが分かった。


それらは全て球体となっていて、これがどんな武器なのかは全くの未知数であった。


以前に飛空艇の調査が行われた時もこの飛空戦艦の武器については全く分からなかったという話を管理を任されている侍従から聞かされた。


次から次へと難問が降りかかるカルルは、飛空戦艦の武器を復活させるために奮闘する。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:43

 1000艇まで残り957


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇

 ・飛空艇試作三号艇


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国け飛空艇 30艇

 ・アリーシュ王国向け飛空艇 10艇


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